葬祭業界では、料金やサービスを巡るトラブルが発生しやすい一方、事の性質上、裁判等の法的手段に訴えることがしにくく、泣き寝入りしているケースも多々存在するように思います。

葬祭業者のよくあるお悩みとして、過大請求と言われたり、料金不払トラブル、口コミでのデマなどがあります。
葬儀社の方が抱えるお悩み

なかなか法律には馴染みにくい業界ですが、令和の時代に入り、「契約」や「コンプライアンス」などの言葉が経営を行う上でも武器になってきます。

葬祭業界において、法律がどのように機能しているのかを解説します。

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詳細は🔗顧問弁護士の推奨する活用法をご覧ください。

第1 葬祭業界の経済競争

1 葬祭業界を取り巻く経済環境

葬祭業界の経済競争は、熾烈さを増しています。

死者を弔う儀式とビジネスが相容れないように思われるかもしれませんが、葬祭業界で働く方々の生活もあります。

葬祭業界にて経営を行う以上、経営戦略を持ち、他社との差別化を図ることも経営者にとっては必要不可欠なことといえます。

2 平均寿命の延伸による葬儀の小規模化

多死社会を迎え、葬儀の件数は増加しているものの、葬祭業界は右肩上がりとなっていません。

その原因は、平均寿命の延伸にありそうです。

家族葬などの小規模化

定年退職して現役を退くと、交際範囲は必然的に狭まります。

引退してから20年、30年が経ってから亡くなっても、葬儀に呼ぶ人が少ないので、家族葬を中心として、葬儀が小規模化しています。

予算の縮小

医療や介護などに老後資金を費やし、葬儀に回せる予算が少なくなっている実態が挙げられます。

そのため、葬儀の件数が増加したとしても、売上が比例して伸びる社会的状況になっているわけではありません。

3 新規参入者の急増

かつては成長産業と目されていたこともあり、この20年間で新規参入者は急増しました。

経産省の統計調査によると、2000年には全国の葬祭業の事業者数が553社であったのに対し、2022年は2,786社と、わずか20年間で5倍以上の事業者数に急増していることが分かります。

【参考】🔗「長期データ」(経済産業省ホームページ)

4 葬祭業界を生き抜くこれからの経営に備えて

熾烈な経済競争にさらされているからこそ、「契約」概念を経営に取り入れ、提供できるサービス、そうではないものを法律に則って明確化しましょう。

当たり前に思われることでも、しっかりと実践できている事業者は多くありません。

契約概念、法令遵守により、事業者の信頼を獲得につながります。

第2 葬祭契約と法律

1 葬祭契約とは?

葬儀という人の死を弔う儀式のため、料金トラブル等が生じても裁判沙汰にまで発展することは多くありません。

もっとも、表立っているものでも、年間1,000件近くの相談が国民生活センターに寄せられており、慎重な事業運営が必要なことは疑う余地がありません。

【参考】🔗「墓・葬儀サービス」(独立行政法人国民生活センターHP)

葬祭契約の特殊性とは?

過去の裁判例において、葬祭契約は、サービスを主たる内容とする労務供給契約の一種であるが、通常の場合利用者(ご遺族)の側は契約内容の詳細について検討すべき時間的、心理的余裕がないこと、葬儀会社と遺族との間で知識・経験の差が歴然としていること、なされるサービスに対する遺族の評価は、主観的要素が大きいこと、やり直しがきかないこと、地域の慣習と深く結びついていて契約内容が明文化されることがすくないため、遺族が期待していた葬儀内容と、現実に施行された葬儀との間に行き違いがあり得ること、その反面で責任の所在が明確にならないこと等の特殊性を指摘しています(名古屋高判金沢支部平成6年4月25日)。

葬儀契約の内容とは?

同裁判例においては、葬祭契約の締結により事業者が負うべき義務の内容についても述べられ、「通常遺族は、単に遺体の納棺安置祭壇の設置等、葬儀を行うために物理的に必要な事務だけではなく、明示の依頼がない場合でも、葬儀の進行についても配慮するよう黙示的に葬儀業者に依頼しているとみるのが相当である」とも述べています。

葬祭業者としては、遺体の納棺、安置、祭壇の設置だけでなく、特段の依頼や合意がない場合であっても、葬儀の進行まで依頼されていると判断されました。

この判断を踏まえた上で、責任が持てないものがある場合には明示的に行えない旨を明らかにします。

そうでなければ、葬儀の進行までも含めて責任をもって業務遂行を行います。

裁判例が示唆するもの ⇒ サービス(契約)内容の明確化

同裁判例は、葬祭契約の内容、当事者の意思解釈、葬儀挙行にあたって葬儀業者の行うべき義務の範囲についても明らかにしました。

今後の葬儀トラブルにおいても、この裁判例は1つの大きな基準になるものと思います。

もっとも、ご遺族の方の悲しみを前にしては、なかなか行いづらいことではありますが、葬儀挙行前に葬祭業者として何を行うのか、何を行えないのかについては、葬祭業者において事前準備できるものですので、今後の再発防止のためには、対策を行うことは必須といえるでしょう。

2 葬祭業者に落ち度があった場合の法的責任

事案の概要(東京地判令和元年8月20日)

亡き父の相続人である原告らは、生活保護葬(通夜等の儀式的なことは行われず、基本的に火葬のみの実施)を依頼した被告社会福祉法人に対して、納棺の儀を実施するかについての意向確認をせず、原告らが依頼した旅支度(白装束等を着せる支度)を実施しないなどを理由に、損害賠償を求めました。

判決の要旨

生活保護葬においても、故人に遺族がある場合には遺族の宗教感情、故人に対する追慕の感情、内心的平穏といった人格的利益を可能な限り尊重すべき社会生活上の義務を負い、火葬までに旅支度を施さなかったことは不法行為を構成するとして、原告らに慰謝料20万円、弁護士費用2万円(原告は2名のため、1名あたり慰謝料10万円)を支払うことを被告に命じました。

判決では、生活保護葬における遺族から納棺の儀の実施を希望された事例、及びこれを実施しなかったことについてクレームがされた事例はなかったこと、生活保護葬では遺体を引き取った後、効率的な保冷のために遺体を早急に納棺する事実上の要請から納棺の儀を実施する時間的な余裕が乏しいことから、納棺の儀の希望を確認しなかった点について、軽度の過失にとどまるとしています。

また、原告らは、遺体が火葬される前に旅支度がされていないことを認識し、これを被告に訴える機会があったにもかかわらず、葬儀の進行等を優先してあえてこれをしなかったことからすれば、原告らが被った精神的苦痛の程度が大きいということはできないとも判断されています。

コメント

本件は、葬祭業者の対応として、2日間にわたり亡き父宅を訪問し、数時間かけて旅支度を施さなかった経緯の説明と謝罪をし、さらに翌日にも電話により経緯説明と謝罪を数時間にわたり行っています。

これだけでなく、被告の費用負担により亡き父の用法を行うことの提示や、訴訟に先立つ調停において法要費用として20万円を支払う意向を示すなど、誠意ある対応を行ってきました。

このような被告の対応については、判決でも「回復困難な精神的苦痛が生じていると認めることができる一方で」、「被害回復のために相応の措置が講じられている」と評価されています。

葬祭業務で不手際が発生した場合、回復不可能な場合が多く、対応も困難なことが多いでしょう。

もっとも、本件のように誠意を持って対応にあたることにより、遺族感情の鎮まりを図ることができます。それでも解決が図られない場合には、最終的には法的手段により解決を目指せますので、トラブルの終着点を見通すことができます。

3 その他の葬祭業界における裁判事例

葬祭業界においては、互助会の解約手数料をめぐる全国的な訴訟は有名です。

他に、どの業界にも共通しますが、ネットの口コミ(サービスに対してや、転職系サイトへの元従業員らの書込みなど)に対する被害や、商標をめぐる争いが公刊されています。

第3 葬祭業界と顧問弁護士の活用法

弁護士 岩崎孝太郎

葬祭業界の特殊性として、争いになっても裁判に発展しづらいことが挙げられます。

そのため、かえってトラブルの被害に遭った場合には、被害回復が困難になっているともいえます。

それを回避するためには、日常からの事前対策を行う以外にありません。

また、仮にトラブルに発展したとしても、単発で弁護士に依頼する場合には、費用が数十万円と発生するのが一般的かと思いますが、顧問契約を締結することで、日常のトラブルに弁護士を活用しやすい業界ともいえます。

顧問契約の範囲内でも、弁護士が対応できる問題も多くあるものと思います。

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