裁判で勝訴し、いざ回収手続に踏み切ろうとしても、相手の財産が何も分からなかったり、なくなっているのでは、せっかく費用も時間も費やして判決を獲得しても意味がありません。

 そこで、仮差押として、真っ先に検討をする「不動産に対する仮差押え」について説明をしていきます。

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民事保全手続~仮差押・仮処分とは?
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債権の仮差押手続の活用法について説明します。
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債権回収の法的手段を網羅して解説します
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債権回収における不動産仮差押(民事保全)の位置付け。

 全体の流れの中では、訴訟提起前に財産保全のために利用することが典型的ですが、訴訟の最中に相手に財産が見つかった場合に併行して行うこともあります。

 より具体的なイメージを持ちやすいように、以下の想定事例を基にしながら説明できればと思います。

(典型的な想定事例)

Aさんは、Bさんに対して500万円を貸しました。しかし、返済期限を過ぎても全く返してくれず、Bさんとは全く連絡が取れなくなってしまいました。
やむを得ず、Bさんの自宅に行き、ようやくBさんと話せましたが、Bさんからは「申し訳ないが、今は手元にお金がなく返せない。」と返答をされました。

Bさんのこれまでの言動から誠意をもって返済をしてくれる見込みがないと判断し、訴訟などの法的手続を利用しても、債権を回収していきたいと考え、弁護士に相談しました。

 第1 不動産の仮差押とは

 仮差押とは、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに、特定の物に対して、裁判所より発令させることができます。

 今回の事例では、裁判を起こしたとしても、その手続中にBさんが強制執行を恐れて売却し、お金を隠してしまう可能性があります。

 そうすると、結局、裁判をしてもAさんが回収できない恐れがあります

Bさん

ヘへへ、裁判で負けそうだから、急いで不動産は売却してしまおう!!

 このような事態を防ぐために、先に債務者の財産を事実上処分できないように押さえておく方法です。

 この仮差押は、債務者の財産に制限を加える効果がありますが、それだけでなく、仮差押を嫌がって、任意交渉に応じてこなかった相手の態度が豹変することもあり、交渉の材料としても効果を発揮することがあります。

 なお、不動産に仮差押が入っても、債務者は従前通りに使用することができますし、理屈上は売却することもできます。

 イメージとしては、抵当権に近く、それを裁判所の力を借りて強制的に設定します。

第2 仮差押の要件と効果

1 要件

 仮差押命令の審理では、①被保全権利の存在、②保全の必要性が審理されます。

仮差押では被保全権利と保全の必要性に疎明が必要。

2 被保全権利とは

 被保全権利とは、保全してもらいたい債権者の権利、すなわち本件では、AさんのBさんに対する500万円の貸金返還請求権となります。

 金銭消費貸借契約であれば、当事者、契約日、弁済期、金額、利息の約定などを記載して債権を特定します。

3 保全の必要性とは

 保全の必要性とは、仮差押えをしないと将来の判決の執行ができなくなる恐れがあること、すなわち相手(債務者)の資産の現状を維持する必要があることです。
 仮差押えの必要性について、条文(民事保全法20条1項)では「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる」と規定されています。

 相手に資力が十分あり、将来の支払い能力に懸念がないような状態であれば保全の必要性は認められません。
 たとえば、大企業などが裁判に負けた場合に、支払いを拒否したり、資金隠しを行うことはあまり想定できません。大企業などが相手の場合には、この保全の必要性がないと判断され、仮差押が認められない可能性が高いです。

 また、仮差押対象物の性質によ債務者の打撃の程度によって、求められる保全の必要性の程度が変わってきます
 具体的には、事業者が販売用商品や当座預金を仮差押されたら死活問題です。このような場合には、高度な保全の必要性が求められます。
 たとえば、執行可能財産が他になく、資産の隠匿や消滅の現実的可能性を推認させるような事情がある場合です。

 他方、不動産は、確かに、販売用不動産であれば高度な保全の必要性が必要です。
 しかし、遊休不動産であったり、個人所有の不動産では、不動産登記簿に仮差押登記は入りますが、従前通り使用できます。
 そのため、債務者への打撃は相対的に弱く、保全の必要性も高度なものまでは求められません


 類型的には、不動産→債権→動産となりますので、仮差押を行おうとする場合には、まずは不動産から優先的に検討することになります。

 そのため、不動産が、仮差押で最も王道かつ典型的な方法となっています。

保全の必要性の程度

 本件においては、これまでに弁済が行われておらず、債務者も返済に前向きな態度ではないことから、訴訟を提起すると財産隠しの恐れがあることなどを指摘すれば、保全の必要性は認められやすいと考えます。

4 効果(手続相対効とは?)

 仮差押の登記がなされることで、仮差押の効力が発生します
 仮差押登記がなされても、債務者の処分が制限される訳ではなく、債務者は仮差押不動産を譲渡して移転登記することも、新たに抵当権を設定することもできます。

 しかし、仮差押をした債権者が裁判を行い、勝訴判決を得て強制執行をする場合には、先にしておいた仮差押えの効力により、仮差押の登記後にされた債務者の処分行為は全て無効とされてしまいます。

 つまり、仮差押を得ておけば、債権者は、その不動産が第三者の名義になっていても、抵当権が新たに設定されていても、これを無視して強制執行手続を行うことができます。

 債務者は自由な処分ができるけれども、債権者との関係では無効とされることから、仮差押の効力のことを「手続相対効」と呼んでいます

第3 不動産仮差押の基本的な流れ

仮差押(保全)手続の発令までの流れ

1 不動産の調べ方

 住所と不動産登記簿に記載されている地番とが必ずしも一致するとは限りません。

住所と登記簿の地番が違うなんて知りませんでしたよ?!
必ず事前に確認するようにします!

 そのため、相手の住所を、法務局に電話で「地番照会」し、入手した地番情報から法務局で不動産登記簿を取得します。
 不動産登記簿の取得は、誰であっても取得が可能です。

 東京ならば、🔗東京法務局にて、地番情報と登記簿の取得をします。 

オンラインでの調べ方と登記簿謄本の取得

 すぐに簡単に調べるだけであれば、🔗登記情報提供サービスが便利です。

 謄本の申請は、🔗登記・供託オンライン申請システムから行うことができます。

2 申立書の作成・提出

 書面で作成をし、契約の存在を立証する資料を添付します。
 提出先は、貸金返還請求の場合は、債権者(Aさんの住所地)、債務者(本件はBさん)の住所地、仮差押の対象不動産を管轄する裁判所のいずれにも管轄権があります。

 どこの裁判所に申し立てるべきかという問題は、請求する債権の性質によって異なります。
 裁判所の、保全受付係で教えてもらえますので、不安な場合は事前に確認すると良いです。

 また、保全は、目録の記載に非常に気を配る必要があります。
 なるべく修正は少ない方が良いので、物権目録の修正は発生させないようにしましょう。

【申立書の雛形】

参考:🔗保全命令の必要書類一覧(不動産仮差押命令申立事件)
参考:🔗裁判所のホームページに書式が載っています。
    (🔗Wordファイル🔗PDFファイル
参考:🔗物件目録の記載

 

3 添付資料

疎明資料

 契約書や覚書など、取引関係を立証する資料や、これまでに支払がなく裁判を行っては債務者の財産が散逸してしまう心配を報告書などにまとめます。

資格証明

 当事者に法人がいる場合には、資格証明が必要になります。
 東京地裁の場合、債権者は代表者事項証明書で足りますが、債務者は会社の規模等が保全の必要性判断にも影響しますので、現在登記事項証明書が必要になります。
 さらに、契約書などに記載されている債務者の住所と現在の登記簿の住所が異なる場合(会社の移転などがあった場合)、3年以内ならば現在事項証明書を、それよりも前であれば閉鎖事項証明書を取得します。

不動産登記簿

 前述のように、仮差押対象不動産の登記事項証明書(全部事項)を取得します。
 建物を仮差押する場合には、敷地利用権もありますので、土地の登記簿、固定資産税評価証明書を取得することを忘れないようにしましょう。


 マンション(区分所有建物)でも、専有部分とその敷地利用権の分離処分ができません。
 敷地権化されている場合には、敷地権付専有部分に関する登記簿上に仮差押の登記をすれば、その効力は敷地権にも及びますが、専有部分と敷地の両方の登記簿と固定資産税評価証明書が必要なりますので注意しましょう。

固定資産税評価証明書

 差押対象の不動産の評価を知るために、固定資産税評価証明書を利用します。
 都税事務所で取得します

参考:🔗都税事務所

(注意点)
 申立てが4月の場合、新年度への切り替えとして、発行に数週間かかると言われることがあります。
 その場合は、不動産鑑定士による評価書、路線価方式など相続税評価額などで代用することがあります。
 比較的新しい建物であれば、抵当権の債権額(住宅ローン額)を参考にすることもあります。

収入印紙

1件あたり2000円です。

郵券


       仮差押に必要な郵券一覧

4 裁判所における審理

 この仮差押(保全処分全般)は、債務者に知られずに迅速に遂行する必要があります
 債務者に知らせながら悠長に進めては、債務者に財産を処分されるなど、先回りされる可能性があるからです。

 そのため、仮差押の手続は、債権者からの提出資料、つまり申立書疎明資料のみで行われるのが原則です。

 東京地裁では、申立人(債権者)と裁判官で全件面接(「審尋」と呼びます)をします。
 これは裁判所の運用ですので、審尋を行わない裁判所もあります(むしろ、大都市部以外の裁判所では行っていません)。

(実務でのポイント)

✍ 面接のときに疎明資料の原本を持参することを忘れないようにします。

✍ 郵送であれば、原本を送り、裁判所にて確認後に返送してもらいます。

5 担保提供

 仮差押は、債権者の言い分だけに基づく、裁判所による「仮の」決定です。
 後日、債権者が訴訟提起をして敗訴することもあります。
 そのような場合には、仮差押・仮処分の相手には、損害が生じる可能性があります。

 そこで、裁判所は、債務者が受ける損害賠償を担保する目的で、債権者(申立人)に対して一定額の保証金を納付することを求めることができます。

 担保決定の告知があった翌日から3~7日以内の期限を設定されることが多いです。
 担保提供の方法ですが、昔は支払保証委託(ボンド)という方法も利用されていたようですが、現在は供託所(法務局)に行ってお金を預けるやり方がほとんどです。

 供託は、オンラインでもできます。

( 参考:🔗鹿児島地方法務局のホームページ

 大雑把なイメージとして、不動産の仮差押では、仮差押を狙う対象不動産価格の1~2割程度を想定するイメージです。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』より引用

仮差押の代償として、本案で敗訴になると、債権者が損害賠償を請求される恐れがあるのですね。

債務者としても、単に本案で勝っただけでは足りず、仮差押による「損害」を立証しなくてはならないので、債務者にとってもハードルは低くありません。
しかし、債権者として、そのリスクを念頭に置く必要はありますね。

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6 発令

供託(担保金納付)

 法務局に行き供託書の記載を終えたら、供託手続を行います。

 供託窓口で受付審査が終わると、出納窓口で供託金を納付します。
 供託書正本が手渡されると、裁判所に提出します。

 このときに、郵券(郵便切手)、目録類(当事者目録、請求債権目録等)、仮差押登記の登録免許税納付書も提出します。

登録免許税

不動産の仮差押には、登録免許税の納付も必要になります。

 請求債権額  × 0.04% = 登録免許税額
(千円未満切捨)         (百円未満切捨)

(納付方法)

3万円以下の場合
 収入印紙で納めることができます。

3万円を超える場合
 国税納付書の領収証書が必要になります。
 国庫金納付書を利用して、日本銀行の代理店または歳入代理店となっている金融機関、または郵便局に行って納めます。

(参考:🔗日本銀行の代理店または歳入代理店

国税納付書の領収証書というのは、盲点でした。
初めての時、どうしたらよいか分からず右往左往してしまったので、ここでチェックして欲しいです。

発令時間

 この手続を午前11時までに行うと、当日の午後4時以降に決定正本が交付され、仮差押手続が発令されます。
 午前11時を過ぎると、翌日の午後4時以降に発令される運用になっています。

7 執行

数日程度で仮差押登記が入りますので、登記簿をチェックします。

仮差押は、この登記をもって効果が発生します

仮差押(保全手続)は、あくまでも暫定的のため、いよいよ本案(訴訟)提起に移ります。

第4 不動産の仮差押に関連する問題等

1 不動産に抵当権が付いている場合

 仮差押対象不動産に住宅ローンなどの抵当権が付いていることは多いです。
 この場合、不動産自体の評価額から抵当権の残債権額を差し引いた価値を算定することにより評価します。

 問題は、この残債権額は、債権者には分からないことです
 そこで、まだ購入が新しい場合には、登記簿に記載された被担保債権の元本額を残債権額とみなす方法が考えられます。
 このやり方は、裁判所も同意してくれます。

 ただ、登記簿記載の金額になると、固定資産税評価証明書の金額を前提にするとオーバーローンになってしまうことが多いです。
 その場合には、不動産業者の査定(できれば2社以上)を提出し、剰余が見込めることを疎明する方法が考えられます。

 一方、抵当権の設定時期から相当年数が経過している場合には、ローンのシミュレーションなどを行い、ある程度減額したものを残債権額とみなして剰余価値を算定することが可能です。

東京地裁民事第9部保全部の運用

 東京地裁においては、このように残債権額の具体的な主張、疎明を求めることは、不可能を強いることにより債権者の利益を不当に害することになるのではないかという問題意識から、以下の上申書方式によって特段の疎明資料を必要とすることなく、差押対象不動産の剰余価値を算定します

 債務者面接を行わずに剰余価値を算定せざるを得ない以上のやむを得ない選択とされていますが、債務者の手続保障は、保全異議においてより正確な剰余価値の算定が予定されるものとしています。

 もっとも、あくまでもこれは東京地裁の運用ですので、各裁判所によって異なる可能性があります。
 申立てを行う前に各裁判所への確認が必要不可欠です。

裁判所によってやり方(運用)が異なるのは、不思議な感じですが、しっかりと押さえておかないといけませんね。

2 仮差押不動産が被保全債権に足りない場合(追加の可否)

 保全の必要性が認められる限り、既に発せられた仮差押命令と同一の被保全債権に基づいて、異なる目的物に対してさらに仮差押命令の申立てをすることができるとされました(裁決平15・1・31民集57巻1号74頁参照)。

3 仮差押と時効の関係

 民法改正前は、仮差押命令は消滅時効の進行を中断させるとしていましたが、新民法では単に「その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」(民法149条1項)と改められました。

 改正前の「中断」とは、時効を一度リセットさせる、また1から時効のカウントを始める効果がありました。

 しかし、改正後の現在はリセットする機能まではありません。あくまでも仮差押命令の継続中は時効が完成せず、終了してから6カ月は時効が猶予される効果に留まりました。

 ただ、仮差押手続はあくまでも暫定的手続なので、早期に本案(訴訟)提起する必要性に変わりはなく、実務上の影響は少ないものと思います。

4 他に債権者がいる場合 ~ 抵当権と仮差押との優劣

 前述しました仮差押の効力(手続相対効)により、仮差押がなされた後に抵当権が設定されたとしても、仮差押債権者が優先します。

 すなわち、仮差押と抵当権は、その登記前後により優劣が決まります

 

 これに対して、仮差押がなされた後に、さらに他債権者が同一不動産に対して仮差押をした場合には、優劣関係は生じず、対等な立場になります

 具体的には、不動産を競売して配当する段階において、請求債権額による案分配当がなされることになります。

 

 すなわち、すでに仮差押が設定されている場合であっても、他債権者は追加的に仮差押を行うことで、配当を受け取れる可能性は出てきます。

5 「請求の基礎」に同一性があれば本執行できる!!

 強制執行(「本執行」と呼びます)に移行するためには、仮差押をした債権者自身が強制執行の申立てをする必要があります。

 たとえば、ぼったくり被害に遭って不法行為に基づく損害賠償請求として仮差押命令の発令を得ましたが、本案において不法行為までは認められなかったものの、予備的に請求していた飲食代金の錯誤主張が認められて、支払済のお金の返還請求が認められたという場合などが想定できます。

 この場合、請求の基礎となっている事実関係が共通しますので、「請求の基礎」に同一性が認められるとして、本執行に移行できます

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 このように、仮差押命令で認定された請求債権と内容が変容したとしても、「請求の基礎」に同一性があれば、強制執行手続を行うことができます。