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民法では、契約の解除はどのような場合に可能となりますか?
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改正された民法(2020年4月施行)においては、契約の解除は、債権者を契約の拘束から解放する規定と理解されました。
改正前の民法においては、履行遅滞、履行不能、不完全履行に分け、債権者の解除権は、債務者の帰責性を必要としていました。
もっとも、改正された民法においては、債務者の帰責性を問わず、債権者にとっては履行がされていない状態に変わらないため、「どのような場合に債権者を契約から解放させるべきか?」という観点から解除の規定が置かれることになりました。
具体的に解説していきます。
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第1 はじめに~「契約の解除」の趣旨(改正民法が志向した法定解除とは?)
1 改正前民法の理解 ~ 過失責任主義
改正民法(債権法)が2020年4月1日より施行され、契約の解除に関する規定も大きく改正がなされました。
改正前の民法における伝統的通説は、解除は損害賠償請求と共に債務不履行の効果として統一的に理解され、過失責任主義をあてはめ、債務者の帰責事由が必要とされていました。
すなわち、たとえば地震や降雪などの天災の場合には、債務者に帰責事由がないため、債権者は契約の解除をすることができず、履行不能となれば危険負担の問題になると考えられていました。
2 改正民法 ~ 債権者を契約による拘束から解放する
改正された民法においては、債務者の帰責事由を法定解除の要件から外しました。
債務不履行がどのようなものであれ、落ち度のない債権者を契約による拘束から解放することが公平であり、債権者に代替取引の機会を与えることが、全体としての損害を少なくすることになると考えられたからです。
すなわち、解除は、債務不履行の制裁ではなく、債務の履行を得られない債権者を契約の拘束力から解放する制度として新たな位置づけをしました。
ただ、信義則、公平の観点から債権者に帰責事由があったり、受領遅滞である場合には、解除は認められません。
第2 「解除」を理解しよう~改正民法の規定・要件
1 民法における法定解除の規定(民法540条~548条)
解除は、当事者を契約の拘束力から解放するものとして、「どのような場合に解除権が認められるべきか?」との視点から規定されることになりました。
✍ 解除の規定の特徴 ~契約目的の達成可否により分類
- 【無催告解除】
契約目的が達成できない場合には、催告すら不要として解除を認めます。
- 【催告して解除】
契約目的が達成できる場合には、債務者に対して催告をすることが必要となり、それでもなお履行がなされない場合に、債権者は解除ができるとしました。
⇒ 但し、不履行が軽微である場合には、催告しても債権者の解除権は認められません。
2 【催告して解除】の要件
まず、当事者の一方に債務不履行があったとしても、契約目的を達成する可能性がある場合には、相手方は相当の期間を定めてその履行の催告をすることが必要とされました(民法541条)。
契約の解除は、相手方から契約利益を奪う重大な行為であるために、一度は契約を締結した以上、相手方にも履行の機会を与えることが必要だという価値判断からです。
この解除権発生のための「相当期間」とは、債務者が履行の準備に着手し履行を完了するために必要な期間ではなく、履行の準備をしていることを前提として、履行をするために必要な期間をいいます。
なお、期間を定めなかったり、相当期間より短い期間を定めて解除をした場合であっても、客観的に相当期間が経過すれば解除権が発生すると考えられています。
催告解除の制限
相当期間に履行がなされない場合であっても、催告期間経過時の債務不履行が、その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときには、解除は許されません(民法541条但書)。
この「軽微」であるときとは、契約締結の目的達成に重大な影響を与えるか否かなどの観点を含め、契約、取引通年に照らして個別具体的に判断されます。
また、この判断基準時は、催告期間「経過時」とされています。
付随的義務の不履行と契約解除の可否
たとえば、スーツを購入した際に、水洗いをすると縮む恐れがあることを説明しなかった場合を想定してみます。
スーツの保管上の説明義務を履行していないと捉えられ得るような場合(売買契約に付随する義務違反)であっても、売買契約の中心的なスーツの引渡しが問題なく行われていれば、このような付随義務違反は、解除をできないと考えられています。
もちろん、水洗いできるスーツを探していた場合には、契約目的達成に重大な影響を及ぼすため、付随義務ではなくなり解除が可能となると考えられます。
3 【無催告解除】の要件
催告解除に対し、催告すること自体が無意味と考えられる場合には、催告を必要とせずに解除できるものとしています。
以下に列挙するものが、催告する意味なしとして類型化されて規定されています(民法542条)。
- 履行不能の場合
- 履行拒絶の明確な意思がある場合
- 上記の一部の①、②により契約目的が達成できない場合
- 定期行為の履行遅滞の場合
- 催告をしても契約目的を達成するのに足りる見込みがないことが明らかな場合
「履行不能」とは
履行不能とは、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるとき」(民法412条の2第1項)と規定されています。
ポイントは、契約締結時点と契約締結後の両方の事情が考慮要素となっていることです。
前述しましたように、履行不能にあたり債務者の帰責事由は必要とされていません。
改正前民法では、債務者に帰責性がない場合には、危険負担の問題とされました。
改正された民法においては、この場合、債権者は反対給付が消滅しないことを前提として、危険負担では履行拒絶権を行使できるとし、反対給付を消滅させるために解除が必要になると整理されました。
契約目的の達成可能性の判断
契約目的の達成可能性の判断は、契約当事者双方が契約を通じていかなる利益を実現しようとしたかが判断要素となります。
定期行為とは
定期行為とは、契約の性質または当事者の意思表示によって一定の日時や期間内に履行しなければ、契約した目的を達することのできない契約をいいます。
よく具体例に挙げられるのは、12月24日に遅れたクリスマスケーキとか、結婚式に遅れたウェディングドレスなどがあります。
4 催告解除と無催告解除、どちらを利用すべきか?
以上のように、催告解除と無催告解除は、その要件を異にしますので、理屈上は別のものと理解することができます。
ただし、実務において債務者が履行不能かどうかが判断できない場合もあり得ます。
また、緊急性がない場合においては無催告解除をすることに躊躇することもあるでしょう。
そのため、無催告解除が可能そうな場合においても、催告解除を行うことが想定できます。
このような実情もあり、催告解除と無催告解除についての優先関係については特に規定がなく、無催告解除が可能な場合であっても、催告解除は可能と考えられています。
5 (参考)条文の規定~改正民法
以上のように、催告解除と無催告解除を説明しました。
民法の条文は、以下のようになっています。
(解除権の行使)
🔗e-Gov「民法」
第540条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。
(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
(催告によらない解除)
第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
第543条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。
6 (参考)解除の可否が難しい問題
催告解除において、契約目的を達成する可能性がある場合には、契約解除ができないことをお伝えしました。
では、以下の場合はどのように考えるでしょうか?
A弁護士は、売買契約を解除できるでしょうか?
【想定事例】
A弁護士は、音声を、1分間に1000文字の速さで文字起こしをできる機械を購入しました。
ところが、実際に使ってみると、1分間で500文字しか文字出力されませんでした。
会議の音声を文字出力するのに、緊急性が必要なことは多くなく、文字出力をしてくれる機械としてA弁護士にとって購入した目的(売買契約の目的)は達成されそうです。
ただ、当初想定していた機能が5割ほどしかなく、大きく想定を下回っており、A弁護士が修理を求めても改善されませんでした。
あまりに教科書事例かもしれませんが(実際には代替物の提供や修理によって多くの問題は解決されているでしょう)、本来予定されていた性能の半分しかなく、売主の債務不履行は軽微であるとは言い難いものです。
ただ、A弁護士にとっては、音声の文字出力を目的にしていた場合、完成までの待ち時間が増えただけで一応契約の目的は達成されています。
このような場合、立法担当者は、契約目的が達成できる場合には不履行が軽微であるとして解除を認めていません。
しかし、批判も強いところです。
裁判となる場合には、当然A弁護士は納品物に満足していないわけですので、契約目的が達成できていないとして争うことになるため、契約に至る過程を含めて、両当事者がどのような意思を持って契約交渉にあたっていたかなどが判断されるでしょう。
第3 関連する問題等
1 解除と無効・取消し
無効
無効は、契約の当初から効力を生じない状態をいいます。
意思能力ない人の契約行為や、公序良俗に反する契約(反社会的な契約など:不倫契約、違法物の売買など)などが、無効とされています。
そもそも初めから効力を生じませんので、原則として契約本人だけでなく、誰からでも無効を主張することができます。
ただ、例外的に主張できる者が限られている場合があります(例:意思能力ない人と契約した相手方当事者など)。
取消し
取消しは、いったん成立したものについて、遡って消滅させることをいいます。
法律効果としては、解除と同じです。
たとえば、未成年者の契約について、親(親権者)が解除する例です。
無効との違いは、保護される未成年にとって契約内容が不利益でない場合には、その効力を維持できるようにするために、取消しが規定されています。
ただ、たとえば離婚は、婚姻という大きな身分行為であることにかんがみ、遡らせず、あくまでも将来的に無効となると定められています。
つまり、原則的に遡及的に契約を無効にさせますが、例外的に将来的に無効とさせる効力となります。
解除と取消しの違い
契約を最初からなかった状態にする、すなわち遡及的に消滅させる効果、そして例外的に将来に向かって効力を失う場合がある点は同一です(解除の将来効の例は、雇用や賃貸借などがあります)。
もっとも、取消しができる場合は、法律に規定されている場合だけです。
これに対して、解除は、契約の目的が達成できなかったり、債務が履行されない場合にはできるだけでなく(民法に規定されている解除を「法定解除」といいます)、法律上の規定とは別に、契約書に解除の規定を設けておけば、契約上の要件を満たせば行うことができます(これを「約定解除」といいます)。
2 契約不適合責任における解除
売買契約において、種類・品質・数量に関して契約内容に適合した目的物を引渡すことは当然の義務ですが、これが達成されていない場合には、不完全な履行がなされたことになります。
そのため、売買契約において、種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない物が引き渡された場合、買主は、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる履行の追完を請求をすることができます(民法562条1項)。
それだけでなく、契約に不適合な履行は、債務不履行責任でもあることから、買主は損害賠償請求や契約の解除をすることもできます(民法564条)。
ポイントは、契約不適合が種類・品質に関するものであるときは、買主がその不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ、買主は追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除という手段を採ることができなくなる事に注意することです。
第4 最後に
改正前民法を知っている方や、初めて解除の条文を読んで量の多さに圧倒されている方も、初めてのものは取っつきにくいと思うでしょう。
ただ、改正民法が「なぜこのような規定を置いたのか?」との観点から考えてみますと、
- 「履行を得られない債権者を契約の拘束力から解放する」、
- 「催告することが無意味の場合には、無催告解除を認める」、
- 「催告しても履行されなければ解除OK。但し、軽微な場合(契約の目的を達成できる場合)はできない」、
という視点から整理してみると、比較的、頭に入ってきやすいのではないかと思います。
顧問契約や法律相談など、
お気軽にご連絡ください。
全国対応
Zoom、Teams、
Google Meet等にて
相談料
1時間
11,000円
(税込)
詳細は🔗顧問弁護士の推奨する活用法をご覧ください。