解体工事を行っていたところ、近隣住民より振動が酷いと苦情が入り、訴えると言われました。
振動被害を訴える裁判では、どのような判断がなされますか?

振動被害を訴えるクレームの多くは、建設現場に寄せられています。

振動被害を訴える裁判においては、人格権に基づく損害賠償等が求められる場合、騒音に対する被害を訴える裁判と同様に、受忍限度論により、違法な操業か否かが判断されます

ただ、振動により「物」が壊れた等の場合には、端的に振動と物の損壊との因果関係が問題になります(記事で紹介している裁判例は、主に不法行為の因果関係が争われています)。

裁判例においては、振動そのものが問題となるケースは非常に少なく、騒音と共に被害を訴えるケースが多く見られます。

振動においても、騒音と同様に、振動規制法条例による規制がありますので、これら行政法上の規制基準を満たすよう配慮した操業が求められます。

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騒音被害を訴える裁判では、どのような判断基準により検討されているか?
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裁判において事業者の責任が肯定(否定)された事例とは、どのようなものか?
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騒音被害を訴える裁判は、どのような事例があるか?
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第1 「振動」に対する苦情とその規制について

1 振動に対する苦情の実態

環境省の統計によると、振動に関する苦情はそのほとんどが、「建設作業」、「工場・事業場」で占められています。
また、その件数は、年々増加傾向にあります。

 

震動に関する令和2年の苦情件数(環境省)

🔗「令和2年度振動規制法等施行状況調査の結果について」(環境省HP)

震動苦情、クレームの件数の推移。

🔗「令和2年度振動規制法等施行状況調査の結果について」(環境省HP)

2 振動に対する規制

騒音と異なり、環境基本法は、振動に環境基準を設けていません

そのため、騒音規制法と同様に、振動規制法により、特定施設(金属加工機械等)、特定建設作業を対象とした規制と、条例による規制があります。

3 振動規制法による規制

騒音規制法と対象業種が重なり、届出義務を課し、違反が見られた場合には、改善勧告⇒改善命令とし、命令に違反した場合には罰則が定められています。

振動規制法が対象とする業種とその内容。届出義務、改善命令、罰則が定められている。

🔗「振動規制法」(環境省HP)

4 振動の測定

騒音と同様に、振動の大きさを測定するにあたっては、」を利用します

単位は同じですが、その数字の感覚は、騒音と異なります
次の図が参考になります。

震動のレベル(数字)との人が感じる強度、影響の度合い。

🔗「よくわかる建設作業振動防止の手引き」(環境省HP)

5 「振動」被害等を理解する参考資料

環境省のホームページにおいて、参考になる資料が公開されていますので紹介します。

  【参考資料】
・🔗「振動規制法 よりよい住環境を目指して」(環境省HP)

🔗「よくわかる建設作業振動防止の手引き」(環境省環境管理局大気生活環境室)

・🔗「地方公共団体担当者のための建設作業振動対策の手引き」(環境省水・大気環境局大気生活環境室)

第2 「振動」が問題となった裁判例

1 「振動」による被害が争われた事例(否定例)

事案の概要判決の要旨

東京地判令和元年12月13日
原告が、原告工場に隣接する工事現場でビルの建設工事を施工する被告らに対し、工事により生じた振動が原因で原告の機械が損壊したとして
損害賠償を求めました。
裁判所は、原告の機械は、すでに相当程度に経年劣化していた中古機械であって、当時、機械が本来の性能を維持する状態にあったことを的確に認定するに足りる証拠はないし、当時行われていた杭築造工事は初めて行われたわけではなく、その際、法定振動基準を上回るような振動が測定されなかったことなどからすると、工事中に原告の機械を損壊させる要因となるような大きな振動が発生したというには疑問があるし、これにより機械の損壊という結果が生じたというにも疑問があるなどとして、原告の請求を棄却しました。

東京地判
令和元年
7月18日
被告らの基礎解体工事及びマンション建設工事による振動により、原告所有建物にひび割れなどの損傷、建物内の動産の故障やめまいなどの健康被害が生じたとして、原告らが被告ら(工事の請負人と発注者)に対して損害賠償請求を求めました。「工事により振動が発生しているものの、本件建物に影響した振動の程度としては、研究結果から考察した場合、一般論として震度2以下程度の振動レベルであって、振動規制法及び環境条例を超えるものとは認められないし、実際にも、振動規制法及び環境条例を超えるような振動が工事期間中継続して発生したと推認するに足りる証拠はない」として、また、原告が主張する損害は工事による振動と因果関係がないとして、原告の請求を棄却しました。

2 騒音と共に「振動」被害が認定された裁判例

事案の概要判決の要旨

東京地判平成3年7月29日
 集合店舗ビル内のライブハウスから発生した振動騒音により、直上階にあるフレンチレストランが騒音、振動により被害を受けたとして営業上の逸失利益を求めました。
 本件は、原告レストランの主張では、騒音を測定して被害立証をしているものの、被害内容として客席に突き上げるような振動が伝わり、テーブル上の皿などが音を立てるなど使用できない状態になったとして、振動による被害も訴えています。
騒音については、東京都公害防止条例に定める規制基準をもって受忍限度とするのが相当であるが、被告ライブハウスの代表者はレストラン、ライブハウスの事情、地域性(注:六本木という繁華街だが、自動車の騒音等について苦情が出ることがない立地)を認識していたこと、同一建物内の他の店舗の営業上の利益との調和を図るべきであり、騒音については規制基準値以下に、レストランに振動が発生しないようにする義務があるとしたうえで、ロックバンドの演奏により規制基準値以上の騒音と振動を原告レストランに発生させたとして、被告ライブハウスに損害賠償得を命じました。

3 裁判例の検討とまとめ

上記裁判例①、②は、発生した振動がいずれも法定基準以内という事情のもとでは、騒音と同様に、事業者の責任は認定されにくいといえます。

いずれも因果関係なしとされていますが、基準値を超える振動が観測されている場合には、異なる結論も十分に想定されると考えられます。

振動が裁判になるケースは、裁判例③のように、騒音と共に損害を主張されるケースが多いと思います。
騒音、振動ともに、行政法規の基準を順守するかが命運を分けると言っても過言ではありません。

上記裁判例③は、カサグランデミワビルが舞台となっていますが、被告ライブハウスは、防音・防振工事を施工したにも関わらず、原告への騒音、振動被害を十分に抑制することができませんでした。
そのため、ライブハウスの営業を断念し、営業形態をレストランバーに変更せざるを得なくなっています。

騒音、振動の苦情、クレームが発生した場合、法定基準値内にできない場合には、その事業継続が赤信号となってしまう大きなリスクがありますので、常に細心の注意を払って事業計画・操業する必要があります。

(まとめ記事)弁護士が伝授【クレーム・クレーマー対応】悪質・不当要求と戦う指南書
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