ゴルフ会員権を退会しようとする場合、いったい誰に退会手続を申請すればよいのか分からないとのご相談を受けることがあります。
そこでこの記事では、ゴルフ会員権の契約は、誰が当事者となっているのかを解説します。
さらに、退会申請をして預託金の返還を求めると、よく理事会決議により返還時期を延期しましたとの回答を受けることが多くあります。
もっとも、理事会決議による返還時期の延期は、正当性のないことがほとんどです!
預託金制ゴルフ会員権において、その法的性質から、よくあるゴルフ場の反論の正当性について、詳しく解説します。
第1 預託金制ゴルフ会員権の法的仕組み(法的性質)
1 預託金とは?
預託金は、一般にゴルフ場の会員となる際に差し入れることが多く、一定期間の経過によって返還が約束されているものをいいます。
ゴルフ場の経営会社は、金利のかからない預託金を、ゴルフ場の不動産の取得、造成費用、施設の建設費用などに活用し、余剰金はゴルフ場以外の不動産の取得など投資目的に使用されることが多かったようです。
ゴルフ会員権は、第三者への譲渡も認められているため、景気の動向を見ながら、購入時よりも高値で第三者に譲渡できる場合もあったようで、投資の対象となったこともありました。
預託金は、返還が約束されているために、会員は安心して預託することができ、経済的なステータスにもつながるものでした。
また、ゴルフ場にとっても、金利がかからずに事業投資することができますので、預託金は必要不可欠なものでした。
2 預託金制ゴルフ会員権の契約内容
ゴルフ場の施設を優先的に利用したり、楽しむことを希望する人が、預託金という入会金を支払い、ゴルフ場経営会社とゴルフ会員の会員契約を締結します。
この場合に、ゴルフ場経営会社が定める会則に従うことを了承し、預託金や年会費の支払いを約束します。
このような預託金制のゴルフ会員権に多く見られる契約の法的性質について、最高裁は①施設優先利用権、②預託金返還請求権、③年会費等の納付義務等が包含された契約と説明しています(最三小判昭50.7.25)。
3 ゴルフクラブの存在とゴルフ場経営会社との関係
ゴルフ場経営会社は、会員の事務を運営するために、ゴルフ会員によって組織されるゴルフクラブを設置します。
そして、ゴルフクラブの理事会に、会員の入会や退会の審査などの事務を担当させます。
もっとも、多くのゴルフクラブは、ゴルフ場経営会社の支配下に置かれ、団体における多数決の原則、組織の代表の方法、総会の運営、財産の管理など、団体としての主要な点が確立していません。
そのため、法律的に権利能力なき社団という、法人格を有さずとも組織・団体として扱われるための要件を満たしません。
その結果、ゴルフクラブは、権利義務の主体となり得る独立の法的地位をもたず、いわゆる任意団体として、ゴルフ会員権の事務的な諸活動を行うものにすぎないとされます。
任意団体とは、町内会や趣味・サークルの集まり、同窓会などが具体例です。
4 会員契約はゴルフ場経営会社と締結する
ゴルフクラブが任意団体として法的に扱われる以上、団体・組織として独立の法的地位を持ちません。
それゆえ、会員は、ゴルフ場経営会社と会員契約を締結することになります。
預託金はゴルフ場経営会社に請求する
このように、ゴルフ会員権の契約は、ゴルフ場経営会社と締結しますので、預託金を返還請求する相手はゴルフ場経営会社となります。
5 ゴルフクラブ会則による拘束
会員は、ゴルフクラブの会則の内容を承認して、会員となる契約を締結します。
そのため、会員契約は、会則による拘束力を生じると考えられます。
会則の変更は、どのような場合になされるか?
会社における取締役会、株主総会、マンションの総会など、団体・組織として運営される場合には、多数決の原理が採用され、少数派の方々は自身の意思に反する決定を受け入れざるを得ない場面が生じます。
これは、団体・組織の運営を行っていくうえで、やむを得ない団体法による規律といえます。
もっとも、ゴルフクラブは任意団体ですので、このような団体法による規律はありません。
つまり、締結された会則の内容が変更される場合には、団体・組織として一律に変更されるのではなく、会員とゴルフ場経営会社の両当事者による同意がなされて初めて、会則が変更されます。
第2 ゴルフクラブの団体(社団)性に関する裁判例の概観
1 従来の最高裁判例
預託金会員制のゴルフクラブは、ゴルフ場を経営する会社と独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有しないと判断していますい(最三小昭50.7.25、最一小判昭61.9.11)。
学説も同様に、預託金会員制ゴルフクラブのほとんどは、固有の財産がなく、それ自体の会計・経理もないだけでなく、多数決原理を採用していないものが大多数であることから、社団性を否定しています。
2 社団性を肯定した判例
株主会員制における判断(最二小判平12.10.20)
株主会員制のゴルフクラブではありますが、当該ゴルフクラブが権利能力なき社団に当たるとした上で、構成員の資格要件に関する改正決議が、規約において定められていた手続に従い、総会での多数決により改正されたものであって、同改正規定は、特段の事情がない限り、決議について承諾をしていない構成員を含めすべての構成員に適用されるものと解すべきものと判示しました。
預託金会員制で初めて社団性を認めた判例(最二小判平14.6.7)
X(ゴルフクラブ)は、預託金会員制の本件ゴルフ場の会員によって組織された団体であり、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、規約により代表の方法、総会の運営等が定められているものと認められる。財産的側面についても、…対外的にも活動するのに必要な収入の仕組みが確保され、かつ、規約に基づいて収支を管理する体制も備わっている…民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たる、と判示しました。
ゴルフクラブの社団性が肯定されたら、どうなるか?
預託金会員制のゴルフクラブが権利能力なき社団に該当する場合には、法律関係が契約法理ではなく、団体法理(多数決)により処理されることになります。
そうなりますと、預託金の据置期間の延長、預託金の追加差入れ、会員の資格要件の変更、それに伴う会員資格のはく奪などを、総会や理事会の決議で決定した場合にも、すでに入会していた者を含め、原則として個々の会員にも効力が及ぶ可能性があります。
ゴルフクラブに社団性は認められるか?
上記の平成12年判例は、株主制会員制ゴルフクラブであり、先例的価値は高くありません。
次の平成14年判例は、ゴルフクラブがゴルフ場経営会社に対して、経理内容調査権に基づいて各書類の謄本の交付を請求した事案でした。
この事案でゴルフクラブの当事者性を認めなければ、ゴルフクラブが経理内容調査権を訴訟によって実現する途は絶たれてしまいました。
確かに、預託金制ゴルフクラブの社団性を肯定したものですが、このような特殊性が大きく評価された点は看過できません。
3 その後の裁判例(名古屋高判平21.9.10)
判旨
本件ゴルフクラブの理事会を構成する理事の過半数(約3分の2)がゴルフ場経営会社である被控訴人の役員により占められ、被控訴人(ゴルフ場経営会社)の意向が本件ゴルフクラブに直接的に反映される仕組みになっていること、本件ゴルフクラブの入会保証金や諸負担金がすべてゴルフ場経営会社である被控訴人に支払われること、本件ゴルフクラブにおいては、固有の資産を有しないのみならず、会則上、団体として内部的に運営し、対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保されておらず、会則に基づいてその収支を管理する体制も備わっていないこと等からすれば、本件ゴルフクラブは、ゴルフ場経営会社の業務を代行しているにすぎず、独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有しないものと認めるのが相当である、と判示しました。
同裁判例の特徴
この裁判例は、前述しました平成14年の最高裁判決に沿って検討を加えたうえで、本件ゴルフクラブの社団性を否定しています。
そのうえで、預託金返還時期を延期する旨の会則の改正と会員に対する効力の有無について、「個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできないものと解すべき」と判示した最高裁判例(最一小判昭61.9.11)の考え方に沿って検討を加え、預託金の返還方法について、個別的に合意がされたとすることはできないと結論を出しました。
4 検討と現状
平成14年判例が、特殊な事案であったこともあり、現在においても、基本的には昭和61年判例(預託金返還時期を延期する旨の会則の改正と会員に対する効力の有無について、「個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできないものと解すべき」と判示)がリーディングケースといえます。
そのため、預託金返還時期を延期することに同意をする書面を書いたり、抽選による返還に同意するなどの書面を提出していなければ、基本的にはゴルフ場の主張には正当性がないといえます。
ゴルフ場から、「ゴルフクラブの理事会決議によって返還時期を延期しております」などと言われても、ほとんどの場合で、法律的には正当性がありません。
そうすると、個別的な同意書面に署名しないことが大切ですね。
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ゴルフ場経営会社があり、ゴルフクラブがあり、さらには経営が譲渡されているケースもあったり、登場人物の関係性がよく分からないことも多いです。
ただ、ゴルフ場経営会社が、民事再生などの法的手続を採っていない場合には、返還を受けられる可能性が高いので、ぜひゴルフ場の預託金問題に詳しい弁護士にご相談ください。
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