取引先に赴き、商品を引揚げることで債権回収を行ってもよいでしょうか。

Answer

金銭に代わって物で弁済を受けることを、「代物弁済」といいます。

法律上、代物弁済による債権回収も有効です。

ただし、民事、刑事上のリスクもありますので、慎重に行う必要があります。

1 代物弁済とは

 代物弁済とは、債務者が負担している本来の給付に代えて他の給付により債務を消滅させることをいいます。

 債務者に、支払に充てる現金はないが、在庫商品、家財道具などが残っている場合には、有効な回収方法になり得ます。

 代物弁済で利用される物は、不動産、車、絵画などの他に、債務所が所有する店舗在庫や売掛金債権、貸付金債権などの債権もよく利用されます。

(民法:代物弁済)
第482条 
弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

2 代物弁済の注意点

 物品の価値が債権額に満たなくても、代物弁済により全債権が消滅してしまったり、反対に、暴利行為(債権額に比して高額の物を受領するなど)として代物弁済自体が無効にされる恐れがあります。

 すなわち、仮に200万円の債権を持っている場合に、高価なブランド品や宝飾品をもらって債権が返済された扱いにしようとする場合、そのブランド品や宝飾品の時価額にかかわらず、債権を消滅させようとする合意が代物弁済です。

 あくまでも物を代わりにして債権の消滅を図るものなので、どうしても実際の債権額と、弁済される物の時価額には相違が生じてしまいます

 そのため、受領する物と共に、代物弁済として受領する債権「」を明記した文書を取り交わすことが必須です。

 債権額に比べて著しく価値が低い物であれば、さらに弁済を求めなくてはなりません。

 一方、債権額に比べて著しく価値が高い場合には、前述したように暴利行為として代物弁済が無効とされるリスクがありますので、債権者にとっては、一般的にリスクを伴う返済方法であることは認識しておいた方が良いでしょう。

3 商品引揚(自社売り商品の場合)

 自社売り商品については、返品処理をすることによって、その商品の引揚を行うことが可能です。

その際の留意点として、権限ある者から解除(返品)を承諾した書面を取り交わしましょう。

そして、商品の占有を自社に直ちに移します

 承諾書面の取得は、一度売買契約が成立すると、契約書に所有権の移転時期を定めていない限り、契約成立時に所有権が相手方に移ったとされ、商品回収行為に窃盗罪が成立するとの指摘を回避するために行う必要があります。

 商品代金●●円の代わりに、担保として納入した商品を引き渡す、という内容を上記の承諾書面に記載すると良いでしょう。

 さらに、承諾書面には、商品代金の期限を記載し、その期限が到来しても支払いがない場合には、売掛金の代わりにこれを処分し、売掛金に充てても異存はありません、とまで記載できれば問題ありません。

(参考情報:所有権留保付の場合

割賦販売で売買されている場合には、代金が全額支払われるまで所有権を売主の下に残しておく所有権留保の特約が付されていることが多いと思います。

買主に差押えや倒産などがあると、売買代金の支払をしても回収は危ぶまれる事態が生じ得ます。

この場合は、まず所有権留保の特約が付された売買契約を合意解除して、売買した物の引き渡しについて話し合います。

ただ、買主が非協力的な場合もあります。その際は、後でトラブルにならないように、内容証明郵便で代金未払、差押の発生、倒産などを根拠として契約解除の通知をします。

この場合でも、勝手に引き揚げることは、窃盗罪に該当するリスクが高いため、売買した物の引き渡しについても、あくまでも買主の協力を得ながら進めいきましょう。

4 商品引揚(他社売りの商品の場合)

 他社売り商品の場合でも、代物弁済として受領したり、その商品を買い取ることでの相殺処理によって、債権を回収することができます。

 具体的には、代物弁済契約書を作成したり、売買契約書を作成した上で相殺の通知をします。

 もっとも、他の債権者が自社売り商品として商品の引揚を図ったり、先取特権を行使したり、詐害行為取消権を行使したりと、商品引揚について紛糾することが少なくありません

 自社の納入した商品の回収についても、窃盗等に該当するリスクはありますので、これが他社の納入した商品であれば、勝手に持ち出していけない理由はさらに高まります。

 そのため、他社売り商品の場合には、違法な自力執行(末尾注1)と評価されるリスクが大きく、極めて慎重に行うことが求められます。

(参考情報:東京高裁昭和52年11月24日判決

取引先のA会社が倒産する恐れがあると聞き、深夜にA会社の倉庫の鍵を壊し、中にあった電気工事器具6万余点、金額にして410万円相当を盗んだ事例があります。

この事例では、自力救済を図った会社の社員数人は、窃盗罪により有罪の判決を受けました。

それだけでなく、実際にA会社が倒産し(裁判では、倒産の原因は商品引き揚げにあると認定されています)、他債権者が債権の回収ができなかった責任を求めた結果、他債権者との関係においても損害賠償が命じられました。

(注1)私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される


最高裁昭和40年12月7日判決