売掛金の回収を図ったり、取引先の信用不安の時にも債権を保全できるよう、締結する契約書に入れておいた方が良い条項はありますか?

 債権回収の成否を決めるのは、債務者が非常時に陥った時に対応ではなく、むしろ「平常時の備えをどれほど対策していたか。」の方が重要だと思います。

 確かに、ない袖は振れないため、債務者が信用不安に陥ったり、法的手続を執る段階に陥れば、債権者としてできる行為は限られます。
 しかし、少しでも債権の回復が図れるよう、被害を最小限に抑えられるよう工夫はしておくべきです。

 その1つの方策として、具体的に、以下のような条項が債権回収に有用だと思いますので、日常の契約書においてもご検討いただければと思います。

  • 期限の利益喪失条項
  • 解除条項
  • 不安の抗弁権
  • 所有権留保
  • 増担保条項
  • 情報提供条項

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第1 債権回収に有用な契約書に定めたい条項

 債権回収の実効性を高めるためには、取得した担保を有効に生かすこと、平常取引が崩れそうな際には迅速に債権の回収・保全の手段を講じることができるようにすること、取引相手に信用不安が生じた場合には速やかに取引関係を終了させることなどが必要になります。

 弁護士が契約書のチェックや作成にあたる場合、考えられるリスクを具体的にイメージし、それに対応でき得る契約書の内容を考えます
 そのため、契約書は各取引に応じた条項の検討が必要不可欠です。
 ただ、一般的な汎用性を持つ条項もありますので、ここでは債権回収を念頭に置いた条項を取り上げてみたいと思います。

債権回収の実効性を高める契約書条項
債権回収に有用な契約書条項

第2 個別条項の解説

1 期限の利益喪失条項

 「期限の利益」とは、定められた期日までは、債務の履行を行わなくても良い債務者の利益をいいます。

 取引において、納品を先に行い、翌月に支払ってもらう形態があります。
 この場合、仮に支払期限前に相手方会社の財務状況が悪化し、支払いに不安を感じる状況が生じたとしても、相手方会社には期限の利益があり、前倒しで支払いを求めることができず、期限まで待たなくてはなりません

 このような事態に対応するため、期限の利益喪失条項を定めておくことで、直ちに支払期限を到来させて、債務者への全額の請求だけでなく保証人への請求や、相殺、担保権の実行なども可能となります

 期限の利益の喪失は、民法にも規定がありますが、これだけでは不十分ですので、取引契約書には他の条項を追記することが一般的となっています。
 具体的には、民法において破産手続開始決定が規定されていますが、これよりも前に期限の利益を喪失させる条項を定めていきます

 (期限の利益の喪失)
第137条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

🔗「民法」(e-Gov法令検索)

当然喪失条項か請求喪失条項か

期限の利益喪失条項として当然喪失か請求喪失かの2種類ある。
期限の利益喪失条項:2種類

 実務上、期限の利益の喪失条項には、一定の事由(事実)が発生したことにより当然に期限の利益を失うとするものと、債権者が請求したことにより期限の利益を失うとするものと、2種類があります。

【当然喪失条項の例】
「次の各号の一に該当する事由が生じた場合には、相手方からの通知催告等がなくても、相手方に対する一切の債務について当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。」

【請求喪失条項の例】
「次の各号の一に該当する事由が生じた場合には、相手方の請求により、相手方に対する一切の債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。」

いずれを用いるべきか?

 当然喪失(失期)条項の場合、請求する手間を省く点で迅速性に優れています。
 しかし、債務者の財産状態の悪化であったり、信頼関係を損なう事情であったり、抽象的な事由に該当すると主張する場合に、当然喪失(失期)で定めた事由に該当するかは一義的に明確ではありません

 また、喪失事由に該当する事実が発生したとしても、債権者が確知していなくても、消滅時効が進行してしまう恐れがあります。

 

 一方、請求喪失(失期)条項の場合、請求というひと手間が入りますので、期限の利益を喪失した時期は明白です。
 しかし、当然喪失(失期)条項に比べると迅速性に劣ることや、通知が到着しない場合も想定できます。

 このようにみると、一長一短あり、必ずしもどちらが優れているとは言いづらいものです。
 ただ、実務上は、当然喪失(失期)条項に該当するとしても、確認のために通知を送る対応をとる場合が多いとは思いますので、大きな差が生じる場面は少ないといえるでしょう。

 なお、銀行取引約定書では、倒産や倒産と同程度とみなされる事由については当然喪失(失期)条項とし、当然喪失で規定されている事由とまではいかないものの、債権保全の必要性が極めて高いと考えられるものについては請求喪失(失期)条項として定められているようです。

2 解除条項

 期限の利益喪失条項と表裏をなすのが、「解除条項」です。

 法律上、相手方の債務の履行がない場合に解除をすることができます。
 しかし、いくら相手方の履行期を到来させたとしても、未だに契約上の義務が消滅しているわけではありません

「契約の解除」改正民法の趣旨を理解し正しく使いこなそう!
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いかなる場合に解除が認められるか?改正民法の解除規定。
https://ik-law.jp/blog/keiyakukaijo/

 そこで、契約上の義務を消滅させたり、相手方の取引関係を将来に向かって終了させるために、この解除条項を定めておく必要があります。
 特に、こちらが引渡義務を負っていて、まだ引渡しを完了していない契約については、焦付き債権を発生させないために、この条項が有効に作用するはずです。

 なお、相手方が民事再生手続や会社更生手続開始の申立てを理由とする契約解除や契約の終了を定める条項について、債務者の再生を目指す制度目的に反するとして、無効とする判例があります。

 もっとも、当初の契約時と異なる状況になっている場合に、なおも新規の取引を行ったり、取引を継続しなければならないとすると、債権者の利益が著しく害されるリスクが大きいため、リスクを織り込みながらも、使える武器は増やしておくべく、契約書には規定しておくべきと考えます。

3 不安の抗弁権

 継続的な契約において、すでに受注済みの個別契約がある場合に、相手方の財産状態が悪化し、その反対給付を受ける見込みがない場面を想定してみてください。
 こちらが先履行となっている場合には、相手方の信用不安が生じていようと、一方的に引渡しを拒否したら、債務不履行責任が発生してしまいます
 最悪の場合、相手方に発生した損害を賠償する義務も負ってしまいます。

 そこで、相手方の信用不安などを示す一定の該当事由がある場合に、債務不履行責任を負うことなく、こちらの履行拒絶を正当化できることを、「不安の抗弁権」といいます。
 民法上の明文規定はなく(今回の改正でも見送られました)、裁判例において認められている権利です。

 

 先ほどの解除との違いは、受注済みの個別契約を終わらせるのではなく、相手方の状況を見ながら、今後の取引を検討したい場合もあると思います。
 そのため、一時的に先履行(納品など)をストップすることを正当化させる作用をしてくれます。

 実務上の運用としては、相手方に対し、担保提供や履行の提供を求め、信用不安を払拭できる対応を求めます
 それでも応じてくれない場合には、本条項を発動し、事実上の同時履行の抗弁権のような使い方をしていきます。

4 所有権留保

 「所有権留保」とは、こちらが商品を提供する契約において、代金完済までの当該商品の所有権を留めおく特約を行うことをいいます。

 

 所有権留保は、約定担保権とされていますので、取引基本契約などで定めておくことが必要になります。
 常に与信した範囲内でのみ担保が成立しますので(その商品の売買代金の範囲内で効力を持ちます)、他の債権者を害する危険性は低く、使い勝手はよいものです。

 ただし、対抗要件を具備しないと所有権留保の効力を否定する裁判例もあることから、たとえば占有改定文言や分別管理義務条項を入れるなど、何かしらの対策を施しておくとより良いものになると考えます。

弁護士

たとえば自動車のように登録情報が明らかだと良いですが、そうでない商品の場合には、所有権を明示してもらう「明認方法」を施してもらうなど、ひと手間加えてもらうと確実になります。

5 増担保条項

 取引開始時点において、何らかの担保を取得している場合であっても、時間の経過による価値の変化や、保証人であれば信用状態の変化はあり得ることです。

 そのような場合に、こちらの請求により担保を追加したり、代わりの担保を差し入れるように要求できる根拠となる条項を、「増担保条項」といいます。

 

 この条項の留意点は、この条項が契約書において規定されていたとしても、個別具体的な担保権を取得できるわけではありません。
 その意味で、効果が強いものと言い切れない面があります。

 もっとも、こちらが請求した場合に相手方が協議に応じる契約上の義務は発生します
 また、応じない場合には契約上の債務不履行に該当し、解除事由や期限の利益喪失事由への該当性を主張できるなど、武器となることは間違いありません。

6 情報提供条項

 債権回収は、相手方の信用不安の予兆をいかに早く気付けるかだけでなく、平常取引においても常に相手方の情報を得ておくことは非常に重要なことです。

 所有権留保や動産売買の先取特権に基づく商品の差押えなどにより、債権回収を図ることも1つの手段です。
 同様に、商品が第三者に転売されたとしても、相手方の転売先に対する債権(売掛金)から動産売買の先取特権の物上代位に基づく債権差押などによる債権回収を図ることも想定できます。

 これら債権回収を迅速に実行するためには、平時から商品在庫に関する情報を得たり、転売先に関する情報を得ておくことが何より必要なこととなります。

債務者の銀行口座、取引先(売掛金)、所有不動産などの情報をいかにつかむかが、債権回収の大きなポイントです。
債権回収は情報戦です。
債権回収は「情報戦」であり、情報をいかに掴むかが成否を決めます

 取引相手から得るべき情報は、さらに担保を取得していたとしても、その担保価値に毀損がないかどうかを調べるものであったり、会社の支配権が移動する場合には事前の通知を要するようにしたり(これを一般に「資本拘束条項 change of control」と呼びます)、事業再生ADRなどの準則型私的整理手続を利用する場合に通知義務を課すことなども想定できます。

 さらには、決算情報や信用情報を提供する義務を課し、相手の事業をモニタリングすることも方法として想定できます。

 このあたりになると、一般的な契約において見受けられるものではないため、なかなか契約書に盛り込むことが難しい場合も多いと思いますが、様々な事情によりやむなく取引関係を締結する場合などには、このような条項を盛り込むことも積極的に検討してみるべきではないかと考えます。

【情報提供を求める条項:想定される例】

  • 売渡商品の在庫に関する情報
  • 転売先に関する情報
  • 担保物に関する情報
  • 会社支配権変更の通知義務
  • 準則型私的整理利用の場合の通知義務
  • 決算資料等の提出義務

第3 最後に

 以上のような条項を規定することで、債権回収の実効性を高められるものと考えます。

 期限の利益喪失や解除条項などは、多くの契約書のひな形にも規定されていることと思います。
 それ以外の条項についても、規定できる限りで盛り込むだけでも構わないです。

 平常時の取引の時からこのような視点を持つだけでも、取引相手を眺める視点は大きく変わっていくのではないかと思います。

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