自動車部品を工場にて製作していますが、近隣住民より工場の騒音がうるさいとのクレームがあります。
騒音基準を意識して対策もしていますが、話し合いはうまくいかず、裁判にすると言われました。

どのような場合に、騒音の法的責任が生じるのか、具体的なイメージを教えて欲しいです。

 騒音被害を訴える側は、人格権に基づく工場等の操業の差止め請求、人格権侵害に基づく慰謝料等の損害賠償請求を求めることが多いです。

 裁判において不法行為責任が成立するのは、騒音が受忍限度を超えた場合です。
 裁判における判断枠組みは、下の関連記事もご参照ください。

【関連記事】 騒音クレーム対応~「受忍限度論」とは?裁判所の考え方を知る
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騒音被害を訴える裁判では、どのような判断基準により検討されているか?
https://ik-law.jp/blog/souon/
【関連記事】 騒音クレーム対応:飲食店等の事業所・生活騒音・学校における裁判例を概観
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騒音被害を訴える裁判は、どのような事例があるか?
https://ik-law.jp/blog/souonjudge/

 

 どのような場合に受忍限度を超えるかの判断要素に、行政規制基準を超過しているか否かは重要なポイントになります。

 具体的な裁判例を見て、裁判所がどのような判断をしているのか概観してみましょう。

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第1 法律(条例)規制等と事業者の対応

1 チェックすべき規制

 工場、作業場、工事現場、建設・解体現場は、その性質上どうしても音の発生が不可避であるため、騒音のクレームも発生しやすい業種です。

 これらに対する法規制として、環境基本法において一般的な騒音に対する規制があります。
 さらに、工場、事業場、建設現場等を対象として、騒音規制法による規制があります。
 また、特定施設(金属加工機械等)に対しては、振動規制法による規制もあります。
 そして、各地域ごとの条例による規制があります。

 これらによって規定されている騒音基準を順守することが、事業者にとっては何より大切といえます。

2 事業者のクレーム対応法

 騒音クレームに対しては、上記の規制基準を前提に、①どの時間帯に、②どれだけの音を発しているのか、が事実認定のスタートになります。
 「どれだけの音を発しているか」は、事実認定の肝でありながら、測定場所や方法によっても変動してしまう可能性もあり、この問題をより悩ましいものにしています。
 ただ、騒音クレーム対応においても、あくまでも基本的スタンスを崩す必要はありません。

騒音クレーム対応においても、事実認定から始まり、クレーム内容・方法の正当性を判断して、対応方針を決定する流れは、通常対応と何も変わるところはありません。
騒音クレーム対応においても、事実認定から始まり、クレーム内容・方法の正当性を判断して、対応方針を決定する流れは、通常対応と何も変わるところはありません。

 それでは、裁判ではどのような要素が考慮、検討されて結論が出されているのか、具体的に検討します。

第2 損害賠償請求を肯定した裁判例

1 責任を肯定した裁判例の紹介

 事案の概要判決の要旨

岐阜地判
令和4年1月28日
原告らが、原告らの居住地の南側に隣接する土地上に営業所を置き、一般貨物自動車運送事業を営んでいた被告に対し、被告が生じさせた騒音等により原告らの人格権が受忍限度を超えて侵害され、各種健康被害が生じたと主張して、不法行為の損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払を求めました。(測定方法等)
 窓を開けた状態の原告ら居宅内に流入数する騒音の程度を基本に、窓やサッシを閉めることによって一定の被害の軽減を図ることができることを踏まえて騒音の評価を行うべき。
 等価騒音レベルを基本にして、L5(注:時間率騒音レベル)も踏まえて総合的に判断するのが相当。

(騒音の評価)
 検査センターによる騒音測定や原告代理人弁護士による騒音測定は、原告らからの苦情に応じて被告が一定の対策をとった後にされていることを踏まえると、被告は、相当長期間にわたって、夜間(午後11時から翌日午前6時まで)において、10分間ごとの等価騒音レベル及びL5が本件規制基準を恒常的に上回る程度の騒音を発生させていたと認められ、夜間は一般に一日の中で最も静謐が望まれる休息時間であることをも踏まえると、被告が夜間に発生させていた騒音は、少なくとも原告らの生活の平穏に悪影響を及ぼし得る程度のものであったというべきである。

 (注:訴訟前に提起していた)本件仮処分決定が発令された令和2年2月14日まで被告が昼夜にわたり発生させていた騒音は、原告らの生活に悪影響を与えうる程度に至っており、実際、原告らは、かかる騒音によって生活を妨害され精神的苦痛を被っていたと認められる。
 被告は、株式会社として本件土地において営利活動を行っていたものであり、原告らから直接あるいは市を介して騒音等に関する苦情の申し入れを受けてから本件仮処分決定発令までに被告がとった対策の効果は限定的であったことを踏まえると、少なくとも同日までに被告が発生させていた騒音は、その全体が原告らの受忍限度を超えたものとして原告らに対する不法行為を構成すると解するのが相当である。  

 ⇒ 慰謝料(1人あたり5万~50万円)、並びに騒音測定費用(約50万円の内の10万円)と弁護士費用の一部を認めました。

東京地判
平成9年11月18日
賃貸アパートに居住し、深夜に個人タクシー運転手として稼働している原告が、原告居住のアパートに隣接して行われたマンション建築工事により騒音・振動等が発生したとたため、個人タクシー営業による収入が減少したとして、不法行為に基づき、マンション建築工事の建築業者、施主に対し精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料等を求めました。(認定事実)
 認定した事実によれば、被告会社は、本件工事期間中、防音シートを設置した後においても、概ね午前8時ころから常時60デシベル程度、ときには80デシベルを超え、稀に90デシベルに至る騒音を発生させており、右騒音は、原告居室の窓を閉め切ったとしても10デシベル程度減少するだけである。  
 東京都公害防止条例が、前記のとおり、午前8時から午後5時までは50デシベルを超える騒音を発生させることを禁止しているところに鑑みると、右のような騒音レベルは就寝に必要な静謐を害するに足りるものであり、原告は、深夜業に従事して、午前10時ころまで就寝する生活を送っていたものであるから、本件工事により午前8時以降相当程度の睡眠妨害を受けていたものと認めるのが相当である。

  (受忍限度を超えるか)
①原告から騒音について苦情を言われるまで原告の被害を軽減する何らの措置も採らず、放置していた。
②苦情を言われ、直ちに防音シートを設置し、代替住居として原告アパートの二〇一号室の提供を申し出ている。しかし、原告の被害を軽減させるほどの効果はなかった
③原告は本件工事の当時六〇歳であり、加齢による身体の衰えと相俟って騒音による睡眠妨害が身体に多大な影響を与える状況であった。
④原告が深夜業に従事することを選択したことによるものであり、本件において原告に被害が発生するのは原告側の事情による部分があることは否定できない
⑤付近には交通量の多い環状八号線が通っており、五〇デシベル程度の暗騒音があった。
⑥次に被告会社は、瀬田のアパートを代替住居として提供する旨申し出ている。瀬田のアパートは原告アパートと同じ世田谷区内にあって近接した住居区であり、原告が営業車の駐車場に赴くのにさほど不便が生ずるものとは認められず、(原告の代替住居拒否は)合理的な理由であるとは認めがたい。  

  ⇒ 瀬田のアパートに入居できるようになったと認定できる日までの56日間について毎日2時間の睡眠妨害被害を認め、慰謝料30万円、弁護士費用3万円、立証のためのフィルム(ビデオカメラ用)代として2万円の、合計35万円の損害を認定。

仙台高判
平成23年2月10日
 原告は、市街化調整区域内にある牛舎で酪農及び畜産を営む者である。
 Y1県は、工業用水の給水のため水路橋布設替工事をA会社に対し発注し、原告の牛舎付近で約2年間にわたって本件工事が施工された
 この間に原告が飼育していた牛のうち89頭が、騒音等に驚いて暴れ出したり、暴れた牛の被害にあって負傷したり、衰弱したりした末、うち68頭が死亡し又は屠畜を余儀なくされた。
 原告は、A会社の本件工事による騒音等の発生が受忍限度を超えた不法行為を構成し、Y1県にも工事注文者としての責任がある等として、工事施工のA会社と県に損害賠償を請求しました。
(判断基準)
 工事等の実施による騒音等の違法性の有無は、騒音規制法上の規制値との関係その他騒音の程度、騒音発生の時期、時間及び発生期間、騒音発生たる工事等の目的、公共性の有無、程度、騒音等によってもたらされる被害の内容や程度、従前の土地の利用状況、加害者と被害者の事前の交渉の過程等を総合考慮して判断すべきとしました。

 は、一般的な性質として、瞬間の騒音値が高く突発的で衝撃的な機械音に対して、驚いて暴走等の異常行動に出やすい事実が認められることから、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準である環境基準法による騒音に係る環境基準や、人間の聴覚を前提とした騒音規制法による規制のほか、このような牛の習性にも着目した検討を必要とするところ、上記認定の牛の習性に照らすと、L5(90%レンジ上端値)の最大値に加えて、瞬間的、突発的な騒音をも対象としたLmax(最大騒音瞬間値)をも、違法性を判断する際の、重要な要素として考慮すべきである。

(本件における検討)
 本件においては、本件工事により発生した騒音の測定結果について、本件事故に係る各事故日及びこれに近接する測定日(合計13日)のうち、L5の最大値が85デシベルを超える騒音が測定されたのは1回であるが、1日のLmaxについて、95デシベルを超える騒音が測定された日が5回、90デシベルを超える騒音が測定された日が2回、85デシベルを超える騒音が測定された日が5回、結局のところ、13日中12日において、Lmaxが85デシベルを超える騒音が測定されている。
 ・・・そして、これらが約2年間という長期間にわたって継続したこと、その過程でXが飼育していた牛のうち89頭が驚いて暴れ出したり、その被害にあって負傷したり、衰弱したりした末、うち68頭が死亡し又は屠畜せざるを得ない状態となるなど、大きな被害を被ったことを考慮すると、本件工事の施工方法や公共性が高いこと等本件工事に関する一切の事情を考慮しても、本件工事は、原告に対する関係で、受忍限度を超える騒音を発生させたもので、違法性が認められる

 ⇒ 牛の死亡又は屠畜に係る損害等を含め、Y1県、工事施工のA会社に3283万1546円の支払いを命じました。

2 裁判例の検討

 上記裁判例①は、夜間の時間帯の騒音であり、一般的に静穏な環境にいることが求められます。
 そのため、夜間時間帯については、厳しい判断がなされることが多く、本件においても他裁判例との比較において他事情があまり考慮されずに、行政法規基準を上回っていることがほぼ決定打として事業者の責任を認定しています。

 上記裁判例②は、原告が深夜時間帯に稼働する方で、午前10時頃まで就寝するという特殊性があり、被害には年齢の影響も加わり、場所も都内で決して静謐な環境を求めるにはふさわしくない場所でした。
 それでも事業者の責任が認定されているのは、行政規制の基準に比して、騒音基準超過の程度が大きかったことが要因ではないかと推測されます。
 ただし、認められた損害は、原告が代替住居に居住できるようになった日までです。
 事業の性質上、どうしても基準値を超えることがあり得る場合であっても、このように事業者が損害発生回避努力義務を尽くしたか、という事実も重要になってきます。

 上記裁判例③は、牛に被害が発生したという特殊性があります。
 騒音が一定ではなく、大小の波がある変動する騒音ではLmax(最大騒音瞬間値)ではなく、L5(測定値の90%レンジの上端値)が利用されますが、「牛」に被害が生じている特殊性が考慮され、Lmaxの測定値も受忍限度において考慮されると判断されました。
 本件は、この特殊性がなければ、基準値内として、適法と判断される可能性が十分にありましたが、牛の特殊性を考慮して、違法と判断されています。

 また、裁判例③は、注文者である県の違法性も肯定されました。
 一般に、注文者は責任を負いませんが、容易に損害の発生を予見し得る場合には、被害発生を回避する義務を負います。
 本件では、原告の酪農業の状態を把握し、工事の騒音が牛に悪影響を及ぼすことを認識していたとして、県にも賠償義務が課されました。

 このように請求が認容された裁判例を見ると、まずは騒音が公法上の規制基準内かどうかが、絶対的ではないものの、非常に重要な要素になっています。
 事業者として、クレームの有無にかかわらず、常にこの基準は念頭において経済活動を行うことが要請されています。

第3 損害賠償請求を否定した裁判例

1 責任を否定した裁判例の紹介

 事案の概要判決の要旨

東京地判
令和2年11月25日
控訴人は、深夜営業をする飲食店を1人で経営し、東京都品川区に所在する本件マンションに居住していたが、被控訴人が同マンションの他の居室について行った内装リフォーム工事により生じた騒音及び振動が原因で睡眠をとることができずに心身に不調をきたしたと主張して,不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料、自営する飲食店の休業損害等を請求しました。(裁判所の認定事実)
①本件マンションの所在地は、東京都品川区(以下略)であって都内の都心部に位置し、その西側横には首都高速道路が通っており、高速道路を通過する自動車の走行する音や振動が響く地域であり、住環境としては静閑な地域ではない。
②控訴人は、本件工事が行われた当時、品川区内の別の場所で、飲食店を経営して一人で深夜営業を行い、午前7時ないし8時頃に就寝し、午後3時ないし4時頃に起床するといった昼夜逆転の生活を送っていた。
③被控訴人は本件マンションの管理組合に対し、管理組合に係る規約に基づき、工事予定期間、工事時間を午前9時から午後5時まで(土曜日,日曜日,祝祭日を除く)として、本件工事に関する施工申請書兼届出書を提出した。その後、上記管理組合から工事実施の承認を受け、本件マンションの掲示板にリフォーム工事のお知らせを掲示した。
④本件工事は、土日祝日の工事は行われなかった。また、いずれの工事においても、騒音や振動を低減し得る代替可能な工法は存在しなかった。

(受忍限度を超えるか)
①本件工事のうち、本件マンションの入居者の生活に影響を及ぼすような騒音や振動が発生する工事の内容及び期間は、いずれも土曜日と日曜日を除く、2月12日から同月18日までに行われた既存構造物の解体工事(工事実日数5日)、同日から同月28日までに行われた木工造作工事(工事実日数9日)及び同年3月22日に行われたエアコン移設工事(工事実日数1日)であり、その工事実日数は、上記の解体工事と木工造作工事が同じ日に実施された同年2月18日を1日と数えると、合計14日に過ぎず、しかも、工事時間は通常人が活動している時間帯である午前9時から午後5時までであり、土曜日、日曜日、祝祭日には工事をしなかったのであるから、本件工事は長期間にわたり連日昼夜を問わず騒音や振動を発生させたものではない
②また、これらの工事による騒音や振動の程度及び継続時間については、測定結果等の客観的な証拠がなく、具体的に認定することができない。
③本件マンションの所在地は東京都品川区であって都内の都心部に位置し、その西側横には首都高速道路が通っており、高速道路を通過する自動車の走行する音や振動に晒されている地域であって、住環境としては静閑な地域ではない。そうすると、本件マンションの居住者としては、外部からの一定程度の騒音や振動等を甘受せざるを得ず、一般的に静寂を期待しうる環境にはないことが認められる。
④また、一棟の建物に種々の生活スタイルを保持する多数の居住者が生活を送っているという集合住宅の性質上、集合住宅内のある居住者の発生する音や振動が建物の壁や床を通じて他の居室に伝達することを避けることはできない上、マンションの経年劣化、生活スタイルの変化等に伴い各居室の修繕の必要が生じることも不可避であるから、マンションに居住する以上は他の居室のリフォーム工事等により一定の騒音等の影響を受けることもやむを得ない事態であるといえる。
⑤本件工事において取られた工法は騒音や振動を低減し得る代替可能な工法が存在しないこと、被控訴人は本件マンションの管理組合から承認を得た上で、一般的な人の生活サイクル等を考慮して午前9時から午後5時までの間に限って本件工事を実施したことなどの諸事情を総合すると、控訴人が仕事上の必要性から昼夜が逆転した生活を送っており昼間に睡眠時間を確保する必要があり、工事着工前に被控訴人にその旨説明していたにもかかわらず、被控訴人がこれに特段の対応をしなかったとしてもなお、本件工事により発生した騒音及び振動によって控訴人が被った被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものであったと認めることは困難であるといわざるを得ない。

 ⇒ 違法な権利侵害又は法律上保護される利益の侵害になるとはいえず、不法行為は成立しないというべきである。

名古屋地裁岡崎支部
令和2年2月5日判決
原告らが、所有、居住する土地建物の付近で被告が施工した高速道路建設工事の騒音等により精神的苦痛を被ったとして損害賠償を求めました。  (裁判所の認定事実)
 騒音規制法上、本件工事は「特定建設作業」に該当し、85dbが騒音規制基準とされており、同法を受けた環境省の告示「特定建設作業に伴って発生する騒音の規制に関する基準」や、愛知県の「県民の生活環境の保全等に関する条例」も同様の基準を設けている。
 本件工事の違法性を判断する重要な要素の一つとして、公法上の騒音規制基準が85dbであること、これを超える騒音が発生した事実は認められないことが挙げられる(ただし、この一事だけで民事上の違法性が否定されるものではない)。

①騒音の程度、態様
 本件工事の施工時間は、原則として8時から17時までであり、コンクリート打設等が時間外に及ぶこともあったが、受忍限度を超えるような時間帯に騒音が発生した事実を認めることも困難である。 公法上の騒音規制基準が85dbであるが、これを超える騒音は発生しなかった
②騒音の不可避性、結果回避・緩和への努力
 被告は、下請負人に、建設工事に伴う騒音振動対策技術指針、関連法令及び仕様書の規定順守、環境対策の実施を義務づけ、通行車両の速度制限、アイドリングストップ、低騒音型・防音型建設機械の使用、防音パネルの設置等の騒音対策を講じさせていた
 被告は、平成21年頃以降、地域住民らから騒音、振動、粉塵に関する苦情を受け、定期的に発破作業時の振動や騒音を測定し、近隣住民らに事前に退避を促し、退避に伴う補償金を支払うなどした。
 被告は、発破作業以外の作業により生じる騒音や振動については調査していないが、他により騒音の少ない工法や機械等があるのにこれを用いなかったとか、騒音防止への努力をせずに漫然と騒音を発生させたなどの事情は見当たらない
③被侵害利益の性質、程度
 原告らは、発破作業時に退避所に退避しなかったこともあった旨自認している。原告らの心身の健康等に看過し難い具体的な被害が発生した事実は認め得ない。
④地域性  
 原告所有建物は、郊外にあり、本件工事前は騒音とは無縁な地域であった。市街化調整区域内にはあるが用途地域の定めはない。

 (受忍限度といえるか)
 原告らの住居は、本件工事前には騒音とは無縁であった郊外にあり、本件工事の騒音により原告らが精神的苦痛を被ったことは否定できない。
 しかし、公法上の騒音基準である85db以上の騒音の発生は認められず、工事の時間帯が基本的に8時から17時までとされており、被告は各種の騒音対策を講じ、原告らの心身の健康等に看過し難い具体的な被害が生じてはいないことなどの諸般の事情を総合的に考察するに、本件工事の騒音による被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えていたとは認め難い。

東京地判
令和元年10月3日
自宅の隣地において、建物の解体工事、土地の造成工事、2階建て建物建築工事を行った業者に対し、慰謝料請求を求めました。 仮に、本件工事の騒音を測定した結果が(原告提出の)データのとおりであったとすると、本件工事によって相応に大きな音が断続的に発生したこと、その際に原告らの生活等に悪影響が生じたことまでは認められるものの、他方、同騒音の発生が平日の日中にとどまること、その発生した騒音が一回当たりどの程度継続したものかは不明であること、建築工事において騒音の発生は不可避であり、被告がことさら騒音が生じる態様で本件工事をした様子はうかがえないこと等の諸事情も考慮すると、未だ本件工事によって生じた騒音が原告らの受忍限度を超えるものとは認めるに足りない。

東京地判
令和元年9月17日
有料老人ホーム用の建物を建築した被告Y1株式会社、及び同工事を請け負った被告Y2株式会社に対し,被告らによる本件ホームの建築工事により,受忍限度を超えて、騒音・振動の被害を被った旨主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を求める事案。 同設置場所における音量が80デシベルを超える1時間の時間帯が、5回あったことが認められる。
 しかしながら、環境省の通達(騒音振動規制法の施行について)は、測定場所について「測定しやすく、かつ、測定地点を代表すると認められる場所とすること。この場合、法が生活環境の保全を目的としていることから、原則として住居に面する部分において行うものとすること」と規定しているところ、これは測定しやすさや代表的地点と認められる場所を測定場所とするに際し、生活環境の保全の目的から、原則として住居に面する部分において行うとするもので、必ずしも測定場所を隣接する敷地との境界線上にしなければならないとするものとはいえない。

 また、原告らは、境界線上に集音マイクを設置したと仮定して、各くい打ち地点と本件集音マイクの設置場所との距離とくい打ち地点に最も近い境界線上の距離との距離差を基に騒音減衰状況を計算するけれども、前提として測定時の騒音源が特定されておらず、くい打ち地点すべてが測定時の騒音源であるということはできない上、その計算方法も十分に検証されたものであるとはいえない。  

 ⇒ 結局、前記認定のとおり、平成28年6月6日から平成29年4月29日までの間、本件集音マイクの設置場所における音量が80デシベルを超える1時間の時間帯は、5回であり、その測定された数値は最大でも82.9デシベルであり、東京都の規制基準の基準値である80デシベルを、基準値全体の4パーセント弱上回るにすぎないことからすれば、本件工事の騒音が受忍限度を超えるものであると認めることはできない。

2 裁判例の検討

 請求が認容されている裁判例と異なり、規制基準を超過していない点が異なります(上記④が超過していますが、超過の程度が大きくないと評価されています)。
 裁判で検討される要素として、他にも事業遂行の時間帯事業の態様騒音被害を訴える場所的属性(都心部か、共同住宅か)事業者の対応履歴なども検討されています。
 このような要素を基に個別具体的な検討がなされ、結論が下されています。

 裁判所も、事業の性質上、ある程度の騒音の発生や事業の必要性を理解してくれます。

 裁判所のような第三者の視点から眺めた際に、事業者として胸を張れる遂行姿勢が、裁判の結論を左右するだけでなく、日常のクレーム対応においても重要なものといえます。

第4 まとめ

 騒音規制法が対象となる工場、作業場、建設現場などの裁判例を紹介しました。

 事業の性質上、ある程度の音が発生することはやむを得ないものです。

 事業を遂行する利益と、対立する近隣住民等の利益の調整としての行政上の規制です。
 事業者として基準値を順守する努力とともに、裁判や執拗なクレームに発展しないよう被害拡大防止努力を尽くすことが求められているといえます。

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