動産執行・動産の差押えとは、どのような執行方法でしょうか。
具体的に、どのようなことを行って差押・換価をしていくのでしょうか。

動産執行は、執行官が債務者の占有する動産を差押え、そこから得た売得金等を債務の弁済に充てる執行手続です。
(「動産執行」=差押+換価+回収・配当を含めた意味です。)

特徴は、債権者にとっても、債務者の会社内や工場内、個人宅に何があるか分からないことが多いため、申立てにおいて目的物の特定までが要求されておらず、どのような動産を差押えるかは行官の裁量に委ねられていることです。

強制執行手続において、不動産執行、債権執行、動産執行と大きく分かれます。

 不動産執行、債権執行は、「裁判所」が執行の主体でした。

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これに対し、動産執行は「執行官」が執行の主体となります

なぜ、「裁判所」ではなく、「執行官」が主体とされているのか。
動産の差押を活用する上で、その意味を少しでもお伝えできたらと思います。

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第1 動産執行とは

執行官は、執行の現場において、何を差押えるかの裁量を有しています。

参考:🔗「執行官」(裁判所ホームページ)

差押えの基準としては、債権者の利益を害しない限り、債務者の利益を考慮することです。

すなわち、債務者の利益として、債務者の生活の維持・生業の維持、プライバシーの保護、社会福祉上の考慮すること等が挙げられます。
これらを具体化したものとして、差押禁止財産の定め(民執131条)が置かれ、執行不能とされる範囲が広く規定されています。

執行官による動産執行

その結果、生活関連の動産類がほとんど差押禁止財産に該当してしまうため、個人宅への動産執行事件の90%程度が執行不能で終了している実態があります。
債権者としては執行前に執行官と綿密に打ち合わせることが必要不可欠です。

執行不能になってしまうリスクの大きさから、最後の手段と認識されているのですね。

動産執行のメリット動産執行のデメリット
手続が比較的簡易で、費用も高額とならない。
債務者に対して、債権回収の本気度を伝えられる。
債務者が個人の場合、ほとんどが差押禁止財産となっている。
何も差押えることができず、執行不能で終わるリスクが非常に高い。

第2 動産執行の基本的な流れ

①申立て
差押えるべき動産の所在地の執行官に対して、動産執行の申立てを行います。
②執行費用の予納・執行官との打合せ
手数料及び職務の執行に要する費用を予納します(東京地裁は3万5,000円)。

執行官との打ち合わせでは、債務者のどのような物を差押対象物として想定しているのか?を中心に打ち合わせを行います。
③差押現場へ臨場
執行官が差押現場に赴き、差押を実施します。
差押えるべき動産がない場合には、執行不能として動産執行事件は終了となります
債務者が不在であれば、最初は臨場を中止し、置き手紙をすることが多いようです。

そして、改めて解錠技術者と立会人を同行して執行します
当然ながら、この場合は債務者が不在であっても、執行官は臨場して差押を行います(不意打ち狙いの場合、初回から解錠業者の同行もできます)。

なお、債権者は、債務者の了解があれば執行場所に入れますが、執行場所の外で待機することが多いです。
④差押と差押えた物の保管
差押えた物については、適切な保管者・保管方法を決めます。

貴金属類のように小さい物であれば執行官室の金庫で保管してもらえますが、基本的には債権者にて保管となりますので、搬出・運搬・倉庫などの確保が必要になります。
⑤売却期日の指定・売却の実施
通常は、指定された期日において、競り売りが行われます。

買い受け希望者は、口頭で金額を述べていきます。
執行官が3回入札された金額を言っても(例:「10万円~、10万円~、10万円~。」)、それ以上の価格が出なかった場合に落札となる運用です。

落札後は、その場で現金で支払い、執行官を通じて債権者に即日交付されます

第3 動産執行手続の申立てと決まり事について

1 申立てと予納金の納付について

強制執行に必要な3点セットを準備し、申立書、印鑑、資格証明書(当事者が法人の場合)、印鑑、当事者目録を準備して、執行場所を管轄する裁判所の執行官に対して申立てます。

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申立にあたり必要な書類等

申立書は、裁判所ホームページの書式を活用しますが、場所によって利用している書式が異なりますので、申立てを行う裁判所に事前に確認しておくのが確実です(これら書式は指定というわけではありません)。

民事執行規則上、申立てから1週間以内に執行が開始されるとされます(民事執行規則11条2項)。

ただ、私の最近のケースですが、債権者代理人の立会いを希望して予定調整してしまうと、1か月程度先の日程になってしまう事態もありましたので、必ずしも迅速な手続ではないことにはご留意ください(東京地裁の執行官も多忙です)。

【参考】
🔗東京地方裁判所の書式等

🔗大阪地方裁判所の書式等

 

予納金の目安

執行費用について、東京地裁、大阪地裁のホームページにおいて標準額が公表されています。

最初から解錠業者に依頼するわけではありませんが、必要になるケースはその費用がかかります(債権者で業者を選べます。特に伝手がなければ執行官に紹介してもらいます)。

債務者の抵抗が予想される場合には執行補助者を同行させたり、差押物を債権者や第三者が保管する場合には保管業者を手配したりと、事案によっては上乗せの実費が発生し得ます。

執行官と大まかな打合せを行い(解錠業者や保管業者、執行補助者が必要かなど)、執行に向けた準備を進めます。

予納を済ませないと、執行手続が進みませんので、早めに予納しましょう。
執行官に債権者の希望を伝え、綿密な打ち合わせを行います。

【参考】
🔗東京地方裁判所の標準額

🔗大阪地方裁判所の標準額

動産執行の費用感は、(東京の場合)3万5,000円を基本に、個別に解錠業者、倉庫業者、評価人の費用負担があります。

業者の費用は、裁判所を通さずに直接やり取り(支払等)をします。
執行官から業者を紹介してもらえますし、自分で業者を用意しても問題ありません。

🖊 執行官との打合せのポイント

執行官との打合せでは、何を想定して差押を考えているのかが中心になります。

特に、特殊な差押えを想定する場合(たとえば、大量の冷凍物、高価なペットなど)には、その保管をどうするのか。
また、鑑定が必要なことが想定される場合に、鑑定業者(評価人)をどうするのか。
特殊なケースになるほど、事前の綿密な打合せが必要になります。

ただ、実際には、漠然とした内容しか想定できず、まずは臨場してもらうことが主目的となるケースが多くなってしまうかと思います。

2 差押対象物と差押禁止財産について

差押対象物とは

動産執行の対象となるのは、以下のものです。

  • 不動産以外の物
  • 無記名債権(商品券、乗車券、映画等の観覧券等)
  • 登記できない土地の定着物(建築中の建物、石灯篭、立木等)
  • 1か月以内に収穫確実の土地から分離するもの(農産物等)
  • 有価証券(株券、手形、小切手、貨物引換証、抵当証券等)

差押禁止動産とは

一方、債務者の生活の維持・生業の維持、プライバシーの保護、社会福祉上の考慮などから、差押えが禁止される動産も規定されています。

実務上、特に重要なものは、次に列挙する物が挙げられます。
差押禁止動産は、債務者の同意があっても差押えることができません。

 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
具体的には、タンス、ベッド、調理器具、食器棚、食卓セット、冷暖房器具・エアコン、衣類、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、ポット、テレビ、ラジオ、掃除機、パソコン、鏡台などが挙げられます。
ただし、複数ある場合は1つだけが差押禁止になったり、これらの中でも高級品ならば(例えば大型テレビなど)差し押さえができるなど、個別の事情によって異なります。

✍ 債務者等の1ヵ月間の生活に必要な食料及び燃料

✍ 現金66万円まで(但し、法人に対しては適用されません


✍ 債務者の職業に応じて、その業務に欠くことのできない器具など(但し、法人に対しては適用されません

3 動産執行の差押え

債権回収の流れ。差押、換価、回収(配当)満足。

動産執行においては、債権回収のプロセスのほとんどが執行官によって担われています

差押えの効力

差押えにより、債務者は執行の目的物に対する収益・処分の権能を失い、国家がその処分権能を取得します。
ただ、差押物を債務者に保管させる場合には、使用を許可することができます

超過差押えの禁止

差押債権者の債権・執行費用の弁済に必要な限度を超えて差押えをしてはならないと規定されています。
ただ、100万円の請求債権がある場合に、70万円、40万円、10万円の宝石がある場合に、70万円と40万円の宝石だけを差押えるのは、超過差押えには該当しません。

さらに10万円の宝石を差押えた場合には、債務者は執行異議を申し立てることができます。

無剰余差押えの禁止

差押えるべき動産の売得金で、手続費用を弁済して剰余を生じる見込みがないときは、執行官は差押えをしてはなりません。
無駄な手続を防ぐための規定です。

4 差押物の保管方法

実務上は、差押えた動産は債権者が保管することが一般的です。

具体的なイメージとして、金銭、貴金属、有価証券等高価な動産で、運搬・保管が容易なものは執行官による保管が相当とされます。

運搬・保管が困難であったり、保管に多額の費用を要する場合(ピアノ・大型家具・大型冷蔵庫などの営業用動産)で、差押動産を債務者が処分したり、隠す恐れが少ないものは債務者保管とされることもあります。

ただ、原則的には債権者での保管を促されることが多いです。
そうすると、倉庫業者に委託して保管させることが多く、その費用を負担しても回収できるかのコストを検討しなくてはなりません。

 

5 換価の方法

動産執行により差押えた物の換価方法は、

  • 入札
  • 競り売り
  • 特別売却
  • 委託売却

があります。

一般的には、②競り売りにより換価されています。
執行官は、差押えの日から1週間以上で1ヵ月以内の日に競り売り期日を指定しなければなりません。

差押物が家具什器や機械類の場合は、差押えの場所である債務者方を売却場とすることが多いです。
これに対し、貴金属や書画、骨董品等のように債務者方から引き揚げてきた物は、裁判所内の売却場で売却します。

①入札は、貴金属類のように転売が容易で一般人の需要も高い物は、一般人が参加しやすいように入札の方法が採用されることもあるようです。

入札は、入札期日が定められ、入札書を執行官に差し出して行います。
ただし、入札は、入札期日に出向く必要があり、入札書を郵送したり、事前に執行官室に届けることができません。

③特別売却は、執行官自身が競り売り又は入札以外の方法で行う売却方法で、刀剣類やたばこ等、一定の資格がなければ買受けを許されない物について行われます。

④委託売却は、執行官以外の者に売却を実施させて行います。
大量の生鮮食品類を集荷市場で売却してもらったり、骨董品を古美術商に売却してもらう場合などに利用されます。

第4 動産執行を知ろう、執行官はこう動く!!

1 債務者が「法人」の場合

⑴ 現金の差押え

債務者が個人の場合には、66万円までの差押禁止がありますが、法人に対しては差押禁止となっていませんので、現金も狙いやすいターゲットになります

営業用店舗に対して動産執行をかけ、金庫内、レジスター内、両替機内の現金を差押える方法が奏功しやすいです。
この動産執行を効果的に行うには、最高額の現金が営業店舗内にある日時を狙って行います。

債務者の営業形態によって異なりますが、例えば、パチンコ店ならば平日よりも連休の最後の日で、午前よりも夕方から夜間の方が確率は高そうです。
また、八百屋やスーパーマーケットなどの小売店も、夕方の方が現金が多くある可能性は高そうです。

ただ、債務者も動産執行を警戒して、できるだけ営業店舗に現金を置かないようにすることが推測されるので、場合によっては内偵をして実態把握に努めることが必要になります。

⑵ 商品の差押え

債務者が小売業者の場合には、小売店舗に置いてある商品を差押えることが考えられます。

差押えた後、執行官から債権者に保管が委託されることが一般的です。
そのため、債権者が倉庫等の保管業者に委託をして保管しますので、保管用倉庫の準備や場所の確保など、費用との兼ね合いが懸念材料にはなってしまいます

⑶ 営業用動産の差押え

営業店舗や工場に赴き、営業用動産を差押えます。

債務者が個人の場合は、「個人事業主に対する動産執行」の欄で後述しますが、「業務に欠くことのできない器具」が差押禁止になります。
これに対して、法人の場合は、業務に欠くことができない器具等も差押えが可能です。

そのため、債務者が製造業者の場合は、営業用動産が競落されてしまうと商品の製造ができなくなるので、事業に及ぼす影響は大きいです。
債権者とすれば、実際の換価価値はあまり期待できなくとも、差押え後に債務者から差押えの解除の申し出があれば、それを契機として任意弁済を受けることが期待できます

⑷ リース物件の取り扱い

執行の現場において、債務者より、これはリースであり所有権が第三者にあると説明を受けることがあります。

しかし、動産執行における差押えの対象は、「債務者が占有」しているものですので、第三者所有を主張されても差押えは中止されません
ただ、明らかにリース物件と見受けられるもの等は、債権者の意向を確認しながら、執行官は差押えを実施します

たとえば、コピー機のように、差押えたとしても価値が高くなく、リースが一般的のような場合には、差押えないことも多いです。
ただ、債権者が差押えを希望すれば、後で第三者から異議等が出た場合には取り下げることを条件として、現場では差押えてくれることが多いように感じています。

⑸ 金庫の取り扱い

執行の現場において金庫が見つかった場合、執行官は中身を調査します。

債務者が不在で解錠業者によって中に入った場合も、金庫を解錠業者によって開けてもらい、中を確認します

債務者が在宅しながら、中を開けるのを拒否した場合には執行官はその金庫を封印し、解錠業者を同行して開けさせます。

債務者が執行官に抵抗する場合は、封印等破棄罪、強制執行妨害罪として刑事告訴することになります。

⑹ 特殊な動産の取り扱い

宝石、貴金属、絵画、機械類など、専門家でなければ適正な評価ができない高価な動産については、執行官が評価人を選任して、評価人が評価をします。

事前にこのような差押対象物があることが分かっていれば、リース会社の従業員やメーカーの社員などの簡易評価ができる人を、執行の現場に同行させて意見をもらうことがあります。

実務上は、なかなかそう上手くはいかないことが多く、差押執行時に、後日評価人に評価させることを条件として、一応の評価をして差押えがなされています。

2 債務者が「個人」の場合

⑴ 個人宅(自宅)への動産執行

執行官は、債務者の占有する金庫その他の容器(机、トランク、タンスなど)の引き出しを引いたり、扉を開いてその内部を捜索することができます。
債務者として、自宅内を隈なく捜索されることを嫌い、任意に提出してくることがあります。

また、執行官の捜索によって、宝石、金塊、絵画等の高価品を発見できたり、債務者の預金口座にかかる情報を発見できる場合などが成功例としてあります。

⑵ 個人事業主に対する動産執行

個人事業主に対する動産差押えでは、差押禁止財産との衝突で注意が必要になります。

 (差押禁止財産 民事執行法131条6号)
 第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
  技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)

具体的にどのようなものが「欠くことができない」のか、執行官の判断により分かれます。

裁判例では、内科・小児科のレントゲン撮影機は、差押禁止動産に当たるとされました。
これに対し、眼科医のレーシック手術に不可欠な治療機器(エキシマレーザー治療台)は、差押禁止動産に当たらないとされました。

第5 最後に

動産執行について、具体的なイメージを持っていただき、適切な場面での活用を期待しています。

執行官の座談会などにおいて、2,000万円の現金を発見した事例や、金塊を発見した事例などの報告があります。

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