医療機関には、応招義務があります。
具体的にどのような場合に、応招義務違反となるのかが判然としません。

どのように理解すればよいでしょうか。

どのような場合に医療機関・医師が患者を診療しないことが正当化されるかについての最も重要な要素は、患者について緊急対応が必要かどうかです。

患者に緊急対応の必要がある(病状が深刻である)場合には、医療機関・医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、当該医療機関・医師以外の他の医療機関・医師による医療提供の可能性(医療の代替可能性)などを勘案しつつ、事実上診療が不可能である場合など著しく限定された場合に限り、医療機関・医師が診療しないことが正当化されます。

患者に緊急対応の必要がない(病状が深刻でない)場合には、同様の考慮要素を基にしながらも、緩やかに判断しても構いません。

その上で、医療提供体制の変化や医師の勤務環境への配慮の観点から、診察を求められたのが、診療時間内・勤務時間内(医療機関・医師として診療を提供することが予定されている時間)であるか、それとも診療時間外・勤務時間外であるかや、患者と医療機関・医師の信頼関係も考慮すべき重要な要素であると考えられます。

✍ 応招義務の判断にあたっての重要考慮要素

  • 患者に緊急対応が必要か否か
  • 診療時間内かどうか
  • 患者と医療機関・医師の信頼関係が喪失されたか否か

医療機関に対する悪質なクレームが増加している状況の中、厚労省も応招義務についての厳格な解釈を大幅に見直しています(令和元年12月25日医政発1225第4号厚生労働省医政局長通知)。

最近の裁判例においても、悪質なクレーム患者に対して診療拒絶を行ったことが違法と評価されたケースはありません。

応招義務」はクレーム対応において、何ら怖くないものだと言い切ることができます。

以下、具体的に説明します。

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第1 応招義務の法的性質

「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」
(🔗医師法19条1項、🔗歯科医師法19条1項)と規定されています。

この応招義務については、医師の国家に対する公法上の義務であるとされ、最近の行政解釈でも公法上の義務として明言されています。

応招義務の法的性質。
法律の建前は、公法上の義務であり、患者に対して直接義務を負うものではないと考えられています。
応招義務が公法上の義務である具体的イメージ図
🔗「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究について」

ただし、その性質が患者の保護のために定められた規定であることにかんがみ、医師が診療拒否によって患者に損害を与えた場合には、診療拒否に正当事由があるなどの反証がない限り医師の民事責任が認められるとされ、実質的には患者に対する義務として機能している面があります。

難しく考えず、患者との関係においても応招義務があると考えれば良いですね。

第2 応招義務の「正当な事由」の具体的な内容とは?

医師にとって、正当な事由をどう解釈すべきかが、応招義務の理解にあたり必要となります。
応招義務とは、「正当な事由」をどう解釈するかの問題!!

1 これまでの行政解釈(通達)について

昭和24年通達:厚生省医局長通知(🔗昭和24年9月10日医発第752号

「何が正当な事由であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきであるが、今ここに一、二例をあげてみると、
①医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。
②診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない。
③特定人例えば特定の場所に勤務する人々のみの診療に従事する医師又は歯科医師であっても、緊急の治療を要する患者がある場合において、その近辺に他の診療に従事する医師又は歯科医師がいない場合には、診療の求めに応じなければならない。
④天候の不良等も、事実上往診の不可能な場合を除いては、正当の事由には該当しない。
⑤医師が自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疫病について診療を求められた場合も、患者がこれを了承する場合は一応正当の理由と認め得るが、了承しないで依然診療を求めるときは、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。」

昭和30年通達:厚生省医務局医務課長回答(🔗昭和30年8月12日医収第755号

「正当な事由がある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労をもってこれを拒絶することは、第19条の義務違反を構成する」

昭和49年通達:厚生省医務局長通知(🔗昭和49年4月16日医発第412号

「休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法第19条第1項の規定に反しないものと解される。
ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応ずる義務がある」

これまでの行政通達は、医療現場における悪質なクレーマーの存在を考えると、医療機関に対して診療拒絶を行うことを躊躇させる厳しい内容となっており、時代錯誤であるとの批判が強いものでした。

2 厚労省による行政解釈の見直しへ(令和元年通知)

厚労省は、医師の働き方改革や来日外国人観光客への医療提供の在り方などの観点から、研究班による報告(🔗「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈についての研究」)を基に、これまでの行政解釈を大幅に見直しました。

令和元年通知:厚労省医政局長通知(🔗令和元年12月25日医政発1225第4号)では、診療しないことが正当化される事例の整理にあたって、最も重要な考慮要素は「患者についての緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)」であるとして、①緊急対応が必要な場合と、②緊急対応が不要な場合とをまず大別し、診療時間内かどうかによる区別をしています。

そのうえで、個別事例ごとの整理として、診療拒否が正当化される類型の一つとして、「患者の迷惑行為」を挙げ、診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(具体的には、診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等)には、新たな診療を行わないことが正当化される、としています。

応召義務の内容として、患者が緊急対応を要する状態であるか否かが最初の判断基準となり、次に診療時間内か否かによって対応が異なってきます。
緊急対応を要する場合には、診療時間内であれば、診療が不可能な場合のみ診療しないことが正当化されますが、基本的には正当化されません。これに対して、診療時間外であれば、原則として公法上、私法上の責任には問われません。ただ、応急的に必要な処置を取ることが望ましいとはされます。
一方、緊急対応を要さない場合についてです。診療時間内であれば、緊急対応を要さない場合であっても、原則として患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要があります。
これに対して、緊急性もなく、診療時間外であれば、即座に対応する飛鳥なく、診療しないことは正当化されます。ただ、時間内の受診依頼や、他の診察可能な医療機関の紹介等をとることが望ましいとはされている点には留意しましょう。
応招義務と、緊急対応の要否・診療時間内か否かの関係図
個別事例ごとの整理として、患者の迷惑行為を挙げ、診療の基礎となる信頼関係が喪失した場合には、新たな診療拒否は正当化されるとしました。
また、医療費の不払いについては、原則として応招義務違反となりますが、支払い能力があるのにあえて支払わない場合には応召義務違反となならないとしています。
個別事例ごとの整理~患者の迷惑行為、医療費の不払い

3 今後の対応にあたって

令和元年通知にしたがい、救急患者それ以外に分けて応招義務を検討していくことで、実務上の対応は十分と考えられます。

特に、同通知においては、救急患者でない場合に医師の応招義務が免除されるケースを例示し、医師の行為規範を提示していますので、これまでの行政通達と異なり、非常に参考になるものと思います。

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第3 裁判例の紹介と検討

1 応招義務違反と判断されたケース

応招義務違反と認定された2例を紹介します。
応招義務違反とされたケースは、いずれも救急患者の診療拒絶により患者が死亡している事案となっています。

【事案の概要】【判決の要旨】
患者A(1歳1ヵ月)が診療所で診察を受けたところ、気管支炎ないし肺炎により君津市内の病院での治療がよいと判断し、救急車の搬送を手配しました。
救急車が被告病院に到着しましたが、満床により入院できないとして、入院を拒否されました。
消防からの再三にわたる要請も被告病院は拒否したため、消防は1~2時間の搬送に耐えられるかとの診断を求め、被告病院の医師が診察、右搬送に耐えられるとして、応急処置もなく救急車を送り出し、千葉市内の診療所に収容されましたが、呼吸循環不全症状が改善せず、気管支肺炎により死亡するに至りました。
(千葉地裁昭和61年7月25日判決)
本判決は、患者Aの死因は気管支肺炎であったと認め、被告病院では、午前10時03分、患者Aを乗せた救急車が同病院に到着した時点でもなお転送を求め、容易にAの収容先がみつからないことを認識しながら、その後も転送を依頼し、同11時05分、被告病院医師の診察後も転送を求めたことは、Aのためを第1に考えた行為でなく、診療拒否にあたると判断しました。
本件につき、医師の不在等により診療が不可能な場合に当たらず、この正当事由がないとしてその民事上の過失を肯定し、しかも、低酸素、脱水状態が続いているうちに、被告病院がAの診療を開始しておれば、Aを救命しえた可能性は高いとし、この診療拒否とAの死亡との間に相当因果関係があると判示しました。
神戸市にて交通事故に遭い、両側肺挫傷・右気管支断裂の傷害を受け、救急車で搬送された患者A(20歳)について、消防が神戸市の病院(第3次救急医療機関)へ搬送を依頼したところ、脳外科医と整形外科医が不在であるため対応できない(実際は宅直)と返答しました。
そのため、隣接の西宮市の病院(神戸市の第3次救急医療機関に匹敵)に収容し、ただちに応急処置・手術が施されましたが、前記受傷に起因する呼吸不全により死亡するに至りました。

患者の相続人らが、神戸市の病院の診療拒否により患者は適切な医療を受けるという法的利益を侵害され、精神的苦痛等を被ったとして、同病院の開設者である神戸市に対し、不法行為を理由に損害賠償を請求しました。
(神戸地裁平成4年6月30日判決)
本判決は、病院が診療を拒否して患者に損害を与えた場合には「過失がある」という事実上の推定がなされ、病院において診療拒否を正当ならしめる事由を主張・立証しない限り患者が負った損害を賠償すべき責任を負うと立論しました。

その上で、本件の事故当時、本件病院に外科医が救急担当医師として在院していたから、脳外科及び整形外科の専門医がいなくても医療を施すことが人的にも物理的にも可能であったと認定し、本件診療拒否を正当ならしめる事由の存在は肯認し得ないとして、Aの慰謝料として150万円を認容しました(請求は200万円)。

2 応招義務違反と判断されなかったケース

近時の裁判例においては、応招義務違反と認定されている例は皆無です。

【事案の概要】【判決の要旨】
心臓発作を起こしている患者に対し、かかりつけ医が入院先として申し込んだ救急病院で、当直医が外科医1名で内科医が不在であったこと、しかもその外科医も交通事故重傷者の診療に追われていたことを理由に受け入れを拒否しました。(名古屋地裁昭和58年8月19日判決)
本件における右入院診療の拒否は、被告病院の当直医師が外科医1人であつたこと、同医師は当直時間中に出産2名を除く4名を入院させ診療しているが、そのうち入院させた1名は交通事故による重傷者で出血が激しく、同患者に対する治療に追われていたいました。
前示のとおり、同医師は入院治療依頼の電話において、同女の容態、同女に対し同医師の採つた措置について説明を受けていると認められ、この事実に〈証拠〉を総合すると脳外科の専門医である同医師としては、同女を入院診察したとしても内科医である同被告のなした右措置以上の適切な措置を採ることは困難であり、他の専門医の診療を受けさせた方が適切であると判断したものと推認されること、等の事情を考慮すると、やむを得ざる入院診療の拒否であり、前記医師法上の義務違反には該当しないものと解するのが相当である。
患者(被告)が過去に手術等の医療行為を受けた病院において、再三にわたり同病院に来院して長時間居座り、過去に受けた手術等の医療行為に関し、大声で不満を述べたり、暴言を吐いたり、同手術の説明や謝罪を要求するなどして、同病院の業務を妨害しました。

これに対し、同病院の開設者である医療財団(原告)が、業務遂行権ないし人格権及び施設管理権に基づき、当該患者の同病院の敷地への立入り及び業務妨害行為の禁止を求めるとともに、診療契約上の債務及び損害賠償義務を負っていないことの確認を請求しました。
(東京地裁平成26年5月12日判決)
被告は、本件手術後に通院を止めてから約3年半後に本件病院に再び来院し、他院へ通院するのに必要であるとして、原告が保持する被告の医療記録の開示を求めたものであるが、開示された医療記録やA院長からの説明に不審を抱くとともに、A院長の言動等の原告の対応に不満を持ち、本件説明会の場において、A院長に対して謝罪を求めた上、A院長からの説明は信用できないとの趣旨の発言をし、さらに、本件説明会終了後には、A院長が何について謝罪したのか明確にするよう求める旨の書面……を提出し、その後も本件病院に来院してA院長からの謝罪等を求めていたものである。
このような被告の言動からすれば、病院が患者に対して医療行為を行う上での基礎となる原告と被告との間の信頼関係は、もはや適切な医療行為を期待できないほどに破壊されているといわざるを得ない。

これに加え、被告自身、今後本件病院において診察を受けるつもりはないと述べていることも併せ考えると、本件手術等の医療行為に関しての原告の被告に対する診療義務ないし問診義務は、履行できない状況に陥っている・・・、原告には被告からの診察の求めを拒否する正当な事由があるというべきである。
大学病院の内科及び整形外科を受診し、腹痛症、間接リウマチ等の治療を受けていた患者について、患者やその配偶者が同病院からの説明に納得せず退去を拒否するなどの迷惑行為を繰り返したため、同病院は整形外科における診療の継続が困難である旨を伝達しました。

これに対し、患者ら(原告ら)が、診療拒否について医療法及び医師法に違反しているなどとして、同大学、同病院の医師等に対し、慰謝料の支払い、診療の継続などを請求しました。
(東京地裁平成25年5月31日判決)
原告らは、被告病院の医師から、リウマチの検査の場合、採血を空腹時に行う必要はない旨の説明を受け、診療予約時間の1時間前に採血を行うよう指示されたのに、自らの考えに固執してこれに従わず、再三被告病院からの退去を拒否するなどしたのであって、かかる事実に照らすと、被告大学らにおいて、整形外科における診療の継続は困難と判断し、これを拒否したことには正当な事由があるというべきであるし、その後、原告に対する内科の診療は継続されていることも考慮すると、被告大学らの対応が医療法及び医師法に違反するとはいえない。
病院で胆のう摘出術等を受け、退院後も腹痛を訴えてスポラミン投与等の通院治療を継続していた患者が、特定の看護師に頻繁に連絡するようになったことをきっかけに、様々なトラブルが発生しました。
具体的には、特定の看護師に対する業務時間中の架電や来訪に伴い、病院から注意を受けたことに対する不平不満の暴言。治療費の支払拒否や他院での治療費負担の要求などを行いました。

そこで、病院が宛先のない紹介状を交付すると共に当院での診療継続ができないとして転医を勧めたことに対し、患者側からの診療継続(再開)を求める仮処分が申立てられました。
(大阪高裁平成24年9月19日決定)
医師法第19条1項が…いわゆる応招義務を定めていることを考え合わせると、医療機関側からの診療契約の解除は、正当の事由があるときでなければ許されないものと解される。

医師の応招義務を前提とすれば、単なる信頼関係の破壊だけでは十分ではなく、患者が医療機関の業務を妨害したり、医療機関に対して不当な要求をするなどの事由が必要であり、また診療契約の解除によって患者の病状が悪化するおそれがある場合でないことを要するというべきである。

その上で、本件については、患者の業務妨害となる不当要求行為や、他院の情報提供を行っている事実を認定し、病状が悪化するおそれがある場合とは認定できないとしました。

大学病院の精神・神経科でADHD(注意欠陥多動性障害)の疑い、うつ状態と診断され、長年通院治療を受けていた患者が担当医師や病院職員に不平や不満を持ち、さまざまな要求を繰り返しました。

具体的には、患者相談窓口に担当医師や職員の対応についてたびたび苦情を入れ、担当医師の了解を得ることなく、相談窓口担当者を診察室に同行させた行為を担当医師が厳しく注意して職員を退室させたところ、患者が不満に感じて書類を破って退出しました。

そのため、病院が当該担当医師による診療を拒絶(担当替え)したところ、患者が病院の債務不履行であるとして、慰謝料請求の訴訟が提起されました。
(東京地裁平成27年9月28日判決)
(原告患者の問題行動と被告病院の診療拒絶を事実認定し)被告病院の医師において、原告に対する適切な診療行為を行うことが困難であること判断したとしてもやむを得ない状況にあったと認められる。
診療治療を行うために必要な信頼関係を失わせることになった原告言動が、原告自身が抱える病気の症状として現出したものであることは否定できないが、そうだからといって、被告病院の対応が違法で損害賠償義務を負うべきものと認めることは相当でない。
歯科医師である被告により歯の診療を受けていた患者が(原告)が、歯科医師の診療義務(いわゆる応招義務)に違反して途中で診療を拒否されたことにより、患部に著しい悪化が生じたと主張して、債務不履行(診療契約上の義務違反)又は不法行為に基づき、慰謝料の支払を求めました。

患者は、歯科医師に対して交際を求める手紙を渡したり、他の患者がいるにもかかわらず、あたかも個人的な交際があるかのような発言しました。
(東京地裁平成17年5月23日判決)
外形的には診療拒否に当たるといえる。
しかしながら、原告は、歯の診療とは全く関係のない男女交際を求めることを主たる目的ないし動機として被告の診療を求めていたことが明らかであるし、実際にも、被告医院において、他の患者も居合わせる場で、いかにも被告との間に個人的交際があるかのような虚偽の内容ないし誤解を招く内容の発言をするなどしたことがあった。
歯科医師である被告が上記のように診療拒否をしたのも、そのような事情があったからであることが容易に推察される。
したがって、上記診療拒否には正当な理由があったということができ、その診療拒否について被告は債務不履行責任や不法行為責任を負わないというべきである。

不妊治療を受けていた夫婦(原告)が、被告病院の保安業務のために停電となってしまい、培養器の電源がオフになっていた事実に対し、病院の卵子培養に過失があったとして、慰謝料等1830万円の支払い、並びに学長名の謝罪文の交付、受精卵の培養器の事故があった事実を東北地区にある産婦人科学会と同等かそれ以上の規模を有する産婦人科学会に報告を求める損害賠償等の訴えを提起しました。

まだ原告の予約が残っていた状況だったため、「転医及び診療延期のお願いについて」と題する書面を送付(内容として「本院といたしましては、診療は患者さんと医師との信頼関係の上に成り立つものと考えております。しかし、この度、残念ながら〇〇さまと係争に至りましたことにより、裁判の当事者間での今後の診察は、困難であると思慮いたしております。つきましては、転医につきましてご検討をいただき、小職までご連絡をお願いいたします。なお、ご連絡をいただけるまで、来る9月24日(金)のご予約も含め、診療は延期とさせていただきたくよろしくお願い申し上げます。」)しました。

かかる書面を送付した行為について、「診療拒絶」及び不法行為に当たるとして訴えました。
(青森地裁平成24年9月14日判決:原審弘前簡裁平成23年12月16日)
本件書面には、転医について検討の上、その結果を連絡するようお願いする旨、連絡をいただけるまでは診療を延期させていただきたくよろしくお願い申し上げる旨も記載されているのであって、被控訴人大学(病院)は、とりあえずは自発的な意思に基づく転医を促した上で控訴人の対応を待つこととしたと解されるから、同書面をもって今後の診療を拒絶する旨の明白な意思表示を読み取ることはできない。

控訴人は、本件書面を送付されてから、何ら連絡をしていない。
仮に控訴人が本件病院における本件不妊治療の継続を希望する旨の回答をした場合であってもなお、被控訴人大学(病院)が控訴人に対し今後は診療をしない旨回答したであろう蓋然性を認めるに足りる証拠もない。

以上によれば、被控訴人大学(病院)による本件書面の送付は、控訴人に対し自発的な転医を促す行為と認められ、診療拒絶に当たらないというべきである。

3 検討

厚労省の令和元年通知にも記載されているように、緊急性が高く、患者の病状が悪化する恐れが認められる場合には、応招義務違反の問題が生じやすくなります。

上記の裁判例を概観しても、緊急対応をしなければならない状況においては、信頼関係を破壊する事情が認められようとも、診療契約の解除は正当化されないと考えられます(救急患者が悪質クレーマーになる場合を、なかなか想像できません)。

そうすると、判断要素として1⃣入院患者か通院患者か(入院患者の方が症状悪化の恐れは高い)、2⃣近隣に同レベルの治療を受けられる医療機関が存在するかどうか、3⃣紹介状や診療情報の提供により、患者の転医を容易にし、症状悪化を防止する努力を行っているかどうか、などが考えられます。

緊急対応が必要か否かにより、最初の対応が分かれます。
緊急対応が必要な場合には、応招義務違反(正当事由の不存在)になりがちです。
緊急対応が必要でない場合には、近隣の同レベルの医療機関があるかどうかを考慮要素として、紹介状や診療情報の提供を行ったか否かによっても結論は分かれ得ます。
近隣に同レベルの医療機関があり、かつ、紹介状や診療情報の提供を行っているのであれば、診療拒否に正当事由は認められやすいといえます。
応招義務の正当事由の考慮手順

信頼関係の喪失について

裁判例において、信頼関係の喪失を根拠として、診療を拒否している事例があります。

「信頼関係の喪失」は抽象的ではありますが、粗暴な振る舞い(令和元年通知では、「診療内容そのものと関係のないクレーム等を繰り返し続けるなど」と例示されています)が1つのメルクマールになり得ると考えます。

さらに、粗暴な振る舞い自体はなくとも、インターネット上で医師や病院を誹謗中傷する、診察を無断録音してネット(SNSなど)にアップする、トラブルの内容等を第三者に提供する(または、提供すると威圧する)などの言動も、診療行為との関連性が希薄なだけでなく、医療機関の評判や平穏な業務遂行権を著しく阻害するものです。

そのため、上記のような言動が見られる場合には、信頼関係が喪失された事情として当然に考慮できるものと考えられます。
実務上の対応として、病院内での録音録画を禁止する案内を掲示しておくことも予防策になります。

第4 最後に

行政解釈や裁判例の概観を通して、「応招義務」を考えてみました。

医療機関のクレーム対応、特に関係遮断を図る際にネックになり得る「応招義務」ですが、何ら恐れる必要はありません。

常識的な対応を行う限り、医療機関がクレーマーに対して責任を負わないことを確認できたのではないかと思います。

【参考】 クリニックに法務部を!経営を加速させる顧問弁護士の使い方とは?
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第5 当事務所のクレーム対応プラン(費用)

1 当事務所の考え

不当なクレーム、悪質なクレーマーから会社を守るためには、会社が一丸となり毅然とした対応を行う体制構築が必要不可欠です。

そのためには、継続的な支援が必要不可欠なものと考えており、顧問契約の締結をお願いしています。

弁護士 岩崎孝太郎

【クレーム対応基本プランの提供サービス】

クレーム対応案件における弁護士の活用法は、対応が困難、もしくは判断に迷う事例について、随時ご相談を行います。
そして、定期的に検討会を行い、対応の是非と同種事例への対応策を打合せします。

その上で、これまでに発生した事例に対する検証を行い、それを基にした対応マニュアルを整備します。

法的手続を除いて代理人としての窓口対応業務までも含めていますので、弁護士費用を予算化できますし、コスパ良く外注できる存在としてご活用いただけます。

1~2年の継続により、クレーム対応業務を内製化していき、通常の顧問契約にダウンサイジングしていくことも可能です。

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クレーム対応マニュアルを弁護士が伝授します!

当事務所のクレーム対応のまとめ記事です

2 弁護士費用と提供サービスプラン

クレーム対応:基本プラン(6ヵ月~)

月額顧問料は、11万円(税込)。
【顧問契約提供サービス】
法律相談(法律問題全般の随時のご相談)、クレーム対応の内製化支援、契約書・社内規程のチェック等、対応マニュアルの作成・改訂、個別事件における代理人窓口対応、顧問先企業での初回無料セミナー。
【オプションサービス】
顧問先企業におけるセミナー(8万8,000円)、法的手続の代理人対応(33万円~)

クレーム対応:代行特化プラン

弁護士への委任を個々の案件ごとではなく、予算を設定して毎月定額化させたい場合に、特化プランを準備しています。
目安として毎月3件程度を上限に想定していますが、個別相談いたします。

当事務所におけるクレーム対応の特化プランです。
基本として1年間のご契約をいただき、毎月22万円×12ヵ月(税込)
定期的にクレーム対応代行を依頼したい事業者の方に

民事全般:基本プラン

上記は、クレーム対応用の特別プランですが、事件対応の一般的なプランもご利用いただけます。

この場合、毎月5万円~の月額顧問料(6ヵ月~)に、以下の事件対応費用(着手金+報酬金)となります。

通常事件の場合と同様に、月額顧問料5万円~に、事件対応費用として、着手金、報酬金を経済的利益にあてはめて算定することとしています。

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