不動産を所有していると、どうしても尽きない悩みに家賃の滞納があります。
家賃の滞納が発生してしまった場合、どのようにして賃借人に対して明渡しを行っていくのか、その法律手続の流れと内容について説明します。
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第1 全体の流れ
家賃の滞納は、賃借人としての義務違反行為、つまり債務の不履行に該当します。
そのため、賃借人との交わしている賃貸借契約を債務不履行により解除し、現在ある占有の法的正当性を失わせ、建物を明け渡せと求めていきます。
通知を送ったり、電話での話合いなどで、退去に関する話合いがまとまれば、一番望ましい形といえます。
もっとも、任意に退去に応じない賃借人に対しては、訴訟・強制執行と法的手続を進めていくしかありません。
全体の流れ図は、下のような経過を辿ります。
この記事で、賃貸借契約の解除を確実に進めるための方法と、明渡断行(強制執行)などの法的手続を具体的に説明します。
第2 賃貸借契約解除の通知
1 賃貸借契約を解除すること
契約の解除には「催告」を行うこと
賃料の不払いが発生したからといっても、直ちに契約が解除できるわけではありません。
賃貸人は、原則として、賃借人に対して滞納賃料の支払を催告し、相当期間にその支払がない場合に契約の解除が可能となります。
相当期間の長さですが、1週間程度の期間を設定すれば十分といえるでしょう。
なお、催告や解除の意思表示について、疑義を生じさせないためにも、配達証明付き内容証明郵便の利用が強く推奨されます。
(文例)
「〇月〇日までに、滞納家賃〇万円を支払うよう請求いたします。同期日までに入金のない場合には、改めて通知することなく、本書面をもって本件賃貸借契約を解除いたします。」
信頼関係が破壊されないと解除できない
賃貸借契約は継続的な契約で、相互の信頼関係を基礎とします。
そこで、判例上、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除するためには、賃借人に賃料不払があった場合でも、その不払の程度や不払に至った事情によって、いまだ賃貸借契約の基礎となる相互の信頼関係を破壊したものといえない場合には、賃貸借契約の解除はできないとされています(最判昭39.7.28)。
信頼関係が破壊されたかどうかの判断要素として、賃料の滞納の程度が重要視されます。
過去の賃料滞納の有無、滞納の理由(資金不足か、何らかの正当な理由があるのか等)、賃貸人側の帰責性等の諸般の事情が考慮されます。
一般論ですが、1ヵ月滞納しただけでは、信頼関係が破壊されたとは言えません。
また、賃料の滞納が相当程度に溜まった場合でも、賃貸人が目的物の重大な損傷について修繕義務を果たしておらず、賃借人の不払を一定程度正当化できる場合などは、信頼関係が破壊されていないとされる可能性があります。
【ポイント】
信頼関係の破壊は、評価が伴いますので先が読めない部分があります。
ただ、一般的には、2~3ヵ月の滞納で信頼関係が破壊されていると判断されることが多いため、賃貸人としては賃料の滞納が発生したら、早めに行動に出ることが大切です(なお、借地の場合は、より長く、1つの目安は半年程度と思われます)。
2 契約書に「無催告解除条項」がある場合
賃貸借契約書に、賃料を1回でも滞納したときは催告なしに契約を解除することができるとの特約(「無催告解除条項」といいます)がある場合、この特約を根拠にすぐに解除することはできるでしょうか?
判例において、催告をしなくても不合理とは認められない事情(背信性を基礎づける具体的事実)がある場合には、催告なしで解除権を行使することが許される旨を定めた約定として有効であると、限定解釈がされています(最判昭43.11.21)。
この背信性を基礎づける具体的事実とは、賃貸借契約の目的物、期間、賃料額等の内容に応じて決定されるべきことで、一時的に手元にお金がない場合だけでは足りず、ある程度の回数・期間の賃料の履行遅滞がある場合をいうとされています。
裏返して言えば、賃料の不払いも何度も繰り返されてきて初めて、無催告解除が許されますが、ある程度の回数や期間がどの程度か、明確な基準がありません。
そうすると、余計な争点を増やさないためにも、実務上は無催告解除特約があった場合でも、催告して解除の方法で進めるのが無難ということになるでしょう。
3 契約書に「当然解除条項」がある場合
契約書に、賃料を1回でも滞納したときは、催告・解除の意思表示を必要とせずに賃貸借契約を当然に解除できる旨の特約(「当然解除条項」といいます)がある場合、この特約を根拠に何もせずに解除を主張できるでしょうか?
判例では、特約の効力が無条件に認められるわけではなく、賃貸借当事者間の信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当とする程度にまで破壊されたといえないときには、賃貸借契約が当然に解除されたものとは認められないと、無催告解除と同様に限定解釈しています(最判昭51.12.17)。
この判例は、訴訟上の和解(裁判所が関与した和解です)で当然解除条項が定められたケースにおける解除の有効性判断でしたが、結論として解除を認めませんでした。
判例の言い回しが分かりづらいですが、当然解除条項は解除の要件を緩和するもので、賃借人にのみ不利益な規定なので、賃貸人に「信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当とする程度にまで破壊された」ことの立証責任を負わせています。
当然解除条項がある場合においても、賃借人が繰り返し賃料を滞納していた事実や、特約締結の経緯に関する事実(実際には、契約当初から当然解除条項が定められる場合は少なく、契約締結後賃借人が賃料不払い等債務不履行を繰り返した場合に、契約継続の譲歩として当然解除条項をつけることが多いでしょう)を立証しなければならないため、仮にこの条項があったとしても催告からの解除も両睨みで進めていくことが無難といえるでしょう。
4 賃料不払物件のオーナーチェンジの場合
家賃の不払物件でオーナーチェンジをした場合(家賃不払いとなっている賃借人がいる状態で買い受けた場合)、未払いとなっていた家賃については旧賃貸人(売主)か新賃貸人(買主)に移転するわけではありません。
旧賃貸人から新賃貸人に家賃の未払債権を移すには、債権譲渡の手続が必要となります。
新賃貸人が売買契約前の家賃未払いを理由に解除したい場合には、旧賃貸人から未払債権の債権譲渡を受けることで、旧賃貸人時代の滞納を理由として承継した賃貸借契約を解除することができると考えられています。
5 解除通知 ⇒ 任意退去の合意へ
解除通知と共に、速やかなる退去を促します。
賃料滞納による退去のケースでは、滞納賃料を回収できることは多くありません。
そうすると、何よりも早く建物から退去してもらうことが目標となりますので、引っ越し費用を負担する等の譲歩は検討されてよいと考えます。
法的手続まで進むケースは、時間も費用も掛かってしまいます。
第3 保全処分の検討
1 保全処分を検討すべき場合とは?
任意での退去合意等ができない場合、賃貸人としては法的手続(訴訟など)に進むしかありません。
ただ、訴訟提起に進む前に、民事保全処分を検討します。
具体的には、執行妨害など悪質な手段を講じてきそうな賃借人には①占有移転禁止の仮処分を、裁判所で明渡しの話し合いを実施したい場合には②明渡断行の仮処分を検討したいです。
位置づけとしては、①占有移転禁止の仮処分が最もスタンダードな手続で、②明渡断行の仮処分は例外的に利用を検討するイメージです。
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裁判の盲点
賃貸人が賃借人に対して裁判を起こした場合、口頭弁論が終結した後に、賃借人が第三者に占有を移したとしても、弁論が終結した時点までの賃借人の占有について反論する手続保障が尽くされているといえるため、賃借人に対する勝訴判決で強制執行は可能となりますので、何も問題はありません。
しかし、弁論終結するより前に、賃借人が第三者に建物の占有を移した場合には、賃借人に対する勝訴判決を得ても、この間に占有を移された第三者(たとえば、転貸借契約を締結した転借人)に対して建物明渡しの強制執行をすることができません。
第三者を被告として、最初から裁判を起こす必要があります。
弁論終結前に占有を移したら、第三者の占有について手続保障(反論の機会)がないために、賃借人に対する勝訴判決では足りないのですね。
形式論のようにも思うのですが、そのためにもう一度、裁判を最初からやり直す必要があるなんて。。。
具体的には、たとえば、賃借人のAさんに対して裁判を起こし、勝訴判決を得て建物明渡しの強制執行手続を行うとします。
しかし、強制執行手続において、弁論終結前から第三者が占有していることが明らかになった場合には、その占有者に対して強制執行を行うことができず、その占有者に対して、勝訴判決を得なければなりません。
執行妨害に対抗する「占有移転禁止の仮処分」
そこで、このような事態の発生を防ぐために、占有移転禁止の仮処分を申し立てます。
すると、この時に賃借人のAさんが占有者と認定されれば、たとえ第三者に占有が移ったとしても、賃借人Aさんに対する勝訴判決で明渡しの強制執行を完遂することが可能となります。
この当事者を確定させる効果のことを「当事者恒定効」と呼びます。
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明渡断行の仮処分とは
先述の占有移転禁止仮処分を申立て、訴訟提起を行うのがスタンダードな手続です。
もっとも、裁判を行って強制執行を行うまでには一定の時間がかかります。
そこで、建物が不法占拠されている場合など、直ちに不動産の明渡しを求める緊急の必要性があるときに、明渡断行の仮処分を申立てることができます。
暫定的とはいえ、裁判を経ることなく明渡しを実現できてしまうため、認められる要件が非常に厳しいです。
なお、占有移転禁止仮処分に、債権者の使用を許す類型もあり、その場合はほとんど同じ扱いになります。
ただ、占有移転禁止仮処分の債権者使用の場合は、執行官の補助機関として占有するにすぎないため、目的物を処分したり賃貸することができません。
そのため、占有移転禁止仮処分の債権者使用の方が、明渡断行の仮処分より、やや容易に認められやすいといえます。
双方審尋の実施
不動産の明渡断行の仮処分は、仮の地位を定める仮処分に分類され、両当事者が裁判所に行って審尋期日を経て審理が進められます。
審尋期日は、債権者(申立人の方、この場合は賃貸人)と債務者が裁判官席の前に行き、交互に話をします。
裁判官とは、テーブルをはさんで相対するため、法廷と異なり、非常に近い位置での手続となり、これだけで賃借人にプレッシャーとなるでしょう。
賃料滞納の場合に双方審尋を戦略的に利用する
賃料滞納については、賃料不払いによって賃貸人の生活が困窮していることや、賃貸人が売買契約を締結して引渡期限が迫っていることなどは、緊急の必要性に該当しないと考えられており、ストレートに利用することは難しいです。
ただ、たとえば解除(催告)通知を無視されて何も話合いの機会すら持てていない場合などでも、裁判所からの通知を無視する賃借人も多くはありません。
そこで、この双方審尋の期日が明渡しに向けた和解(実質的な話し合い)の場となり、早期退去が可能となることがあります。
裁判所を挟んで賃借人と接点を作る契機となり、そのまま明渡しの話が進む場合もあるのですね。
第4 訴訟提起(裁判へ)
1 賃料滞納事件における裁判
この事件類型は、賃料滞納していること自体は事実があることも多く、欠席裁判となることが多いです。
出廷してくる場合は、むしろ裁判を利用した明渡についての和解交渉の場となりますので、賃貸人にとっても好都合のことがあります。
ただ、無茶苦茶な条件を提示されたり、新たな引っ越し先を全然見つけられない等、新生活への前向きな姿勢を示さない賃借人もいますので、その際は手続を進めていくことになります。
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(第1審)民事裁判の手続の流れを解説2 賃借人からの反論
賃料不払事案では、賃借人から「家賃を支払わなかったのは、何度言っても賃貸人が修繕義務を履行してくれなかったからだ。」という反論が出てくることがあります。
裁判例においては、仮に賃貸人が修繕義務を怠り利用に支障があったとしても、継続して使用収益できるときには、賃借人は賃料の支払いを全面的に拒否できず、賠償若しくは賃料の減額を請求できるに留まるとされています。
ただ、使用収益を不能もしくは著しく困難にするほどの支障があれば、賃料の減額ではなく、全面的な支払拒絶も認容され得る点には注意しましょう。
3 裁判に要する期間
欠席裁判となったとしても、訴訟提起から第1回期日までは2ヵ月弱はかかっている印象です。
第5 強制執行手続(建物明渡の断行)
1 全体の流れ
裁判を経て判決を獲得したならば、強制執行手続に移ります。
建物の明渡しは、執行官が担いますので、債権回収における動産執行と同様に、執行官宛に強制執行の申立てを行います。
強制執行は、建物から賃借人を追い出し、残置物を処理する等して、建物の占有を物理的強制力を用いて賃貸人に移す方法で行われます。
ただ、明渡しの強制執行は、生活や事業の拠点を失わせる点で賃借人に与える打撃が大きいため、いきなり明渡断行を行うのではなく、まずは明渡断行の日時を告知する催告手続(執行官が現場に行き、〇月〇日に明渡しの強制執行を行いますと告示書を掲示する)を実施し、それでも退去しない場合に明渡しの強制執行を行う段取りで進められます。
2 時系列に沿った明渡断行手続の流れ
強制執行の申立て
強制執行の申立は、他の執行と同様に執行文と送達証明を取得して行います。
事前準備
執行官と打合せを行います。
主には、申立内容だけでは分からない建物の現況や明渡しの実現見込み等を債権者に確認したり、解錠技術者(カギ屋)の手配や執行補助者の選定(トラックやクレーン車を使用でき、家財道具の搬出・保管や建物の取壊しなどに従事する業者)、運送会社の手配を行います。
この時に、賃借人の属性等によって警察への援助申請や、賃借人が高齢者で身寄りがない場合には市役所等への援助申請も行います。
催告手続の実施
催告手続とは、執行官が現場に赴き、引渡期限(催告日から1ヵ月後)を定めた上で、賃借人に対し、任意に不動産等の引渡しを行うように求めることをいいます。
この催告が実施されれば、占有者に変更があった場合でも、手続をやり直すことなく強制執行を実施することができます(当事者恒定効:占有移転禁止の仮処分と同じ効果があります)。
催告手続では、執行官は、引渡期限、及び賃借人が不動産の占有移転を禁止されている旨が記載された公示書を現場の分かりやすい場所に貼ります。
なお、解錠業者を帯同していますので、賃借人が不在であっても、鍵を開けて居宅等に入ることができます。
この催告手続により、断行期日前に任意退去する賃借人も多くいます。
断行期日までに明渡しが完了していれば、取下書を提出します。
強制執行の実施(断行)
断行期日までに任意の明渡しがなされない場合には、建物明渡しの強制執行を断行します。
具体的には、残置動産もなく賃借人がすでに退去している場合には、賃貸人が鍵を交換することで執行完了となります。
残置動産(目的外動産)がある場合には、建物の中の荷物を手配している執行補助者が運び出し、賃借人に引き渡します。
賃借人が不在であったり、受け取らない場合は、予め準備している倉庫などの保管場所に運びます。
賃借人を退去させた後は、賃貸人は鍵の交換をします。
鍵の交換を行わずに、再び賃借人に占有されてしまうと、従前に取得した債務名義(勝訴判決)では強制執行を再び行うことができず、再度訴えの提起から始めないといけませんので、注意しましょう。
目的外の動産の処理
賃借人の所有物(残置物)のことを、建物明渡を目的としている強制執行となりますので、「目的外動産」と呼びます。
建物を債権者に占有を移す以上、目的外動産も処理しなくてはなりません。
目的外動産については、
- 債務者に持ち出させる、
- 保管した上で、後に賃借人に引渡すか、それができない時は売却します。
(保管すべきと思料される目的外動産とは、売却価値のある高価品等や、賃借人にとって価値のあるアルバム、仏壇などが想定されます) - 廃棄処理をする、
上記の対応が、基本的な処理方針となります。
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不動産明渡の断行(強制執行)の流れを解説3 建物明渡の強制執行にかかる費用のイメージ
まず、執行官に強制執行の申立てをする際、東京地裁であれば予納金として6万5,000円を支払います(主に執行官費用ですが、最終的には一部返金を受けることが多いです)。
次に、鍵の解錠費用と鍵の交換費用があります。
解錠は、1回2~3万円程度、交換費用は3~5万円程度の印象です。
一番大きいのが、人件費(執行補助業者)です。
催告手続の日当で1人2万円程度です。
明渡断行での残置物(目的外動産)の搬出・運搬費用は、大まかな相場観では、ワンルームで10~20万円程度、ファミリータイプで35~50万円程度と思われます。
他に、残置された動産を廃棄する費用として、数万円から10万円程度。
一時的に動産を保管する費用として、トランクルームの費用として、最低でも数万円からかかります。
一般的な引越業者と比べると高めになってしまいます。
ただ、これはあくまでも最後の強制執行に至った場合の費用ですので、この前に任意退去による解決や、退去合意をすることが、時間的にも経済的にも賃貸人にメリットが大きいことが分かりますね。
第6 弁護士による建物明渡のメリットと費用
1 賃料滞納による建物明渡を弁護士に依頼する意義
賃料滞納により建物の明渡を求める場合、滞納状態を放置せずに早めに行動すること、そしてできる限り賃借人と早めに接点を持ち、任意の退去を促すことが大切です。
弁護士が介入することで、法的手続による強制退去を念頭に置かせることで早期の退去を図りやすいものと考えます。
2 当事務所の弁護士費用(建物明渡:家賃滞納)
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当事務所にご依頼いただく場合には、委任契約の内容をご確認いただき、委任契約書にご署名・ご捺印をいただきます。
問題解決へ
事件解決に向けて、必要な手続(和解交渉、調停、裁判)を進めていきます。
示談、調停、和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。
終了
委任契約書の内容にしたがって、弁護士費用をお支払いいただきます。
お預かりした資料等はお返しいたします。
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