保全手続(仮差押・仮処分)の際に、担保金を供託しました。
これはいつ返ってくるのでしょうか。

 担保金は、違法又は不当な保全命令によって債務者に生じ得る損害を担保するために必要とされるものです。

 そのため、担保金を返還する手続についても、債務者に損害が生じないといえる状態になったときに返還手続を行うことができます。

 

担保取消しとしたい仮差押債権者と、担保を維持したい仮差押債務者の権利状況
担保取消しをしたい仮差押債権者と、担保を保管したい仮差押債務者の権利状況


 具体的には、①担保の事由が消滅したとき、②担保消滅に債務者の同意があったとき、③債務者が損害賠償請求をするか催告されたのに損害賠償請求の権利行使をしなかったとき、です。 

差押えが完了したり、仮処分を取下げたりしても、自動的に返ってくるのではなく、別途に取消し手続きが必要なことに注意ですね。


 具体的な内容を解説していきます。

第1 担保取消しの制度とは

 繰り返しになりますが、民事保全手続において、違法又は不当な保全命令によって債務者に生じ得る損害の賠償請求権を賄うために、債権者担保提供が必要となります。

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 これは、他方で債権者にとっては資金等を運用することができない状態になっているわけですので、債務者に損害の生じる恐れがなくなった場合には、担保の事由が消滅したものとして、担保を消滅させる必要があります。

 これと同様に、担保の消滅に同意がある場合や、債務者が権利行使の催告をされたにもかかわらず行使しない時には、担保権利者(債務者)の同意があったものと扱って良く、担保を消滅させる必要があります。

 このような場合に、裁判所の裁判をもって担保を消滅させるのが、担保取消しの制度です。

第2 担保の取消が認められる場合

 どのような場合に担保取消が認められるかについて、民事保全法で規定がないので、民事訴訟法を準用しています(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条)。
 次の3つの類型があります。

  • 「担保の事由が消滅したことを証明したとき」(1項)
  • 「担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したとき」(2項)
  • 「訴訟の完結後、裁判所が、担保権利者に対して一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、その期間内に権利行使がなく担保権利者の同意が擬制されるとき」(3項)

【参考条文】
(担保の取消し)
第79条 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。
3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。

担保取消しが認められる消滅、同意、権利催告の3類型。
担保取消しが認められる3類型

【参考】「担保取消しの手続」(東京地裁HP)

1 担保の事由が消滅した場合(79条1項)

 債権者が担保を提供する理由は、債務者の損害を賄うためです。
 そうすると、債務者の損害の発生が将来にわたってなくなったと考えられる場合には、「担保の事由が消滅した」として、債権者に取消しを認めても良いでしょう。

 典型例は、債権者が本案で全部勝訴した場合です。
 同様に、債務者が請求認諾した場合勝訴的和解が成立した場合も「消滅」に当たるとされます。
 他に、一部弁済、相殺等がなされ、それによって請求債権の一部が消滅した場合には、そのような経過が証明されれば全部勝訴として扱われます。

 また、債務者から債権者に対し仮差押によって被った損害の賠償を求める訴訟において、請求棄却判決(債務者が敗訴)した場合も、「担保の事由が消滅」に当たります。
 これは、仮差押により損害を受ける債務者の損害賠償請求が敗訴となれば、債務者の損害を賄うための担保を維持していく必要性がなくなるためです。

さらっと書いてますが、損害賠償で債務者が敗訴した場合は、
仮差押⇒本案(債権者敗訴)⇒損害賠償(債務者敗訴)と、
2つの裁判を経ますので、一体何年かかるのやら。。。

返還の手続について

 担保取消しの申立人は、裁判所の窓口において、以上の事実を証明することができる判決正本、和解調書、調停調書等の正本、又は謄本を提示するとともに、その写しを提出します(裁判所で原本確認ができたら、正本は返還されます)。

 

2 担保権利者の同意がある場合(79条2項)

 担保権利者が担保提供者の取消しに同意したということは、担保権を放棄したということです。
 担保権利者の同意を得たときは、保全執行、保全異議、本案訴訟等の進行状況を問わず、担保取消しをすることができます。

 

 典型例は、裁判上の和解で訴訟が終結した場合です。和解調書の中に、担保取消しに同意する旨の条項を入れて和解をします。
 この他にも、訴訟「外」で和解が成立するならば、その和解書の中に同様の担保取消しに同意する旨の条項があれば、「同意」に該当します。

返還の手続について

 裁判上の和解であれば、前述の確定判決の場合と同様に、正本又は謄本と写しを裁判所に提出し、手続を進めます。
 訴訟「外」の和解であれば、和解書の他に、同意の意思表示をするのが弁護士であれば委任状の提出を、本人である場合には印鑑証明書の提出をするのが実務上の運用となっています。

✍ 「同意」の場合のワンポイント

 担保権利者の同意による担保取消に対しても即時抗告を申立てることができます。
 そのため、担保の取消決定がされても、即時抗告権が放棄されない限り、取消決定は直ちに確定せず、担保物の取戻しはできないことになります。

 そこで、和解条項では、担保取消しの同意と同時に担保取消決定に対し抗告しない旨の合意を条項化しておきましょう。

 訴訟外の和解では、担保権利者が、担保取消同意書と同時に担保取消決定に対する即時抗告権放棄書を作成しておきます。

3 権利行使の催告により同意が擬制される場合(79条3項)

 債権者と債務者の間の訴訟が完結し、損害賠償請求権の存否が確定したにもかかわらず、担保権利者がいつまでもその権利を行使しないと、担保提供者の利益が不当に害されることになってしまいます。

 そこで、担保提供者である債権者は、裁判所に申し立てて、担保権利者である債務者に対して損害賠償請求権の行使を催告してもらうことができます。

 そして、催告に対して債務者が所定の期間内に損害賠償請求権を行使するなどの措置をとらなかった場合には、担保の取消しに同意したものとみなされます。
 なお、東京地裁保全部では、権利行使をすべき期間を14日間、さらに催告に係る権利行使をした場合にそれを証明する書類を裁判所に提出する期間を5日間としています。

 本案において債権者が勝訴した場合には、担保事由の消滅(79条1項)が使えますので、この条項を使う必要はありません。
 この条項を使うのは、債権者が敗訴、または敗訴的和解をした場合や、本案の訴えを提起しなかった場合には、79条3項を利用します。

 この他に、債権仮差押えで第三債務者から、仮差押債権が存在しない旨の陳述があった場合や、動産仮差押えにおいて、執行現場で差押えできる動産がなかった場合など、仮差押えが奏功しなかった時も、債権者と債務者の間の訴訟が完結したものとして、この条項を利用します。

裁判で負けたり、仮差押で全然押さえられない時にも、担保の返還を受けられる規定ですね。
債権者として良い状況ではありませんが、見込みと異なる経過になっても担保返還を受けるのに大切な規定ですね。

返還の手続について

 訴訟が完結したことは、判決正本や和解調書等によって証明します。
 また、本案訴訟が提起されていないことは、担保取消しの申立人の上申書により証明します。

債務者が損害賠償請求を起こしたら・・・

 債務者が損害賠償などの措置を執らなければ、担保の取消同意が擬制されます。
 これに対し、債務者が損害賠償請求を求めた場合には、取消しの同意は擬制されませんので、債権者としても対応が必要になります。
 詳細については、下の「関連記事」をご参照ください。

【関連記事】 仮差押・仮処分の担保は?敗訴債権者の損害賠償(不法行為)責任
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保全処分が認められたのに本訴で敗訴したら?債権者のリスクを解説。
https://ik-law.jp/blog/tanporeturn/

4 担保取消決定にかかる期間と提出書類のまとめ

 以上の類型について、決定を得るまでのおおよその期間は次の通りです。

  1. 民訴法79条2項(同意)・・・・約1週間
  2. 民訴法79条1項(勝訴等)・・・約1か月
  3. 民訴法79条3項(権利行使催告)・・・約2か月

権利催告に時間がかかるのは分かりますが、「同意」と「勝訴」でも1か月近く違いますね。
担保取消しを考えるなら、本案で判決を目指してリスクを負うより、和解をすることも検討できそうです。

 また、提出書類をまとめると、次の表になります。

担保取消し-民事訴訟法79条1項~3項

共通書類担保取消の申立書1通(収入印紙不要)
供託(支払保証委託契約)原因消滅証明申請書 正本と副本 各1通
 ※「供託書」を別紙引用している場合は、「供託書」の写しを合綴し、契印を押す。
 ※証明事項1件につき、収入印紙150円
同証明書の受書1通(日付空欄のもの)
取消原因ごとに必要な書類1項
勝訴
全部勝訴の判決書など、事由が消滅したことを証明する文書
 ※判決書正本などとその写し
 ※上訴審判決がある場合は、一審から上訴審までのすべての判決書が必要
同判決確定証明書(写しは不可)
郵便切手(1089円×被申立人数)
2項
同意
【同意書による同意の場合】
同意書(日付入り)
被申立人の印鑑証明書(被申立人が同意書を作成する場合)
委任状(代理人が同意書を作成する場合) ※被申立人の代理人が同意をする場合、委任事項は①担保取消しの同意、②担保取消決定正本の受領、③同決定に対する即時抗告権の放棄
被申立人の「担保取消決定正本の受書」(日付空欄のもの)
被申立人の「即時抗告権放棄の上申書」(日付空欄のもの)
担保取消決定正本の受書がない場合は、郵便切手84円×被申立人数

【裁判上の和解による同意の場合】
和解調書正本とその写し
郵便切手(84円×被申立人数)
3項
催告
【本案訴訟を提起している場合】
訴訟が終了していることを示す文章
 判決正本及び同判決確定証明書 ※判決書正本などとその写し
 訴状の写しを添付した訴えの取下証明書

【本案訴訟を提起していない場合】
その旨を申立書に記載する。

郵便切手(1089円×2×被申立人数)
担保の取消し決定を受けるにあたり、提出する書類一覧

5 担保取消決定後の手続

 仮差押債権者は、担保取消決定確定の証明文書(担保取消決定正本、その確定証明書、又はこれに代えて裁判所が発行する供託原因消滅証明書)の交付を受けたら、供託所に提出して供託物の取戻しをします。

担保取消決定後の手続の流れ。
供託所にて手続を行います

第3 担保の取戻し

 前述のように、担保取消決定の手続は、担保権利者(債務者)の権利保護に配慮した厳格な手続が要請されています。
 一方、保全執行に着手しなかった場合のように、保全命令により債務者に損害が生じないことが明らかな場合もあります。

 その場合に、担保権利者に手続保障の機会を与える意味もありませんので、簡易な手続によって裁判所の許可を得て、直ちに担保の取戻しをすることができます。
 具体的には、保全執行期間が経過した場合や、保全命令の申立てを取り下げた場合、相続や合併などで債権者と債務者が同一になった場合があります。

利用できる場面は限られますが、債務者や第三債務者へ送達ができなかった場合に思い浮かべてもらえればと思います。

【参考】「担保の簡易の取戻しの手続」(東京地裁HP)

民事第9部における担保取戻しの運用基準

東京地裁民事9部における担保取戻しの運用基準