ゴルフ会員権の預託金について、「裁判をすれば勝てると聞いたのですが、、、」とのご相談があります。
なんとなくは聞いているものの、具体的なイメージを持ちにくいものと思います。
どのような反論がゴルフ場からなされているのか、
どのような判決が出ているのかを、
具体的に紹介したいと思います。
そのうえで、返還を求めるにあたり、どのような方策が良いのかをご検討いただく材料を提供できればと思います。
第1 裁判例の傾向
1 返還請求が認められた裁判例
主な論点
ゴルフ場からは、従来、以下のような反論がなされていました。
- 延長決議
会則の定めに基づいて、預託金の据置期間を延長する決議をしたので、据置期間の弁済期が未到来である旨を主張します。 - 事情変更
事情変更を理由として、預託金の据置期間を延長する決議をしたので、据置期間の弁済期が未到来である旨を主張します。 - 内在的制約
ゴルフ場の建設資金は預託金によって賄われていることや、共同財産であるゴルフ場の安定経営のため、又は投下資本の回収は市場による売却によって図るべきことなど、預託金には内在的制約がある権利である旨を主張します。 - 退会承認決議の不存在
会則に「預託金は理事会又は取締役会の承認を得て返還する。」旨の定めがあるところ、かかる承認がされていないので、預託金返還請求は許されない旨を主張します。 - 据置期間の起算点
据置期間の起算点を、預託金の預託時ではなく、後日理事会による入会承認がされた時であるとして、据置期間が未経過であることを主張します。
基本的には、延長決議の反論が中心的となっていますが、ゴルフ場より会員の個別同意がなされていることの立証がなされない限り、返還請求が認められています。
圧倒的多数の裁判例で返還請求が認められており、個別同意により棄却されている事例は非常に珍しいです。
最近の裁判例を概観
判決の内容 | 判決日時 |
いわゆるバブル経済崩壊という経済変動の影響により本件ゴルフクラブの入会保証金の返還が当初の見込み数を大幅に上回ったため経営が圧迫されているなどとして、本件理事会決議の正当性を述べるが、…当然予見されるリスクの範囲内であった…入会保証金返還請求権の財産的な重要性も考慮すれば、被告が本件会員契約および本件預託金契約の締結時における契約内容に拘束される結果になったとしても公平に反するとはいえない。 | 令和2年2月7日東京地判 |
「天変地異、経済情勢の急変等により、クラブの健全なる運営に支障をきたす恐れが生じた場合」に当たる限度で会員の契約上の権利を変更し得るものであると解されるところ、…その後に経済状況の悪化や社会情勢の変化があったとしても、相当多数の会員からほぼ同時期に預託金の返還請求を受けることは被告にとって容易に予見し得ること。 会則に定める据置期間を延長することは会員の契約上の権利を変更することにほかならず、被告が個別的な承諾を得ていない原告に対して預託金の据置期間の延長の効力を主張することはできない。 | 令和元年12月3日東京地判 |
本件クラブの当初の会則は、これを承認して入会した会員である原告と被告との間の契約上の権利義務の内容を構成するものであって、ゴルフ会員権の一内容を構成する預託金返還請求権についていえば、原告はこの会則に定める据置期間15年間の経過後に退会した上で預託金を返還請求する権利を有する以上、この会則に定める据置期間を延長することは会員の契約上の権利を変更することにほかならず、被告な個別的な承諾を得ていない原告に対して預託金の据置期間の延長の効力を主張することはできないというべき。 | 平成30年6月20日東京地判 |
会員の契約上の権利を変更には「会員の個別的な承諾を得ることが必要」(最判昭和61年9月11日判決))を引用した上で、多額の預託金を預託し据置期間が経過するまではその返還を受けられない会員にとって、据置期間を会員の個別の同意なく変更することを正当化するに足るものであることを要すると解されるべきであるから、単に「クラブの健全なる運営に支障をきたす恐れが生じた」ことでは足りず、当該事由が「天変地異」や、これと同視できるような「経済情勢の急変」または同等の極めて異常な事態の発生により生じたことを要すると解するのが相当である。 | 平成30年3月15日東京地判 |
預託金の据置期間を延長することは、会員の被告に対する契約上の基本的な権利を変更することであることから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長を主張することはできないものと解すべきである。 (延長)措置を承諾していない原告との間においては、被告の主張する事由により預託金の据置期間を一方的に原告の不利益に変更し得るとは解されず、と述べました。 | 平成29年10月25日東京地判 |
被告は、本件クラブの経営状況では据置期間の経過した全会員に対して預託金を返還することができないから、公平の観点から原告に対してのみ預託金を返還することはできない旨主張するが、本件証拠上、公平の観点に照らして原告が被告に対して前記預託金の返還を請求することが信義則に反するものと評価すべき事情や、権利の濫用に当たるものと評価すべき事情があるとは認められない。 | 平成29年10月24日東京地判 |
2 請求が棄却された裁判例
判決内容 | 判決日時 |
(名義書換による中途入会者の保証金据置期間は、中途入会日の翌日から起算して20年間とする内容について)原告は現行会則承認書面に署名押印し、…入会資格条件確認書に署名押印した上、本件クラブ中途入会契約を締結したものであって、その際預託金据置期間の短縮等に関する新たな取り決めは何らされていないと認められる。 原告の預託金据置期間が既に経過しているとは認められない。 | 平成29年5月29日東京地判 |
(据置期間を10年延長する旨の理事会決議に同意する書面を提出。A(会員・被控訴人)は理事会決議が有効と説明を受けたが、多くの裁判例で決議は有効とされていないのに、有効であると誤信したから同意書を提出したとして、錯誤による無効を争った事案。) 本件決議により据置期間延長という法的効果がすでに生じていることを前提として被控訴人Aが本件同意をしたことを窺わせる記載はない。 そうすると、被控訴人Aは、控訴人(ゴルフ場)の上記説明により据置期間延長の必要があることを理解し、その結果として本件同意をしたものと認めるのが相当であり、本件決議によりすでに据置期間延長という法的効果が生じていると誤解したことにより本件同意をしたものと認めることはできない。 | 平成20年1月24日名古屋高判 |
棄却された裁判例(敗訴事例)から学べることは、ゴルフ場から送付される書面について、安易に署名等をすることに気を付けることですね。
裏返していえば、そのような同意書面がない場合には、法律的な争点があるケースはほとんどないといえます。
3 預託金ゴルフ会員権の法的内容(裁判例の分析)
上記のように、多くの裁判例で返還請求が認められています。
現在の裁判例においても、「右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできないものと解すべきである。」(最高裁昭和61年9月11日判決)との判例に沿った判断を行っており、同判例は現在においてもリーディングケースといえます。
この判断枠組みはほぼ確立しているものといえ、緩やかに会則を定めている事案(会則の内容が「預託金を返還することが著しく困難であり、かつ、これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響を及ぼすおそれのある場合、会社はその期間を延長することができる」旨が定められていた事案)において、最高裁が平成11年10月8日に預託金の据置期間の延長決議は無効であるとした控訴審判決を支持しました。
これをもって、「預託金の据置期間の延長決議の有効性をめぐる問題に対しては一応の決着をみるに至ったものということができる」(井上繁規裁判官)と述べております。
上記の裁判例でも表れていますが、2024年現在においても、従来から続く傾向は変わらず踏襲されています。
預託金返還請求権が認められる理由
最高裁において、預託金ゴルフ会員権の法的性質について、①施設優先利用権、②預託金返還請求権、③年会費等の納付義務等が包含された契約と説明されています(最三小判昭50.7.25)。
このような法的性質から、預託金返還請求権は預託金ゴルフ会員権の本質的要素であり、会員本人の関与しない理事会決議等にて、安易に権利行使を阻まれるものではないとの価値判断が出ています。
預託金返還請求は、ゴルフ会員権の本質的要素となっているからこそ、それを変更するには本人の同意が必要とされます。
同意がない場合には、裁判においても請求が認められていますね。
第2 勝訴すればOKか?~預託金の返還を目指す方策
1 ゴルフ会員権の預託金返還請求を巡る裁判の歴史
銀行法務21『ゴルフ場をめぐる裁判例の動向』(No.610井上繁規裁判官著)を基に紹介します。
第1次預託金返還訴訟の波
昭和48年と昭和53年の2度にわたるオイルショックによる経済状況の悪化という事態が生じて、ゴルフ会員権の市場価格は暴落し、市場価格が預託金額を下回るようになりました。
そのため、会員は預託金の返還を求め始めましたが、ゴルフ場経営会社は、会社経営の悪化のために返済原資にも窮する事態となり、昭和53年頃から多数の預託金返還請求訴訟が提起されることとなりました。
第2次預託金返還請求訴訟の波
オイルショックによる景気の悪化は比較的短期間で回復したために、預託金返還請求訴訟も沈静化していきました。
ところが、平成2年頃からバブル経済の崩壊により、ゴルフ場経営会社の経営状況は極めて悪化し、第2次預託金返還請求訴訟の波が発生しました。
ゴルフ場の対応
平成10年(1998年)の初め頃までは、長期間にわたる分割払いによる和解が多かったようですが、経営が一層悪化したことに伴い、和解が成立できず、判決で終了することが多くなっている印象のようです(2002年頃)。
2 戦略 ~ 回収可能性を踏まえた方策の検討
2023年現在においては、ゴルフ場全体の売上は回復傾向にあるようですが、コロナの影響も残っており、まだ厳しい回答をされることが多いように感じています。
過去の裁判例の歴史を見ても、ゴルフ場も資金に余裕さえあれば真摯に返還に応じている傾向があるといえるでしょう。
そうすると、判決を獲得して強制執行による回収を図るよりも、双方が妥結点を見出せるならば、和解にて回収を図っていく方向性をまずは検討すべきように考えています。
この理由は、訴訟によって時間や追加弁護士費用がかかるだけでなく、判決まで獲得したとしても強制執行で回収できるとは限らない点(和解であれば、破産等ない限り、ほぼ間違いなく履行されます)に見出せるものと考えています。
当事務所では、以下のような場合には、訴訟による解決を推奨しています。
- 連絡しても返答に非常に時間を要するなど、任意交渉が事実上できない場合
- 弁護士が介入しても、増額等の提案もなく、著しく低い和解額が動かない場合
- お金はないから強制執行でも何でもやってくれと開き直るような相手の場合
(参考)当事務所の執筆記事
ゴルフクラブ会員権の預託金返還請求
ゴルフクラブ預託金返還請求~法的仕組みや実際の運用とは?
ゴルフ会員権:預託金返還請求の方法・流れやゴルフ場の反論を解説します
ゴルフ会員権の預託金返還請求の消滅時効は?対応法を解説
ゴルフ会員権を相続~預託金の回収や相続税、名義書換手続を解説
ゴルフ会員権を退会する・売る場合の注意点~預託金も一緒に譲渡される!
据置期間延期の反論をされたら?ゴルフ会員権の預託金返還の解決事例
第3 当事務所の弁護士費用
当事務所においては、多くのケースが訴訟に至らず、和解で解決しています。
弁護士に依頼することで、相手の対応が変わり、費用を考慮しても、金額・時間の面で依頼して良かったとおっしゃっていただけることが多いです。
まずは一度、お電話やメールなどでも、ご相談ください。
✍ 当事務所を利用するメリット
- 無料相談、完全成功報酬制の弁護士費用
- オンラインの活用により、日本全国に対応
⇒ リスクなく弁護士に依頼できます
当事務所は、ゴルフ場の預託金返還請求については、初回無料相談、かつ、完全成功報酬制にて対応しております。
当事務所にご依頼いただいた場合のリスクは、裁判等の法的手続を利用する際の実費(数万円程度)だけで済みます。
オンラインによる相談対応を行っておりますので、日本全国からのご相談に対応しています。
まずはご相談ください。
【無料相談】お申込みフォーム
お問い合わせ
電話相談、来所相談、Zoom相談のいずれも対応いたしますので、全国対応しております。
お問い合わせフォームまたはお電話にてご連絡ください。
相談時に必要なもの
事前に以下のものをご準備いただくと、ご相談がスムーズに進みます。
- 相談内容の要点をまとめていたメモ
- ご相談に関する資料や書類
ご相談(ゴルフ場預託金返還請求は、相談料「無料」です)
法律上の問題点や採り得る手段などを専門家の見地よりお伝えします。
問題解決の見通し、今後の方針、解決までにかかる時間、弁護士費用等をご説明いたします。
※ご相談でお悩みが解決した場合は、ここで終了となります。
ご依頼
当事務所にご依頼いただく場合には、委任契約の内容をご確認いただき、委任契約書にご署名・ご捺印をいただきます。
問題解決へ
事件解決に向けて、必要な手続(和解交渉、調停、裁判)を進めていきます。
和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。
終了
委任契約書の内容にしたがって、弁護士費用をお支払いいただきます。
お預かりした資料等はお返しいたします。
私たちは、常に最善のリーガルサービスを提供できるように、日々研鑽を積んでいます。
そして、依頼者と「共に戦う」集団であることを志向しています。