相続人同士で遺産分割について協議しても、一向に協議がまとまらないこともあります。
そのような時は、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。
とはいえ、どのように調停が進んでいくのか、遺産分割についての問題は調停の中でどのように解決されるのか、不安な方もいるでしょう。
この記事では、裁判所の遺産分割調停の進め方や、遺産分割の際に発生する問題がどのように解決されるのかについて、弁護士がわかりやすく解説します。
第1 遺産分割(相続手続)が終わるまでの全体見取り図
1 「遺言」の有無で全く別の流れとなります
遺産分割は、まず被相続人が遺言を残していたかどうかで大きく変わります。
遺言があれば、遺言に従った手続となります。
これに対して、遺言がない場合には、相続人全員で話し合いを行う必要があります。
遺言がある場合と比べて、非常に多くの争点が生じやすいことが特徴です。
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話し合い(協議)でまとまれば、一番平和的な解決といえます。
妥結できなければ、裁判所に介入してもらい、調停で話し合いを行います。
それでもまとめらなければ、審判にて強制的な解決となります。
第2 遺産分割調停・審判の羅針盤 ~ 段階的審理モデルとは?
遺産分割調停・審判は、東京家庭裁判所を中心として「段階的進行モデル」という方式がとられており、手続の流れが決まっています。
具体的には、
- 相続人が誰か、
- 遺産の範囲を確認、
- 遺産の評価を合意、
- 各相続人の取得額を確認、
- 遺産分割方法を確定する、
という5つのステップがあります。
相続人全員が、①から⑤まで全て合意できれば、遺産分割調停が成立します。
遺産分割は、どうしても感情的対立が生じやすいものです。
どの順番で、何を検討するかをクリアに整理することで、複雑そうに見える対立を、シンプルに紐解いていくことができます。
遺産分割調停・審判という裁判所の手続は、この段階的進行モデルに沿って進められます。
このモデルを理解すると、いつ、何を議論するかが分かりますので、安心して手続に参加することができるようになります。
段階的進行モデルによる調停の流れ
相続人の範囲(相続人が誰か)
遺産分割は、相続人全員の関与が必要です。
一部でも相続人が不参加ですと、成立した遺産分割協議は無効になってしまいます。
そのため、まずは誰が相続人かを明確に確認する必要があります。
遺産の範囲を確認(遺産分割の対象財産の確認)
遺産分割の対象となる相続財産を確認します。
葬儀費用や生前の相続人の使い込みなどの問題も、遺産の範囲として話し合われます。
遺産の評価(不動産や株式の金額の合意)
遺産の中に、不動産や非公開株式など、価格が明確でないものがあれば、その金額(評価)を決めます。
各相続人の取得額を合意
法定相続分をベースに、特に調整する必要があるかどうかを確認します(法律用語で寄与分や特別受益などと呼ばれます)。
遺産の分割方法を合意
誰が、何を取得するかを決めます。
たとえば、現金と不動産がある場合に、どちらが現金でどちらが不動産を取得するかを話合います。
この段階的審理モデルを知ることで、弁護士の思考過程を理解することができ、打ち合わせなどもスムーズに進めやすくなるのではないかと思います。
調停期日でも、裁判所や弁護士がどのような議論をしているか分かるので、調停にも主体的に参加しやすくなるでしょう。
第3 各段階におけるポイント
各段階において問題になり得る内容に触れます。
より詳しい内容は、下の参考記事をご覧ください。
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🔗相続手続を終えるまでに乗り越えるべき法律上の争点を解説します1 相続人の範囲
遺産分割は、相続人全員が参加して行う必要があります。
相続人が一人でも欠けた遺産分割は、原則として無効となります。
また、相続人ではない者を含めてされた遺産分割は、少なくとも相続人ではない者に対する分割は無効となり、場合によっては、遺産分割の全体が無効となります。
そのため、遺産分割調停では、裁判所から、誰が相続人なのかを確認するために、被相続人の生まれてから死ぬまでの戸籍などを要求されます。
1人でも欠けていたら、せっかく決めたことも全く無意味になってしまうのですね。
最初に、誰が当事者かを確定させる理由がよく分かります。
相続人の中に行方不明・所在不明の人(連絡取っていない)がいる場合
相続人の中に行方不明(所在不明)の人がいる場合には、まず、戸籍や住民票などで調査を尽くします。
単にずっと連絡を取っておらず、どこで何をしているのか分からない場合が多いでしょう。
調査をしても行方が分からない場合には、「不在者財産管理人の選任」という手続きを行う必要があります。
また、7年以上、生死が不明な場合には「失踪宣告」という手続きもあります。
【参考】🔗「不在者財産管理人選任」(裁判所HP)
【参考】🔗「失踪宣告」(裁判所HP)
相続人の中に未成年者や判断能力に疑いのある人がいる場合
相続人の中に未成年者がいる場合は、法定代理人である親権者が、未成年者に代わって調停に参加します。
ただし、親権者も相続人である場合には、親権者と未成年者の利益が相反してしまうので、家庭裁判所で「特別代理人」の選任をする必要があります。
父が亡くなり、母と未成年の子が相続人となった場合が想定できます。
遺産分割を行わずに、単純にすべての財産を法定相続分通りに相続する場合には特別代理人は不要です。
ただ、遺産分割を行う場合には、特別代理人を選任する必要があります。
【参考】🔗「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」(裁判所HP)
認知症などの判断能力に疑いがある場合に注意
認知症などで判断能力に疑いがある人には、家庭裁判所に「後見等開始の申立て」をします。
【参考】🔗「後見サイト 東京家庭裁判所後見センター」(東京家裁HP)
相続人の養子縁組や婚姻について無効を主張する場合
相続人の養子縁組や婚姻(結婚)について無効を主張して、その効力を争うのであれば、遺産分割調停とは別に、養子縁組無効や婚姻無効の訴えという人事訴訟を行って、先に決着をつける必要があります。
養子縁組や婚姻の無効を主張するのは、ドラマの世界のように思われるかもしれませんが、意外と争われている感覚があります。。。
相続人多数の場合
二次相続などが発生して相続人が多数人にわたる場合には、相続分の譲渡や相続分の放棄をすることで、当事者となる相続人の数を整理することができます。
相続分の譲渡は口頭でもできますが、トラブル防止のため「相続分譲渡証書」という書面を作成して、相続分の譲渡があった事実を証明できるようにします。
相続分の譲渡や相続分の放棄をして、家庭裁判所から相続人から排除する決定を受ければ、その相続人は遺産分割調停の当事者としての地位を失います。
【参考】🔗「相続分譲渡について(説明書)」(京都家裁HP)
【参考】🔗「相続分放棄について(説明書)」(京都家裁HP)
2 遺産の範囲
被相続人の全ての相続財産が、遺産分割の対象となるわけではありません。
遺産分割時に既に存在していない相続財産や、法律上当然に分割される相続財産などは、遺産分割の対象となる実益がありません。
遺産分割の対象となるのは、被相続人が有する全ての財産ではなく、以下の財産が対象となります。
- 被相続が相続開始時に所有し、
- 現在(分割時)も存在する、
- 未分割の、
- 積極財産(負債を除く)
相続人により引き出された預貯金
被相続人が存命中や死亡後に、相続人により引き出された預貯金は、原則として、遺産分割調停で扱える遺産ではありません。
しかし、例外的に、相続人全員の同意があれば、相続人により引き出された預貯金についても、遺産分割調停で扱えることになっています。
これらの同意が得られない場合や、被相続人の死亡後に預貯金を引き出したのが誰なのか争いがある場合には、預貯金の引き出しについて遺産分割調停では扱えず、別途民事訴訟を提起する必要があります。
相続債務、葬儀費用、遺産管理費用
相続債務は、法定相続分に応じて相続開始時に当然に分割されるものです。
また、葬儀費用や遺産管理費用(民法885条)は、相続開始後に発生するものなので、相続開始時には存在していません。
これらの取扱いについては、相続人全員が合意していれば、遺産分割調停の中で分割の対象とできるとされています。
相続開始後に入金された預貯金や利息
共同相続された預貯金債権等は、遺産分割の対象となります(最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁)。
そうすると、相続開始後に預金口座に入金されたお金や相続開始後の利息は、相続財産に含まれるのでしょうか。
契約の性質上、共同相続人は、入金額が合算された1個の預貯金債権を準共有すると考えられています。
したがって、被相続人名義の預貯金債権について、相続開始後に入金された金員や相続開始後の利息も含めて、その全体が遺産分割の対象となると考えられています。
(最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁の鬼丸かおる裁判官の補足意見参照)
預貯金は、金融機関にある1つの口座として取扱い、遺産分割の対象になると考えられます。
相続財産から生じた相続開始後の果実
たとえば、相続開始後に生じた相続不動産の賃料や、相続開始後の株式の配当金などの相続開始後の果実は、遺産分割の対象となるのでしょうか。
これらの相続開始後の果実は、遺産の定義に当てはまらないので、原則として遺産分割の対象となりません。
ただし、遺産分割調停において、共同相続人全員の合意が形成された場合は、相続開始後の果実についても遺産分割の対象とすることができます。
不動産の賃料や株式の配当金などは、原則的には、その不動産や株式を相続する相続人が取得するものと考えられます。
3 遺産の評価
遺産の評価の基準時は、原則として遺産分割時です。
特別受益や寄与分の主張がある場合、みなし相続財産の算定においては、相続開始時が基準時となります
もっとも、当事者全員が合意すれば、その内容が相当である限り、遺産分割時の評価と相続開始時の評価を同一とすることもできます。
不動産の評価
遺産分割調停では、不動産は、相続人間の合意した価格か、鑑定による価格で評価されます。
相続人間の合意で不動産を評価する場合は、地価公示価格、固定資産税評価額や相続税路線価を参考にすることもできます。
不動産の評価額について相続人間で合意ができない場合には、不動産鑑定士による鑑定を行います。
鑑定をする場合には、当然に費用が数十万とかかります。
この費用負担をめぐって、ひと悶着あったりします。。。
非上場株式の評価
非上場株式をどう評価するかは非常に複雑な問題であり、争う場合には高額な鑑定料(一般的には公認会計士が担当します)も必要となりますので、遺産分割調停では評価をより簡略化することも多々あります。
たとえば、相続税申告書に記載の評価額を参考にしたり、休止中の会社等であれば評価額を0円としたりして、評価について相続人間で合意を成立させることもあります。
もしくは、非上場株式のみ相続人間で法定相続分に応じた株式数で現物分割すれば、評価の合意が不要となります。
4 各相続人の取得額
基本的には法定相続分に基づいて各相続人の取得額が決まります。
ただし、法律の条件を満たす特別受益や寄与分が認められる場合には、それらを考慮して各相続人の取得額を修正します。
特別受益
たとえば、共同相続人の中に、生前贈与を受けた者がいた場合、この相続人が他の相続人と同じ相続分を取得するとなると、不公平になります。
兄は兄弟で1人だけ海外留学させてもらい、多額の学費を出してもらっています。
それでも、兄と他兄弟とは、同じ相続分となるのでしょうか?
このように、相続人が、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けたときの利益を特別受益といいます(民法903条)。
民法上、共同相続人の公平を図るために、生前贈与された特別受益を相続分の前渡しとみて、相続財産に加算して(持ち戻して)相続分を計算します。
【計算式】
相続財産+特別受益(生前贈与)=みなし相続財産
みなし相続財産×相続割合=一応の相続分
一応の相続分−特別受益=特別受益者の具体的相続分
なお、一応の相続分から特別受益を控除した結果が、ゼロまたはマイナスになる場合(超過特別受益)は、特別受益を返還する必要はありませんが、その相続分を受けることはできません(民法903条2項)。
寄与分
共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした者がいるとき、相続財産の一定割合または金額(寄与分)を相続財産から控除して、これをその相続人が相続分とともに受け取れます(民法904条の2)。
父が寝たきりになってからの介護を、無償で私だけがやりました。
それなのに、他の兄弟と同じ相続分しかもらえないのでしょうか?
このように、特別の寄与をした相続人の取得する財産の額を増加させることで、共同相続人間の公平を図っています。
【計算式】
相続財産−寄与分=みなし相続財産
みなし相続財産×相続割合+寄与分=寄与分権者の取得額
5 遺産の分割方法
各相続人の取得額が決まれば、それに基づいて、各相続人に遺産を分割します。
遺産の分割方法
遺産の分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割があります。
どの方法で分割するかは、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮することとされています(民法906条)。
現物分割
現物分割とは、遺産を現物のまま、個々の財産の形状や性質を変更することなく分割する方法です。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させ、他の相続人に対して債務(代償金)を負担させる方法です。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却等で換金した後、その価格を相続人で分配する方法です。
共有分割
共有分割とは、遺産の一部または全部を具体的相続分による物権法上の共有取得とする方法です。
預貯金の分割方法
預貯金を分割する場合、銀行手続の煩雑さを回避するため、相続人の一人に一口座を取得させ、代償金支払いの合意を成立させることが多いです。
たとえば、残高100万円の定期預金を相続人Aと相続人Bで2人で分割する場合、定期預金はAが取得し、Aは定期預金を取得した代償金としてBに対して50万円を支払うといった方法で分割されます。
取得希望のない不動産
評価額が極めて低額で管理に多額の費用を要するなどの事情から、相続人の誰からも取得希望のない不動産がある場合、その分割方法が問題となります。
このような場合には、調停では①評価額を0円または極めて低額とする評価の合意を成立させたうえで、特定の相続人に取得させる、②取得してくれる第三者を探してその第三者に取得させるなどの方法があります。
また、その不動産が更地であれば、いったん相続人の単独取得または共有取得にした上で、相続土地国庫帰属法(令和5年4月27日施行)による相続土地国庫帰属制度を利用することも考えられます。
相続土地国庫帰属制度は、相続などによって土地の所有権を相続した人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡すことができる制度です。
ただし、相続土地国庫帰属制度を利用するには、法務大臣の承認や、負担金(10年分の管理費用)の納付が必要です。
【参考】🔗「相続した土地を手放したいときの『相続土地国庫帰属制度』(政府広報オンライン)
第4 簡単なまとめ
遺産分割調停は、段階的進行モデルに従って進行していきますが、各段階でさまざまな法的争点が発生します。
各段階で当事者間の合意がスムーズに成立すれば、遺産分割調停も早期に成立して解決します。
しかし、自分の主張が法的に見て妥当なのか、相手方の主張や裁判所からの提案に応じるのが得策なのかなど、自分では判断がつかないこともあるでしょう。
遺産分割における弁護士の役割は、最終解決の形を見据えながら、法律上の論点について専門的な知見に基づくサポートを行うことにあります。
無用な争いを避け、冷静な話し合いができますし、相手の主張が不当な場合には徹底的に争う選択もできます。
納得のできる解決をサポートしますので、お気軽にお問い合わせください。