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特定少年が、特殊詐欺の受け子として保護観察中の再犯により少年院送致された事例

本決定のポイント

令和3年の少年法改正後、特定少年少年院送致とした事例です。

犯情の軽重の評価として、特殊詐欺という事案の悪質さを指摘し、少年の立場が末端で従属的であることを踏まえても、少年の責任は軽視できず、さらに同種事案の保護観察中に本件犯行を犯している点において犯情は重く少年院送致が許容されると判断しました。

その上で、本件に犯行に至る経緯が、保護観察に付されている前件とほとんど変わっていない点などを踏まえ、保護観察処分によって少年の問題が改善されていないことを指摘し、少年院収容期間を3年間と定めました。

1 事案の概要 ~ 東京家裁令和4年6月15日決定

特殊詐欺に受け子として関与した事件で保護観察中の特定少年が、再度、特殊詐欺に受け子として関与した事件(審判時19歳)について、第1種少年院に送致された事案です。

2 検察官に送致する理由

1 主文

少年を第1種少年院に送致する。

少年院に収容する期間を3年間とする。

2 処遇の理由

犯情の軽重の評価

本件は、特殊詐欺の一種であり、少年が受け子としてキャッシュカードを窃取したという事案3件である。

特殊詐欺は、役割を細分化し、組織的かつ計画的に行われ、被害も高額なものとなりやすい悪質な事案である。

少年が、受け子という共犯者間では末端、従属的な立場であったことを踏まえても、少年の責任は軽視できない。

加えて、少年は、本件時、同種事案による保護観察であったのであるから、少年の規範意識は相当に鈍麻しているものといわざるを得ず、少年に対して厳しい非難を向けざるを得ない。

以上によれば、本件の犯情は重く、保護処分の選択においては、少年院送致とすることも許容される。

要保護性を含めた処遇判断

少年は、上記のとおり、令和2年△月、遊興費等に金銭を使い、金銭に困窮したことから、SNSを通じて簡単に高額の報酬の得られる仕事を探した結果、特殊詐欺に関与したという事案により、保護観察に付された。

少年は、その後、無職期間こそ短いものの、自分なりの理由をつけて欠勤を繰り返すなどして、職を転々とし、安定した収入を得ることはできない一方で、少年は、職場や父母とのやり取りによりたまったストレスを解消するためにも、父母等からの指導も受け流し、地下アイドルのライブへの参加を含む遊興への支出を続けた。

また、そのような生活状況を見かねた両親が少年の自立を促すために、少年に一人暮らしを始めさせて以降も、少年は、その生活状況を改めることなく、かえってフードデリバリーサービスの利用等も繰り返すなど、自身の収入にそぐわない、客観的には浪費といえる支出を続け、借金もしていた。

その中で、少年は、無職期間と借金の返済期限が重なり、金銭に窮したため、SNSを通じて簡単に高額の報酬を得られる仕事を探し、本件へと至った。

このような経緯は、保護観察に付された事案の経緯とほとんど変わっていない。

鑑別結果通知書や少年調査票においても、前件までと同様、少年の問題として、目先の欲求を優先して場当たり的に行動する傾向があり、それが過剰な浪費等につながっていること、職場や家庭で思い通りにいかないことに陰性感情を募らせやすく、派手な遊興や金銭の費消によって現実逃避を図る傾向があることなどが指摘されている。

これらの点は、上記の本件に至る経緯にもそのまま表れており、少年の問題は、1年△か月ほどの保護観察を経ても、ほとんど改善されていないといえる。

保護観察状況等報告書によれば、少年は、職を転々としていたことを、ありのままに報告していなかったと認められ、調査・審判においても、少年は、20歳になるまでは後先について深く考えないでいたいと思っていたなどと述べていることに鑑みると、少年は、真摯に保護観察を受けておらず、自身の問題改善にも努めていなかったといわざるを得ない。

加えて、鑑別結果通知書では、少年が自閉スペクトラム症疑いなど、自身の考えに固執しがちな発達特性を持つことも指摘されており、これまでの父母による指導や保護観察という枠組みを経ても少年の問題が改善しなかった背景には、こうした少年の発達特性も影響しているものと考えられる。

父母は、これまで少年に金銭を無心された際、それに応えて少年に金銭を与えるなどしがちであったことなどを反省し、審判に出席した父は、今後は自らが少年を引き取り、規制をかけながら更生させていきたいなどと述べている。

父母が今なお少年の更生を支えようとしていることは、少年の更生にとって重要な社会資源であるが、上記のような根深い問題を抱える少年に対し、現時点で、社会内で適切な指導・監督を行うことは困難であり、父母の指導・監督に大きな期待を寄せることはできない。
   

裁判所の判断

そうすると、付添人の主張を踏まえても、試験観察に付すまでもなく、少年の問題を社会内で改善することが困難であることは明らかである。

したがって、少年を第1種少年院に送致し、強固な枠組みの下で、相当期間、少年の特性に応じた矯正教育を受けさせ、規範意識を涵養するとともに、自己の問題への自覚を深めさせた上で、自己の欲求を抑え、金銭管理や地道な努力の継続を始めとする社会適応能力を向上させることが必要不可欠であると認められる。

そして、上記犯情に鑑み、少年を少年院に収容する期間を3年間とする。

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