貸しているビルの賃料の値上げをしたいと思っています。

経済事情や賃料相場等の変動により、契約当初に設定された賃料が不相当になってしまい、現在の賃料が安い可能性があります。
大家(地主・賃貸人)にとって、昔のままの安い賃料を、現在の相場賃料に上げる交渉(増額交渉)をすべきか悩ましい場面です。
不動産所有者のよくあるお悩み

どのように進めればよいでしょうか?
賃料の増額請求する場合の手続の流れや、どのような見通しを持つべきかを教えてください。

賃料の値上げを求めたい場合には、まずは賃借人に対して増額したい旨の通知を送ることから始まります。

これに賃借人が同意してくれれば、増額された賃料が新たな契約となります。

賃借人が増額に同意しない場合には、法的手続を執らざるを得ません。

賃料増額(減額)請求の場合は、訴えを起こす前に、調停という話し合いを行う必要があります。
これを調停前置主義といいます。

つまり、全体の手続図として、3つのステップが用意されています。

  • 任意に相手方と交渉する
  • 調停を申立てる
  • 裁判を起こす

【賃料増額のポイント】
適正な賃料額が争われる場合、賃貸人、賃借人の要望だけでなく、近隣の不動産業者の意見、賃料に関する統計、不動産鑑定士の意見などが考慮されます。

特に不動産鑑定士の意見が最重要の証拠になります。

そのため、訴訟を含めて最後まで争うことを視野に入れる場合には、事前の鑑定の実施、もしくは裁判手続における鑑定の実施が必要不可欠になりますので、相応の費用負担があることを念頭に置かなくてはなりません。
(法的手続を想定しない場合には、鑑定を行わない方針もあり得ます。)

より詳しく解説します。

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借地・借家・売買・賃料増減額・立退きなど 不動産トラブル特設ページ

第1 賃料増額(減額)請求の流れ(全体像を知ろう)

この記事により、
①賃料(家賃)増減額請求は、請求をした時点から効力が生じる、
②任意交渉、調停、裁判という順で手続を踏んでいく流れであること、
③決着がつくまでは現状維持の賃料の支払いを求め、賃借人にとっては支払えば足りるものであるが、最終決着で裁判となれば年10%の利息の精算義務が生じること、
④不動産鑑定士による鑑定が極めて重要な証拠となること、
が分かります。
この記事のポイント!!

1 はじめに(賃料増減額請求権の意義)

借地借家契約は、長期にわたって継続することも多く、経済事情賃料相場等の変動によって、契約当初に設定された賃料が不相当になってしまう事態が起こり得ます。

そこで、賃料が不相当な水準のまま放置されるという不都合に対処するため、当事者の一方的意思表示により、従前の賃料を将来に向かって客観的に相当な金額に改定する権利(賃料増減額請求権が認められています(借地借家法11条1項、32条1項)。

この賃料増減額請求権は、その意思表示が相手方に到達した時に効果が生じるとされます(これを「形成権」と呼びます)。

つまり、判決などで増額請求が認められた場合には、判決が確定した時からではなく、増額の意思表示が賃借人に到達した時から増額分を請求することができます。

さらに、賃料の増額請求が認められた場合には、過去の増額分の精算を行うだけでなく、未払いとなっている賃料部分については年利10%を付して請求がすることができます。

(地代等増減請求権)
第11条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。


(借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

🔗「借地借家法」(e-Gove法令検索)

2 賃料増額(減額)が認められる要件とは?

上に引用しました借地借家法の条文から、①賃料が不相当となったこと、②賃料増減の意思表示をしたことが必要になります。

賃料(家賃)の増減額請求の要件事実として、①賃料が不相当となった時、②賃料増減の意思表示をしたこと、の2要件を挙げることができる。

【ポイント】
条文に「不相当となったときと明記されているため、既存の賃料が客観的に低すぎるだけでは足りず、従来と比較して、事情の変化が生じ、その結果、既存賃料が客観的に低すぎるようになったことが必要とされます。

3 賃料の増額を求めていく流れ(手続の全体像)

賃料(家賃)増減額請求の手続の流れは、大きく増額(減額)の請求を行った後、任意での決着がつかなければ調停を申立てます。
調停による話し合いで解決できなければ、訴訟を提起することになります(但し、調停前置主義)。

増額(減額)通知書の発送

賃料の増額・減額を具体的にどの程度にするかは、当事者間の協議によって決めることができます。
そのため、まずは賃借人に対して、賃料の増額を行いたい旨を通知しましょう。

賃料の増減額請求においては、この「増額請求をした事実」も重要となります(裁判で判決となった場合に年10%の利息発生の基準になります)。

裁判を見据える場合には、増額請求した事実を証拠として残すためにも、内容証明郵便の利用が推奨されます(裁判まで想定しない場合には、普通郵便やFaxでも問題ありません)。

調停の申し立て

当事者間において話し合いがまとまらない場合や、相手方(賃借人等)から増額を拒否された場合には、任意交渉は決裂といえます。

交渉が決裂した以上、増額を求める場合には法的手続へと移りますが、賃料増額(減額)請求についてはいきなり訴訟ではなく、調停を申し立てるように規定されています(調停前置主義:民事調停法24条の2)。

いきなり訴訟手続によって争うよりも、できるだけ当事者間により自主的に解決することが望ましいと思われる類型において、調停前置主義が採用されています。

調停前置主義の具体例には、離婚事件、離縁事件、婚姻無効事件などが挙げられます。
この例からも想像できるように、当事者間の関係が密接な類型について規定されています。

賃料の増額(減額)請求は、今後も長期的に続くであろう契約であることから、賃貸人と賃借人の継続的な関係性に配慮して調停前置主義が採用されています。

訴えの提起(裁判)

調停で話し合いがまとまらなかった場合には、裁判という強制力を伴った手続によって解決を図ります。

もっとも、賃貸借契約における適正な賃料額がいくらなのかは、裁判所も専門的な知見を有しているわけではありません。

適正な賃料額については、専門家である不動産鑑定士の不動産鑑定評価書が極めて重要な証拠となります。

【ポイント】
裁判では、賃貸借契約の内容や最終合意賃料が判明すれば、当事者の申請により、ほとんどの事件で賃料増減額請求の意思表示到達時点における適正継続賃料額について、鑑定(裁判所が主導する「公的鑑定」)が実施されます。

そして、この公的鑑定が出されれば、その鑑定評価額を基準にした和解が試みられます。
和解が成立しない場合には、判決が下されることになります。

第2 調停手続

1 調停委員会の構成

調停では、裁判官1名と調停員2名(多くは、不動産鑑定士弁護士)の調停委員会が事件を担当します。

賃料増減額請求では、内容がどうしても専門的にならざるを得ませんので不動産鑑定士が調停員として対応し、専門的な知見による助言を得ながら、話合いを行うことができます。

2 管轄(どこの裁判所で調停を行うか?)

賃料増減額請求の調停では、目的物件の所在地を管轄する簡易裁判所(又は当事者が合意で定める目的物件の所在地を管轄する地方裁判所)に調停を申立てることが必要です。

一般の民事調停のように、相手方の住所地や本店所在地を管轄する裁判所に調停を申立てることができませんので、注意が必要です。

なお、訴訟は、このような土地管轄の制限はありません。

3 調停の流れ

調停では、調停委員が申立人・相手方から交互に話を聞きます。

調停は、話し合いによって合意形成を目指す手続ですので、双方の主張が大きく乖離している場合には、合意の成立が難しいことが多いです。

しかし、そうでない場合には、調停員による専門的見地からのあっせんもあり、裁判まで争う肉体的・精神的・経済的負担なども総合考慮し、合意に向けて歩み寄りがなされることも多くみられます。

調停期日の流れ

調停委員は、裁判官1名と、不動産鑑定士1名、弁護士1名で構成されることが多いです。
調停期日においては、申立人と相手方が入れ替わって、調停委員より話を聞きます。

【ポイント】
専門家調停委員である不動産鑑定士が、簡易的な鑑定を行い意見を述べることがあります。
正式鑑定は費用がかかりますが、調停委員による簡易鑑定では当事者に追加費用がかからずに、簡易迅速に専門的な評価を得ることができます。

専門家の関与を得ながら話合いを行えることが、調停の最大のメリットです。

4 調停の終了

調停が成立すれば、調停調書は判決と同一の効力があります。

調停が不成立で終わった場合には、2週間以内に訴えを提起すれば、調停を申立てたときに訴訟提起があったものとみなされます。

このメリットとしては、調停で要した裁判費用をそのまま訴訟に流用できる点が挙げられます。

第3 賃料増額(減額)請求の裁判

1 請求のポイント

何を請求するか?

賃料増減額請求では、スタンダードなものは、「原告の被告に対する別紙物件目録の土地/建物の賃料は、令和〇年〇月〇日以降、〇〇円であることを確認する。」という賃料の確認を求める訴えです。

さらに、賃貸人であれば、強制執行ができるように確認だけでなく給付の訴え(「〇〇円を支払え」という内容。)を追加することがあります。

具体的には、「被告は、原告に対し、〇円及び内金〇円に対して令和〇年〇月〇日以降、内金〇円に対しては令和〇年〇月〇日以降、各支払済みまで年1割の割合による金員を支払え」を追加します。

賃料増減請求の対象となる期間の終わりは、訴え提起段階では特定できず、口頭弁論終結時として特定されます。

そのため、給付請求を追加する場合には、終結時までの賃料差額を請求するために請求の趣旨の変更(拡張)申立てを行う必要があります。

訴額の算定について

実務上、賃料増減額請求の訴額(裁判所に訴えを求める金額)は、訴え提起までの期間に、平均審理期間を12ヵ月と考慮して算定します。

具体的には、差額✖(過去分の月数+12ヵ月)として算定されるのが一般的です。

賃料増減額請求の裁判にあたり、訴額の算定は、差額に増減額の始期から訴え提起までの期間に12ヵ月をプラスした月数を乗じて算定します。

2 審理のポイント

「直近合意時点」はいつか?の争い

賃料増減額請求権は、「直近合意時点」からの事情変更により賃料が不相当になっていることが必要です。

直近合意時点」とは、単に契約が更新されているだけでは足りず、あくまで経済事情の変動等を踏まえて当事者間で賃料額に関する具体的かつ実質的な協議がなされていることが必要とされます。

そのため、賃料額について実質的な協議が行われたか否かが争われることも多く、過去の当事者間のやり取りが証拠として重要になってきます。

裁判所による鑑定(公的鑑定)の実施

賃貸借契約の内容や最終合意賃料が判明し、訴訟の経過として和解等がなかなか整わない場合には、当事者の申請に基づいて裁判所は、鑑定(公的鑑定)を実施します。

鑑定対象となる賃料は、賃料増減額請求の意思表示到達時点における適正継続賃料額となります。

過去の裁判例においても、一方当事者が行った鑑定(私的鑑定)だけで決着がつくことはほぼなく、公的鑑定が実施されるのが通例といって差支えません。

そしてこの公的鑑定の結果を基に最終的な和解協議も、判決も行われています。

第4 賃料増額(減額)の請求をされた当事者の対応

1 改定されるまでは従前通り

冒頭で、賃料増減額請求は、その意思表示が相手に到達した時から効果が発生しますと説明しました。

しかし、これまで説明しましたように、決着までには任意交渉だけでなく、調停や裁判もあり、賃料増減額の意思表示から解決までにはタイムラグが生じます。

そうすると、請求を受けた当事者はどのように対応すれば良いのでしょうか?

これに対する答えですが、基本的には、従前と変える必要はありません。


借地借家法の条文には、「裁判が確定するまは、相当の賃料を支払うことをもって足りる。」(同法11条2項、32条2項)と規定され、従前の賃料は基本的に「相当の賃料」といえます。

増額請求を受けた賃借人であれば、これまで通りの賃料を支払います。
減額請求を受けた賃貸人であれば、これまで通りの賃料を請求します。

賃料額が、固定資産税を下回っているような特殊な場合でない限り、これまで通りの賃料を支払うことで債務不履行などの責任が発生することはありません。

その代わり、裁判が確定した場合(増減額が認められた場合)には、差額分に年利10%の利息を付して清算する要があります。

これまで通りの賃料を支払い続けることで問題なしとする代わりに、最終的に差額分に年利10%を付けることで、全体のバランスを取っています。

年利10%は、あくまでも裁判で判決まで進んだ場合のもので、交渉や調停、裁判和解などで解決が図られる場合には、請求しないまま終わることが多いです。

(地代等増減請求権)
第11条 

 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

(借賃増減請求権)
第32条 

 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

🔗「借地借家法」(e-Gove法令検索)

2 貸主が増額請求をした場合

増額請求をしても、解決されるまではこれまで通りの賃料しか受け取れません。

そのため、増額した賃料が支払われなかったとしても、それを賃料の一部未払いとして扱うことはできず、債務不履行等を主張することはできません。

従前の賃料は、増額を求めている賃料の「一部」として受領していることを明確にしておけば、賃料増額請求において不利に扱われることはありません。

「とりあえずもらっておくが、金額は満足していない。」という姿勢は、増額を求める態度と矛盾するものではありません。

3 借主が減額請求をした場合

減額請求をした場合であっても、これまで通りの賃料を支払い続ける必要があります。

そのため、減額請求に絶対の自信があったとしても、一方的に減額した賃料しか支払わない場合には、賃料の一部不支払いとなってしまい、貸主から賃貸借契約の債務不履行解除をされてしまう可能性があります。

増額した金額でない限り、貸主が賃料の受領拒否をする場合もあるかもしれません。
その場合には、これまで通りの賃料を銀行口座に入金したり、法務局に供託するなどの対策をしましょう。

第5 鍵を握る「不動産鑑定」とは?

1 賃料増額請求における「鑑定」とは?

「賃料」には、新規賃料と継続賃料がある

同じ「賃料」という言葉でも、新規賃料と継続賃料とでは異なる評価を受けます。

まずは、この2つの概念があることを押さえておきましょう。

新規賃料とは、新しく賃貸借契約を締結するときの賃料額をいいます。

新規賃料は、市場の中での競争関係における賃料相場があるため、高い賃料額が算定されやすいといえます。

これに対して、継続賃料とは、現在契約関係が継続している当事者間における適正な賃料額をいいます。

そのため、継続賃料は、現行賃料を基準としながら、その合意をした時点からどのような経済事情の変化があったのか等を考慮しながら判断されます。

賃料の増減額請求を行うにあたっては、この「継続賃料」の鑑定になります。
そのため、新規賃料と継続賃料を区別して考える視点が大切です。

不動産鑑定評価基準

適正な継続賃料を算定するにあたり、不動産鑑定士は、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に沿って行います。

【不動産鑑定評価基準のポイントは2つです】

  • 鑑定手法として、差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法を用いて、これらを関連付けて算定されること。
  • 直近合意時点からの客観的経済的事情変更に加え、賃貸借契約締結・賃料改定の経緯や契約内容などの事情も総合的に考慮して算定されること。

不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、・・・、継続賃料にあっては差額配分法利回り法スライド法賃貸事例比較法等がある。

継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。

🔗「不動産鑑定評価基準」(国土交通省)

2 公的鑑定(裁判所鑑定)が重視される理由とは?

賃料の評価を検討する「鑑定」についても、種類があります。

各当事者が独自に不動産鑑定士に依頼をして裁判で証拠提出するものを私的鑑定(当事者鑑定)と呼びます。
これに対して、裁判所が選任した鑑定士によるものを公的鑑定(裁判所鑑定)と呼びます。

当事者が証拠提出する私的鑑定に対し、公的鑑定は裁判所選任の鑑定士による鑑定となります。

そして、裁判となり判決が下される場合には、ほぼ必ず公的鑑定(裁判所鑑定)が実施され、これが非常に重要視されます。

裁判所は、公的鑑定の結果に特に不合理な点がなく、他の証拠との整合性にも問題がなければ、公的鑑定を採用して(私的鑑定があってもそれを排斥します)、「相当賃料額」を認定することが多いです。

私的鑑定(当事者鑑定)が異なる取扱いを受ける理由とは?

同じ専門家である不動産鑑定士の鑑定にもかかわらず、私的鑑定よりも公的鑑定が重視される理由としては、一般に3つの理由が挙げられます。

  • 裁判所が選任した鑑定人は、中立公正な立場で鑑定を行うこと
  • 公的鑑定は裁判の終盤に実施されることが多く、双方の主張や資料が出た後での鑑定となることから、双方の事情を十分に洞察して鑑定を行うことができること
  • 私的鑑定は、一方当事者からの依頼により鑑定を行うため、基礎資料の採用や価値判断の中に依頼者への偏りがみられること

このような裁判所の判断傾向から、公的鑑定(裁判所鑑定)が非常に重要な鍵を握っているといえます。

不動産鑑定士の、第三者的立場ゆえに重要視されます。

そのため、裁判所から選任されている鑑定士に私的鑑定をお願いしても、公的鑑定と同じ証拠価値を持たせられるわけではありません。

3 私的鑑定を行う意味はあるか?

それでは、裁判で決着される場合には、ほぼ必ず公的鑑定(裁判所鑑定)が実施され、かつ公的鑑定が重要視されるならば、私的鑑定を行う意義はあるのでしょうか。

鑑定費用を自己負担してまで、私的鑑定を行う意義はないのでは?

確かに、賃料差額が小さいケースでは、私的鑑定を積極的に活用する必要はないものと考えます。

ただ、私的鑑定には以下のようなメリットがありますので、賃料差額が大きいケースでは、積極的に考えて良いでしょう。

  • 交渉の強い武器になること
    ⇒ 裁判に至る前に鑑定書があると、一番強い証拠を所持する点で有利に進める事ができます。
      また、調停のように公的鑑定が実施されない段階では、同様に有利に進めることができます。

  • 公的鑑定にも事実上の影響を及ぼすことができること
    ⇒ 説得力のある私的鑑定は、公的鑑定に事実上の影響を与えますので、公的鑑定においても実質的に優位な戦いをすることが可能になります。

  • 公的鑑定に専門的見地から反論できる武器になること
    ⇒ 公的鑑定が重視されるとはいえ、裁判所による調整がなされることも少なくありません。その際に当方の主張を補強してくれるのは、何より専門家たる鑑定士の意見であり、私的鑑定があるからこそ専門的見地からの反論が可能となる面があります。

4 鑑定費用の相場

不動産鑑定士に賃料鑑定を依頼すると、いくらくらいかかるのでしょうか。

もちろん物件次第で全く金額も変わってきます。
住居と、大型複合施設を同一にすることはできません。

極めてざっくりとした相場観では、安い事案では30万円程度から、高い事案で150万円程度ではないかと感じています。
(ただ、毎回個別に確認するのが、結局はベストです。)

公的鑑定(裁判所鑑定)の費用は誰が負担するか?

公的鑑定は、公的鑑定を望む方(一般には原告)が裁判所に申出をし、申出をした側が鑑定費用を予納します。

この鑑定費用は「訴訟費用」として、最終的には判決で原告被告双方に割り振られます。

しかし、この訴訟費用については任意での支払いがなされるとは限らず、かつ、強制執行するには「訴訟費用額確定処分の申立て」の手続が別途に必要となります。

そのため、この煩雑さゆえに訴訟費用の回収まで行おうとする当事者は多くなく、現実には公的鑑定の申出をした側が全額負担をする結果になっていることも多くあります。

5 (応用)不動産鑑定士の鑑定結果が、そのまま裁判結果とならない理由は?

不動産鑑定士は、国交省の定める基準に従い、適正継続賃料額を決定します。

ただし、裁判所において公的鑑定が重視されてはいるものの、そのまま採用されることは必ずしも多くありません。

これは、借地借家法に賃料増減額請求が「不相当」となった場合に行使できるものと規定されていることに由来します。
あくまでも裁判所で判断されるのは、「相当」賃料です。

そのため、相当賃料と適正賃料は同義と言い得るものの、裁判所は適正賃料を考慮しながら、さらに賃貸借契約の個別具体的な事情を考慮して、当事者の衡平を図る見地から具体的な賃料額を定めるべきと考えられています。

客観的経済事情の評価は不動産鑑定士の判断を尊重しつつ、当事者の個別事情などの評価は、不動産鑑定士によって考慮の有無や程度も変わり得るため、当事者の衡平を図る見地から、最終的には裁判所が積極的に判断をしている、と整理できますね。

相当賃料=適正賃料と言い得るものの、個別事情・特殊事情が「相当」賃料ではより考慮されます。

第6 よくいただくご質問

賃料の増額請求はどのような流れで進めるのですか?

大きく3つのステップで進みます。
まず①任意交渉として賃借人に増額通知を送り、合意を目指します。
合意できなければ②調停の申立てに移ります。
調停でも決着しない場合は③裁判(訴訟)へと進みます。
賃料増減額請求は調停を経なければ訴訟を起こせない「調停前置主義」が採用されているため、原則としていきなり裁判にはできません。

賃料増額請求が認められる要件は何ですか?

借地借家法上、①賃料が不相当になったこと、②増額の意思表示をしたことの2点が必要です。
重要なのは、単に現在の賃料が相場より安いだけでは足りず、契約当初と比べて経済情勢や近隣相場、公租公課などに事情変更が生じた結果、賃料が不相当になったといえることが必要です。

増額請求の通知は内容証明郵便で送る必要がありますか?

法的には必須ではありませんが、裁判まで見据える場合は内容証明郵便の利用が強く推奨されます
増額請求をした事実と日付が証拠として確定し、裁判で認められた際に発生する年利10%の利息の起算点にもなるためです。
裁判を想定しない場合は、普通郵便やメールでも差し支えありません。

増額請求が認められたら、いつから増額分を請求できますか?

賃料増減額請求権は「形成権」とされており、増額の意思表示が相手方に到達した時点から効力が生じます。
そのため、判決が確定した時点からではなく、通知が届いた時点まで遡って増額分を請求できます
また、裁判で増額が認められた場合には、未払いの増額分に対して年利10%の利息を付けて請求することができます。

増額請求を受けた借主は、どう対応すればよいですか?

基本的には従前どおりの賃料を支払い続ければ足ります
借地借家法上、増額を正当とする裁判が確定するまでは「相当と認める額」を支払えば足りるとされており、従前の賃料は原則としてこれにあたります。
ただし、裁判で増額が確定した場合には、差額分に年利10%の利息を付けて清算する義務が生じます。支払いを止めると債務不履行になるリスクがあるため注意が必要です。

調停と裁判では何が違いますか?

調停は、裁判官1名と不動産鑑定士・弁護士などの調停委員2名が関与しながら、当事者間の話し合いによる合意形成を目指す手続です。
費用・時間・精神的負担が裁判より少ない点がメリットで、専門家である不動産鑑定士による簡易鑑定の意見も得られます。
裁判は、強制力を伴う手続であり、最終的に公的鑑定(裁判所鑑定)が実施され、その結果をもとに和解または判決が下されます。

賃料増減額請求において不動産鑑定はなぜ重要なのですか?

適正な賃料額は専門的判断を要するため、不動産鑑定士による鑑定評価書が最重要の証拠となります。
特に裁判では、裁判所が選任する公的鑑定(裁判所鑑定)がほぼ必ず実施され、中立・公正な立場からの鑑定として非常に重視されます。
一方当事者が自ら依頼する私的鑑定は、依頼者への偏りが疑われる点から、公的鑑定に比べて証拠としての評価が低くなる傾向があります。

私的鑑定(当事者鑑定)を行う意味はありますか?

裁判では公的鑑定が重視されますが、私的鑑定にも有効な場面があります。
具体的には、任意交渉や調停の段階で交渉を有利に進める武器になること、公的鑑定の結果に事実上の影響を与えられること、そして公的鑑定の内容に専門的見地から反論する根拠となることが挙げられます。
賃料差額が大きいケースでは積極的に検討する価値があります。
なお、費用の目安はケースによりますが、概ね30万円〜150万円程度とされています。

賃料増減額請求は弁護士に依頼すべきですか?

賃料増減額請求は、不動産鑑定・法的手続・交渉戦略が複合する専門性の高い分野です。
弁護士に依頼することで、相手方との交渉の一任、鑑定書の妥当性の吟味、調停・裁判における法的主張をまとめて任せることができます。
特に賃貸人側では、退去を視野に入れた戦術的な対応も含めて検討できるため、早期の相談が有利な解決につながります。

第7 弁護士の活用意義と費用

1 弁護士を活用するメリット

相手との交渉を一任できることはもちろん、
法律的な見地から現在の家賃の不当性を主張します。

さらに、鑑定書の妥当性(不当性)を「不動産✕法律」の専門家として吟味し、優位な解決が得られるよう最善の戦いができます。

賃貸人側であれば、退去を睨んだ戦術的な使い方も検討できます。

ご相談だけでも、お問い合わせください。

弁護士 岩﨑孝太郎
この記事の著者
東京法務局 筆界調査委員

岩﨑 孝太郎 文の風東京法律事務所 弁護士・東京弁護士会所属

本記事は、文の風東京法律事務所の弁護士・岩﨑孝太郎が執筆しています。 2009年に弁護士登録後、不動産問題、借地借家、建物明渡し・立退き、賃料増減額請求などの分野に取り組み、 裁判例と実務の双方を踏まえた情報発信を行っています。

  • 東京弁護士会所属
  • 不動産・借地借家トラブル対応
  • 建物明渡し・立退料の実務解説
  • 中小企業法務・顧問契約にも対応

2 当事務所の弁護士費用

初回法律相談料
60分 1万6,500円(税込)
賃料・地代の増減額交渉

【算定基準】 経済的利益 = 増減額分の7年分の額

手続 着手金(税込) 報酬金(税込)
交渉・調停 33万円 ~ 経済的利益の 11%
訴訟 44万円 ~ 経済的利益の 11%
※表は左右にスクロールして確認できます

※但し、報酬金の最低額は 22万円(税込)となります。

【例】賃料増額請求で「5万円」の増額が認められた場合
着手金:33万円(税込)
報酬金(経済的利益からの算定):
5万円 × 12ヵ月 × 7年 = 420万円(経済的利益)
420万円 × 11% = 46万2,000円(税込)
交渉・訴訟の費用(目安)
経済的利益 着手金 報酬金
300万円以下 最低33万円 17.6%
300万円超~3000万円以下 5.5%+9.9万円
(最低33万円)
11%+19.8万円
3000万円超~3億円以下 3.3%+75.9万円 6.6%+151.8万円
3億円超 2.2%+405.9万円 4.4%+811.8万円
※表は左右にスクロールして確認できます

※報酬金の最低額は11万円(税込)となります。
※総額の下限は、交渉44万円~法的手続66万円~となります。

3 ご不安な方へ|よくいただくご質問

まだ大きなトラブルになっていません。「ちょっと怖い・おかしい」程度の不安や違和感でも相談してよいですか?

もちろんです。
不動産トラブルは、初期対応が非常に重要です。
契約内容の確認や、相手方への最初の通知(内容証明郵便など)を法的に正しく行うことで、被害の拡大を防ぎ、有利に交渉を進められる可能性が高まります。
「不安」・「違和感」の段階でご相談いただくのがベストタイミングです。

相談料はいくらかかりますか?

初回相談料として、1時間以内:1万6,500円を頂いております。
以降、30分以内の延長ごとに8,250円を頂いております。

弁護士費用規定を見ても、よく分かりません。

ご安心ください。
ご相談の際に、事案の内容をうかがった上で、着手金や報酬金について明確なお見積もりをご提示します。
ご納得いただいてから契約となりますので、予測不能な費用が出る心配はありません。

相談方法を教えてください。

以下のいずれかの方法でご相談を承っております。

  • オンライン相談(Google Meetなどを利用します)
  • ご来所による対面相談

※正確な状況をお伺いするため、恐れ入りますが、お電話やメールのみでのご相談は承っておりません。

オンライン相談が可能とのことですが、遠方(地方)からの相談も対応していますか?

はい、もちろんです。
当事務所はGoogleMeetなどのオンラインツールを最大限活用し、全国の不動産売買トラブルに対応しております。

これまでにも、北は札幌市から、南は那覇市や宮古島市まで、遠方のお客様からのご相談・ご依頼実績がございます。
お住まいの地域にかかわらず、専門家による法務サポートを提供いたしますので、どうぞ安心してご相談ください。

相手(売主・買主・不動産会社)と直接話したくありません。弁護士に全て任せられますか?

はい、お任せください。
弁護士がご依頼者様の代理人となると、相手方との交渉窓口はすべて弁護士になります(受任通知を送付します)。
相手方からの連絡にストレスを感じることなく、法的な手続きを進めることができます。

相談の際、どのような資料を準備すればよいですか?

必須ではありませんが、以下の資料をお持ちいただくと相談がスムーズです。

  • 契約書(売買・賃貸借)
  • 重要事項説明書
  • 物件の図面、パンフレット
  • トラブルの内容がわかるもの(写真、メール、相手方からの通知書など)
  • 経緯をまとめたメモ(時系列で何があったか)

不動産業を営んでいます。 不動産実務に詳しい顧問弁護士を探しています。
どのようなサービス(プラン)がありますか?

当事務所は、不動産業者様向けの顧問サービスに特に力を入れております
日々の契約書チェックやクレームの初期対応など、貴社のリスク管理を法務面からサポートします。

顧問サービスは、以下のメニューをご用意しております。
プランに関するご相談やお見積もりは無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

(より詳しく⇒)🔗「顧問サービス紹介ページ」

アドバンス
大部の書面なども
見てもらいたい
11 万円(税込)/ 月
  • 社員数の目安 制限なし
  • 月対応時間 5時間
  • 月相談件数 月5案件
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  • 内容証明郵便 月1通無料
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手厚いサポート
22 万円(税込)/ 月
  • 社員数の目安 制限なし
  • 月対応時間 12時間
  • 月相談件数 月12案件
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  • 内容証明郵便 月3通無料
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  • 出張・直接交渉
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顧問弁護士以外に気軽に相談したい方へ
3.3万円 (税込)/ 月
社員目安:10名まで 月1時間 / 月1案件 契約書チェック:○

4 お気軽にご相談ください【お問い合わせフォーム】

法律相談は「来所」または「オンライン」で承ります(電話・メールでの法律相談は行っておりません)。 顧問契約等のサービスに関するお問い合わせは、来所・オンライン・電話・メールのいずれの方法でも承ります。

*は必須項目です

賃料をめぐるトラブルの解決には、一般的な不動産問題とは異なる専門的なノウハウが不可欠です。

当事務所は不動産トラブルに注力しており、終わりの見えない対立に法的な見地から終止符を打ちます。

あなたの正当な権利を、私たちがしっかりと守り抜きます。

弁護士紹介

弁護士 岩﨑孝太郎
弁護士
岩﨑 孝太郎
  • 1981年生まれ
  • 1997年文京区立第十中学校卒業
  • 2000年私立巣鴨高校卒業
  • 2006年東京大学教育学部卒業
  • 2008年東京都立大学法科大学院卒業
  • 2009年弁護士登録
  • 2024年文の風東京法律事務所を開設
弁護士 小川弘義
弁護士
小川 弘義
  • 1985年生まれ
  • 2004年神奈川県立横浜翠嵐高校卒業
  • 2009年一橋大学法学部卒業
  • 2011年東京都立法科大学院卒業
  • 2012年弁護士登録
  • 2024年文の風東京法律事務所を開設

アクセス

文の風東京法律事務所
所在地 〒112-0004
東京都文京区後楽2-3-11 ニューグローリビル3階
アクセス 各線「飯田橋駅」東口・C1出口より徒歩約5分
お問い合わせ TEL:03-3524-7281
受付時間:平日 9:00~18:00

お問い合わせ

ご相談については、予約制となっております。
来所相談だけでなく、Zoom・Google Meetによるオンライン相談も対応しておりますので、全国対応しております。

お問い合わせフォームまたはお電話にてご連絡ください。

STEP
1

相談時に必要なもの

事前に以下のものをご準備いただくと、ご相談がスムーズに進みます。

  • 相談内容の要点をまとめていたメモ
  • ご相談に関する資料や書類
STEP
2

ご相談

法律上の問題点や採り得る手段などを専門家の見地よりお伝えします。

問題解決の見通し、今後の方針、解決までにかかる時間、弁護士費用等をご説明いたします。

※ご相談でお悩みが解決した場合は、ここで終了となります。

STEP
3

ご依頼

当事務所にご依頼いただく場合には、委任契約の内容をご確認いただき、委任契約書にご署名・ご捺印をいただきます。

STEP
4

問題解決へ

事件解決に向けて、必要な手続(和解交渉、調停、裁判)を進めていきます。

示談、調停、和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。

STEP
5

終了

委任契約書の内容にしたがって、弁護士費用をお支払いいただきます。
お預かりした資料等はお返しいたします。

STEP
6

不動産トラブルの法律相談は
弁護士にご相談ください

全国対応(オンライン相談可) 初回相談料:1時間以内 16,500円(税込)
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