遺産分割調停が不成立になった場合、次の手続きとして、遺産分割審判があります。
いざ遺産分割審判を行うとなっても、遺産分割審判はどのような手続きなのか、どのように進んでいくのかが、分からない方も多いと思います。
この記事では、遺産分割審判とは何か、遺産分割審判の進み方、調停から審判への流れなどを、弁護士がわかりやすく解説します。
第1 遺産分割審判とは?
遺産分割審判とは、家庭裁判所の裁判官が、当事者の主張や提出された資料、職権による事実の調査や証拠調べによって、遺産分割について判断する手続きです。
審判とは、裁判所が事件についてする終局的な判断の裁判のことです。
大雑把にいえば、遺産分割手続における「判決」です!!
遺産分割調停で相続人の意見がまとまらず、調停が不成立となると、調停の申立ての時に遺産分割審判の申立てがあったとみなされ、調停から自動的に審判に移行します。
調停を経ずに遺産分割審判を申し立てることも可能ですが、実際は、調停を経ずに遺産分割審判を申し立てると、家庭裁判所が職権で調停に付する運用となっています。
そのため、基本的には、まず遺産分割調停を申し立てて、調停が不成立になった場合に初めて、遺産分割審判を利用するという流れになります。
遺産分割調停と遺産分割審判の違いは、次のとおりです。
遺産分割調停 | 遺産分割審判 | |
解決方法 | 話し合いによる解決 | 家庭裁判所による終局的な判断 |
関与する人 | 調停委員会 (裁判官と調停委員) | 裁判官 |
進め方 | 調停委員会が相続人1人ずつ個別に事情を聴く | 裁判官と相続人全員が1つの部屋に集まって主張や証拠を出す |
強制力の有無 | 当事者が納得しなければ成立しない | 当事者が納得しなくても裁判所によって強制的に判断される |
第2 遺産分割審判の概要と進み方
1 遺産分割審判の概要
遺産分割調停では、調停委員会が各相続人の言い分や主張を聞き、仲介役を務めながら、遺産分割について話し合いによる解決を目指します。
他方、遺産分割審判では、基本的に、調停のような話し合いではなく、裁判官が、相続人から聞いた事情や提出された資料等の一切の事情を考慮して、遺産分割について、終局的な判断を下します。
そのため、遺産分割審判では、相続人の間で遺産分割について意見が分かれてしまっても、裁判官が強制的に遺産分割について決定することになります。
2 遺産分割審判の進み方
遺産分割調停では、調停委員会が、各相続人を一人ずつ非公開の調停室に呼び、個別に話を聞いていきます。
他方、遺産分割審判では、調停委員はおらず、期日では、裁判官と当事者全員が一つの部屋に集まって、提出した書面や証拠を確認していきます。
裁判官が争点を整理しつつ、当事者の主張と証拠が尽きるまで、何度か期日が設けられます。
裁判官は、原則として、当事者から陳述を聴かなければ、審判をすることができません。
陳述の聴取の方法としては、期日において当事者が口頭で陳述するのを裁判官が直接聴く「審問」という方法や、家庭裁判所調査官による調査によって間接的に陳述する方法や、書面照会などがあり、方式に定めはありません。
また、遺産分割審判では、裁判所が職権で、事実の調査を行うことができます。
裁判所の職権による事実調査の典型例は、離婚事件で親権が争われている際に、調査官が子どもの現在の環境を調査することが挙げられます。
遺産分割手続でも、同様に事実調査の権限がありますが、相続手続は家庭内の問題でもあってか、職権による調査は限定的という印象があります。
第3 遺産分割審判の終了
1 審判
当事者が審判の基礎となる資料を提出し、相手方当事者において十分に反論をして攻撃防御を尽くす機会を与えるため、家庭裁判所は相当の猶予期間を置いて審理を終結する日を定めます(家事事件手続法71条本文)。
ただし、当事者双方が立ち会うことができる審判手続期日が実施されている場合は、家庭裁判所は当事者に対して審理終結に関する意見を直接確認できるため、直ちに審理終結宣言を行うこともできます(家事事件手続法71ただし書き)。
家庭裁判所は、手続を終結し、審判を下します(家事事件手続法72条)。
審判が下ると、当事者のもとへ審判書の謄本(正本)が送達されます。
下された審判は、即時抗告期間である2週間が満了すると確定します(家事事件手続法74条4項、86条1項)。
審判が確定すると、相続人は、審判書の内容に従って、預貯金の払戻しや不動産の名義変更などの手続きをします。
もし審判に従わない相続人がいる場合は、その相続人に対して強制執行をすることができます。
2 和解
遺産分割審判は、裁判所が審判を下して終局的な判断を行うものですが、当事者同士の話し合いを同時並行で行っても構いません。
裁判官によっては、中立公平な立場から、当事者に対して和解を提案することもあります。
遺産分割審判の途中で、当事者同士で意見がまとまり、和解が成立した場合は、調停が成立したものとみなされて、調停調書が作成されます。
和解が成立した時点で、遺産分割審判は終了します。
審理も終盤になると、下される審判が予想できることもあります。
同じ結果になるとしても、上から強制される審判より、和解となれば形だけでも平和的に終えたものとも言えるため、最後まで和解の成立を模索する事件も多いです。
和解のメリットとして、細かい条件をつけたり、債務も含めて解決が図れるなど、審判より柔軟な解決が図ることができる点があります。
3 審判に不服がある場合
家庭裁判所が下した審判の内容に不服があるときは、審判が確定する前に即時抗告をしなければいけません。
抗告とは、下級裁判所の下した決定に対して、上級裁判所に対して不服を申し立てることで、即時抗告とは、抗告のうち、抗告期間が定められているものです。
遺産分割審判に対する即時抗告は、審判の告知を受けた日から2週間以内にしなければいけません。
即時抗告は、高等裁判所宛の抗告状を、審判をした裁判所(家庭裁判所)に提出して行います(家事事件手続法87条1項)。
抗告状の提出先は、高等裁判所ではなく家庭裁判所なので、間違えないように注意しましょう。
即時抗告の手数料は、一律で1800円となっています。
抗告状の提出の際に、相手方の分の抗告状の写しを抗告裁判所に提出し、抗告裁判所から相手方に抗告状の写しを送付します(家事事件手続法88条1項)。
抗告状に抗告の理由の記載がない場合は、抗告提起後14日以内に理由書を原裁判所に提出しなければいけません(家事事件手続規則55条1項)。
即時抗告が適法にされると、抗告裁判所が審理を行い、決定で裁判をします。
第4 まとめ
遺産分割調停がまとまらず不成立になると、調停は自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判は、話し合いで解決を図る遺産分割調停とは異なり、家庭裁判所の裁判官が終局的に遺産分割について判断を下します。
審判が確定しても審判に従わない相続人がいれば、強制執行をすることができます。
もし審判の内容に不服がある場合は、定められた期限(2週間)内に即時抗告をする必要があります。
遺産分割審判は話し合いの場ではないため、法的に有効な主張や立証をしなければいけません。
審判を戦略的に進めたいのであれば、相続問題に精通している弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士は、どのような争いがあり、どのような結論になることが見込まれるかの全体像を示したうえで、より合理的な選択ができるようサポートすることができます。
いわば、遺産分割手続における羅針盤のような役割を担います。
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