Question

自宅を購入しようと不動産屋に仲介を依頼しました。

売主と交渉するために買付証明書を提出しましたが、条件が合わずに購入を断念しました。

ところが、仲介業者より、買付証明書を提出した後に売主から承諾書が交付されているのだから、売買契約は成立しているとして、仲介報酬を請求されています。

不動産売買契約の購入検討者が、買付証明書を提出したら、不動産売買契約は成立したとして、不動産業者から仲介手数料の請求を受け、困っている図。

私は、不動産業者に対して仲介手数料を支払う必要がありますか。

Answer

不動産の売買は、売買金額が高額となり、取り巻く法規制なども複雑です。

そのため、売買契約が成立するには、当事者が売買契約に向けた確定的な意思の合致が必要とされており、具体的には売買契約書を締結した時手付金を交付した時に、売買契約が成立するものと考えられています。

そのため、買付証明書・売渡承諾書を取り交わした段階では、売買契約は成立していません。

ご質問のケースでは、不動産業者に対して、仲介手数料を支払う必要はありません。

弁護士 岩崎孝太郎

不動産取引において、買付証明書売渡承諾書の法的意味合いを理解しておきましょう。

買付証明書・売渡承諾書の交付をもって取引が成立していると誤解し、契約を打ち切ることができずに、不当に契約締結を迫られるケースがあります。

より詳しくみていきます!

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第1 不動産売買契約の成立時期についてのまとめ(本記事のハイライト)

1 重要ポイント

不動産の売買契約はいつ成立しますか。

当事者双方が売買契約の成立目的としてなした確定的な意思表示が合致することが必要とされ、具体的には契約書の締結行為手付金の交付をもって成立したと考えられることが多いです。

買付証明書・売渡承諾書は、法律的にはどのような意味づけをされていますか。

買付証明書は、買受希望者が一定の購入希望条件を示して売主との契約交渉を申し入れる書面としての意味があります。

売渡承諾書は、売主が売却希望条件を示して売却交渉に応じることを表明する書面です。

買付証明書及び売渡承諾書を交換する場合、契約交渉段階において当事者間で協議・調整した取引条件を確認するとともに、確認した取引条件について、以後の契約交渉の中で蒸し返さないようにする意味を併せ持つと考えられています。

買付証明書及び売渡承諾書が交わされたことで、契約が成立したものと考えられませんか。

買付証明書及び売渡承諾書の取り交わしをもって売買契約が成立したと判断した裁判例は、皆無に等しいです。

契約を打ち切られた当事者は、契約交渉の不当破棄を理由とした損害賠償請求を検討するべきです。

2 トラブルの類型

契約を打ち切られた当事者の一方が、買付証明書の交付等をもって売買契約が成立したと主張して、所有権移転登記請求をしたり、違約金の支払請求をする類型があります。

また、契約交渉の不当破棄を理由として、信義則上の義務違反に基づく損害賠償請求をするものがあります。

第2 売買契約の民法による規定

1 売買契約の法律上の規定とは

売買契約は、民法555条に規定されています。

民法で、売買契約は諾成契約とされ、当事者の意思の合意のみで成立し、契約の成立には必ずしも契約書(書面)の締結が必要とされません。

そうすると、理屈上は、当事者の確定的な意思表示が合致していれば、いわば口約束だけでも契約が成立することになります。

民法555条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

🔗e-Gov法令検索「民法」

2 不動産「売買」契約における特徴

売買契約といっても、コンビニで日常的に行われる売買取引もあれば、不動産売買のように、多くの人が人生でせいぜい1~2回しか経験しない取引もあります。

不動産売買は、売買価格が非常に高額で、不動産を取り巻く権利義務や法令上の制限が複雑です。

宅建業者(不動産業者)は、売買契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に買主に対して重要事項説明書を交付・説明することが義務付けられています。

さらに、売主と買主が売買契約を締結すると、所定の事項を記載した書面(いわゆる37条書面≒売買契約書)を遅滞なく交付することが義務付けられています。

そのため、不動産売買契約においては、「口頭で売買契約を締結することは、社会通念上、一般的にあり得ない」(東京地裁平成19年10月19日判決)とされるなど、民法の原則が修正されていることが特徴的です。

第3 不動産売買契約の流れ

1 不動産売買契約の大まかな流れ

不動産売買の大きな流れは、売主が募集広告を出し、買受希望者を募ることから始まります。

次に、購入希望者が内覧等を経て、買付証明書を交付し、主要な取引条件が調整できれば売主から売渡承諾書を交付したり、他の細かい取引条件を詰めていきます。

そして、契約成立の見込みがつけば、不動産仲介業者は、重要事項説明売買契約書の案文を当事者双方に提示し、契約条項の検討(確認)を依頼し、契約締結予定日を調整します。

重要事項説明書は、契約締結日の数日前には買主・売主においてその内容を検討できるように時間的余裕を設けて交付・説明するのが望ましいですが、実際には契約締結の当日に交付・説明されることも少なくありません。

多くの場合、契約締結時に手付金を支払い、決済・引渡しの日に金融機関からの融資を受けて残代金を支払います。

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不動産売買の主な流れ

2 売買契約の成立時点は?~買付証明書・売渡承諾書とは

買付証明書・売渡承諾書とは?

買付証明書・売渡承諾書は、売買契約の締結に先立って交わされることが多いものです。

買付証明書や売渡承諾書は、もともとは大規模かつ高額な事業用物件の売買で開発業者や仲介業者が使用してものでしたが、中古住宅の流通業界でも一般に使われるようになったようです。

様式は特に定まったものはなく様々ですが、売買対象の不動産売買代金が記載され、「購入を申し込む」、「売渡しを承諾する」などの文言が記載されます(サンプルは下図)。

そのため、買付証明書と売渡承諾書が交わされると、売買契約が成立したと主張されるトラブルが起こりがちです。

買付証明書のサンプル。
同書面には、物件の表示や売買金額が記され、購入希望者が「購入致したく」と記載されている。
買付証明書のイメージ(サンプル)

買付証明書(売渡承諾書)の法的性質とは?

買付証明書は、買受希望者が冷やかし客ではないことを示すために交付されるものとされています。

すなわち、買受希望者が売主に対して、契約交渉を申し入れる書面としての意味合いを持つものとして扱われます。

同様に、売渡承諾書は、売主が売却希望条件を示して売却交渉に応じることを表明するものにすぎません。

売買契約が成立するのは、契約書締結時

事業用物件の売買が典型例ですが、買付証明書が交付された後に、確定測量による実測面積の把握、土壌汚染・地中埋設物の調査など、売買価格に影響を与える作業が契約交渉と並行して行われます。

そのため、調査結果や土壌改良工事費用の額によっては、契約締結を取りやめたり、売買価格の再交渉が始まるなど、売買契約の成約に至るには未だ不確定な要素が大きい段階といえます。

また、不動産取引において手付金(内金)が交付される慣行について、「顕著な事実」としたり、「公知の事実」などと評価して、買付証明書の交付時に売主に手付金を交付していないことは、当事者間で未だ売買契約が成立していないものと多数の裁判例で判断されています。

そのため、不動産売買契約の成立は、当事者双方の確定的な意思表示が合致された時、すなわち売買契約書が交わされた時点と理解されます。

買付証明書と売渡承諾書が取り交わされることもあります。

これは、取引条件を確認するとともに、確認された取引条件について以後の契約交渉の中で蒸し返さないことを申し合わせる意味を持ちます。

もっとも、確定的に購入・売却の意思を表明するものではなく、正式な不動産売買契約書を締結するまでは購入・売却に関する確定的な意思表示を留保していると理解されています。

そのため、当事者は、売買契約交渉を不当に破棄したとする責任を負うことはあっても、売買契約の成立に伴う責任を負うことはありません。

3 売買契約の成立時期をめぐる裁判例

売買契約が成立したと判断されるためには、当事者が売買に関して確定的な意思表示の合致があるかどうかが判断されます。

確定的な意思表示の合致を判断するにあたっては、当事者の属性(個人消費者か宅建業者かなど)、取引物件(居住用か事業用かなど)、売渡承諾書や買付証明書の交付時期、交付に至る経緯、記載内容、交付後の取引条件の協議・調整の経過事実などが考慮要素として挙げられます。

裁判例の概観

売渡承諾書や買付証明書の交付をもって、売買契約の成立を認めた裁判例は、皆無に等しいです。

  • 確認のために当事者双方がそれぞれ買付証明書と売渡承諾書を作成して取り交わしたうえ、更に交渉を重ね、細目にわたる具体的な条件総てについて合意に達したところで最終的に正式な売買契約書の作成に至るのが通例である。、、、売買契約書の作成に至るまでは、今なお当事者双方の確定的な意思表示が留保されており、売買契約は成立するに至っていない(東京地裁昭和63年2月29日判決)。

  • 買付証明書を発行した者と不動産の売主とが具体的に売買の交渉をし、売買についての合意が成立して、はじめて売買契約が成立するものであって、不動産の売主が買付証明書を発行した者に対して、不動産売渡の承諾を一方的にすることによって、直ちに売買契約が成立するものではないこと、このことは不動産業界では、一般的に知られ、かつ了解されている(大阪高裁平成2年4月26日判決)。

  • 買付証明書及び売却証明書の授受は、・・・当該条件による売渡し又は買付の単なる意向の表明であるか、その時点における交渉の一応の結果を確認的に書面にしたに過ぎないものであって、本件不動産の売買契約の確定的な申込又は承諾の意思表示であるとすることはできない(東京地裁平成2年12月26日判決)。

第4 不動産売買契約成立時期をめぐるトラブルの類型

1 不動産取りまとめ依頼書・仮契約書

買受希望者が、仲介業者宛に契約予定日と共に「売主の承諾が得られ次第、売買契約の締結を致します」と記載された不動産取りまとめ書を提出した事案についても、不動産の購入を希望する意向を示したものにすぎないとして、売買契約の成立を認めませんでした(東京地裁平成26年12月18日)。

2 売買契約書案の作成(案文の交付)

売買契約書案を検討することは、契約締結に向けた具体的準備行為といえ、売買契約を締結するとの当事者の確定的な意思を根拠づけるものといえそうです。

もっとも、売買契約書の案文を当事者に交付した段階では、未だ売買契約が成立していないと考えられています。

3 協定書の締結(主に事業用物件の売買)

主に事業用建物の建設用地の売買などは、契約締結に至るまでの交渉が長期間に及ぶことが少なくありません。

そのため、契約交渉が一定段階に達した場合には、買付証明書等の交換だけでなく、基本協定書基本合意書など、協定書を締結することがあります。

このような協定が交わされた場合には、当事者間で売買契約を締結するまでの準備段階においてなされた合意とされ、当事者は誠実に交渉すべき義務を負い、正当な理由なく契約交渉を打ち切った場合には、信義則上の義務違反による損害賠償責任を負うものといえます。

もっとも、このような協定書においても、売買契約に向けられた当事者の最終的な意思表示の合致は留保されているものとして、協定書の締結をもって売買契約が成立したとは考えられていません。

4 金員の交付がある場合(手付金といえるか?)

契約交渉の過程において、売買契約書を取り交わさないまま、買受希望者から売主に金銭交付がなされることがあります。

この場合、その交付された金銭が「手付金」といえる場合には、売買契約が成立したものといえそうです。

このような事案における裁判所の評価は分かれており、売買代金額が確定しない段階で金銭が交付された事案で手付金として認定した裁判例もありますが、あくまでも預託金にすぎないとして売主に返還を命じた裁判例もあります。

このような場合には、当事者の属性、交付された金銭の額の売買代金における割合、交付に至った取引経緯、売買契約書を交わさないまま交付された理由、金銭の交付についての書面の作成の有無、領収証等の書面の内容(「手付金として受領」などの記載はあるか)、契約締結に向けた当事者の意思などを総合的に考慮して判断されることになります。

5 売買契約締結予定日の契約締結の拒否

売買契約当日に一方当事者が現れなかったので、契約書が締結されなかった場合や、売買契約締結の当日に契約締結を拒否する場合などがあります。

このような場合には、当事者は確定的な意思表示をしていないものと評価できますので、売買契約の成立は認められません。

ただ、信義則違反を理由として賠償責任は発生します。

第5 売買契約が未成立となった場合の当事者がとるべき行動とは?

1 不動産仲介会社は報酬を請求できるか?

仲介会社の報酬請求権の特徴(成功報酬)

不動産仲介業者の報酬請求は、仲介業者の仲介による売買契約の成立を条件として発生するもので、成功報酬制とされています。

そのため、売買契約が成立していなければ、仲介業者は報酬を請求することができません。

成功報酬だからといっても、委託者は売買契約を締結するかどうかを自由に決めることができ、売買契約を締結すべき義務を負いません。

割合的な報酬も請求できないか?

仲介業者による仲介がなされたとしても、売買契約が成約しなければ報酬は発生せず、不当に契約締結を拒否する等の事情がなければ、仲介活動の出来高に応じた割合的報酬を請求することもできません。

2 契約締結を打切られた当事者ができること

損害賠償請求ができる可能性

契約締結を進めようと努力しても、契約締結に至らないケースも多く、契約締結を拒否するのは当事者の自由といえます。

もっとも、契約交渉を始め売買価格などの取引条件について協議・調整を重ねるうちに、当事者の一方が相手方に対し契約が確実に成立するであろうとの信頼を与えるに至った場合には、その信頼を裏切らないよう誠実に努める信義則上の注意義務を負います。

契約締結が打ち切られた当事者は、相手方に対し、この注意義務違反を理由として損害賠償請求をできないか、検討することになります。

契約の履行を迫るのは避けるべき

契約の履行を打切られた買受希望者が、売主に対してプレッシャーをかける目的で、買付証明書等の交付をもって不動産売買契約が成立したと主張して、不動産に処分禁止仮処分申請をする方法が検討できます。

もっとも、買付証明書等の交付の段階では、売買契約の成立を認めることが困難です。

そのため、最終的には裁判で買受希望者は敗訴するだけでなく、仮処分決定が取り消され、さらには違法な仮処分であるとして損害賠償請求を受ける恐れがあります。

あくまでも前述の損害賠償請求について検討を行うべきといえます。

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第6 不動産売買トラブルに強い弁護士に相談する

1 不動産売買トラブルへの専門的知見

弁護士 岩崎孝太郎

不動産売買契約の成立時期をめぐっては、契約交渉の打切りが不当な契約交渉の破棄だとして、損害賠償請求を求めるトラブルが多くあります。

契約交渉の不当破棄を考える前提として、売買契約がいつ成立するのか、不動産売買契約の慣習を含めて理解しておくと、不動産業者にとっても消費者にとっても、トラブルの未然防止に役立つものと思います。

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