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【違法執行・不当執行に対する救済】
強制執行の手続において、不服を申立てるには、どのような手段がありますか? -
強制執行機関による違法執行・不当執行に対して、不服申立ての手段として以下のものが用意されています。
【違法執行に対して】
- 執行抗告
- 執行異議
- 執行文付与等に関する異議
- 配当異議
【不当執行に対して】
- 請求異議の訴え
- 第三者異議の訴え
- 執行文付与の訴え
- 執行文付与に対する異議の訴え
- 配当異議の訴え
強制執行の不服申立手続の全体像 ①執行文の付与と、②配当については、別記事にて解説しました。
執行文の付与とは?~債務名義を実現する、強制執行必須のアイテム不動産競売の「配当」手続~競合する債権者、誰が参加できるか?ここでは、強制執行手続全般での不服申立手続である、執行抗告、執行異議、請求異議の訴え、第三者異議の訴えについて説明を致します。
第1 はじめに
強制執行手続において、どのような不服申立手続を取れるかを考える前に、債権の権利判断を行う裁判手続と、強制執行を行う執行裁判所が、手続的に別のものであることを理解する必要があります。
民事(強制)執行は、その実施主体の執行機関(執行裁判所)は、簡易・迅速性という目的達成のために、執行の資料を形式的に審査するだけで、実体上の権利の存否について実質的に判断する仕組みにはなっていません。
すなわち、債権の内容や存在についての判断を行う手続と、強制執行を行う手続と、それぞれ別に用意されています。


強制執行を簡易・迅速に行うために、権利確定と権利の実現機関とを別にしています。
まずはこの視点を持つと、不服申立手段も異なることへの理解が深まると思います。
第2 不服申立て手段の全体図
そして、強制執行手続に対し不服を申し立てる場合、強制執行の手続に不服がある場合と、請求債権の内容や存在についての不服がある場合とで、異なる手続を行う必要があります。
強制執行の手続に違法性があれば、文字通り「違法執行」となります。
これに対して、債権の内容や存在に疑義がある場合、強制執行手続自体は適法に行われていることから、「不当執行」といえるでしょう。
この違法執行に対して申立てる場合と、不当執行に対して申立てる場合とで、下図のように取るべき手段が変わります。

1 違法執行に対して~執行抗告・執行異議
違法執行に対する不服申立方法が執行抗告と執行異議です。
執行抗告は、法律に執行抗告の規定がある場合にのみ申立てることができ、それ以外は執行異議を申立てます。
執行抗告の具体例では、預金債権を差押えたい場合に、金融機関の支店を特定しないと債権の特定性に欠けると裁判所が判断して、債権差押命令の申立てを却下した場合に、却下された債権者が何度も執行抗告にて争ってきました。

下の記事の末尾に、差押債権の特定性が争われた裁判例を紹介していますが、これは債権差押命令申立ての却下に対して、執行抗告で争っています。
(関連記事)「債権の仮差押え」~債権回収へ預貯金・売掛金を狙う!
2 不当執行に対して~請求異議の訴え、第三者異議の訴え
これに対し、執行手続には違法な点はないけれども、強制執行の前提となる権利の内容や存在に異議がある場合には、強制執行手続が実体法的にみて不当となり得るため、これを不当執行と呼んでいます。
たとえば、すでに弁済をしたのに、強制執行をされた債務者が不服を申立てることがあります。
この不当執行に対しては、請求異議の訴え、第三者異議の訴えが用意されています。
第3 執行抗告・執行異議について
1 執行抗告とは
執行抗告は、「民事執行の手続に関する裁判」に対して、「特別の定めがある場合に限り」認められると民事執行法で規定されています。
執行異議に比べて慎重な手続で、これまでに執行妨害のために執行抗告が濫用されてきた事実があることから、利用できる場合が限定されています。
執行抗告は、裁判の告知があった日から1週間の不変期間内に原裁判所に提出しなければいけませんので、期間には十分に注意をしましょう。
2 執行異議とは
執行異議は、「執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないもの」、「執行官の執行処分及びその遅怠」に対して申立てることができます。
原則として一審限りの救済手段で、審理に口頭弁論が必要とされません。
申立期間の定めがなく、強制執行手続が完了するまでの申立てが可能となる点が、執行抗告と大きく異なっています。
3 執行抗告ができる場合
各処分に共通なもの
執行手続を取消す旨の決定、執行手続を取消す執行官の処分に対する執行異議の申立てを却下又は棄却する裁判、執行官に執行手続の取消しを命じる決定などが挙げられます。
不動産強制競売に関する処分
不動産強制競売の申立てを却下する裁判、配当要求を却下する裁判、売却許可決定・不許可決定、引渡命令申立てについての決定等があります。
債権執行に関する処分
債権差押命令の申立てについての裁判、配当要求を却下する裁判、転付命令の申立てについての決定等があります。

執行抗告が認められるのは、民事執行手続・執行救済を途絶させる裁判、関係人に重大な不利益を与える恐れのある裁判、実体関係の変動・確定を生じる裁判、を対象として規定されていることを想像すると、具体的なイメージを持ちやすいと思います。
第4 請求異議の訴えとは
1 請求異議の訴えの時期
執行文の付与の有無や強制執行開始の前後であるかを問わず、債務名義に表示された請求権の強制執行がすべて終了する前まで(債権回収が全額完了されるまで)訴えを提起することができます。
2 異議事由
- 請求権がそもそも発生しなかったこと(契約の不成立、錯誤・通謀虚偽表示による無効、詐欺・強迫による取消等)
- いったん発生した請求権の消滅(弁済、請求権放棄、債務免除、相殺、消滅時効の完成、解除条件の成就、契約の解除等)
- 請求権の効力の停止又は制限(期限の猶予、停止条件の付加、相続の限定承認、破産における免責等)
- 請求権の主体の変更(債権譲渡、免責的債務引受等)
が考えられます。
なお、異議事由が複数ある場合には、同一訴訟内で主張しなければいけません。
債務名義が判決の場合
裁判で主張できた内容を再度争うことはできません。
具体的には、詐欺を理由として契約を取消すといった主張はできません。
しかし、判決後に弁済をした事実の主張や、他に所有している債権で相殺をする等の主張をすることはできます。
3 請求異議の訴えが認められた場合
債務名義に基づく強制執行を許さない旨を判決主文で宣言します。
この判決が確定すると、当該債務名義の執行力が失われ、執行文付与機関は執行文を付与することができなくなります。
4 請求異議の訴えだけでは執行停止はされない
請求異議の訴え、第三者異議の訴えの両方共に、訴えの提起だけでは強制執行が止まりません。
そのため、強制執行を止めるためには、「異議のため主張した事情が法律上理由があるとみえ、かつ、事実上の点について疎明」(民執36条1項)の要件を満たした上で、強制執行停止の申立てをする必要があります。
【参考】🔗「強制執行停止事件の流れ(申立てから発令まで)」(東京地裁ホームページ)
第5 第三者異議の訴え
1 第三者異議の訴えとは
民事執行は、外観主義を採用しているため、不動産ならば登記、動産ならば占有を基準として執行対象かどうかを判断します。
そのため、外観と実体とに齟齬があり、対象財産の実体上の権利者を害する事態が発生することがあり得ます。
このような場合に、執行対象財産について所有権等の権利を主張する第三者は、債権者に対して訴訟によって執行の不許を求めるのが、第三者異議の訴えです。
2 対象
民事執行の全てが対象となり、強制執行だけでなく、担保権実行にも適用されます。
また、金銭執行に限らず、非金銭執行(引渡請求や明渡請求等)も対象となります。
3 異議事由
典型的なのは、所有権です。
所有権以外にも、債権者に対抗できる地上権、永小作権、対抗力を備えた賃借権、譲渡担保権、所有権留保等も異議事由になり、第三者異議を提起できるとされます。
4 第三者異議の訴えが認められた場合
通常の訴訟手続により審理され、特定の財産に対する執行を許さない旨を主文に掲げて判決がされます。
判決によって当然に強制執行が停止されるわけではありませんが、債務者が執行機関に提出すると、強制執行の終局的停止と既にされた執行処分が取消されます。
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