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債権に対する強制執行は、具体的にどのような流れで進められますか?
債権執行にあたり、どのような点に注意すれば良いでしょうか? -
債権回収の強制執行として、一番利用されるのが、この「債権執行」です。
債権執行で狙う代表的なものは、預貯金債権、賃料債権、給与債権、生命保険金支払請求権などです。
- 申立て
- 債務者の住所地の裁判所へ申立てます。
債権執行は、債権の特定がネックになります。
- 裁判所からの差押命令発送
- 裁判所は申立てを相当と認めると、差押命令を第三債務者に、その後に債務者に発送します。
- 第三債務者へ差押命令正本送達
- 債権執行では、差押命令正本が第三債務者に送達された時に差押の効力が生じます。
差押には、①第三債務者に対して、債務者への弁済を禁止する効力と、②債務者に対して、債権の取立てその他の処分を禁止する効力があります。
- 債権者の取立て
- 債権者には、差押命令が債務者に送達された日から1週間(給与等の場合は4週間)経過すれば取立権が発生しますので、第三債務者から直接取立てます。
- 回収 or 裁判所による配当手続
- 債権者が第三債務者より回収できれば、裁判所に取立届を提出します。
債権の競合がある場合には、第三債務者は供託し、裁判所が配当手続を行います。
第1 はじめに
債権回収の強制執行手段で最も利用されているのが、この債権執行になります。
令和3年度の申立件数は、不動産が6,000件弱なのに対し、債権執行は14万件弱あります(司法統計参照)。
債権の仮差押えを経ていなくても、債権執行で問題になる点は共通しますので、合わせて記事をご覧いただければ幸いです。
【関連記事】 「債権の仮差押え」~債権回収へ幾つもの壁を乗り越えよう!!
第2 債権執行(差押)の申立て
債務名義をはじめ、強制執行に必要な3点セット(債務名義、執行文、送達証明書)を揃えたら、裁判所に対して債権執行の申立てを行います。
【関連記事】 「強制執行」~債務名義、執行文、送達証明書を準備し権利の実現へ
【関連記事】 執行文の付与とは?~債務名義を実現する、強制執行必須のアイテム
債権執行の全体図をより詳細にしたものが、下図になります。
この記事で全体像を説明致します。
🔗「債権差押命令手続の流れ」(松江地方裁判所HPより引用)
1 管轄
債務者の所在地を管轄する地方裁判所に申立てます。
申立て時を基準にしますので、差押命令発令後の転付命令や換価手続までの間に、債務者の所在地が移転しても管轄は失われません。
2 申立書類等について
申立書は、①表紙、②当事者目録、③請求債権目録、④差押債権目録の4つを1セットにします。
添付書類として、債務名義、執行文、送達証明書、法人登記簿(当事者に法人がいる場合)が必要になります。
裁判所のホームページに書式集などがありますので、これらを参考にしましょう。
第三債務者が法人の時も、法人登記簿が必要になりますので、しっかりと準備します。
仮差押と同様に、第三債務者に対する陳述催告も忘れないようにしましょう。
✍ 申立て参考URL
・【書式・案内】「債務名義に基づく差押え(扶養義務関係を除く)」(東京地裁HP)
・【書式】「債権執行に関する申立ての書式一覧表」(東京地裁HP)
・【書式・案内】「債権差押命令の申立てをされる方へ」(大阪地裁HP)
・【書式】「執行手続書式例」(大阪地裁HP)
・【書式・案内】「債権執行手続について」(釧路地裁HP)
3 費用面
債権執行の費用感として、
①申立手数として1件あたりの申立てにつき、4,000円。
②予納郵券として、3,500円程度(🔗「予納郵便切手一覧表」裁判所HP) を想定すれば足ります。
4 請求債権の記載
請求債権を、債権者の債務者に対する他の債権と識別できる程度に特定して記載する必要があります。
請求債権の記載において、一番手間なのは利息と損害金だと思います。
付帯請求などの計算を第三債務者に強いないよう、実務においては、申立日までの利息又は損害金に限定して請求金額を確定する取扱いが行われています。
利息又は損害金の計算方法は、年利の場合には、起算日から年に満つる期間を年利計算し、残りの年に満たない期間を日割計算(年に満たない期間に閏年が含まれる場合は閏年に該当する期間は年366日として日割計算)して、これらを合算します。
【参考】🔗「請求債権目録の書き方」の「利息損害金の計算について」(釧路地裁HP)
5 差押債権の対象・表示・特定の問題等
差押債権の特定は、執行裁判所において差押禁止債権かどうかを判断できるようにし、債務者・第三債務者においては「どの債権が」、「どの範囲で」差し押さえられたのかを認識できることに資するために必要とされます。
裁判所のホームページにある目録例を参考にして、でき得る限りの特定を行います。
預貯金債権について
金融機関の支店まで特定する必要があります(但し、ネット銀行は不要の場合があります)。
支店が分からない場合には、「第三者からの情報取得手続」を利用し、債務者の財産を探索します。
【関連記事】 債務者の財産の探し方~民事執行法改正を武器に財産開示へ!
生命保険金支払請求権
生命保険の解約返戻金請求権を差押えることができ、債権者は取立権の行使として債務者の解約権を行使することができます。
差押命令送達時点において解約権を行使したと仮定して、その送達時を基準として算定した解約返戻金額を差押えることになります。
差押債権の特定として、本来は証券番号まで特定していることが望ましいですが、債権者が債務者の保険証券番号を把握しているケースはほとんどありません。
そのため、契約者である債務者の氏名・生年月日・住所等の個人情報により生命保険契約を特定しますが、個人情報の証明のため、住民票等の公文書を添付して申立てます。
【注意~生保と損保の違い】
東京地判平成28年9月12日は、自動車保険契約(損害保険契約)に基づく解約返戻金請求権について、差押債権者の解約権行使を否定しました。
生命保険に比して金額が僅少であり、債権回収の実効性に対する疑問が、判決文で述べられています。
継続的給付債権
家賃、給与、役員報酬、顧問料債権、保険の診療報酬債権など、同一の基礎となる法律関係に基づき継続的に発生する将来債権の場合、個別に差押える原則の例外として、差押後に受けるべき給付にも差押えの効力が及び、包括的な差押えが認められています(民事執行法151条)。
但し、差押後に、債務者が勤務先を退職することや、売買代金債権の契約解除はできますので、中途で差押えが空振りになります。
すなわち、債務者が差押え対象となった法律関係を自由に変更できてしまう点は、常に念頭に置かなければなりません。
継続的給付債権以外の将来債権
単発的な将来債権として、不動産強制競売手続における配当金交付請求権・剰余金交付請求権があります。
継続的な将来債権として、売買、請負等の反復する取引から生じる代金債権があります。
なお、具体性が乏しく、具体的な代金債権は個別の契約によって生じるような場合には、実務上、その発生の確実性が考慮され、差押命令の発令時から6ヵ月先までに限定する取扱いとなっています。
6 差押禁止債権
民事執行法上の差押禁止債権
債務者の生活を保護するため、①債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける債権、②給与、賞与、退職年金等は、4分の3に相当する部分が差押禁止となっています。
差押禁止額は、給与等の名目額ではなく、源泉徴収される所得税、住民税、社会保険料を差し引いた手取額を基準に考えます。
【例外】給与等の差押禁止範囲
- 扶養義務等に係る金銭債権の場合は、4分の3ではなく、2分の1まで差押禁止範囲が縮減されます。
- 民事執行法施行令2条1項1号で定める額(1か月33万円)を超える時は、33万円までが差押禁止となり、超過部分は差押えることができます。
具体的には、たとえば60万円の給与を受領している人に対しては、4分の3に相当する部分(45万円)が差押禁止になりそうですが、33万円を超える部分について差押えが可能なので、33万円を残して、27万円の差押えが可能となります。
(注)「退職金」については、例外の規定なく、4分の3が差押禁止となっています。
特別法上の差押禁止債権
社会保障関係の受給権等(社会保険給付、公的扶助や援助、災害補償や損害賠償等)については、社会政策的な配慮に基づき、差押禁止の規定が設けられています。
最近では、法律の明文がありませんでしたが、新型コロナウイルス対策で個人事業主に支給された持続化給付金を、差押禁止に該当すると判断した決定があります(神戸地裁伊丹支部令和2年11月19日決定)。
同様に明文規定はありませんが、刑務所の受刑者が刑務作業の報酬として受領する、「作業報酬金」について、強制執行の対象にできないと判示されました(🔗最高裁令和4年8月16日第三小法廷決定)。
犯罪被害者であっても差押えができないため、加害者に対しては作業報酬金ではなく、受刑者が刑務所に預けている「領置金」の差押えを狙うことになります。
第3 取立て~差押命令から債権者がどう回収を図っていくか
裁判所において差押命令を発令し、第三債務者に送付されます。
1 手続の流れと効力発生時
差押命令正本が第三債務者に送達された時に差押の効力が生じます。
2 取立権の行使
法律上、債務者に差押命令が送達された日から1週間を経過すれば、債権者は第三債務者より直接取立てが可能となります。
この取立ては、裁判所が間に入るわけではなく、債権者は第三債務者に直接支払いを求めます。
取立権の行使方法については、明確な決まりがあるわけではありませんので、差押債権者と第三債務者で適宜決めて大丈夫です。
たとえば、送達通知書と差押命令正本を第三債務者に見せ、振込を依頼するなどします。
生命保険の解約返戻金を差押えた場合は、債権者は取立権の行使として、債務者の有する生命保険を解約することができます。
第三債務者より支払いを受けたら、差押債権者は、取立届を裁判所に提出します。
【参考:🔗取立届】
給与・退職金の場合の例外
給与や退職金等の債権の場合には、債務者の生活に与える影響が大きいため、取立ての前に差押禁止範囲の拡張を求める申立ての機会を与えるために、取立権発生までの期間を4週間としています(下図参照)。
ただし、請求債権に夫婦間の協力扶助義務、婚姻費用分担義務、養育費支払義務、扶養義務などの生活保障の趣旨が含まれる債権の場合には、1週間となります
なお、第三債務者は、債務者に主張できるあらゆる抗弁を差押債権者にも主張できます。
よく相殺を主張され、差押債権者が回収できない事態になることもあります。
3 転付命令
転付命令とは、差押える債権を、券面額(債権額のまま)で差押債権者に移転する命令をいいます。
つまり、債務者の第三債務者に対する債権を、債権者のものに移転させて、差押債権を満足させる手続をいいます。
これは「取立」と異なり、被差押債権を債権者に移転させることから、債権者が被差押債権を独占できるメリットがある一方、債権は移転されてしまうため、回収できない場合のリスクも債権者が負うことになります。
そのため、一般的には、第三債務者が金融機関、国、地方公共団体、大企業などの無資力の危険がない場合によく利用されます。
転付命令は、回収できないリスクを負う一方、債権回収で優先主義(早い者勝ち)を採用した例外的制度なのですね!
✍ 転付命令の特徴
- 転付命令は、差押命令と同時に申立てが可能です。
- 転付命令は、債務者と第三債務者に送達され、執行抗告ができ、確定するまで効力は生じません。
- 効力を生じる場合、転付命令が第三債務者に送達された時点で、券面額で弁済されたものとされます。
- 被差押債権が給与・退職金等の場合には、送達から4週間経過するまでは効力が生じません。
- 第三債務者に転付命令が送達されるまでに他の債権者が差押え、仮差押え、配当要求をしたときは、転付命令は効力を生じません(早い者勝ちで独占できていない)。
- 券面「額」が判別できないといけないため、将来債権や条件付債権は、券面額が否定されます(否定例:敷金返還請求権など)。
- 第三債務者より、弁済、相殺、解除などを主張され、被差押債権が存在しなくなっていた場合には、転付命令による弁済の効力は生じないので(転付命令は無効)、債権者は債務者の他の財産に執行ができます。
4 取立訴訟の提起
第三債務者が、債権者からの取立てに応じず、供託もしないような場合には、差押債権者は第三債務者に対して、被差押債権の支払を求める取立訴訟を提起することができます。
この取立訴訟は債権者が、債務者が有する第三債務者に対する債権を行使する点で、債権者代位訴訟に似ていると言われます。
債権者が取立訴訟を提起するメリットは、取立訴訟の訴状が第三債務者に送達されれば、その時までに差押え、仮差押え、配当要求がない限り、被差押債権の回収を独占することができます。
デジャブでしょうか、、、。
裁判をやって債務名義を獲得したのに、もう一度最初からの裁判をやらないといけないのですね。。。
取立訴訟の判決文
債権者の競合がなければ、
「被告は、原告に対して金〇〇万円を支払え」との判決言い渡されます。
一方、債権者の競合がある場合には、供託判決となり、
「1 被告は、原告に対して金〇〇万円を支払え。
2 前項の支払は供託の方法によりしなければならない。」となります。
5 他に競合債権者がいる場合(差押えの競合)
債権が二重に差押えられた場合には、各差押えの効力は債権の全部に及ぶとされます。
これは、競合債権者間の平等を図り、早い者勝ちにならないようにするためです。
【関連記事】 債権執行で競合する債権者の優劣は?誰がいつまで配当に参加できるか?
差押えの合計額が、債権額を超えない場合
差押え等の合計額が債権額を超えない場合には、それぞれの債権者が差押えた部分から債権を全額回収できますので、特に決まりはありません(まだ「差押えの競合」は生じていないとされます)。
第三債務者は、取立権が発生した差押債権者に弁済をしても良く、又は供託をすることもできます(これを「権利供託」といいます)。
差押債権者は、取立権に基づき弁済を受ければ、債権を独占できますので、早めの回収を目指しましょう。
差押えの合計額が、債権額を超えた場合
各差押債権者は、債権全額の回収を受けることができません。
「差押債権合計額 > 被差押債権額」となる状態を「差押えの競合」と呼びます。
この差押えの競合が生じると、債権額に応じた公平な配当手続を行う必要が出てきます。
各債権者の差押えは、債権の全額に全部に及びます。
そのため、第三債務者は、債権の全額を供託所に供託し(これを「義務供託」と言います)、裁判所が債権者への配当手続を実施します。
差押債権者は、裁判所における配当手続で満足を受けることになります。
6 債権執行の終了
以上が、債権執行の一連の流れとなります。
不動産執行と異なり、裁判所が主導するよりも、債権者が主体的に動いていく印象が強く受けるのではないかと思います。
第4 第三債務者の視点から~差押命令が届いた第三者はどのような対応をすべきか
債権者の債権回収の手順において、第三債務者は、差押命令が送達されたら、どのように対応を良いでしょうか?
第三債務者の視点で債権執行手続を眺めてみたいと思います。下の図が全体像になります。
なお、第三債務者に差押命令が送達されたにもかかわらず、債務者に弁済してしまった場合は、差押債権者に対抗できませんので、差押債権者に対して弁済しなくてはなりません。
債務者への弁済と合わせると、二重弁済(債務者には不当利得返還請求できます)する羽目になります。
1 債務者への債務が不存在のとき
支払うものがありませんので、送達の日から2週間以内に、陳述催告に対する回答をして対応終了です。
回答する内容(民執規則135条1項)は、主に次の内容です。
①債権の存否並びにその種類及び額、
②弁済の意思の有無及びその範囲又は弁済しない理由、
③差押えに係る債権について差押債権者に優先する権利を有する者及びその権利、
④他の債権者の差押え又は仮差押えの執行の有無、
⑤差押えに係る債権に対する滞納処分の有無等
なお、陳述の催告に対して、故意又は過失により陳述しなかったとき、又は不実の陳述をした時は、これによって差押債権者に生じた損害を賠償する責任が発生します。
「抗弁の主張」も陳述催告書に記載
また、すでに債務者に対して弁済済みであったり、相殺を予定しているため、差押債権者に支払うことができない場合には、陳述催告書に記載をします。
2 弁済をする
第三債務者は、取立権が発生した差押債権者に対し、弁済を行うことができます。
適法な差押えであるかが不安であれば、裁判所に確認したり、差押債権者に債権の内容を確認(債務名義や差押命令正本など)させてもらうと良いでしょう。
3 供託をする (⇒事情届の提出を忘れない)
第三債務者は、差押えの競合が生じた場合には、供託をしなければなりません(義務供託)。
差押えの競合が生じる場合に限らず、差押えの競合が生じない場合であっても、供託をすることができます(権利供託)。
第三債務者は、供託を行った後、「事情届」を裁判所に提出することを忘れないようにしましょう。
✍ 権利供託と義務供託
- 権利供託
自己の意思と無関係に、債権者と債務者間の紛争に巻き込まれた第三債務者を供託によって紛争から解放するための保護規定が、権利供託です。 - 義務供託
債権者が競合するときに、第三債務者に自主的に弁済させることにすると、重複差押えの有無や各債権者の優劣などの判断を第三債務者に強いることになってしまい、第三債務者に二重弁済に危険を負わせてしまいます。
また、第三債務者が誤って弁済してしまうと、債権者間の平等も害されることになってしまいます。
そこで、差押えの競合が生じる場合には、第三債務者の供託を義務付けています。
4 第三債務者としての留意すべき事項
第三債務者は、自己の意思とは無関係に、債権者と債務者の争いに巻き込まれる立場であるにもかかわず、対応を誤ると損害を被ることがありますので、差押命令に対する対応は慎重に行う必要があります。
第三債務者が対応を誤ったがために、損害を被ってしまった裁判例(東京地判令和2年3月18日)を紹介します。
なお、本件でなぜ差押債権者の取立てが違法となるかについては、以下の関連記事をご参照ください。
【事案】
振替株式を差押えた債権者が、譲渡命令・売却命令の申立てをせず、証券会社(振替機関等)に対し、取立権があるので当該株式を売却して代金を交付されたいと請求し、証券会社が適法と誤認し、差押債権者の求めに応じて、無断売却・代金交付を行いました。
【判決の内容】
差押債権者には、無断売買行為を過失により教唆した点で違法として、不法行為による損害賠償責任が生じています。
しかし、証券会社にも5割の過失認定がされていますので、買替差損等の損害の全てを回復することができないままとなってしまいました。
上場株式・社債など換価が必要な財産を差押えるには?
第5 債権執行に関連する問題、補足等について
1 債務者不送達の場合の消滅時効 ⇒ 民法改正
債権執行において、債務者への差押通知が送達されない限り、執行手続を進めることができません。
一方、差押命令が発令されている以上、消滅時効は進行しませんが、債権者が事実上手続を放置しているような場合にまで消滅時効を進行させないという結論は、果たして妥当なのでしょうか。
これが争われた事件において、第1審判決は、「申立書記載の債務者住所への送達が奏功しないことが明らかになり、裁判所がその旨を債権者に連絡した時点では、既に陳述催告に応じて提出された第三債務者の陳述書により差押債権が存在しないこと又は僅少であることが判明していることが少なくなく、これにより手続続行の意欲をなくした債権者が再送達の上申や公示送達の申立てなど債務者への送達を完了するために自身がなすべき手続きを行わずに長期にわたり放置するといった事態がしばしば見られるところである。」
このような場面で、債権者が「差押命令正本の債務者への送達を完了するために自身がなすべき手続を行わずに放置し、これにより債務者が差押手続の開始を知らないまま本来の時効期間を超えて更に長期間が経過するに至ったような場合にまで債権者の保護を優先するのは、債権者と債務者の利益の調和の観点から不合理であるというほかない。」と述べました。
これに対して、最判令和元年9月19日が次のように判断しています。
【判決の要旨】
債権執行における差押えによる請求債権の消滅時効の中断において・・・、中断の効力が生ずるためには,その債務者が当該差押えを了知し得る状態に置かれることを要しないと解するのが相当である。
本件差押えにより本件貸金債権の消滅時効は中断しているというべきである。
民法改正による消滅時効の整理
そこで、前述の第1審判決(原審も同様)が問題視した、債権者の放置の問題は、①民法の改正(消滅時効期間の整理)、②民事執行法の改正(職権による取消し)により整理されることとなりました。
民法の改正(①について)によって、取り立て等の目的を達した場合には時効の更新の効果が生じます。
これに対し、「申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合」は、その終了の時から6か月間、時効の完成猶予となる(民法148条1項柱書かっこ書)とされ、取下げや取消しの場合の効果も明確にしています。
民事執行法の改正(②について)の点は、次項で説明します。
2 債務者に送達ができない場合 ⇒ 民事執行法の改正
前述の第1審判決の懸念にありましたが、差押が奏功していない場合などには、差押債権者としても回収見込みない債権に熱心になれず、債務者へ差押命令が不送達であっても(債務者の)所在調査を断念してしまうことがあります。
現に令和2年の司法統計を見ても、債権執行事件の未済事件の内、約37%が2年以上の長期にわたっています(参考:🔗司法統計)。
令和2年の法改正へ
この事態を解消するため、債務者に差押命令を送達できない場合には、執行裁判所は差押債権者に対し、相当の期間を定め、送達すべき場所の申出を命じることができ、これがないときには、執行裁判所は職権で差押命令を取消すことができることとされました(民事執行法145条8項)。
第6 債権執行(強制執行)における弁護士の役割
1 債権回収の進め方
取引先などに未払いが生じた場合には、最終的には法的手続により債権回収を図っていくしかありません。
弁護士は、任意交渉から訴訟等の法的手続、さらには強制執行の手続を経ながら回収を図りますので、あらゆる手段を駆使することができます。
弁護士に債権回収を依頼する:手続の流れと費用(着手金・成功報酬)
2 弁護士費用
弁護士は、事務所によって報酬額も異なりますので、各事務所にお問い合わせいただくのが一番確実な方法です。
当事務所においても、債権回収のご相談の対応を行っています。
お問い合わせフォーム
私たちは、常に最善のリーガルサービスを提供できるように、日々研鑽を積んでいます。
そして、依頼者と「共に戦う」集団であることを志向しています。
お問い合わせ
ご相談については、予約制となっております。
来所相談だけでなく、Zoom・Google Meetによるオンライン相談も対応しておりますので、全国対応しております。
お問い合わせフォームまたはお電話にてご連絡ください。
相談時に必要なもの
事前に以下のものをご準備いただくと、ご相談がスムーズに進みます。
- 相談内容の要点をまとめていたメモ
- ご相談に関する資料や書類
ご相談(初回相談料:1時間あたり1万1,000円)
法律上の問題点や採り得る手段などを専門家の見地よりお伝えします。
問題解決の見通し、今後の方針、解決までにかかる時間、弁護士費用等をご説明いたします。
※ご相談でお悩みが解決した場合は、ここで終了となります。
ご依頼
当事務所にご依頼いただく場合には、委任契約の内容をご確認いただき、委任契約書にご署名・ご捺印をいただきます。
問題解決へ
事件解決に向けて、必要な手続(和解交渉、調停、裁判)を進めていきます。
示談、調停、和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。
終了
委任契約書の内容にしたがって、弁護士費用をお支払いいただきます。
お預かりした資料等はお返しいたします。