借地契約は、借地権の存続期間が満了した場合、当事者が合意をすれば終了せずに、継続します。

これに対して、更新の合意がされない場合には、本来は期間満了によって契約は終了するはずです。

まだこの家に住み続けたいと思っていますが、契約期間が終わってしまうので、もう退去しないとダメかと心配になっている借地人。
借地人のお悩み

借地権は、土地上に建物を所有することを目的として、継続的な土地の利用を予定していますので、期間終了とともに借地権を消滅させるのは必ずしも妥当といえず、借地人を保護して契約を継続させる必要があります。

そこで、借地借家法では、一定の事由があれば、契約の更新があるものとみなす制度設計(みなし更新を築きました。

借地権の更新には、みなし更新制度があり、請求更新と、土地の使用継続更新の2種類がある。

請求更新とは、借地人が更新を請求する場合をいいます(借地借家法5条1項本文)。

これに対して、②使用継続更新とは、借地人が土地上の建物の利用を継続している場合をいい、法定更新とも呼ばれます(借地借家法5条2項)。

そして、地主から更新について反対(異議)をされたとしても、地主の反対(異議)に正当事由がない限り、契約は更新されるものとして、借地権を存続を強く保障しています。

以上の説明をまとめると、下図のようになります。

借地権契約が期間満了により終了した後、借地人から更新請求がある場合には、地主は遅滞なく異議を述べないといけません。
借地人に更新請求がなくても、借地人が土地の使用を継続している場合には、地主が遅滞なく異議を述べないと借地契約は更新されます。
特にこの場合は法定更新と呼びます。
そして、地主の異議には、正当事由が必要とされており、正当事由のない異議では、借地契約は終了しません。
借地権の更新をめぐる全体像

弁護士 岩崎孝太郎

借地権の契約更新をめぐる問題について解説します。

地主が土地を利用したければ、契約の更新を反対(異議)します。

その際、地主の異議に正当事由が認められるかを巡り、借地だけでなく、借家も含めて、賃貸人と賃借人による熾烈な争いが繰り広げられてきました。

その意味で、更新制度は、正当事由が問題となる場面の前提部分となります。

全体像として、上の図を描きましたので、これを思い浮かべられれば十分です。

では、詳しくみていきましょう。

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第1 はじめに ~ 借地期間満了と借地人の更新請求

借地契約を設定した後、約束された契約の終了時期が到来すれば、契約は終了するのが原則です。

この場合、借地人がさらなる契約を望まない場合には、借地権は終了し、借地人は地主に対して建物の買取りを請求することができます(建物買取請求権)。

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借地人の建物買取請求権とは?

しかし、借地人は建物建築などの資本投下を行い、その土地において長期間にわたり事業活動を行ったり、生活をしてきたことからすると、土地利用の継続を希望する場合には、借地権は存続させておくことは望ましいものと考えられます。

そこで借地借家法は、借地人に対して、契約期間が満了した場合において、地主に対して契約の更新を請求する権利を認めました。

そして、この更新請求を保障するため、地主が契約更新に反対する場合には、正当事由がある場合に限り、地主は異議を主張できる設計となっています。

契約の更新(法定更新)と正当事由は、借地借家法の肝ともいえる部分です。

特に借地権は、この規定によって、極めて長期にわたる土地利用が可能となります。

借地権の財産的な価値も、この制度によって担保されています。

借地人の更新請求に対して、地主は正当事由ある異議があれば、対抗することができます。
借地人の更新請求 VS 地主の異議

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借地借家法を分かりやすく解説します

第2 借地権の更新(法定更新)・地主の異議と正当事由

1 合意更新

更新の合意は、存続期間満了の前後にされることが必要です。

存続期間の満了の時に、借地上に建物が存在する場合には、更新の合意がされたものとみなされます。

これに対して、建物が滅失して存在しない場合には、借地権を再設定したものと扱われます。

期間の延長の合意は有効か?

更新の合意ではなく、期間満了前に、たとえば借地期間を5年延長する合意をすることは可能でしょうか?

結論として、期間を延長する合意は有効と考えられています。

期間を延長する場合には、借地借家法4条の適用はありません。

第4条(借地権の更新後の期間)
当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は、更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

🔗「借地借家法」(e-Gov法令)

期間を延長した場合の法律関係は、延長期間の満了時に更新の問題が発生します。

この時に、地主が正当事由ある異議を述べなければ、借地契約は更新されることになります。

2 借地人の更新請求

借地権の存続期間が満了する場合に、借地人が更新を請求した時は、建物がある場合であれば、契約が更新されたものとみなされます。

更新請求は、期間が満了する時期に接着した前後の時期に行う必要があります。

更新請求が早すぎると、地主は許否を決めることが難しいものとなります。

一方、遅い場合には法定更新(借地借家法5条2項)の問題になります。

第5条(借地契約の更新請求等)
借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。

🔗「借地借家法」(e-Gov法令)

更新請求の意思表示

借地人の更新請求は、地主から借地期間満了を理由とする土地明渡請求を借地人が拒絶するという形でも行い得るものです。

これは、明渡拒絶の意思表示の中に、更新請求の意思表示が含まれていると考えられるためです。

つまり、明渡請求について争ったこと自体が更新請求をしたと認められるからです。

更新請求の排除特約の有効性

借地借家法は、借地人に不利な特約は無効としています。

そのため、更新請求を排除する特約は、借地人に不利な特約であり、無効となります。

裁判例では、期間満了と同時に異議なく土地を明渡す内容の特約や、借地人があらかじめ更新請求を放棄することに対して、その代償、明渡料に代えて賃料を免除する合意などが、いずれも無効と判断されています。

他には、期間満了後新たに契約を締結しなければ土地賃貸借は無効である旨の特約、調停成立の日から10年後に賃貸借期間の終期が来ることとした調停条項なども、無効と判断されています。

ただ、一律にすべてが無効になるわけではなく、借地人の不利益を補償するに十分な特段の事情(地主が大幅な譲歩をしている内容も包含する特約)があれば、有効と判断されている事例もあります。

3 地主の異議

借地人の更新請求に対して、地主が遅滞なく異議を述べた場合は、更新されません。

地主の異議は、借地人の更新請求に対して遅滞なく行う必要があります。

異議をするかどうかは、借地人から更新請求を受けたときから直ちに考慮し始める必要があり、その考慮に必要な期間を経過した場合には、遅滞があるとされます。

また、更新請求があった後に、地主が何の留保もなく地代・賃料を受領した場合には、更新請求に対して異議がないものと理解されます。

地主の異議は、その表示方法には制限がありませんので、存続期間満了後に借地人に対して明渡請求をする場合や、賃貸借期間の終了を理由に賃料の受領を拒絶した場合にも、異議の意思表示をしたものと扱われます。

ただ、単に地代の受領を拒否する場合や、存続期間満了前に期間が満了したら明渡すように申出ていただけでは、異議を述べたことにはなりません。

第5条(借地契約の更新請求等)
借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。

🔗「借地借家法」(e-Gov法令)

4 法定更新の場合の異議

借地人が更新請求をしない場合であっても、土地の使用を継続し、地主がこれに対して正当事由のある異議を遅滞なく述べない場合には、借地契約は更新されたことになります。

借地人の土地使用の継続という事実から、法の規定によって更新という効果が生じることから、法定更新と呼ばれます。

借地人が土地の使用を継続し、地主がいったんは許容した場合には、それによって更新の効果は確定し、以後に地主が異議を述べたとしても、更新の効果を覆すことはできなくなります。

第5条(借地契約の更新請求等) 
借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。

🔗「借地借家法」(e-Gov法令)

5 契約が更新された場合はどうなるか?(法定更新の効果)

存続期間満了前の借地契約と同一の条件で更新したものとみなされます。

ただ、存続期間だけは、法定の存続期間とされます。

存続期間以外は、従前の契約と同一条件で更新されますので、従前の契約に付されていた賃料等の増減額に関する特約や弁済方法に関する特約は、更新後の借地契約にも引き継がれます。

6 法定更新の場合の存続期間について

法定更新された場合、期間満了前の借地契約と同一の条件で更新したものとみなされますが、期間だけは法定の存続期間となります。

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借地権の存続期間について解説します

旧法借地権の場合

旧法借地権の場合、堅固建物か非堅固建物かによって、存続期間が30年20年かの違いがあります。

旧法借地権における、(法定)更新後の存続期間についての定めを記載した図。

借地借家法(新法)の借地権の場合

最初の更新が20年、2回目以降の更新の場合は10年となります。

新法(借地借家法)における(法定)更新した場合の借地権の存続期間を記載した図。

7 借地人の更新請求と地主の異議(正当事由)の全体図

この記事の冒頭部分にも出した図と同じものを、再度記載します。

この全体像をご覧になれば、借地契約の期間満了によっても、なるべく借地権の継続を保護する仕組みが築かれています。

借地権契約が期間満了により終了した後、借地人から更新請求がある場合には、地主は遅滞なく異議を述べないといけません。
借地人に更新請求がなくても、借地人が土地の使用を継続している場合には、地主が遅滞なく異議を述べないと借地契約は更新されます。
特にこの場合は法定更新と呼びます。
そして、地主の異議には、正当事由が必要とされており、正当事由のない異議では、借地契約は終了しません。
借地権の更新をめぐる全体像

第3 よくある質問

合意解除した場合や、借地人の債務不履行によって借地契約が解除された場合にも、借地人は更新請求をすることはできますか?

合意解除や債務不履行による解除の場合には、借地人は更新請求をすることができません。

借地借家法では、条文の文言も「借地権の存続期間が満了する場合において」(借地借家法5条1項本文)として、更新請求権の発生は、存続期間満了の場合に限定することを明確にしました。

地主の異議は遅滞なく述べる必要があるとのことですが、どの程度の期間であれば「遅滞ない」ものとして扱われますか?

明確な決まりはなく、具体的な事案ごとに判断がなされています。

契約締結時期が曖昧となり、直ちに異議を述べることが期待できないケースで1年半経過した異議を遅滞なきものと判断した事例、期間満了後から土地明渡しを求めていた場合に、約7ヵ月経過したものを遅滞ないものと判断した事例、期間満了から2ヵ月経過したものを遅滞ないものと判断した事例があります。

これに対して、期間満了から1年10ヵ月以上経過した場合や、2年以上経過した場合を、異議が遅滞なく述べられたものといえないことは明らかと判断した事例があります。

第4 借地権を弁護士に相談する

弁護士 岩崎孝太郎

借地契約が期間満了によって終了する場合、当事者が合意により終了する場合には、建物買取請求権の問題となります。

借地人が更新を望む場合には、地主は遅滞なく正当事由ある異議を述べない限り、借地契約は更新されます。

地主の異議に正当事由があるかどうかは、 これまでに数多く争われ、沢山の事例が集積されています(これは別記事で解説します)。

地主の立場で見ると、正当事由を備えた異議を述べない限り、借地契約は更新されますので、いざ地主自身が使いたいと思って、何十年にわたり土地が返ってこない恐れがあります。

借地借家法の更新制度は、借地人が長期間にわたって安心して土地利用ができることを担保する、とても重要な制度といえます。

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