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弊社において、他社員との協調性もなくトラブルをよく起こす従業員について、いくら注意をしても改善されることないので、辞めてもらいました。
ところが、辞めることに納得していたと思いましたが、いわゆるユニオンに駆け込んだようで、違法な解雇だから撤回を求めるとして会社の前だけでなく、取引先会社の前でも複数人でマイクを持ち街宣活動を行っています。
他の従業員も何事か不審がりますし、特に取引先は全く関係ないのに街宣活動をされて困っているようでした。
何かできることはないでしょうか? -
ユニオンや合同労組は、労働組合として組合活動が憲法上保障されます。
そのため、いわゆるクレーマー対応と異なり、契約自由の原則から単純に取引遮断を目指せば足りるわけではありません。その背景にある元従業員との労働関係の処理を含めて、その対応は慎重に行う必要があります。
なぜならば、会社が誤った対応を行うことで、ユニオンや合同労組をかえって勢いづかせ、労働トラブルにより生じる損害が拡大する恐れがあるだけでなく、レピュテーションも毀損される恐れがあるからです。
もっとも、ユニオン、合同労組が違法な組合活動を行う場合には、断固要求を拒否し、法律的に戦うべきです。
具体的には、街宣活動に対しては、仮処分の申立てを行い、そのうえで街宣活動の差止請求や損害賠償を求めて訴えを提起することで対抗していくべきです。
(まとめ記事)弁護士が伝授【クレーム・クレーマー対応】悪質・不当要求と戦う指南書
第1 ユニオン・合同労組による街宣活動とは?
1 労働組合の種類や特徴など
労働組合とは、本来は、会社に対峙する個々の従業員(労働者)は弱い立場にあるため、まとまって組織化することで賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくられる団体です。
労働組合には、組合員の範囲に基づく様々な種類がありますが、代表的なものとして、①企業別組合、②産業別・職業別組合、③ユニオン・合同労組(地域ユニオンや個人加入型などとも呼ばれます)があります。
①企業別組合
いわゆる社内組合で、日本では労働組合に加入している労働者の9割がこれに加入していると言われています。
現在、企業別組合の組織率は、16.9%(参考:🔗「令和3年の労働組合基礎調査の概況」厚労省)となっており、大企業においてのみ残存しているイメージが強いかと思います。
社内の多数の従業員が加入している労働組合は、会社が従業員の意向を適切に把握し無用な労働紛争を未然に防止したり、組合の同意を得ることによって労働条件の変更に伴うリスクを低減させたりすることができる点で、会社(使用者)側にとっても有意義な存在です。
②産業別・職業別組合
同一の産業に従事する労働者や、同一の職種・職業に従事する労働者が企業単位を超えて横断的に組織する労働組合です。
日本において数は多くありませんが、情報労連や全国法律関連労組連絡協議会などが存在しています。
③ユニオン・合同労組など
職種や立場にかかわらず、誰でも1人で加入することができる組合をいい、ユニオンだとか、合同労組、地域ユニオンや個人加入型組合などと呼ばれます。
現在、労働委員会に申立てられる事件の多くは、このユニオン、合同労組が申立人となっています。
そのため、会社にとって、集団的労使紛争とは、基本的にユニオン・合同労組対策を念頭に置く必要があります。
ユニオンや合同労組は、企業内組合と異なり、労働者自身が紛争を抱えてから駆け込みで加入することが多いのも特徴です。
そのため、組合員個人と会社(使用者)との個別的な問題が団体交渉事項となることが多く、「組合 VS 会社」という集団的労使紛争の形式をとっているものの、実質的には個別的労使紛争であることばかりです。
2 ユニオン・合同労組が街宣活動を行う理由
ユニオンや合同労組は、トラブルの発生後に駆け込みで加入する人が多く、基本的に組合員は社外の方ばかりです。
そのため、従業員ではない組合員は会社の施設内に立ち入ることができず、できることは団体交渉の申入れくらいで、ストライキなども行うことができません。
そうなると、会社が要求に応じない場合には、組合は圧力として街宣活動に頼らざるを得ない現実があり、それに伴って印象的な形で会社批判を行います。
この戦いは、組合の街宣活動が音を上げるか、会社が降参するのを待つか、いわば我慢比べの様相を呈しているのが実情です。
そして、組合もより圧力を強めたいがために、会社建物前だけではなく、取引先の周辺や社長の自宅周辺、会社施設外の公共の場所などでも街宣活動が行われる場合があります。
ユニオンや合同労組にとっては、取り得る手段が限られている実情も理解は致します。
しかし、要求を通すために違法な組合活動に走る場合には、会社として毅然と戦っていく姿勢を示していくことが必要です。
第2 労働組合活動の正当性判断
1 労働組合活動の法的保障
憲法28条は、団結権、団体交渉権、団体行動権を保障し、組合活動を基本的人権として保障しています。
この憲法に由来する権利保障を現実的かつ実効性あるものにするために、労組法は、民事・刑事の両面において正当な組合活動については免責を定めています。
街頭宣伝活動やビラ配布(ネット利用も)による会社批判が、形式的には名誉棄損罪に該当し、それにより会社に営業損害が生じたとしても、正当な組合活動と認められるものであれば、労働組合は民事責任・刑事責任を負わないことが保障されています。
正当な組合活動を保護する規定は他にもあり、正当な組合活動を理由とする懲戒・解雇など、不利益な取扱いをすることは、不当労働行為として禁止されています(労組法7条1号)。
また、団体交渉を行うことを労働者の権利として保障していることの裏返しとして、会社(使用者)には団体交渉には応諾する義務があります。
そのため、正当な理由のない使用者の団体交渉拒否は、不当労働行為として禁止されています(労組法7条2号)。
社員が1人しか加入していないユニオンや合同労組からの団体交渉の申入れであっても、この規定により労働条件や社員としての身分に関する申入れは拒否できないわけですね。
最近だと、労働委員会が、ウーバー運営会社に対し、労働組合(配達員が加入)からの団体交渉に応じるように命じたニュースがありました。
2 労働組合活動の正当性の判断方法
組合活動の正当性は、一般に主体(労働組合としての活動であるか)、目的(労働条件等に関する事項で、かつ、使用者に解決可能な事項であること)、内容・態様(会社を批判する言論活動や会社の施設管理権との衝突調整)の側面から判断されます。
そのため、街宣活動自体には法律上の保障を受けるとしても、いかなる態様に至るものであれば正当性を失うといえるのか、具体的な裁判例を概観しながら何となくでもイメージを持っていただきたいと思います。
3 違法な街宣活動と判断できる場合、会社の対抗手段は?
会社の対抗手段
違法な街宣活動に対しては、まずは街宣活動を止めるために、街宣活動等の禁止を求める仮処分命令の申立てを行います。
そのうえで、差止めや損害賠償を求める訴え(裁判)を提起します。
差止請求が認められるための要件とは?
会社の場合は、名誉・信用が毀損され、平穏に営業する権利が侵害され、今後も当該侵害行為が継続する蓋然性が高い場合に差止請求が認められます。
また、社長や役員等の個人の場合は、自己の住居の平穏や地域社会における名誉・信用が侵害され、今後も侵害される蓋然性があるときに認められます。
現に権利侵害が起こっていて、今後も権利侵害が継続される可能性があるからこそ、差止めが認められます。
【参考】 架電・面談・撮影禁止「仮処分」をクレーム対応で申立てる!
【参考】 不当な街宣活動から企業を守る方策~仮処分を弁護士が解説します
第3 裁判例の概観
1 態様による正当性判断
経営者側の自宅等に及ぶ場合
会社批判の言論活動が経営者等の自宅周辺にまで及ぶ場合には、ほとんどの裁判例で正当性が否定されています。
典型例は、「労使関係の場で生じた問題は、労使関係の領域である職場領域で解決すべきであり、企業経営者といえども、個人として、住居の平穏や地域社会における名誉・信用が保護、尊重されるべきであるから、労働組合の諸権利は企業経営者の私生活の領域までは及ばない」ことを強調しています。
解雇が裁判で有効であると確定している場合(個別紛争で決着済みの場合)
民事訴訟において、解雇事件判決(解雇有効)が確定しているのに、解雇の撤回等を会社に求めるために街宣活動等を繰り返し行うことは、自らの要求を容れさせるべく殊更に不当な圧力をかけようとするものと言わざるを得ず、正当な行為ということはできないとされた裁判例(東京地判平25.5.23:東京・中部地域労働者組合(第二次街宣活動)事件)。
なお、後述しますが、本件において、公共的利用が予定されている場での差止めは認められませんでした。
この事件は、平成14年に最高裁で解雇有効が確定してからも、解雇撤回を求める街宣活動が続いていました。
そのため、会社は「街宣活動の差止」を求める裁判(第一次差止事件)を起こし、最高裁で差止めが認められています。
しかし、その後も禁止区域外での街宣活動が続いたので、禁止区域を拡張する等、さらに差止めを求めたのが本件です(第二次差止事件)。
解雇を有効とする判決が確定してから、さらに10年以上も街宣活動が続くという、とてもシビアな事件です!!
公共の場所における街宣活動の場合(正当性あり)
幕張メッセ、霞が関ビルディング、東京ビッグサイト及び茨城県桜川市役所大和庁舎前広場といった各施設は、いずれも多数の者による公共的利用が予定されている施設であることや、街宣活動等の頻度、態様等に照らせば、これらの施設の周辺における街宣活動を、時期や方法等を特定することなく差止めを認めることは相当ではないとの判断がされました(東京地判平25.5.23:東京・中部地域労働者組合(第二次街宣活動)事件)。
態様から業務妨害の意図まで認定された事例
会社の事務所内で行った抗議活動において、従業員等に対して大きな罵声を浴びせ、問い詰めたり怒鳴ったり、また、出荷業務を妨害する活動は、その態様のみならずその意図も明確に業務妨害等を意図して一連の行為を行っていたことが推認されるため、違法なものといえる(大阪地判平23.9.21:連帯ユニオン関西地区生コン支部(トクヤマエムテックほか)事件)。
場所・回数から正当性なしとされた事例
①会社本店に対し、5ヵ月間に計21回、概ね40分間以上、シュプレヒコールやビラを配布し、街宣車により相当の音量で労使問題を喧伝し、②同様に主要な取引先10箇所のうち9箇所の他、(経営者が所属する)ライオンズクラブにも街宣活動等を行った事例(取引先で最も回数が多い所は23回実施)において、会社の施設管理権や営業権を違法に侵害したと判断しました(大阪地判平25.10.30:全日本建設運輸連帯労組関西地区生コン支部事件)。
2 内容による正当性判断
街宣活動に伴って配布されるビラや、ホームページ・SNSなどのインターネットで発信される表現内容については、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、違法性が判断されます。
そして、組合活動の一環としてされたものである場合の名誉棄損については、憲法28条が団体交渉その他の団体行動をする権利を保障する趣旨にかんがみ、結果的に使用者等の名誉を毀損するようなものであったとしても、当該表現行為の趣旨・目的が当該組合活動と関連性を有するものであるか否か、摘示事実の真実性、表現態様の相当性及び表現行為の影響等一切の事情を総合し、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲内のものであると判断される場合には違法性が阻却されると考えられます。
違法な組合活動と判断された例
- グループ企業に対する抗議行動として行われた街宣活動において、「偽装倒産である」、「(グループ会社は)社員を雇用する義務がある」、「グループ・一族の組合つぶし偽装倒産を許すな!」と記載したビラを当該グループ企業敷地内、その周辺、近隣の取引先等に配布したり、区長、筆頭株主会社、取引銀行、主要取引先、同業者組合員会社、商工会議所に要請書を送付した行為について、正当な組合活動の範疇を超えると判断しました(東京高判平28.7.4:富士美術印刷事件)。
- 海運業及び開運代理業を営む会社に対し、「フィリピン人船員を長期間にわたり、国際的・社会的水準以下の条件で雇い入れ、船員の基本的な人権を無視し、賃金を搾取するような会社である」旨が記載されたビラを、会社周辺においてデモとシュプレヒコールを行いながら通行人に配布し、また、労働組合の機関紙に「ITF労働協約を結ばない、悪徳船主である」旨を記載したことについて、真実性・誤信相当性を欠き、海運会社に対する名誉棄損が成立するとされました(東京高判平24.12.17:全日本海員組合(同和ライン)事件)。
正当な組合活動と判断された例
- 「平気で嘘をつくブラック社労士やなりすまし社労士」といった表現をSNSアカウントで行い、労働関係情報誌の「特集 労使紛争で稼ぐ社労士の実態」という特集の中で「〇〇特定社会保険労務士事件」とのタイトルで訴訟提起が組合つぶしのスラップ訴訟である記事を執筆したこと等について、違法性ないし責任が阻却されるとしました(東京地判令2.11.13:首都圏青年ユニオン執行委員長ほか事件)。
- ①組合ホームページに「O営業本部長のセクハラ発覚」、「会社隠ぺい」という見出しを掲載し、②株主総会において「ハワイツアー中に目撃者が何人もいる中で某代理店にセクハラ行為、まぁ、酔っ払った加害者が3回に渡って、被害者の腕や肩から胸にかけての部分を触った」との発言をした行為に対し、会社の見解を併記している点、名前をイニシャル表記している点、当初は会社内の自主的解決に委ねた点、具体的な行為を特定して発言する必要性があった点などを考慮し、違法性が阻却されるとしました(東京地平判30.3.29:連合ユニオン東京V社ユニオン事件)。
- 「不当解雇」、「従業員ポイ捨て」や、「何が起こるか分からない世の中だから、あなたに大きな安心をお届けしたい」というナレーションの付いた会社のCMを引用し「約束を守らない保険会社にいざという時の『安心』をまかせられますか?」などの記載があるビラを配布すると共に、組合のホームページに掲載した行為について、真実と信ずるにつき相当の理由があり、目的、態様、影響などを考慮し、正当な組合活動の範囲内としました(東京地判平17.3.28:銀行産業労働組合(エイアイジー・スター生命)事件)。
第4 会社の対策と実務上の留意点
1 証拠収集
街宣活動が正当な組合活動といえるかの大きなメルクマールとして、街宣活動の内容、態様が挙げられます。
そのため、以下の内容について記録を取り、かつ、写真や動画において証拠収集を図ることが極めて大切です。
- いつ ~日時と活動時間
- どこで ~会社内は入るか、取引先、自宅かなど
- 人数 ~大雑把でも数人か10人以上いるのかなど
- 態様 ~服装、ノボリ、マイク、街宣車、動画をSNS等での配信の有無など
- 内容 ~ビラの内容、話す内容など
2 会社の戦い方 ~ 個別的労使紛争の積極的な解決を!
街宣活動が自社前だけで平穏な態様にて行われている限り、基本的には静観する(無視する)ことも考えられる対応策です。
ただ、裁判例を見ても分かるように、ユニオン・合同労組が街宣活動を行う場合には、会社との対立が熾烈化しやすい傾向があります。
その際の会社の戦い方として、組合活動の正当性を失わせること、すわなち街宣活動等の原因となっている個別的労使紛争について、会社から先に債務不存在の訴えなどを提起し、先んじて解決を図っていくことも積極的に検討していくべきでしょう。
ユニオンや合同労組といえど、千差万別です。
十把一絡げにして悪質な団体と考えるのではなく、街宣活動の内容や態様に応じて、適切な対応を心掛けましょう。
正当な活動にはマナーを、不当な活動には徹底抗戦を心掛けたいです。
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問題解決の見通し、今後の方針、解決までにかかる時間、弁護士費用等をご説明いたします。
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示談、調停、和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。
終了
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