借地契約は、何十年も前に合意した契約条項が残っていることが多々あります。
借地契約の内容の中に、築造する建物を「非堅固建物に限る」などのように、「居住用に限る」、「木造2階建てに限る」など、建物の種類、構造、規模、又は用途を制限する借地条件を定めることがよくあります。
これは、借地権者が借地上にどのような種類、構造、規模、用途の建物を建築し得るかによって、地代の額や契約終了時に地主が買う建物価格に影響を及ぼすからです。
そして、借地条件に反して建物を建てたときは、原則として用法違反を理由とする借地契約の債務不履行となります。
そうすると、借地人としては、借地条件の変更について地主の承諾が得られるように話合うより仕方ありませんが、地主が必ずしも了承してくれるとは限りません。
その場合には、借地人は借地条件の変更を裁判所に求めることになります。
この記事では、借地契約の条件変更に関する問題を取り上げます。
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第1 借地契約に記載される条件とその変更について
1 借地条件とは
借地条件とは、借地権の存続期間、借地上建物の種類・構造・規模・用途、借地上建物の増改築の可否、地代・賃料の額・支払方法、借地権譲渡の可否、土地転貸の可否等々を含む、借地契約の一切の条件をいいます。
借地契約は、建物の所有を目的とするものである以上、借地人がどのような建物を築造しようと自由なはずです。
もっとも、借地の利用については、地主にとっても借地人にとっても大きな関心・影響があることですので、特約で制限することが認められています。
借地契約に記載される借地条件としては、旧借地法時代では堅固建物と非堅固建物を区別していましたので、「非堅固建物しか建築が認められない」などの条件が典型的です。
他に、借主の住居として使用するという用途を制限したり、2階建までに限るという建物の規模に関するものや、さらには店舗の営業時間を制限するものなどが具体例として挙げられます。
2 借地条件を変更したい場合
借地人が、契約された借地条件に対して変更を求める場合には、地主の承諾を得なければなりません。
そして、借地人と地主が話し合いで解決を図ることができない場合には、借地条件変更許可の申立て(借地非訟)をすることができます。
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借地条件変更の申立て【借地非訟】弁護士が詳しく解説3 借地条件の変更が認められる場合とは
裁判所が借地条件変更の許可をすることができるのは、まず「法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更」(借地借家法17条)が必要です。
木造低層建物が多かった付近が、中・高層の建物が多くなった場合や、住宅地区から商業地区に変化した場合などが典型的です。
そして「事情」として、あくまでも借地人の都合によらない客観的事情に限られるとする有力説があります。
もっとも、借地人の家族が増えたから借地条件の規定より広い建物を認めてもらったり、借地人が高齢化して老人ホームなどに入る場合に、自家用に限るとの定めを賃貸に出すことを認めてもらうなどは、土地の合理的利用を図るという制度趣旨に合致するものといえます。
そのため、借地人としては、主観的な事情によって借地条件の変更を求める場合であっても、積極的な活用を検討すべきです。
(借地条件の変更及び増改築の許可)
🔗e-Gov法令検索「借地借家法」
第17条第1項
建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
第2 借地条件に違反した場合は?解除となるか?
1 解除が認められる条件
有効な借地条件が存在する場合において、借地人が違反した場合には、当然に債務不履行となります。
もっとも、それを理由とする解除が認められるかは別途に検討する必要があります。
借地条件に違反する債務不履行について、裁判所は、地主との信頼関係を破壊するおそれがないとき、又は信頼関係を破壊したと認めるに足りない特段の事情のあるときは、地主からの解除が認められません(最判昭和41年4月21日)。
2 債務不履行行為と信頼関係破壊の程度
たとえば、非堅固建物(木造建物など)に限るとの借地条件に違反して、堅固建物(鉄骨鉄筋コンクリート造りなど)を無断で築造することは、一般的には重大な債務不履行違反といえ、解除が認められやすいでしょう。
同様に、建物の種類や規模を制限する内容の借地条件に違反した場合も、債務不履行の程度は大きいものといえます。
これに対して、建物の用途を制限する旨の条件(居住用に限る、自己使用に限る、店舗は〇〇業に限るなど)については、違反による背信性は低いと考えられており、解除が認められない場合も少なくないものと考えられます。
3 裁判例の概観
借地条件の違反行為が争われた裁判例の多くは、建物の構造や無断増改築のケースを除くと、駐車場に絡むものが多いです。
解除が認められた事例
- 木造住宅木工工場の所有ないし材木置場を使用目的とする土地賃貸借において、一部に波型スレート葺軽量鉄骨造有料駐車場を築造したことをもって用法違反として当該部分について解除を認めました(東京高判昭和48年10月30日)。
- 「社宅、工場等の敷地」を使用目的とする借地契約において、当該土地を駐車場として使用した行為について解除を認めました(東京地判昭和50年3月31日)。
- 借地上に居宅を所有する借地人が居宅の玄関前のスペースを駐車場(2台分)として第三者に賃貸した行為が転貸に当たると判断され、契約解除が認められました(東京地判平5年3月29日)。
- 非堅固建物所有目的の借地契約において、借地権者が建物新築の際、地下駐車場を建築するために、土地のほぼ全域にわたって深さ2メートル余まで掘り下げて土を搬出した場合に、用法違反を理由とする解除が認められました(東京地判平6年1月25日)。
解除が認められなかった事例
- 【建物を築造しないこと】
借地人に建物築造の義務はなく、建物を築造しないことで地主が不利益を受けることも想定できないため、借地権者(借地人)が建物を築造しないことが土地の用法違反にあたるとはいえないと判断した事例(東京地判昭50年6月30日)。 - 建物所有を目的とする土地の賃貸借において、賃借人が契約締結以来建物を建築せず、駐車場として土地を使用した場合に、用法違反を認めながら信頼関係の破壊がないとしました(東京地判平4年7月16日)。
- 土地の3分の1程度をコンクリート舗装して貸駐車場として場合については、転貸にも用法違反にも該当しないと判断しました(東京地判昭50年7月28日)。
- 土地の全部をアスファルト敷に舗装して有料駐車場としたことは土地の転貸及び用法違反にあたるとしながら、信頼関係破壊に至っていないとして解除を否定しました(東京高判平2年4月26日)。
- 「木造建物所有」を目的とする借地契約において、旧建物取壊後新築をするまでの間、当該借地を自動車有料駐車場として利用することは用法違反にあたらないと判断しました(東京地判昭48年3月20日)。
第3 借地のトラブルは弁護士に相談!
借地契約に付される条件については、まずそもそも付される条件が有効か?という観点から検討する必要があります。
そのうえで、借地条件(特約)との抵触が問題となりそうな場合には、地主との話合いを行い、協議が不調となる場合には、借地条件変更許可の申立てを検討します。
裁判例を見る限り、軽微な違反にすぎないと思われる事例においても、解除が有効とされるケースがあります。
借地人にとって、債務不履行解除が認められた場合の損害は甚大なものがあり、地主からの解除が認められる可能性は低いと考えたとしても、無断で強行することはリスクの大きい選択といわざるを得ません。
あくまでも、慎重に対応することを推奨いたします。
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