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裁判で勝った場合には、相手に対して弁護士費用を請求することができますか?
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原則として、弁護士費用については、相手方に請求することができません。
裁判をする場合には、裁判所に納める主な手数料として、①収入印紙代と郵券(郵便切手代)がかかり、弁護士に依頼をすれば②弁護士費用がかかります。
この裁判所に納める実費等を「訴訟費用」(①)といい、訴訟費用については相手方の負担にすることができます。
これに対して、「弁護士費用」(②)については、原則として請求ができません。
例外的に、交通事故、労災、暴行・傷害、物の損壊などの損害賠償請求権については、弁護士費用の一部(原則は損害額の1割)を相手方に請求することができます。
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第1 弁護士費用の敗訴者負担制度は、採用されていない
1 裁判にかかる費用(訴え提起に必要な費用)
訴訟費用
裁判を起こすには、弁護士に依頼をするかどうかにかかわらず、裁判所に費用を納めることが必要です。
これは、「訴訟費用」と呼ばれ、具体的な内容として、訴えを起こす際に必要な収入印紙代、郵便切手代が主なものになります。
他に、証人の旅費日当や鑑定費用などが含まれます。
但し、各当事者が弁護士に依頼する場合の弁護士費用は、この「訴訟費用」には含まれていません。
弁護士費用
そもそも裁判は、弁護士に依頼せずとも当事者が自分で進めることができます。
現在、弁護士費用は自由化されており、各当事者が弁護士に依頼した場合に支払う報酬は、各弁護士によっても異なるものになっています。
弁護士費用は、着手金・成功報酬方式や、弁護士が費やした時間に応じて報酬が定められるタイムチャージ方式が主に利用されています。
2 訴訟費用は請求できるが、弁護士費用は請求できない
裁判で支出することが多い費用の内、訴訟費用は勝訴すれば相手方に請求することができます。
これに対して、損害賠償請求の一部を除いて、原則として弁護士費用は、裁判で全部勝訴したとしても請求することができません。
弁護士費用の敗訴者負担は採用されていません
弁護士費用の敗訴者負担が採用されていない理由は、訴訟提起への萎縮効果が懸念されているからです。
確かに、資金に余裕がある大企業、国や地方自治体等にはあまり問題ない制度かもしれません。
しかし、消費者被害を訴える消費者訴訟、会社を訴える労働訴訟、医療機関を訴える医療訴訟など、資本力で劣る個人が組織を訴えるような場合には、万が一敗訴した場合のリスクが大きくなってしまいます。
ただでさえ裁判が活用されていない日本において、司法アクセスにさらなるハードルを設けることは避けるべきと考えられています。
第2 例外的に請求できる場合
1 例外 ~ ①不法行為、②労災の損害賠償請求の場合
弁護士費用を相手方に請求できないことは原則ですが、例外もあります。
基本的な考えとして、当事者が予定もしていない事故に巻き込まれてしまう場合です。
これは、「不法行為に基づく損害賠償請求」に該当します。
次に、労災は不法行為に基づく損害賠償請求もありますが、それだけでなく、「安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求」も例外として請求が認められています。
これは、労働契約違反という契約違反ですが、その中身・内容に着目すると、不法行為に基づく損害賠償請求と異なることがないと考えられているからです。
2 不法行為に基づく損害賠償請求
不法行為に基づく損害賠償請求については、最高裁昭和44年2月27日判決がリーディングケースです。
「わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
この判例により、現在においても、多くの事例において損害額の1割を弁護士費用として、相手に請求することが認められています。
3 安全配慮義務違反(労災)に基づく損害賠償請求
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求については、最高裁平成24年2月24日判決がリーディングケースです。
「労働者が、就労中の事故等につき、使用者に対し、その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様、その労働者において、具体的事案に応じ、損害の発生及びその額のみならず、使用者の安全配慮義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照)、労働者が主張立証すべき事実は、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は、労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。」と判示し、前述の最高裁昭和44年2月27日判決を引用しています。
4 【注意】損害賠償でも債務不履行(契約違反)は否定
上記2つの判決と異なり、土地の売買契約の債務の履行を求めるための訴訟の提起等に係る弁護士報酬については、債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないと最高裁で判断されました(最高裁令和3年1月22日判決)。
判決文において、不法行為に基づく損害賠償請求は、侵害された権利利益の回復を求めるものである一方、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである点に違いを見出しています。
契約違反の債務不履行は、履行による「利益」の確保を図る点と、契約当事者としてリスクある契約をしない自由等がある点を、不法行為(自己の意思によらずに奪われた権利利益の回復をせざるを得ない)と区別する理由に挙げています。
請求する原因が、自分でコントロールできる領域にあるかどうかにより、判断が分かれていると考えられそうですね。
「契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり、侵害された権利利益の回復を求めるものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。
また、契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。
加えて、土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は、同契約から一義的に確定するものであって、上記債務の履行を求める請求権は、上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。
そうすると、土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。」
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