不動産取引において、不動産自体ではなく、不動産を取り巻く環境に関する傷を、一般に「環境瑕疵」と呼びます。
似た概念に「心理的瑕疵」がありますが、「心理的瑕疵」は、物理的ではない心理的な面における傷や心理的欠陥、心理的嫌悪感をいいます。
心理的瑕疵も環境瑕疵も、法文に出てくる言葉でもなく、法律で画一的な定義が定められている用語ではありませんが、一般的に以下のように区別をされています。
| 項目 | 心理的瑕疵 | 環境瑕疵 |
|---|---|---|
| 概要(定義) | 建物の構造や機能に物理的な問題はないものの、その不動産を使用するにあたって心理的な抵抗や嫌悪感(心理的な面における傷や欠陥)が生じる事柄。 | 建物自体に直接の問題はないものの、不動産を取り巻く周辺環境が原因で、居住や使用に支障をきたすおそれがある事柄。 |
| 原因の所在 | 主に対象不動産の内部の履歴(過去の出来事や使われ方など)。 | 主に対象不動産の外部・周辺(近隣の住環境や施設など)。 |
| 具体例 | ・過去の殺人事件や自殺 ・過去に風俗営業に用いられていた ・犯罪を行う宗教団体のアジトと目されていた ・火災で死者が出た | ・日照や眺望の阻害、騒音、振動、悪臭 ・隣人、隣接住民による迷惑行為や異常行動 ・近隣に暴力団関係の施設や、いわゆる嫌悪施設が存在する |

この記事では、環境瑕疵が不動産取引にどのような影響を与えているのか、裁判例を概観しながら解説します。
なお、2020年4月の民法改正により、従来の『瑕疵(かし)』という概念は『契約不適合(種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと)』として整理されました。
しかし、不動産実務においては現在でも「環境瑕疵」、「心理的瑕疵」という用語が定着して使われているため、本記事でもこれらの用語を使用しています。
【参考|当事務所の別ブログ記事】
🔗【賃貸】心理的瑕疵のガイドライン(国土交通省)を分かりやすく解説
第1 裁判例の紹介
1 暴力団・反社会的勢力に関する裁判例
| 裁判所・年月日 | 事案の概要 | 裁判所の判断(判決) |
| 東京地裁 令和5年3月17日 | 購入した土地・建物の近隣に暴力団事務所が存在。 仲介業者と売主(相続人)に対し、調査・説明義務違反および心理的瑕疵による損害賠償を請求。 | 【請求棄却】 売主や仲介業者に反社会的勢力の事務所の存否を調査・報告する一般的義務はない。 瑕疵担保免責特約もあり、心理的瑕疵による責任も否定された。 |
| 東京地裁 平成26年4月28日 | 購入した土地の近隣ビルに暴力団関係団体(大日本興行)の事務所が存在。 仲介業者が調査・説明義務を怠り、事実に反する広告を作成したとして損害賠償を請求。 | 【請求棄却】 ビルが暴力団対策法上の指定暴力団事務所に該当するとまでは認められず、外観上の特徴もなかったため、仲介業者の認識や調査・説明義務違反は否定された。 |
| 東京地裁 平成25年8月21日 | 土地購入後、近隣に暴力団事務所が存在することが判明。 売主に対し、説明義務違反による解除・詐欺取消・錯誤無効や損害賠償を請求。 | 【一部認容(2269万3000円)】 解除や無効は棄却(平穏が具体的に害されておらず隠れた瑕疵に当たらない)。 ただし、売主が競売時に近隣状況を調査していたのに告げなかった点は信義則上の説明義務違反と認定。 |
| 東京地裁 平成9年7月7日 | 購入したマンションの同一階に暴力団幹部が居住し、組員の多数出入りや共用部分の私物化、祭礼時の大騒ぎなど迷惑行為が常態化。 買主が契約解除や損害賠償等を請求。 | 【一部認容(350万円)】 解除や無効は棄却。 しかし、暴力団員居住等の状態は通常人にとって住み心地の良さを欠く「隠れた瑕疵」に当たるとされ、適正価格との差額分の損害賠償が認められた。 |
| 東京地裁 平成7年8月29日 | 事務所兼マンション建設目的で購入した土地の、交差点を隔てた対角線の建物に指定暴力団の事務所が存在。 買主が詐欺・錯誤無効や損害賠償を請求。 | 【一部認容(1820万円)】 詐欺等は棄却。 しかし、暴力団事務所の存在は社会通念上土地の価値を減ずるため「隠れた瑕疵」に該当すると認定。 土地の減価割合を20%として損害賠償が認められた。 |
2 隣人トラブルに関する裁判例
| 裁判所・年月日 | 事案の概要 | 裁判所の判断(判決) |
| 東京地裁 令和6年1月17日 | 土地を購入・建物を新築したが、東側隣地の居住者から工事車両等に関して度重なる迷惑行為を受けた。 売主と仲介業者の説明義務違反を主張し損害賠償を請求。 | 【請求棄却】 土地の分筆等の事実だけでは元所有者との関係悪化は推認できず、契約締結前に、被告らが認識し得る程度の隣人トラブルがあったとは認められないとして、義務違反を否定。 |
| 東京地裁 令和5年3月15日 | 戸建て住宅購入後、依頼した業者が私道に駐車した際に近隣住民から苦情を受けた等のトラブルから、契約不適合(心理的瑕疵)を主張し解除と手付金返還等を請求。 | 【請求棄却】 苦情や過去のゴミ排出方法の変更程度の事実では、居住不可能な程度の契約不適合(心理的瑕疵)があったとはいえず、説明義務を構成する程度の内容でもないとされた。 |
| 東京地裁 令和2年12月8日 | マンション購入後、隣室の居住者から継続的な騒音や嫌がらせを受けた。 これが「隠れたる瑕疵(心理的瑕疵)」に当たるとして、売主に損害賠償を請求。 | 【請求棄却】 隣人の迷惑行為は心理的に使用を制限するが、一般人共通の重大な心理的欠陥(通常保有すべき品質・性能を欠く)とまではいえず、また管理会社等から容易に情報を入手できたため、「隠れた瑕疵」を否定。 |
| 東京高裁 平成20年5月29日 | 宅地を購入し建物を建築しようとしたところ、隣家住人から脅迫的な言辞で設計変更を要求される等の妨害を受けた。 隠れた瑕疵や説明義務違反として損害賠償を請求。 | 【一部認容(775万5000円)】 第一審を変更。 隣人が建物建築を脅迫的言辞で妨害する状況は「瑕疵」と認定され、代金額を基準とした被害相当分の損害賠償が認められた。 |
| 大阪高裁 平成16年12月2日 | 土地建物購入後、隣人が子供の声に過敏に反応しトラブルを起こす人物であったため居住を断念。 買主が売主と仲介業者に説明義務違反等に基づく損害賠償や錯誤無効を請求。 | 【一部認容(各自456万円)】 第一審を変更。 売主(夫)は隣人との過去の深刻なトラブルを秘匿し誤信させたとして、また仲介業者も直近のトラブルを認識しながら説明しなかったとして、双方に説明義務違反が認められた。 |
第2 裁判例の検討(私見)
1 環境瑕疵の認定ハードル
裁判所は、単に「近くに暴力団事務所がある」、「隣人が気難しい」というだけでは、容易に物件の「瑕疵(契約不適合)」とは認めていません。
裁判例では、暴力団員がマンションの共用部分を私物化し、深夜まで大騒ぎするような常態化したケースでは「瑕疵」と認定されました(東京地判平成9年7月7日)。
その一方、外観上暴力団事務所と分からず、具体的な抗争やトラブルが起きていない場合は、瑕疵とは認められにくい傾向をうかがうことができます。
隣人トラブルについても、私道の通行に関する苦情程度の一般的なトラブルでは瑕疵と認められません 。
2 「瑕疵」と「説明義務違反」の切り分け
上記の裁判例から分かる重要なポイントは、「物件そのものの瑕疵(欠陥)とは認められなくとも、売主や仲介業者の『説明義務違反』が問われるケースがある」ということです。
売主が隣人の異常行動を知っていたにもかかわらず、買主に「問題ない。」と虚偽の説明をしたり隠したりした場合、信義則上の「説明義務違反」として損害賠償が命じられています。
3 不動産仲介業者の責任の明確化
仲介を担う不動産業者には、過度な近隣調査までは要求されておらず、自ら進んで周辺の嫌悪施設を調査する一般的な義務はないと判断されています。
外観からの容易な判別の可否や、買主からの具体的な調査依頼の有無によっても変わり得るものですが、仲介業者の調査義務には限界があることを認容しています。
4 告知義務違反による法的責任
上記の裁判例においては、売買契約自体の解除(白紙撤回)までは認められるハードルが高く、損害賠償による金銭的解決にとどまるケースが多く見られます。
暴力団事務所の存在や深刻な隣人トラブルが説明義務違反や瑕疵として認められた場合、その損害賠償額は、物件代金の10%〜20%相当額との判断がされました。
第3 不動産トラブルは専門の法律家へ

裁判例からは、売主や業者が知っていたトラブルを隠したことによる『説明義務違反』で多額の賠償が命じられるケースがありました。
売主や仲介業者は『ネガティブな情報ほど正直に書面で開示する』ことが最大のリスクヘッジになります。
一方、買主側も業者任せにせず、気になる環境については『具体的に質問し、物件状況報告書などの書面で回答を残してもらう』こと、そして『自ら現地を歩いてみる』といった自衛策が非常に重要です。
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