裁判所の判決

多業態型レストランチェーンを経営する被告(日本レストランシステム社)で、戦略本部の課長職であった原告の管理監督者性が否定され、割増賃金の支払いが認められた事件です。

被告の戦略本部は、会長兼社長の組織としてビジネスモデルの構築、新業態・新メニューの開発等を主に行う部署で、担当役員が1名、課長職として原告、そのほかにマネージャー職が1~2名で構成され、原告は「□□」ブランドをを担当し、□□ブランド13店舗の運営を行う戦略営業部の責任者でした。

本判決は、管理監督者の該当性の基本的な枠組みに従って判断を下していますが、慢性的な人員不足のために、店舗業務にも追われた点が結論に影響した点は否めません。

労働トラブルのご相談など、
お気軽にご連絡ください。

全国対応

Zoom、Teams、
Google Meet等にて

相談料

1時間
11,000

(税込)

詳細は🔗顧問弁護士の推奨する活用法をご覧ください。

第1 事案の概要 ~ 東京地裁令和5年3月3日判決

1 雇用契約の内容

平成20年3月入社以降(無期雇用契約)、1~2年ごとに昇格し、平成23年4月1日には新業態・新メニューの開発等を業務とする戦略本部の配属となり、平成29年4月1日には戦略本部所属の課長B職に昇進した。

本件の未払残業代請求期間である平成30年9月16日から令和2年7月7日までの期間(以下「本件請求期間」という。)において、被告との間で、次の労働条件で勤務していた。
ア 賃金
  基本給   18万円
  職務手当  19万円
  役職手当   5万円
イ 賃金支払方法
  賃金締切日  当月15日
  賃金支払日  毎月25日 
ウ 勤務時間、就業日数、公休日
 (所定労働時間) 
 始業午前9時、終業午後6時、休憩1時間
 (所定就業日数)
 5月、6月、8月~11月、1月、2月及び4月は23日。
 7月、12月、3月(うるう年)は22日。
 3月は21日。
 (公休日)
 5月度、10月度、3月度(うるう年も含む)は7日。
 6月度~9月度、11月度~2月度及び4月度は8日。
エ 業務内容
  新業態の開発、新メニューの開発、
  店舗管理及びホール業務(注文受け、配膳、会計等)等

2 争点

  • 管理監督者該当性
  • 割増賃金の単価等
  • 管理監督者性が否定された場合の店長の規定の適用又は準用
  • 職務手当等に1か月30時間分の深夜勤務手当等が含まれるか否か
  • 休日勤務特別手当が時間外勤務手当、休日出勤手当の既払い金として控除されるか

3 結論(判決)の要旨

原告の管理監督者該当性を否定した上で、割増賃金の算定基礎賃金を月額42万円(基本給18万円、職務手当19万円、役職手当5万円の合計)と認定し、未払残業代として860万円、付加金として649万7417円の支払いを命じました。

第2 判決の内容

1 管理監督者該当性

判断基準

被告は、原告が労基法41条2号の管理監督者に該当する旨主張するところ、同号の管理監督者が、時間外手当等の支給の対象外とされるのは、当該労働者が経営者と一体的な立場にあり、重要な職務と責任を有しているために、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて労働することが要請されるという経営上の必要とともに、当該労働者は出退勤などの自己の勤務時間についてある程度自由裁量を働かし得るため、厳格な労働時間規制をしなくても保護に欠けるところがないことが理由であるとされる。

したがって、当該労働者が管理監督者に該当するというためには、その業務の態様、与えられた権限・責任、労働時間に対する裁量、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるような立場であるかが検討されるべきである。

本件における具体的検討(あてはめ)

ア 業務の態様、権限、責任

前記認定事実に照らすと、原告は、被告における最重要部門である戦略本部において、「□□」ブランドの事業経営について、D会長から示されたアイデアや大枠をもとに、企画内容、出店場所、メニューリスト、価格やコスト等について案を作成し、D会長とC常務とともに三者や話合いをして調整し、D会長の承認後はC常務とともに実行フェーズに移すという業務を遂行していたほか、戦略営業部の責任者として、「□□」13店舗を統括していたのであって、これらの業務が被告にとって経営上非常に重要なものであることは否定できない。

もっとも、戦略本部における上記の経営企画業務は、あくまでD会長の考えを具体化する作業というべきであって、原告にある程度の裁量や権限があったことは認められるが、最終的にはD会長が重要な経営事項を決定していたものと認められる。

また、原告は、「□□」の各店舗の社員の一次評価を行ったり、各店舗のアルバイトを採用する権限を有していたものの、アルバイトの解雇や社員の採用・解雇等の権限はなく、その人事権限は限定的なものであった。

さらに、本件請求期間においては、「□□」の新規店舗の急拡大により人員が慢性的に不足し、原告は戦略本部における経営企画業務よりも、シフト表作成、社員・アルバイトの指導・教育、開店作業、キッチン業務、ホール業務、閉店作業等の店舗業務に追われることとなり、戦略本部の意思を実現するために経営側として従業員に指揮命令するというよりは、指揮命令される側である従業員側の労務が中心になっていたと認められる。

以上を踏まえると、本件請求期間においては、会社の経営全体における原告の影響力は低くなっており、その権限・責任も限定的であったと評価するのが相当である。

イ 労働時間に対する裁量

前記認定事実のとおり、原告は、タイムカードによって労働時間を管理されていた。

また、原告は、「□□」各店舗の従業員のシフト表を作成する権限を有していたが、各店舗の開店・閉店時間についての裁量はなかった。

本件請求期間においては、「□□」各店舗の人員が慢性的に不足していたため、原告は各店舗に出勤して店舗業務を行わなければならず、結果的にほとんどの月で月100時間を超える時間外等労働を余儀なくされていた。

以上を踏まえると、本件請求期間において、労働時間が原告の自由裁量に任されていたとは認められない。

ウ 待遇

前記認定のとおり、被告における原告の年収は、平成30年度は上位16番目、令和元年度は上位23番目に位置しており、被告における労働者の最高位である部長に次ぐ待遇を受けていたものである。

もっとも、原告は本件請求期間において月に100時間を超える時間外等労働を余儀なくされていたところ、これに見合う手当や賞与が支払われていたとは言い難い。

すなわち、非管理監督者である店長職の給与(最上位の店長は月額33万円。甲2の別紙1参照。)と比較すると、最上位の店長が月100時間の時間外等労働を行った場合には、45時間分の固定残業代が有効だとしても、割増賃金が相当程度発生するため、原告の月額42万円の給与を優に超えることになるのである。そうであれば、原告が非管理監督者と比べて厚遇されているとはいえない。

以上によれば、原告の月額42万円という給与額及び700万円程度の年収額は、労働時間等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ないといえるほどに優遇されているとまではいえない。

以上のように、原告は、被告においてある程度重要な職責を有していたものの、本件請求期間においては、実質的に経営者と一体となって経営に参画していたとまではいえず、労働時間に関する裁量を有していたともいえないし、待遇面でも十分なものがあったとはいえない。

したがって、原告が管理監督者の地位にあったということはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠は存しない。

2 割増賃金の単価等

職務手当及び役職手当は、その名称に加え、被告内での役職に応じて支給される金額が異なり、高位の者ほど支給金額が大きくなることが認められるから、職責の重さに応じて支給される性質の手当であるとみられ、割増賃金としての支払の性質を有しているとは評価し難い。

原告の割増賃金の算定の基礎となる月額賃金は、基本給18万円、職務手当19万円、役職手当5万円の合計42万円と認めるのが相当である。

3 管理監督者性が否定された場合の店長の規定の適用又は準用

そもそも原告は店長ではない上、被告が原告に対して、店長A職に関する規定の適用又は準用があり得る旨の説明をしたことはうかがわれず、原告と被告との間に、そのような複雑な条文理解や操作を含んだ就業規則、給与規程についての合意があったとはいえない。

4 職務手当等に1か月30時間分の深夜勤務手当等が含まれるか否か

職務手当等が深夜労働に対する割増賃金の対価としての実質を有しているものとは解し難い。

そして、割増賃金をあらかじめある手当に含める方法で支払う場合においては、労働契約における当該手当の定めにつき、割増賃金に当たる部分とその他の部分を判別できることが必要であると解されるところ(いわゆる明確区分性の要件)、本件においては、職務手当内において割増賃金たる深夜勤務手当の部分とその他の部分との区分ができないこととなり、結局、いわゆる明確区分性の要件に抵触する。

5 休日勤務特別手当が時間外勤務手当、休日出勤手当の既払い金として控除されるか

被告においては、マネージャーB職以上課長までの者が休日に勤務した場合、1日当たり7000円の休日勤務特別手当(公出手当)が支払われる(給与規程21条)。

これは、時間外勤務及び休日勤務の対価としての性質を有することは明らかであるから、割増賃金に対する既払い金として控除すべきである。

第3 コメント

弁護士 岩崎孝太郎

原告は令和2年7月7日まで出勤し、8月に退職していますが、2月に「日レスが現状抱える問題点と改善案」と題するD会長宛の書面を作成し、被告に提出していました。

内容は、長時間労働と慢性的な人員不足により、営業部全体が疲弊しきっていること、若手がワークライフバランスを崩しモチベーションを低下させていることなどを記載していました。

さらに原告は、6月にC常務に対して「□□」の店舗の人員が不足し、社員の長時間労働が続いて体調を崩す者も出ており、原告自身も激務と長時間労働により体力的に限界である旨を訴えましたが、被告より具体的な対策をとってもらえなかったことから、退職に至っています。

法律的な問題として、慢性的な人員不足により管理監督者として位置付けた労働者が少なくない実作業労働に従事することが多くなると、権限や労働時間に関する裁量の部分で管理監督者性が認められづらいものとなります。

また、人員不足の会社において、原告のように高く評価している人材を失うことの損失は計り知れないものがあります。

未払残業代の問題にとどまらず、被告が抱えている労務管理そのものの問題を浮き彫りにした事件であり、経営面を含めた見直しが迫られます。

労働トラブルのご相談など、
お気軽にご連絡ください。

全国対応

Zoom、Teams、
Google Meet等にて

相談料

1時間
11,000

(税込)

詳細は🔗顧問弁護士の推奨する活用法をご覧ください。