現場で、元請会社の所長や担当者から、

「これもお願いします」
「この工事も進めてください」

と言われ、その指示どおりに工事をした。

ところが、工事が終わって請求書を出したところ、会社から、

会社として発注した工事ではありません。

注文書を発行していないので、支払えません。

と言われてしまった――。

建設工事では、このようなご経験はないでしょうか。

会社同士の取引であっても、日々のやり取りを行うのは代表取締役ではなく、現場所長、現場監督、工事担当者などです。
特に工期が迫っている現場では、正式な契約書や注文書を取り交わす前に、現場担当者からの指示で工事が進むことも珍しくありません。

しかし、後に工事代金が争われた場合には、「実際に工事をしたか」だけではなく、「誰との契約として工事をしたのか」が問題になります。

さらに、会社の担当者から発注を受けた場合には、その担当者に、会社を拘束する契約を締結する権限があったのかという問題も生じます。

この記事では、実際の裁判例をもとに、裁判所がどのような事情から「誰が工事代金を支払うべきか」を判断しているのかを解説します。

この記事で分かること
1
現場所長や現場監督から口頭で発注された工事でも、会社に工事代金を請求できる場合があること
2
「現場所長」「現場監督」という肩書だけで、契約締結権限が決まるわけではないこと
3
裁判所が、担当者の権限を判断するときに何を見ているのか
4
契約書や注文書がなくても契約が認められたケースと、工事を完成させたのに契約が否定されたケースの違い
5
下請業者・元請業者が、工事前・工事中に何を記録しておくべきか

目次

第1 工事代金を請求する出発点 ⇒「誰との契約だったのか」

請負代金を請求するためには、「自社と、代金を請求する相手との間に請負契約が成立していた」ことが必要になります。

工事請負代金請求の原則(下請は契約の成立している元請にのみ代金請求ができ、施主には契約関係がなく、原則として請求できない)

たとえば、以下のようなケースがあります。

  • 元請会社の現場所長から直接仕事を頼まれた
  • 「執行役員」という肩書の担当者から発注された
  • 注文書はないが、メールで施工を指示された
  • 見積書を提出した後、「とにかく工期がないから進めてほしい」と言われた
  • 工事後になって注文書が作成された

ここでは、大きく2つの問題を分けて考える必要があります。

1 そもそも、その会社との間で工事を請け負う合意が成立したのか

まず、「担当者から何かを言われた」というだけでなく、その会社から工事を請け負い、その会社が代金を支払うという合意があったのかが問題になります。

2 担当者に会社を代表して契約する権限があったのか

次に、会社との契約について話をしていたとしても、その担当者に契約締結権限がなければ、担当者が勝手に行った行為という問題が生じます。

もっとも、裁判所は単に、「代表取締役ではないから権限がない」、「注文書がないから契約がない」、という形式だけで判断しているわけではありません。

実際の裁判例を見ると、契約前の交渉から、発注、施工、検収、支払までの一連の取引経過を詳しく見ています。

会社から契約締結などの権限を与えられた担当者が、その権限の範囲内で契約をした場合には、その契約の効果は会社に帰属します。

また、会社法14条は、会社の事業について「ある種類又は特定の事項」の委任を受けた使用人は、その事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有すると定めています。

そのため、「社内規程では部長の決裁が必要だった」、「現場監督には契約書へ押印する権限を与えていなかった」という会社内部の事情だけで、当然に会社が責任を免れるわけではありません。


第2 裁判所は何を見て「会社からの発注」と判断するのか

裁判例を横断すると、特に次のような事情が重要になっています。

1 見積書・注文書・請求書は誰宛てか

まず基本となるのが書類です。
以下の記載は、特に重要項目です。

  • 見積書の宛名
  • 注文書の発行者
  • 注文請書の宛先
  • 請求書の宛先
  • 契約書の当事者

もっとも、後に紹介する裁判例では、正式な契約書がなくても請負契約が認定されています。

そのため、「契約書がない=契約がない」と単純に決まるわけではありません。

建設業法19条1項の書面作成義務

もっとも、ここでは、「契約書がなくても民事上の契約が成立することがある」という問題と、「建設業法上、契約内容を書面化しなければならない」という問題を分ける必要があります。

建設業法19条1項は、建設工事の請負契約を締結する際、工事内容、請負代金、工期、支払方法など法律で定められた事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付することを求めています。

また、契約締結後に工事内容等を変更する場合にも、建設業法19条2項により、その変更内容を書面化する必要があります。

下請業者が「注文書を出してください」、「追加工事について変更契約をしてください」と求めることは、決して過剰な要求ではなく、建設業法が予定している適正な契約手続です。

2 誰が見積りを依頼し、誰が金額を決めたのか

裁判所は、「誰が」(どのような仕事を行っていたか)にも注目しています。

  • 見積りを求めた人物
  • 見積書を受け取った人物
  • 値引き交渉をした人物
  • 最終的な金額を決めた人物
  • 「○月○日から入ってください」と言った人物
  • 「明日から2名お願いします」と言った人物

単に現場で施工方法を指示することと、工事を発注して代金まで決定することには違いがあります。

3 会社自身がその取引をどのように扱っていたのか

例えば、以下のような事情は非常に重要です。

  • それ以前の月の代金を会社が支払っていた
  • 担当者による別の発注について会社が支払っていた
  • 工事完了届を会社が作成した
  • 工事写真報告書を会社が発注者へ提出した
  • 完成後に会社側から値引き交渉をしている

会社自身がそれまで当然のように取引を受け入れていたにもかかわらず、未払いが発生した月だけ、「担当者には権限がなかった。」と説明することが合理的なのか、裁判所はそのような視点からも事実を見ています。

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第3 裁判例から見る「誰から頼まれた工事か」

実際の裁判例を比較していくと、裁判所が重視しているポイントがよく分かります。


裁判例① 現場代理人兼所長の発注について、会社との契約成立を認めた事例

東京地裁令和7年7月9日判決

この事件では、元請会社が東京都から公共工事を受注し、下請会社が手摺やインターフォン支柱の製作・据付工事を行っていました。

下請会社は、元請会社の現場代理人兼所長Dとのやり取りによって工事を受注したと主張しました。

これに対して元請会社は、「Dには工事を発注する権限はあったとしても、契約を締結する権限まではなかった」、「現場代理人や所長という肩書にすぎない」などとして契約成立を争いました。

裁判所の判断

裁判所は、Dに契約締結権限があったと判断しました。その理由として、次の事情を挙げています。

まず、Dは現場代理人兼所長として、実際に下請業者に各種工事を発注する権限を持っていました。

さらに、下請会社が410万円の見積書をDにメールで送付すると、Dは内容を確認したうえで、その見積りどおり工事を発注すると電話で伝えていました。

そして完成後には、D自身が下請会社に対し、工事代金を410万円から350万円へ減額するよう交渉しています。
加えて、Dが発注した別の資材取引について、元請会社は既に代金全額を支払っていました。

さらに工事完成後には、元請会社自身が工事写真報告書と工事完了届を作成し、東京都に提出していました。

裁判所はこれらの事情を踏まえ、発注権限を持つDには契約締結権限もあったとして、元請会社と下請会社との請負契約成立を認めました。

この裁判例から分かること

重要なのは、「現場所長だから契約権限がある」と判断されたわけではないという点です。

裁判所は、

  • 実際に発注を任されていた
  • 見積りを確認して発注していた
  • 価格交渉までしていた
  • 同じ担当者による別取引を会社が履行していた
  • 会社自身が完成工事を自社の工事として扱っていた

という一連の事情を検討しています。

肩書よりも、会社がその担当者に実際に何を任せ、担当者の行為を会社自身がどう扱っていたのかが重要といえます。


裁判例② 「平社員の現場監督に契約権限はない」との主張を退けた事例

東京地裁令和6年2月15日判決

マンション新築工事について、下請会社が現場の雑工事やクリーニング工事を行っていた事件です。

下請会社の担当者が、元請会社の現場監督Eに単価表をメールで送ったところ、Eから、
「明後日からとりあえず2名でお願いできますでしょうか」などと返信され、実際に作業が始まりました。

その後、下請会社は約4か月間にわたり現場で作業を行いました。

元請会社は、

  • 9月分
  • 10月分
  • 12月分

については請求どおり代金を支払いました。

ところが、11月分の約455万円だけが未払いとなりました。

元請会社は裁判で、「Eは平社員にすぎず、契約締結権限はなかった」と主張しました。

裁判所の判断

裁判所は、元請の主張を認めませんでした。

Eは現場監督として、施工管理、原価管理、工程管理、品質管理、安全管理、協力会社の手配を任されていました。
裁判所は、問題となった下請会社との契約締結も「協力会社の手配」に含まれ、Eに任されていた職務の範囲内だったと判断しました。

さらに裁判所が重視したのが、実際の取引経過です。

下請会社は100日以上にわたり現場に入り、元請会社の従業員から毎日の作業員数や作業内容の注文を受けていました。
そして元請会社は、9月、10月、12月分について実際に請求書どおり代金を支払っています。

裁判所は、このような事実について、Eに契約締結権限があったことを前提にしなければ合理的に説明できないとして、元請会社との契約成立を認めました。

この裁判例から分かること

元請会社からすれば、「社内規程では契約権限がなかった」というだけでは十分ではない場合があります。

外部の下請業者から見れば、その担当者が日常的に発注している、会社もそれを認識している、工事を受け入れている、請求書も受領している、実際に何度も支払っているという状態であれば、後になって会社だけが、「本当はその担当者には権限がありませんでした」と言っても、その説明が通るとは限りません。


裁判例③ 工事を進めるよう指示した会社との請負契約成立が否定された事例

東京地裁令和4年8月5日判決

これまでの2件とは反対の判断となった重要な裁判例です。

飲食店の内装工事について、施工業者は、被告会社の「執行役員」という肩書を使用していたCから工事について説明を受け、見積書を提出しました。

被告会社は当初、施主から本件内装工事を元請として受注することを検討していた会社でした。
Cは被告会社の「執行役員」という肩書を使用し、施工業者との交渉や工事の進行に関与していました。

施工業者は見積書を提出し、Cから工事を進めるよう指示を受け、実際に着工しました。

しかも、

  • 被告会社名義の図面が作成されていた
  • 消防署への届出で被告会社が施工者とされていた
  • Cが工事進行を管理していた

という事情もありました。

一見すると、被告会社が元請であり、施工業者はその下請として工事をしていたようにも見えます。

それでも裁判所は契約成立を否定

裁判所はまず、本件が数千万円にも及ぶ相当規模の工事であり、通常であれば工事内容・代金を検討したうえ契約書等を作成する類型であるにもかかわらず、施工業者と被告会社との間に契約書や注文書が存在しないことを指摘しました。

さらに、Cは見積書を受け取った際、「内容を精査する」と回答しており、見積金額を了承してはいませんでした。

したがって、Cから「工事を進めるように」と指示されたとしても、その時点では工事内容や請負代金について確定的な合意ができていなかったと判断しました。

さらに工事途中で、被告会社が元請から外れ、施主と施工業者が直接契約することになりました。

そして実際に、施工業者自身が、施主を注文者・自社を請負人・請負代金4698万円とする契約書を作成し、施主との間で契約を締結しています。

裁判所は、最終的に施工業者と被告会社との請負契約成立を否定しました。

この裁判例から分かること

「工事を進めてください」と言われたことと、「その会社が工事代金を支払う契約が成立したこと」は同じではありません。

特に、

  • 見積りがまだ精査中
  • 金額が決まっていない
  • 誰が元請になるか確定していない
  • 契約主体について交渉が続いている

という状態で着工する場合には注意が必要です。

実際に施工し、完成させたという事実だけから、必ず特定の会社との請負契約が認められるわけではありません。


裁判例④ 現場担当者が指示していても、契約で権限が制限されていれば追加工事の契約は成立しない

東京地裁平成25年10月3日判決

橋梁工事の下請工事について、現場で多数の増工事が発生し、その増工事代金を請求できるかが争われた事件です。

下請側は、元請側の現場担当者Q3から指示を受けて増工事を行ったとして、約337万円の増工事契約が成立したと主張しました。

現場では実際にQ3が工事を指揮監督していました。

しかし、契約書を見ると、監督員には工事の指示、承認、工程管理等の権限は与えられていたものの、契約内容を変更する権限までは与えられていませんでした。

裁判所の判断

裁判所は、Q3は工事の監督員ではあるが、契約内容を変更する権限はないとして、Q3に追加・変更契約を締結する代理権があることを前提とした下請側の主張を退けました。

なお、元請側が負担すべきこと自体に争いのなかった一部金額については別途加算されています。

この裁判例から分かること

この裁判例から分かるのは、現場で指示を出す権限と、工事代金を増額する権限とは別であるということです。

現場担当者には、施工方法や工程について広い指示権限が必要です。

しかし、「この追加工事を100万円でお願いします」という契約変更まで自由にできるかは別問題です。

契約書に、代金変更は本社承認、現場代理人には請負代金変更権限がない、追加工事は書面による、などの定めがあれば、その内容は重要になります。


第4 裁判例から分かる「判断の分かれ目」

1 「現場所長」「現場監督」という肩書だけでは決まらない

裁判例①では現場代理人兼所長、裁判例②では現場監督について契約締結権限が認められています。

しかし、その肩書を持っていたから認められたのではありません。

実際に、どのような仕事を任されていたか、下請業者を選定・手配していたか、見積りを受領していたか、金額を交渉していたか、過去の発注について会社が支払っていたかが重視されています。

2 「発注する権限」と「代金を変更する権限」は同じとは限らない

裁判例①・②では、担当者の日常的な業務内容から契約締結権限まで認められました。

一方、裁判例④では、現場担当者が実際に工事を指揮していたとしても、契約書上、契約変更権限が与えられていないことが重視されています。

したがって、何らかの発注権限があることから、あらゆる工事・あらゆる金額について自由に契約できると考えることはできません。

3 会社自身の行動は重要な証拠になる

裁判例①では、同じ担当者が成立させた別取引への支払、工事完了届等の作成が考慮されています。

裁判例②では、100日以上にわたる作業の受入れ、毎月の請求書、9月・10月・12月分の実際の支払いが重要な事実になっています。

会社が長期間にわたり担当者による発注を当然の取引として処理していれば、その実態は裁判でも重視されます。

4 「工事を進めて」と言われただけでは危険

他方、裁判例③では、「工事を進めてほしい」という指示があっても、契約成立が否定されました。

その最大の理由は、工事内容・金額・契約当事者がまだ確定していなかったことです。

特に大規模な工事を、「正式な契約は後で」、「金額はこれから精査する」という状態で進めることには大きなリスクがあります。

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第5 下請業者が工事代金を取りはぐれないための対策

1 見積書の宛名を曖昧にしない

例えば、「○○様」だけではなく、「株式会社○○○○工事作業所 所長○○様」など、誰に対する見積りなのか分かる形にしておくことが重要です。

2 口頭で発注された場合も、メール等で確認する

現場で、「これもお願いします」と言われた場合には、後から短いメールでも構いません。

例えば、「本日ご指示いただきました○○工事について、御社からの発注として、○月○日より施工を進めます。」という形で残しておきます。

相手から、「了解です」と返信があれば、後の重要な証拠になります。

3 金額が決まっているのか、まだ決まっていないのかを明確にする

「工事を進めてください」と言われたとしても、見積額で発注されたのか、金額は別途協議なのか、実費精算なのか、人工単価による精算なのかを確認する必要があります。

裁判例③のように、「見積りは精査するが、とりあえず工事は進めて」という状態は危険です。

4 「誰が代金を払うのか」が分からないまま着工しない

建設現場では、施主 → 元請 → 一次下請 → 二次下請→三次下請等と関係者が多数存在します。

日常的に指示している会社と、法律上の契約相手が一致しないこともあります。

特に新規取引では、「弊社は御社からこの工事を請け負うという理解でよろしいでしょうか」という確認を一度入れておくことをおすすめします。

5 工事の規模を問わず、着工前に契約内容を書面化する

法律上の書面化義務は高額な工事だけに適用されるものではありません。

もっとも、工事金額が大きくなるほど、「誰との契約か」、「工事範囲はどこまでか」、「代金はいくらか」が争われた場合の影響も大きくなるため、より慎重な書面化が必要です。


第6 元請業者側も「誰に発注権限があるのか」を明確にする

この問題は、下請業者だけの問題ではありません。

元請会社にとっても、現場担当者の行為によって、会社が想定していなかった請負代金債務を負うというリスクがあります。

裁判例①・②のように、会社が担当者に相当広い職務を任せ、実際にその担当者の発注による取引を繰り返し履行していれば、「社内では権限を与えていなかった」というだけでは通用しないことがあります。

そのため、誰に、どこまでの権限を持たせるのかの社内管理は、非常に重要です。

特に注意すべきなのは、内部的には権限がない担当者に、外部から見れば発注権限があるような仕事を長期間させている場合です。

会社自身がその取引を認め、繰り返し代金を支払っていれば、後になって未払いの取引だけを切り離すことは難しくなります。


第7 既に紛争になっている場合に確認したい証拠

既に、「そんな工事は発注していない」、「担当者には権限がない」という争いになっている場合には、契約書だけを探すのでは足りません。

下請業者側で確認したいもの

  • 契約書
  • 注文書・注文請書・見積書・請求書
  • メール・LINE・Chatwork・Teams等のやり取り
  • 工程表・図面
  • 作業指示書・作業日報
  • 工事写真・検収書類
  • 工事完了届
  • 過去に同じ担当者から受注した工事の資料
  • 過去の請求書と入金記録
  • 値引き交渉の記録

特に、同じ担当者から過去にも発注を受け、その代金を会社が支払っていたという事情は重要です。

元請業者側で確認したいもの

元請側では、

  • 職務権限規程
  • 現場担当者への権限付与に関する資料
  • 現場代理人・監督員の権限を定めた契約書
  • 発注の社内承認記録
  • 注文書の発行履歴
  • 担当者と下請業者とのメール等
  • 請求書の受領・承認経過
  • 過去の同種取引の支払記録

などを確認する必要があります。


第8 まとめ ⇒「誰に頼まれたか」ではなく「誰との契約だったか」を残す

請負工事では、現場担当者同士で工事が動いていくことは珍しくありません。

そして、契約書や注文書がないからといって、それだけで請負契約が否定されるわけでもありません。

裁判所は、「契約書があるか」、「肩書が何か」という一つの事情だけを見るのではなく、

  • 誰が見積りを求めたか
  • 誰が発注したか
  • 誰が金額を交渉したか
  • 担当者は会社から何を任されていたか
  • 会社は工事を受け入れていたか
  • 過去に同じ担当者による取引を会社が履行していたか
  • 誰に請求し、誰が支払っていたか
  • 完成後に会社がどのような対応をしたか

という取引全体の経過から判断しています。

一方で、実際に工事を施工したというだけで、特定の会社に工事代金を請求できるとは限りません。

今回紹介した裁判例③(東京地裁令和4年8月5日判決)のように、会社側担当者から工事を進めるよう指示され、実際に工事を完成させていても、工事内容・代金・契約当事者が確定していなければ、その会社との請負契約が否定されることがあります。

したがって、下請業者にとって最も大切なのは、「○○さんに頼まれた」という事実だけではなく、「株式会社○○からこの工事を受注した」という関係を証拠として残すことです。

また元請業者側も、誰にどこまで発注権限を与えるのかを明確にしなければなりません。

見積りを出したとき、追加工事の指示を受けたとき、現場に入ったとき。
その時点で残した資料が、後の裁判の結論を左右することになります。


よくいただくご質問

現場所長から口頭で頼まれただけでも、工事代金を請求できますか?

口頭での発注であるというだけで、直ちに請求できなくなるわけではありません。

実際に、今回紹介した裁判例では、現場所長・現場監督とのメールや口頭でのやり取り、実際の施工、過去の支払などから、会社との請負契約成立が認められています。

ただし、誰が発注したのか、どの工事をいくらで受注したのかを立証できる資料が重要になります。

注文書がなければ請負代金は請求できませんか?

注文書がないことだけで、必ず請求できなくなるわけではありません。

裁判所は、見積書、メール、工事の指示、施工状況、検収、過去の支払などから契約成立を認定することがあります。

もっとも、工事金額が大きいにもかかわらず契約書や注文書が存在しない場合には、契約成立を否定する方向の事情となる場合もあります。

そのため、可能であれば着工前に書面化しておくことが最も安全です。

現場所長に発注権限がなかった場合は、必ず請求できませんか?

必ずしもそうとは限りません。

会社がその担当者に実際にどのような職務を任せていたか、過去にその担当者の発注を会社が履行していたかなど、様々な事情が問題になります。

一方で、契約書上、担当者の権限が明確に制限されているケースもあります。

個別の事案では、担当者の肩書だけではなく、契約書、過去の取引、メール、施工・支払状況などを総合的に確認する必要があります。

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