Q
債務者が所有する車を差押えようと考えています。
自動車に対する強制執行手続の方法、流れを教えてください。
A
自動車に対する差押・強制執行手続は、以下の流れで進められます。
自動車強制執行の申立て
自動車登録ファイルに登録された使用の本拠の位置を管轄する地方裁判所に、強制競売の申立てをします。
申立費用として4,000円、手続のための予納金として10万円が必要になります。
裁判所による競売開始決定
開始決定では、2つの命令が出されます。
- 債権者のために自動車を差押える旨を命じます。
- 債務者に対し、自動車を執行官に引き渡すべき旨を命じます。
そして、裁判所書記官は、直ちに運輸管理部長又は運輸支局長に対し、差押えの登録の嘱託をします。
差押えの登録にあたり、登録免許税は不要です。
開始決定は、債権者及び債務者に告知されます。
債務者に対する通知は、執行妨害を防止するために、執行官から自動車の引渡執行が完了したことの届出がされた後に送達されます。
自動車の引渡命令
自動車引渡命令を受けた執行官は、債務者の占有を取り上げて、執行官、もしくは債権者、債務者の管理の下で保管します。
この場合、執行官は公示書を貼るなどして執行官の占有に係る旨を表示し、運行を許可する場合を除き、運行させないための適当な措置を採ります。
自動車の評価
執行裁判所により選任された評価人が評価します。
実務では、財団法人日本自動車査定協会所属の査定員を評価人として選任しています。
売却手続
売却方法として、期日入札、競り売り、特別売却(期日入札又は競り売り以外の方法)により売却を行います。
東京地裁では、期日入札以外の方法で売却手続を進めます。
また、いわゆる「自動車譲渡命令」として、債権者が売却基準価額にて買取りもできます。
手続の完了(代金納付、所有権移転等の登録嘱託、配当)
執行裁判所は、売却許可決定が確定したときは、代金を納付させて配当等を実施します。
代金が納付された時は、裁判所書記官は、運輸管理部長又は運輸支局長に対し所有権移転の登録及び差押えの登録の抹消の嘱託を行います。
代金を納付した買受人は、執行裁判所からその旨の証明書の交付を受けて、執行官に提出し、執行官より引渡しを受けます。
第1 自動車執行にあたっての準備など
1 自動車に対する差押、強制執行手続とは?
自動車は、車両そのものに着目すれば「動産」ですが、登録制度があるため、自動車に対する差押・強制執行手続は、不動産強制競売の手続が準用されるなど、独特の手続といえます。
執行法としては、不動産でも債権でも動産でもなく、「その他財産権」に分類され、民事執行規則に「自動車に対する執行」(同規則第4款、86条以下)に規定があります。
2 自動車執行の対象となる自動車とは?
自動車執行の対象となる自動車は、道路運送車両法13条1項に規定する登録自動車が対象となります。
単純にいえば、登録されている、ナンバーのついている自動車が対象です。
軽自動車、小型特殊自動車(フォーク・リフトや除雪車、農耕トラクターなど)、二輪の小型自動車(排気量が250㏄を超えるもの)、建設機械(大型特殊自動車:ブルドーザーやショベルカー、クレーン)は対象ではありません。
【車両】 | 【強制執行の方法】 |
・軽自動車 ・小型特殊自動車 ・二輪の小型自動車 ・未登録自動車 ・未登録大型特殊自動車 | 動産執行 |
・建設機械(大型特殊自動車) | 建設機械執行 (民事執行規則第五款、98条) |
【参考】 「動産執行」不動産でも債権でもない債権回収の最終兵器
3 差押えにあたり必要な情報~自動車登録ファイルとは?
「自動車登録ファイル」とは、道路運送車両法によって、これに登録しなければ運転してはならないとされる。
そして、自動車執行手続においては、自動車登録事項証明書(自動車登録ファイルに記録されている事項を証明した書面)を裁判所に提出します。
この自動車登録事項証明書は、自動車登録番号全桁(ナンバープレートの情報)と車台番号下7桁の両方が分かっていないと取得できません。
しかし、裁判に利用する場合には、ナンバープレートの情報が分かれば自動車登録事項証明書は入手できますので、運輸支局より入手します。
【参考】🔗「登録事項等証明書の交付請求方法の変更について」(国土交通省HP)
所有権留保付きの場合、強制執行はできませんので、ご注意ください。
第2 自動車執行の手続のポイント
1 申立て(Step1)
自動車登録ファイルに登録された使用の本拠地を管轄する地方裁判所に対して、申立てをします。
東京地裁では、自動車強制執行に必要な費用は、申立費用:4,000円、予納金(自動車1台あたり)10万円となり、郵券は予納金に含まれる扱いです。
【参考サイト】
🔗「自動車強制競売の申立てについて」(東京地裁HP)
🔗「自動車執行申立てに必要な書類等」(大阪地裁HP)
2 競売開始決定(Step2)
申立債権者から執行費用の予納があると、(強制)競売開始決定をします。
自動車は動産ですが、登録ファイルの変更は不動産の強制執行に準じる手続といえ、両方の性質を有する特殊性があります。
そのため、開始決定においても、債権者のために自動車を差押える旨を宣言し、かつ、債務者に対し、自動車に執行官に引き渡すべき旨を命じることになります。
そして、この開始決定に対しては、執行抗告をすることができます。
差押えの効力は、開始決定が債務者に送達された時に生じますが、差押えの登録が開始決定の送達前にされたときは、登録がされた時に生じます。
また、債務者への開始決定の送達又は差押えの登録前に執行官が自動車に引渡しを受けたときは、その引渡しを受けた時に生じます。
3 自動車の引渡し命令(Step3)
債務者が自動車を占有する場合
開始決定で債務者に対し発せられた自動車引渡命令は、債務名義に準じて取り扱われます。
債権者は、この命令に基づき、執行官に対し開始決定の正本を添付して自動車引渡執行の申立てをします。
この申立ては、自動車が所在する地を管轄する地方裁判所所属の執行官に対して行います(そのため、開始決定をした執行裁判所と異なる場合もあります)。
執行官が開始決定がされた日から1ヵ月以内にその自動車を取り上げることができないときは、執行裁判所は手続を取消します。
なお、債権者が執行官に対する申立てを忘れていた場合にも、この期間は進行しますので、債権者は忘れないように申立てをしましょう。
執行官は、自動車について債務者の占有を取り上げて、自ら保管する方法で執行しますが、相当と認めるときは債権者、債務者その他適当と認められる者に保管させることができます。
そして、執行官は、公示書を貼るなどして、執行官の占有に係る旨の表示をしなければなりませんし、運行を許可する場合を除いては、運行させないための適当な措置を採ります。
この執行は、開始決定が債務者に送達される前であっても行うことができます。
なお、留置権者がいる場合には、その者が任意に執行官に自動車を提出しない限り、強制執行をすることができません。
第三者が自動車を占有する場合
第三者が提出を拒むときは、自動車執行の申立人(差押債権者)から申立てがある場合には、執行裁判所は、その第三者に対して自動車の引渡命令を発することができます。
ただし、この申立ては、申立人が第三者が占有していることを知った時から1週間以内に行う必要があります。
この執行は、債務者への開始決定送達前でも執行ができますが、申立人に命令が告知された日から2週間を経過したときは執行することができません。
自動車執行申立て前の引渡命令
自動車執行の申立て前に自動車を取り上げなければ自動車執行が著しく困難となる恐れがあるときは、自動車の所在地を管轄する地方裁判所は、申立てにより債務者に対し、自動車を執行官に引渡すべき旨を命じることができます。
執行官は、動産引渡しの強制執行に準じて、目的自動車を第三者から取り上げて自ら保管します。
この執行は、債務者への開始決定送達前でも執行ができますが、申立人に命令が告知された日から2週間を経過したときは執行することができません。
なお、自動車執行申立て前の引渡命令は、暫定的な措置のため、執行官が自動車執行の引渡しを受けた日から10日以内に、債権者が自動車執行の申立てをしたことの執行裁判所の証明書を提出しない場合には、執行官は引渡しを受けた自動車を債務者に返還しなければなりません。
4 自動車の評価(Step4)
財団法人日本自動車査定協会所属の査定員を評価人として選任します。
評価人は、目的自動車の評価額、評価の年月日、評価額の算出の過程、執行裁判所が定めた事項を記載した評価書を所定の日までに提出しなければなりません。
執行裁判所は、評価書が提出されたら、評価人の評価に基づいて自動車の売却基準価額を定めることになります。
自動車の評価が低廉な場合など、無剰余の場合には、手続取消し等の措置を採ります。
裁判所書記官は、自動車を入札又は競り売りにて売却する場合は、評価書の写しを閲覧できるように備え置きます。
実際問題として、自動車執行は、引き揚げ費用や保管費用もあり、執行費用を大きく上回る高級車以外は、なかなか利用しづらい欠点があります。
5 売却手続(Step5)
前述のように、売却方法として、期日入札、競り売り、特別売却(期日入札魔は競り売り以外の方法)により売却を行います。
東京地裁では、期日入札以外の方法で売却手続を進めます。
また、いわゆる「自動車譲渡命令」として、債権者が売却基準価額にて買取りもできます。
競り売り等を行う場合において、差押債権者にて中古自動車の買取業者を手配するなど対応をしないといけません。
自動車譲渡命令
自動車は、一般の動産と同様に日時の経過による価額の下落があるため、簡便で迅速に売却する方法として、いわゆる自動車譲渡命令が認められています。
なお、この売却許可決定により自己の権利を害される者は、執行抗告をすることができます。
まず、買受けの申出の額は、買受可能価額以上の価額でなければなりませんので、売却基準価額の決定後に申立てがされることが一般的ですが、売却基準価額の決定前に「買受可能価額で買い受ける」旨の申出も可能とされています。
次に、売却許可決定を受けた差押債権者は、自己が売却代金から配当又は弁済を受けるべき額を差し引いて代金を納付する旨の申出ができます。
この差引納付の申出は、売却許可決定が確定するまでにしなければなりませんので、失念等防止のため自動車譲渡命令の申立ての際に併せて申出をするのが良いでしょう。
6 手続の完了(Step6)
最初に記載しましたように、代金納付、配当等の実施、自動車の引渡しにより、手続は終了します。
代金納付、配当等手続は、不動産強制競売の場合に準じて行われます。
また、差押債権者から差引納付の申出をすることもできます。
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