借地権の存続期間について、法律がどのような規定をしているのか、解説します。
借地権には、法律改正を挟んで旧借地法が適用される借地権と、借地借家法が適用される借地権とがありますが、両者を区別して考える場面は必ずしも多くはありません。
この存続期間については、両者の差異が顕著に表れる典型的な場面の1つといえます。
特に旧借地法の借地権物件の購入をご検討されている方にとっては、この違いを知っておくことは、他物件との比較において検討材料になるのではないかと思います。
では、早速見ていきましょう。
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第1 借地法・借地借家法の2つの借地権
1 借地借家法の制定
かつて土地・建物の利用関係は、旧建物保護法、旧借地法、旧借家法によって規律されていました。
現行法である借地借家法は、平成4年(1992年)8月1日に施行されました。
そのため、施行日以後は、原則として借地借家法が適用されることになります。
2 借地法の借地権と借地借家法の借地権
土地・建物の利用関係は、継続して長期的に借地人、建物賃借人の生活や営業に深く関わりますので、従前の法律の下で保障されていた権利・利益に重大な変更が生じることは望ましいものではありません。
そこで、借地借家法は、施行日より前からの賃貸借にも遡及適用されることを原則としつつ(附則4条本文)、旧建物保護法、旧借地法、旧借家法の規定のより生じた効力を妨げないと定め(附則4条但書)、さらに遡及適用に関する多くの例外を認めています。
借地権の期間に関する定めは、この例外に該当し、借地借家法の適用が排除されます(附則6条、借地借家法3条~6条)。
平成4年7月31日までに設定された借地権については「借地法」が適用されます。
一方、平成4年8月1日以降に設定された借地権については「借地借家法」が適用されます。
ここからは混乱を避けるため、「借地法」を「旧法」と、「借地借家法」を「新法」と呼び、それぞれの規定について解説します。
現在においても、多くの借地権は、旧法借地権です。
第2 旧法借地権の期間の定めについて
1 旧法借地権の存続期間の定め
旧法借地権は、築造する建物を堅固建物と非堅固建物とに分けて規定し、それぞれの存続期間を定めています。
そのため、旧法借地権において、建物の種類の定めは非常に重要な借地条件となっています。
堅固建物は、鉄筋・鉄骨コンクリート造が代表的で、石造、土造、レンガ造などです。
非堅固建物は、一般的に木造建物をいい、軽量鉄骨、鉄筋造などがあります。
それぞれ建物の耐久性、耐震性、耐火性、堅牢性や解体の容易性等を総合考慮して定められますが、区別は困難で紛争を招きがちでした。
非堅固建物が堅固建物より耐用年数が短いとは限らないこともあり、借地借家法においては、両者の区別は廃止されました。
堅固建物の最初の法定存続期間は60年、非堅固建物は30年です。
契約で堅固建物について30年以上、非堅固建物は20年以上の存続期間を定めたときは、契約によって定められた期間となります。
契約で、法定の最短存続期間より短い期間を定めた場合、その約定は無効となり、法定存続期間(堅固は60年、非堅固は30年)となります。
図示すると、次のように整理できます。
2 借地契約の更新後の存続期間
契約更新する場合の存続期間は、合意更新・法定更新のいずれの場合も、堅固建物30年、非堅固建物20年です。
合意更新の場合、この期間よりも長い期間を定めた場合には、その定めは有効となります。
3 まとめ
上記の内容について、法的存続期間を図示すると、下図のような期間となります。
堅固建物の場合
非堅固建物の場合
第3 新法借地権の期間の定めについて
1 新法借地権の存続期間の定め
旧法借地権と異なり、建物の種類・構造による区別をなくし、一律30年です。
これより長い期間を定めたときは、その定めた期間(約定期間)となり、上限はありません。
新法では、大多数の借地権設定契約において、期間が定められている事実を踏まえ、当事者の合意による存続期間の下限と法定の存続期間の下限の区別を廃止し、一律規定としました(最初の設定は30年以上、更新は最初が20年以上、2回目以降は10年以上)。
2 借地契約の更新後の存続期間
更新後の存続期間は、最初の更新は20年となり、2回目以降の更新は10年です。
これより長い期間を定めたときは、その期間(約定期間)となります。
3 まとめ
新法借地権の法定存続期間を図示すると、下のようになります。
第4 借地権契約の存続と終了 ~ 建物再築の問題
1 借地権存続のための再築
借地上の建物は、時の経過と共に再築の必要が生じてきます。
その原因は、地震や火災等による滅失、建物の老朽化、任意の取壊しによる改築(建替え)など、様々なものが想定できます。
それでは、再築がいかなる場合に許されるか、旧法と新法で異なりますので、見ていきます。
2 旧法借地権における再築
旧法では、再築不可などの特約を定めていなければ、建物の再築を地主の承諾なく自由に行うことができます。
借地人が契約の残り期間を超過して存続する建物を再築する場合に、地主が遅滞なく異議を述べないときは、借地権は建物滅失の日から、堅固建物については30年間、非堅固建物については20年間存続します。
なお、残りの契約期間がこれより長い場合には、その期間となります。
地主から遅滞なき異議が出された場合でも、再築を阻止できる効力はなく、契約が終了することもありません。
異議が出された場合には、元の契約が維持され、元の契約期間満了によって借地契約は終了します(正当事由の存否の問題になります)。
この場合に借地人が契約継続を希望するときは、期間満了時における更新拒絶の際の正当事由が問題となり、その正当事由の判断要素として再築に対して異議を申し出た事実が考慮されます。
旧法借地権では、この他に当事者が契約書で借地期間を定めなかった場合に、建物が朽廃すると借地権は消滅します。
当事者が借地期間を定めなかったとき(法定の期間とする場合)は、借地権は建物が朽廃するまで(建物の自然的寿命が尽きるまで)存続させる当事者の意思だったと合理的に推測されるためです。
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借地権の更新はできるか?鍵を握る「正当事由」とは?3 新法借地権における再築
新法借地権は、初回の契約期間中と、更新後の契約期間中とで扱いが異なりますので、分けて解説します。
最初の契約期間中の場合
新法においても、最初の契約期間中は、地主の承諾なく、自由に再築ができます(従来の建物と同一の残存期間を有する建物の再築ができます)。
借地人が契約の残り期間を超えて存続すべき建物を築造した場合、その建物を築造することについて地主が承諾したときは、承諾のあった日、又は建物が築造された日のいずれか早い日から、借地期間が20年となる契約に更新されます。
ただし、残存期間がこれより長いとき、又は、当事者が20年より長い期間を定めたときは、その期間が存続期間となります。
残存期間を超える建物の再築について、地主が承諾しない場合は、契約の更新は認められません(正当事由の問題になります)。
更新後の期間中の場合
新法では、更新後の建物再築には地主の承諾が必要です。
承諾を得られないのに、残存期間を超える建物を再築したときは、地主は借地権を解約することができ、この解約申入れ後3ヵ月を経過すると借地権は当然に終了します。
借地人は、更新した後に建物が滅失した場合には、契約期間の途中でも借地権を解約することができます。
再築をしたい場合に地主の承諾が得ら得ない場合には、代諾許可の申立て(借地非訟)を行うことで、借地権の存続を図る手段が用意されています。
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増改築許可の申立て(借地非訟)新法借地権(借地借家法)では、最初の契約期間であるか、更新後の契約期間であるかによって、大きく異なる制度設計がなされています。
これは、最初の借地期間によって本来的に建物所有の目的を達成し、更新後の借地期間は、借地契約が目的を果たした後の付加的な権利(残余効)と考えられていることに依ります。
✍ 新法借地権の基本的な考え方
- 最初の借地期間によって建物所有の本来的目的は達成されています。
- 最初の借地期間満了後に借地関係を継続させるのは、借地期間満了時の建物の存在が、その根拠となります。
- そのため、2回目以降の借地期間については、その期間内に建物が存在しなくなれば、借地関係を終了させても差し支えありません。
4 借地権の終了
借地権は、合意による終了、債務不履行等による解除による終了など、一般的な終了原因によって終了します。
上記のように、再築をめぐり借地人と地主の意向が対立した場合には、期間満了時における正当事由の存否によって契約が更新されるかどうかが決まります。
更新されずに借地権が終了する場合には、借地人は地主に建物を買い取ってもらい(建物買取請求権)、土地を明渡して、借地権は消滅することとなります。
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建物買取請求権について解説します第5 よくある質問
-
旧法借地権を、当事者の合意によって新法(借地借家法)が適用される借地権に変更することは可能ですか?
-
この点について争われた事例がほとんどないため、明確に断言することはできません。
ただ、当事者が真に同意し、かつ、借地人に明らかに不利となる内容がない場合には、新法借地権として新たな借地権契約を締結する場合には、有効と扱われるものと思われます。
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借地人にとっては、新法借地権に比べて、旧法借地権の方が有利なのでしょうか?
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法律家以外の方の言説では、借地人には旧法借地権の方が有利であるとの意見が多いように見受けられます。
確かに、借地権の法定存続期間は旧法借地権の方が長く、再築も自由に行うことができる特徴があります。
存続期間の長さは、新法では短く定めることで、土地返還を求める地主の意向を反映させやすい設計となっています。ただ、多くの借地権設定契約では存続期間は定められており、法定存続期間が適用されるケースは少ないです。
そうすると、法律の規定から有利不利を判断できる場面が、実際にはそれほど多くない印象を持っています。
再築については、旧借地法では自由にできるとはいっても、地主が承諾しない場合には、契約更新されないリスクを負った上で再築を実施しないといけません。
これに対し、新法借地権では、自由に再築できないけれども、実際に再築を行う前に借地非訟手続で再築の可否の判断をもらうことができます。
このような観点からすると、法律的な観点からは、いずれが有利とは一概には言い難いように考えています(私見)。
なお、契約更新の正当事由の規定についても、新法は要件が厳しくなったとの意見もありますが、旧法下での判例法理を明文化したものが新法につながっており、大きな差異を見出すことはできないように考えています。
第6 借地権を専門的に扱う弁護士に相談する
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