繁華街は、日常を忘れさせる楽しみがある一方、法令順守が遅れています。
法令を守って営業するお店がある一方、そうでないお店が業界の評判、イメージを悪くしています。

経営者にとって、特にコロナ禍で厳しい視線を注がれた業界でもあり、少しでも経費を下げて店舗を維持することに目が行きがちです。
しかし、働く人それぞれに人生があり、生活があります。

不当な人権侵害が行われることがないように、そして、
正しく法律の在り方が広まってくれることを期待し、繁華街における労働トラブルの裁判例を紹介していきます。

第1 ホストクラブの裁判例

1 ホストは「労働者」か「自営業者」か?①(東京地方裁判所平成27年7月14日判決)

歌舞伎町のホストが、働いていたお店に対して未払賃金(給料)があるとして訴えたのが本件です。

ホストとお店に雇用契約が成立していれば、ホストは「労働者」に該当し、お店はホストに対し、労基法が定める最低限の賃金を支払わなければいけません
これに対し、「労働者」(雇用契約)ではなく、「自営業者」とすれば、お店にこのような支払義務が存在しません。また、支払から控除できる費目も変わります

これから紹介する裁判例は、結論が分かれています。
そのため、ホストが「労働者」か「自営業者」かは、一般化することはできず、個々の就労形態によって判断されるものだと考えています。

事案の概要

原告(ホスト)は、平成24年12月から平成25年5月29日まで、被告が営業するホストクラブにて就労していました。
しかし、原告は被告より解雇されたため、未払賃金(他に不当解雇を理由として損害賠償)を請求しました。

未払賃金として請求する中には、売掛先の未回収や旅行積立金として控除されたものの支払を求めています。

 【争点】
①原告(ホスト)と、ホストクラブを営業する被告との間に雇用契約が成立しているか?要は「労働者」か「自営業者」か?
②売掛先の未回収、旅行積立金の控除は適法か?

【判決の要旨】
①について
 「原告は本件クラブ側から指示された接客を断ったことがないこと、接客の中には自己の指名客だけでなく、いわゆるヘルプとして他のホストが対応している席での接客業務が含まれていたこと、本件クラブにはタイムカード機が設置されており、原告は出勤時間と退勤時間を打刻し、被告は原告に遅刻による罰金を科していること、被告は原告の給与から所得税を控除していることが認められ、以上の諸事実からすると、被告への労務提供全般にわたり、原告が被告から指揮監督を受ける関係にあったと認められ、本件契約は労働契約であると認められる
 この点につき、被告は、ホストは各々が完全歩合制の個人事業主である旨主張する。しかし、被告が同主張に関して種々指摘する事情は、いずれも上記認定事実と前提を異にするか、あるいは、上記認定事実から本件契約が労働契約であることを推認させることを妨げるものとはいえないものであり、同主張は採用できない。」
 → 未払賃金・違法解雇を認定しました。

②について
 「預り金(会費)は、社員旅行の積立金であるところ、原告は社員旅行に行っていないため、また、同じく控除されている未入金のマイナスは、売掛金の未回収を理由とするものであるところ、以下のとおり、公序良俗に反する合意を前提とするものであるため、いずれも控除されるべきでない。
 この点につき、被告は、原告への給与不払は客からの売掛金の未回収が理由である旨主張する。しかし、仮に、本件契約に被告主張に沿う合意が含まれているとしても、このような合意は、本来事業者である被告が負担すべき客への債権不回収の危険を従業員である原告に負担させることに外ならず、これに本件クラブにおいては客をつけで飲食させるか否かの判断を原告ではなく店側が行うものであることも考慮すれば、公序良俗に反し、無効というべきである。」

2 ホストは「労働者」か「自営業者」か?②(東京地方裁判所平成28年3月25日判決)

事案の概要

 原告(ホスト)は、平成16年頃から平成26年頃まで被告店舗(お店)で働きました。

 原告は、お店と雇用契約を締結し、基本給は各月の売上に応じて決定されていましたが、売上の少なかったホストは午後5時に出勤し、被告(お店)の指示により、おしぼりの用意やお店の掃除等をし、タイムカードによる勤務時間管理がなされていたこと、最低賃金額に満たない給与しか受け取っていないとして、未払賃金を請求しました。

 これに対して、被告(お店)は、各ホストは、お店という場所を一定のルールで利用しながら、技術・経験に基づいて女性の接客をする自営業者であると反論しました。

【争点】
原告(ホスト)は、「労働者」か「自営業者」か?

【判決の要旨】
 ①ホストの収入は、報酬並びに指名料及びヘルプの手当てで構成されますが、どれも売上に応じて決定されるものであり、勤務時間との関連性は薄いこと、②出勤時間はあるものの、客の都合が優先され、時間的拘束が強いとはいえないこと、③ホストは必要な衣装等を自腹で準備していること、④ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしていること、⑤ミーティングは月1回行われているが、報告が主たるもので、ホストはお店から指揮命令を受ける関係にあるとは言えず、ホストはお店とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を上げるもので、お店との一定のルールで、お店という場所を利用して接客し、その対価をお店から受け取るにすぎない、として、ホストは「自営業者」と認めるのが相当と判断しました。

コメント

これら判決においては直接触れられてはいませんが、労働者と自営業者の区別として、報酬の算定・支払方法、時間的・場所的拘束性、機械・器具の負担、報酬の額等に現れる事業者性、仕事の依頼への諾否の自由、業務遂行上の指揮監督に関する各事情という一般的な判断要素を基にして判断しています。

結論において、「労働者」と認定するもの、「自営業者」と認定するものを紹介しました。
この2つの事例で結論が割れているように、あくまでも事案ごとの判断になっていくものと考えられます。

3 ホストの業務委託料と顧客の引き抜き(東京地方裁判所令和2年11月18日判決)

事案の概要

ホストクラブで稼働していた原告が、同クラブの経営者から雇われて、お店のスタッフを監督する立場にいる上司(被告)に対し、業務委託契約に基づき未払報酬を求めました。

これに対し、被告は、原告が同クラブを退職後、別店舗でホストとして働きながら、同クラブの複数名の常連客を不当に引き抜いたとして、常連客による1年分の売上を請求しました。

【争点】
①業務委託料は、売上の60%となっているが、tax等込みの売上金額か、tax除く(要は売上金額を1.42で割った金額)の60%か?
②原告は、不当な引抜行為を行ったか?

【判決の要旨】
①について
 ホストと同クラブとは、当月の売上を1.42で割った金額の60%相当額から、源泉徴収税額と前払額を控除した額を支給するとの合意が成立していると認定しました。
②について
 原告が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で同クラブの顧客を奪取した事実は認定できないと判断しました。

コメント

キャバクラの箇所でも説明しますが、顧客の引き抜き等について、賠償義務を負うケースは例外的な場合に限られます。

沢山ある顧客名簿を持ち出して、その名簿に営業活動を仕掛ける場合とは異なり、当該ホストを指名する客が移籍に伴ってお店を離れるのは、ある意味当然であり、不当な引き抜きとは言えません。

第2 キャバクラの裁判例

1 キャバクラ嬢の給与控除、その控除は適法か?(東京地方裁判所平成30年3月2日判決)

事案の概要

原告(従業員)が、就労していたキャバクラ店に未払給与を請求しました。
これに対して、被告(お店)は、原告が本件店舗に勤務する他のスタッフに対して暴言や侮辱を繰り返したり、本件店舗の客に対して暴言を吐くなどして、本件店舗に多大な損害を与えたため、原告の出勤状況の悪さから時給の減額を行い、各種控除すると未払給与はないと反論しました。
また、被告(お店)は、原告と交わした業務委託書を提出し、各種控除や時給の減額の正当性を主張しました。

【争点】
①原告の給与から控除している費目は、適法か?
②勤務態度が悪い場合や退店した場合に時給が減額される旨の合意は適法か?

【判決の要旨】
①給与から控除される費目の適法性
労働基準法24条1項本文が定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨は,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済的生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものと解され(最高裁昭和63年(オ)第4号平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁参照),同項ただし書に該当する場合でなければ,名目の如何を問わず,賃金からの控除をすることは認められない。そして,被告らが原告の給与から控除したと主張する費目のうち厚生費ヘアメイク料送迎代ドレス代名刺代及び罰金について,労働基準法24条1項ただし書に該当することを認めるに足りる証拠はないから,これらの控除は,賃金全額払の原則に反し,認められない
 また,上記の点に加え,賠償予定を禁止する労働基準法16条の規定からすれば,被告らが原告の給与から控除したと主張する費目のうち,罰金については,同規定にも違反するから控除は認められない
 さらに,源泉徴収については,所得税法に定めがあるから控除が許されることとなるものの,本件では,被告会社が原告に対して源泉徴収票を交付した事実を認めるに足りる証拠はなく,また,被告会社が源泉徴収した原告にかかる所得税を納税したことを認めるに足りる証拠もない。そうすると,被告会社が源泉徴収との費目で原告の平成28年7月分の給与から控除した金員が真実源泉所得税として控除されたものであると認めることはできない。したがって,本件においては,源泉徴収名目で控除された3万1563円についても,賃金全額払の原則に反するから控除は認められない。」

②時給を減額する旨の合意は存在するか?
「原告と被告会社との間で,本件契約締結の際,原告の勤務態度に問題がある場合には時給を1800円とする旨の合意や業績バックを不支給とする旨の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。むしろ,上記1(1)オの認定事実のとおり,被告会社が作成している本件店舗におけるキャストの給料に関するシステムを一覧することができる一覧表には,欠勤,遅刻の場合の罰金に関する記載があるにも関わらず,勤務態度等に問題がある場合や,事前の予告なしに本件店舗を退店した場合等に時給が減額される旨や業績バックを不支給とする旨の記載がないことからすれば,被告らが原告に対してこれらの説明を行っていないものと認めるのが相当である。被告らは,被告らの主張を裏付ける証拠として業務委託契約書(乙1)を提出するが,同書面の記載内容は,上記1(1)アの認定事実によって認められる被告会社が本件店舗の求人広告として掲載している内容と整合せず,かつ,被告会社が作成している上記一覧表の記載とも整合しない部分があるから,同書面の記載内容を本件契約の合意内容の認定に用いることはできないというべきである。」

コメント1

水商売の常識(慣習と言うべきか?)と、法律の規定が衝突する場面は多いように見受けられます。
給与から控除されることが許されるのは、労働基準法24条1項但書に記載されている内容のみです。以下に内容を記載します。
1 法令により別段の定めがある場合
 (1)所得税(所得税法)
 (2)社会保険料(厚生年金保険法、健康保険法等)
 (3)労働保険料(労働保険徴収法) など
2 裁判所からの仮差押え、差押え等の法的手続きがなされた場合 
3 労使協定を結んだ場合(労働者の過半数が加入している労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で賃金控除協定を締結した場合) 
 (1)物品等の購入代金
 (2)社宅・寮その他の福利厚生施設の利用代金
 (3)住宅等融資返済金
 (4)財形貯蓄金(勤労者財産形成促進法に基づき、事業主が労働者に代わって金融機関等へ払込むことができる)
 (5)組合費  など
  なお、労使協定を結んだ場合でも、実際に賃金から控除するためには、労使協定に加えて対象となる労働者からの同意を得る、または就業規則等に根拠規定を設ける必要があります。 

わざわざコメントする必要性すら乏しいですが、源泉徴収の名目で給与から控除しながら、実際にはお店が納税していない場合、立派な犯罪(詐欺罪、横領罪など)に該当します。

コメント2

キャバクラ店が、経営する飲食店で勤務したキャストに支給した業務の対価は所得税法28条1項に規定する給与等には該当しないとして、行政処分の取消しを求めた判決が2020年(令和2年)9月1日に東京地方裁判所でありました。
この裁判において、キャストへの支給額は、法28条1項に規定する給与等に該当するとの判決が出ています

キャバクラ店等の風俗営業においても、店舗経営者が接客担当者を個人事業主として扱い、雇用契約ではなく請負契約や業務委託契約を締結する形式が取られる場合があります。雇用契約かどうかは、前述のホストクラブの裁判例と同様に、その実質(就労態様)によって判断されますが、この裁判例は雇用契約であることを支える大きな事例になると考えます。

2 キャバ嬢の交際(恋愛)禁止の同意書違反は、損害賠償義務を負うか?(大阪地方裁判所令和2年10月19日判決)

事案の概要

 原告は、ガールズバーやキャバクラを経営する有限会社である。原告の主張によると、その事業内容の中心が男女間の接待であることから、従業員が私的交際を行うと担当する客が離れてしまい、1日あたり3~5万円の損失が発生し、当該店舗の風評被害が生じ、当該従業員の友人も退職せざるを得なくなるなどの被害が予想されることから、全従業員に対し、私的交際の禁止とそれに違反した場合の違約金200万円の支払を内容とする同意書を書かせていました

 被告(女性キャスト)は、本件同意書に違反し、クラブの男性従業員と交際を開始しましたが、男性従業員と同居して互いにその他の者と交際しないように常時監督することを誓約し、4項目の約束をする始末書を提出し、違約金の徴収が猶予されていました。
4項目とは、①交際の事実は他言しない、②給与の支払いを3カ月間停止することを承諾する、③日常生活における男性従業員の動向など、細かなことを店舗へ相談する、④原告の店舗のあるA市、B市を2人で連れ立って、立ち歩かないという内容でした。

 ところが、被告は、クラブの他の従業員に交際の事実を相談しており、従業員に動揺が広がったこと、男性従業員の動向(金遣いが荒く店舗の名前を使ってサラ金等で借金していたことや朝帰りなど)について店舗への相談もないこと、2人でA市やB市に出歩いており客に目撃されていること等を原告は主張しました。
 また、この交際によって被告を他店舗へ異動させたことで、被告が就労していた店舗の売上が落ちたのみならず、他の従業員や客への説明、系列店内の顧客管理の調整等のために過分な業務が必要になり、営業に集中できず、原告が経営するグループ店舗全体として売上が下がったことを主張しました。

 そのため、原告は被告に対し、違約金200万円に、売上減少を生じさせた不法行為として、100万円の合計300万円の損害が生じたとして請求しました。

【争点】
①違約金200万円を支払う合意は、労働基準法16条(違約金や賠償を定めることの禁止)に違反し無効となるか?
②違約金200万円を支払う合意は、公序良俗に反し無効となるか?

【判決の要旨】
 判決は、次のように述べて、①・②共に、違反し無効となり、被告(女性キャスト)は支払い義務を負わないとしました。

 本件同意書は,使用者である原告が被用者である被告(女性キャスト)に対して私的交際を禁止し、これに違反した場合には違約金200万円を請求し、被告はこれを支払う旨合意するものであるところ、これは労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりすることを禁じた労働基準法16条違反しており、無効である。
 また、人が交際するかどうか、誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって、その人の意思が最大限尊重されなければならないところ、本件同意書は、禁止する交際について交際相手以外に限定する文言を置いておらず真摯な交際までも禁止対象に含んでいることや、その私的交際に対して200万円もの高額な違約金を定めている点において、被用者の自由ないし意思に対する介入が著しいといえるから、公序良俗に反し、無効というべきである。
 よって、本件同意書は無効であるから、被告がこれに違反して原告の従業員であるCと交際しても、債務不履行とはならない

 違約金の定めをもって被告の私的交際を禁止した本件同意書は無効であって、被告がC(クラブの男性従業員)と交際することは本来的に自由である。そして、被告の男性従業員との交際について、男女間の愛情から生じたものでなく原告に対して財産的損害を与える目的で行われたといった特段の事情はうかがえないから、被告に不法行為上の違法は存しない。

コメント

交際禁止をめぐる紛争について、①東京地方裁判所平成27年9月18日判決(芸能プロダクションが、専属契約をした女性アイドルが男性ファンとの交際を禁止した専属契約に違反したとして損害賠償をした事案)は、交際禁止条項を有効として請求を認めました。
これに対し、②東京地方裁判所平成28年1月18日判決は、交際禁止条項について、所属アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に損害賠償を請求することは、異性との合意に基づく交際は自己決定権そのものであり、本来妨げられることのない自由を著しく制約するものとして、芸能プロダクションの請求を棄却しました。

芸能プロダクションと社交飲食店(キャバクラ店)とは、業態・職業、当事者の契約内容、交際禁止の規定内容など、異なる点は多く同列に議論はできませんが、男女の交際禁止について法的保護が与えられるのかどうか、という点で共通しますので参考になると思います。

ただ、キャバクラ店において、他の従業員や客との交際禁止を課し、これに違反した場合に違約金を徴収する旨の誓約書を書かせるお店は多くあるようですが、違反したことで法律的に賠償義務を負う場合は、ほとんどないと考えます

3 退職後の競業避止義務について(東京地方裁判所平成30年3月22日判決)

事案の概要

西麻布で会員制ラウンジ(女性が男性を接待するキャバクラ類似形態)を経営する原告が、退職する被告(女性従業員)に対し、退職時に取り交わした誓約書(退職後6カ月間は競業しない、在職中に知り得た顧客に1年間は連絡しないなどが記載されている)に違反し、恵比寿で個室カラオケにて就労し顧客情報を利用している競業行為に及んでいるとして、契約違反による損害賠償を求めました。

【争点】
・被告は競業行為を行い、損害賠償義務を負うか?

【判決の要旨】
恵比寿の個室カラオケについて、「女性が来店した客を接待して客と飲食するという営業形態を採っていることを認めるに足りる証拠はない。」、「原告の顧客情報を利用して原告の顧客を店舗等に誘因する営業を行ったりしていたことを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。」
 → 競業行為について、認めませんでした。
   そのため、この誓約書の有効性等についての判断をする前に、原告の請求を棄却しました。

コメント

本件では、競業避止義務を定めた誓約書の有効性判断までには至りませんでした。

一般に、退職後の競業避止義務が有効となる場合は、明確な合意があることを前提に、合意内容が合理的な場合に限り有効となります。退職した従業員には、職業選択の自由が保障されており、これを制限することになりますので、有効になる「合理的な場合」は容易には認められません。
具体的には、事案ごとの事情に応じた判断になりますが、対象となる競業行為の内容、地理的範囲、期間などが合理的な範囲内にとどまっているか、当該従業員の社内での地位、代償措置の有無などが検討される要素になります。

私見ですが、本件は、退職時に誓約書を書かせていますが、一方的な義務だけを押し付ける場合(代償措置が何も採られていない)には、仮に競合行為に該当すると認定されたとしても、賠償責任は否定されたのではないかと考えています。

4 女性従業員が妊娠した事実を伝えたところ即時解雇された事例(大阪地方裁判所平成29年7月28日)

事案の概要

被告(店舗)が経営するキャバクラ店舗の従業員として雇用された原告が、被告代表者に自身の妊娠の事実を報告したところ、堕胎を求められ、お店の了解を得ている出勤見合わせ中、出産をするつもりであることなどを伝えたところ、即時解雇の通告を受け、未払賃金と解雇予告手当及び賦課金の請求をしました。

【争点】
・被告(店舗)が欠席裁判となったため、なし。

【判決】
 欠席裁判により全額認容。

コメント

さすがに争う余地なしと判断したか、もしくは支払意思がないために欠席したのか、詳細な事情は不明ですが、現代においても俄かには信じ難い事件が発生しています。

第3 風俗店の裁判例 ~ 公序良俗違反(東京地方裁判所平成17年11月30日判決)

事案の概要

吉原のソープ嬢として働くにあたり、就労予定の女性ら(被告ら)がホストクラブへの返済資金に充てる目的で、お店(原告)からソープ嬢として稼働する期間の給料の前借りをしました。
借りたお金は、お金を手渡した現場に同席していたホストが返済として持ち帰っています。

被告らが、原告店舗内の客用個室に泊まり込んで就労していたわずか数日の時に、原告店舗が警察による強制捜査を受けたため、同店舗を出ていました。

【争点】
・本件の消費貸借契約(貸したお金)は、売春防止法9条(前貸し等の禁止)に違反し、公序良俗に反して無効になるか?

【判決の要旨】
「原告では,ソープランドの経営に当たり,面識のないソープ嬢を雇用して前貸しをする場合には,当分の間,本件店舗内の客用個室に宿泊させ,無断の外出,外泊を禁止して,ソープ嬢の稼働を確保し,前貸し金の返済が未了のうちに逃亡されることがないようにしていたこと,そして,被告らも,それぞれ,原告から,同旨の説明を受けた上で,平成15年11月2日以降,ソープ嬢として雇用された上,本件店舗内の客用個室に泊まり込み,同月4日から6日までの間,同店舗において,売春を行ったことが認められる。
 この認定事実とこれまでに判示した事実を総合して考えると,原告は,被告らをソープ嬢として雇用するに当たり,被告らの強い要望に応じたものであったとはいえ,被告らに対する前貸し金の返済を確保するため,被告らを自己の管理下に置いた上で継続的に客との間で売春をさせ,これによって自ら利益を上げるとともに,前貸し金についても,被告らに対して支払う給料によって返済を受けることを企図したものと認められる。
 いうまでもなく,売春は,人としての尊厳を害し,性道徳に反し,社会の善良風俗をみだすものであるから,売春を助長することになるような金員の前貸しは,売春防止法9条において刑罰をもって禁止されているところである
 本件消費貸借契約は,前記のとおり,ソープ嬢としての雇用に当たっての前貸しとして締結されたものであり,その返済は,被告らが原告の管理下においてソープ嬢として売春を継続して行うことによってされることが予定されていたものであるから,そのような趣旨,目的のもとに,売春によって得た収入をもって返済がされることを前提として締結された本件消費貸借契約は,売春の助長につながり,公序良俗に違反するといわなければならない。
 たしかに,本件において,被告らは,自己の遊興費の返済に窮した結果,原告から前借りを受ける一方で,ソープ嬢として稼働し,その収入をもって返済すること自体については,自ら納得して決めたものであり,この前借りによって,ホストクラブに対する返済債務を免れたことは,原告の指摘するとおりであり,そのほか,本件消費貸借契約が無利息であったことなどからすれば,被告らにとっては,ソープ嬢として稼働することに伴って経済的な損失を被ることはなかったといえるものの,やはり,前記のような事情のもとで締結された本件消費貸借契約は,返済が終了するまでの間において,原告の管理下での売春を余儀なくするものであり,その間における被告らの性的自由を侵害し,束縛するものであるから,公序良俗に違反し,無効であるというほかない。」

コメント

17年前の裁判例ではありますが、お江戸の遊廓の頃を彷彿させます。
結論は当然ですが、就労開始から当分の間、お店に宿泊させ、無断の外出・外泊が禁止されていたようです。
監禁罪、強要罪が成立し得る犯罪行為です。

 🔗風テラスなど、支援団体がありますので、お気軽に相談だけでも連絡をしていただきたいと思います。

第4 繁華街と法律

なかなか裁判等にまでならないために、非合法的な慣習が横行し続けることを危惧しています。

誰もが安心して楽しめる、安心して働ける街になることを願っています。

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