相続人同士で遺産分割について話し合ってみたけれど、感情的になってしまって話し合いにならないこともあります。
そんなときは、裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
とはいえ、遺産分割調停を申し立てたくても、
- 「遺産分割調停とは何なのか」
- 「遺産分割調停を申し立てる方法を知りたい」
- 「遺産分割調停の流れがわからない」
などと、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、
◎遺産分割調停とは何か、
◎遺産分割調停を申し立てるために必要な書類、
◎遺産分割調停の開催の流れなどを、
弁護士がわかりやすく解説します。
第1 遺産分割調停とは
1 遺産分割調停とは、どんなもの?
遺産分割調停とは、家庭裁判所で、相続人同士が話し合いによって遺産分割の問題を解決する手続きです。
遺産分割調停では、調停委員2名と裁判官1名で構成される調停委員会が、各相続人の言い分や主張を聞いて、助言やあっせんを行います。
相続人だけで話し合いをすると、感情的になってしまって話し合いにならないこともありますが、遺産分割調停では調停委員会という第三者が公正中立な立場で間に入ってくれるので、建設的な話し合いができます。
2 遺産分割「審判」手続とは?
遺産分割調停での話し合いがまとまらない、相続人間の主張に折り合いがつかないなど、調停での解決が困難だと家庭裁判所が判断した場合には、審判という制度が準備されています。
話合いで解決ができない場合(調停が不成立)、調停の申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされ、遺産分割事件は自動的に審判に移行します。
審判になると、家庭裁判所が、相続人から聞いた事情や提出された資料等の一切の事情を考慮して、遺産分割について終局的な判断を下します。
調停(話合い)がまとまらなければ、「審判」という裁判所が強制的に解決することができる手続に移ります。
これにより、遺産分割にも終わりが見えてきます。
3 遺産分割調停の実情(和解成立可能性や解決期間)
令和3年の司法統計によると、令和3年度に終了した遺産分割調停の総数は1万3447件で、そのうち5895件(約44%)が調停成立により終了しています。
調停成立により終了した5895件のうちの1063件が審理期間6ヵ月以内(約18%)、1835件が審理期間1年以内(約31%)、1774件(約30%)が審理期間2年以内となっており、およそ8割が2年以内に終わっています。
この統計によれば、遺産分割調停が調停成立により解決するまでに要する期間の目安は、1年程度と考えて良いでしょう。
(参考:令和3年司法統計)
🔗「遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日 回数別―全家庭裁判所」[1] (第45表)
第2 遺産分割調停を申し立てるには
遺産分割調停を申し立てるために必要なものや、申立先、申立てから第1回調停期日までの流れについて解説します。
(参考:東京家庭裁判所ホームページ)
🔗「<遺産分割調停(審判)を申し立てる方へ>」
1 申立てに必要な書類
遺産分割調停に必要な書類
必要な書類 | 部数 |
申立書(当事者目録及び遺産目録を含む) | 裁判所用1通+相手方全員の人数分(写し) ※申立人用の控えも作成してください。 ※被相続人が複数の場合は、被相続人ごとに申立書を作成してください。 |
事情説明書 | 申立人、被相続人ごとに1通 |
連絡先等の届出書 | 申立人、被相続人ごとに1通 |
進行に関する照会回答書 | 申立人、被相続人ごとに1通 |
戸籍 | 下記<必要な戸籍>参照 各1通 ※法定相続情報一覧図の写しの提出によって代えることもできますが、その場合も戸籍謄本等の提出を求められることがあります。 |
住民票又は戸籍附票 | 申立人・相手方全員分及び被相続人分 |
(遺産に不動産がある場合) ・不動産登記事項証明書(発行から3ヶ月以内のもの) ・固定資産税評価証明書(最新年度のもの) | 裁判所用1通 |
(作成されている場合) ・遺言書の写し ・遺産分割協議書の写し ・相続分譲渡証書、印鑑登録証明書、相続放棄受理証明書の写し | 甲号証として資料説明書とセットにして裁判所分1通+相手方全員の人数分(写し) |
(遺産に関する資料) ・預貯金の通帳、証書、残高証明書、取引履歴の写し ・有価証券や投資信託に関する取引口座の残高報告書の写し ・その他遺産の内容や評価額がわかる資料の写し | 甲号証として資料説明書とセットにして裁判所分1通+相手方全員の人数分(写し) |
必要な戸籍
全件共通 | ・被相続人の出生時から死亡時までの連続した全戸籍謄本 ・相続人全員の現在戸籍謄本 |
相続人の中に被相続人の兄弟姉妹が含まれる場合 | ・被相続人の父母の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本 ・父方及び母方の両方の祖父母の死亡事項が記載されている戸籍謄本 |
相続人の中に被相続人の子又は兄弟姉妹の代襲者が含まれる場合 | 被代襲者の出生時から死亡時までの連続した全戸籍謄本 |
(参考:東京家庭裁判所ホームページ ~ 書式例など豊富に載っています)
🔗「家事調停の申立て」
2 申立てに必要な費用
・収入印紙:被相続人1人につき1200円分
・郵便切手:裁判所によって金額と内訳が異なります。
郵便切手は、申立先の裁判所のホームページを見るか、申立先の裁判所に電話で確認しましょう。
参考:東京家庭裁判所に申し立てる場合の郵便切手
合計3310円分
(内訳)
100円×10枚、84円×10枚、50円×20枚、20円×10枚、10円×20枚、5円×10枚、2円×10
※相手方10人まで。以後10人ごとに1セット必要になります。
3 申立先の裁判所
遺産分割調停の申立先は、相手方のうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。
管轄の家庭裁判所がわからない場合は、裁判所ウェブサイトの🔗「裁判所の管轄区域」 を見て確認してみましょう。
相手方となる他の相続人の内、たとえば3人が大阪に住んでいて、名古屋に1人しか住んでいない場合でも、名古屋の裁判所に申立てることができます。
4 第1回期日指定までの流れ
裁判所に遺産分割調停を申し立てると、裁判所で提出書類に不備がないかチェックします。
もし不備があれば、裁判所から追加提出する書類や書類の訂正などの連絡がきます。
書類の不備の追完の目途が立てば、裁判所から第1回期日の候補日の打診があります。
候補日の中から、自分の都合が良い日程を選んで回答すると、第1回期日が指定されます。
5 裁判所からの連絡
裁判所からの連絡は、電話であれば「連絡先等の届出書」に記載した「平日昼間の連絡先」に、郵便であれば「連絡先等の届出書」に記載した「送達場所」にされます。
書類の不備があった場合や、第1回調停期日の候補日の打診がある場合には、記載した「平日昼間の連絡先」に裁判所から連絡がありますので、間違いのないように記載しましょう。
第3 遺産分割調停を申し立てられた場合(相手方の視点から)
遺産分割調停を申し立てられた場合には、主に次の書類が届きます。
- 調停期日の通知書
- 申立書の写し
- 進行に関する照会回答書
調停期日の通知書には、第1回調停期日の日程が書かれています。
しかし、突然期日を通知されても、仕事の都合などで出席できないこともあるかもしれません。
当事者の誰かが期日を欠席しても、遺産分割調停は開かれ、その期日に出席している当事者にのみ調停委員が事情を聴くことになります。
第1回の期日に欠席する場合には「進行に関する照会回答書」に第1回の調停にはやむなく欠席することを記載し、次回以降の調停期日の日程について希望があれば、その旨もあわせて記載しておきましょう。
また、相手方は、裁判所から、申立書に対する答弁書の提出を求められます。
相手方は、以下の点について、主張・意見を資料(証拠)と共に裁判所に期限までに提出します。
- 相続人の範囲
- 遺産の範囲
- 遺産の評価
- 各相続人の取得額
- 遺産の分割方法
第4 遺産分割調停期日の開催と流れ
遺産分割調停期日が、どのようにして開催されるのかを解説します。
1 伝統的な出頭スタイル
原則として、遺産分割調停では当事者の出頭が要求されます。
遺産分割調停は、平日の昼間に行われ、1回の時間は2時間程度です。
調停手続きは非公開なので、当事者やその代理人以外の人が出席することはできません。
申立人と相手方は別々の待合室で待機し、基本的には交互に調停室に呼ばれ、調停委員から事情を聴かれます。
電話会議システムの活用(遠方の場合など)
このように、遺産分割調停では、原則として当事者が出頭することになっていますが、申立先が遠方の家庭裁判所だと、相続人が毎回出頭する負担があまりに大きくなってしまいます。
そこで、当事者が遠方に居住している等の相当と認められるときは、裁判所の判断により、電話会議システムが利用されることがあります。
電話会議システムとは、申立先の家庭裁判所と当事者の最寄りの裁判所を電話でつないで、遺産分割調停を行うという方法です。
電話会議システムが利用できるかは裁判所の判断になりますので、事前に申立先の裁判所に電話会議システムを利用できるか相談してみましょう。
2 Webの活用
物理的・心理的な理由で申立先の裁判所に赴いて調停期日に出頭することができない人がいることや、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が終息する見通しが不透明であることから、裁判所では、調停手続きのリモート化を推し進めようという取り組みがされています。
その取り組みの一環として、全国の各裁判所では、裁判所の外から、パソコン等を利用したWeb会議が順次導入されています。
Web会議も、電話会議システムと同様、利用できるかどうかは裁判所の判断(運用)になります。
ただ、これからは調停手続においても、積極的に活用されていくでしょう。
第5 遺産分割調停(相続)と弁護士への依頼メリット
相続人の間で、遺産分割協議をしても話し合いがまとまらなかった場合、遺産分割調停を申し立てるのは有効な方法です。
遺産分割調停において必要な書類や費用などは、申立先の裁判所に問い合わせれば教えてくれるので、自分でも申し立てることができます。
また、遠方の裁判所に申し立てた際、毎回出頭する負担が大きければ、電話会議システムやWeb会議を活用することも考えられます。
もっとも、「必要書類の書き方がわからない」「戸籍などの必要書類を取り寄せるのが大変」「平日昼間は仕事で調停に出席できない」という人もいるでしょう。
このような場合には、弁護士に依頼すれば、弁護士が申立書を作成し、戸籍などの必要書類の収集も含めて一任できます。
また、弁護士が依頼者の代理人として遺産分割調停に出頭し、法律的にも妥当な結論を得やすくなります。
弁護士に依頼すれば、費用は発生します。
しかし、遺産分割手続の物理的・心理的負担が大きく軽減されることと、法律的に妥当な解決を図れることが、最大のメリットです。
まずは法律相談だけで良いでしょう。
「この弁護士にお願いして大丈夫かな?」と確認することは、とても大切なことだと思います。
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