宅建業者の報酬規制は、宅建業法46条、国土交通大臣の報酬告示によって、最高限度額が定められています。
規制に違反することは、法律的に無効となるだけでなく、行政処分や刑事罰の対象にもなります。
これらの規制趣旨を正しく理解し適正な取引をする必要があります。
規制の概要は別の記事で解説をしていますので、あわせてご覧いただけましたら幸いです。
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【賃貸】宅建業者の報酬:法的規制はどうなっているか?1 広告料名目の支払いの適法性 ~ 東京地判平成27年7月9日
1 裁判のポイント
賃貸借の仲介では、不動産業者が依頼者の一方である借主から仲介手数料として賃料1ヵ月分を受領しながら、他方の依頼者である貸主から広告料、広告宣伝費、業務委託料などの名目で賃料1~2ヵ月分を受領しているケースが散見されます。
報酬告示に定める仲介手数料以外の費用を、不動産業者が受領すると、報酬告示による規制を潜脱することになるため、報酬以外の名目を使って依頼者から報酬告示を超える金銭を受領する行為は禁止されています。
【報酬告示】
🔗「昭和45年10月23日建設省告示第1552号)
第11
第2から第10までの規定によらない報酬の受領の禁止
①宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関し、第二から第十までの規定によるほか、報酬を受けることができない。
ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りでない。
2 裁判例の紹介
事案の概要
背景
貸主Xは自社所有の賃貸建物の入居者募集を媒介業者Aに委託していましたが、1年以上借主が見つからず、成約に苦戦していました。
Aは、借主側媒介業者に広告料を支払う条件を加えたチラシを作成し、フリーレント期間2か月を提示して再募集を行いました。
問題の発端
借主側媒介業者Yは、フリーレント2か月の条件を削除したチラシを借主Bに提示し、さらに貸主Xに対して「フリーレントを付けない代わりに、広告料として賃料3か月分を支払うように」と要求。
Xは成約のためにやむを得ずこの条件を受け入れ、A経由でYに賃料3か月分(約242万円)を支払いました。
訴訟提起
Xは、Yに特段の広告を依頼した事実がないとして、宅建業法違反を主張。Yへの支払いには法律上の原因がないとして、不当利得返還(予備的に損害賠償)を求めました。
裁判所の判断(判決の要旨)
1.違法行為の認定
- Yの行為は「本来支払う必要のない金員を貸主Xに請求し、負担させるもの」であり、不法行為に該当すると認定。
- Yは、賃貸借契約が成立しない可能性を貸主Xに示唆しつつ、宅建業法の報酬規制を回避するためAを介在させて金銭を受け取った意図が明確。
2.損害賠償の認容
- 貸主Xは、Yの不法行為によって賃料3か月分(242万円)の損害を被ったと認定し、Xの請求を認めました。
- Xの損害とYの行為との間には因果関係が認められ、Yには故意があったと判断。
3.宅建業法の解釈
宅建業法における「広告の料金に相当する額」とは関係がなく、Yが受け取った金銭は、借主を紹介し成約させたことの対価であると認定。
4.金銭の流れの不透明性
覚書や領収書に基づく金銭の流れは、宅建業法の報酬規制を回避するために作成されたものであり、Yの広告業務への対価としての正当性は認められない。
宅建業法に基づく報酬規制は、強行法規です。
仮に依頼者の了承を得られて広告費等を受領できたとしても、後から返してくれと言われた場合には、返還義務が発生します。
2 広告宣伝費目の超過分の返還 ~ 東京地判令和4年6月22日
1 裁判のポイント
宅建業法46条を受ける報酬告示を潜脱する行為は、法律的に無効なものとなります。
そのため、「新規契約広告宣伝費」や「客付業者協力金」などの名目での過剰請求を行った場合に、後から返還を求められた場合には、返還義務が生じます。
【報酬告示】
🔗「昭和45年10月23日建設省告示第1552号)
第四 貸借の媒介に関する報酬の額
宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃(当該貸借に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該媒介が使用貸借に係るものである場合においては、当該宅地又は建物の通常の借賃をいう。以下同じ。)の1月分の1・1倍に相当する金額以内とする。
この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0・55倍に相当する金額以内とする。
2 裁判例の紹介
事案の概要
貸主X(原告)は、自身が所有する賃貸建物について、管理業務を宅建業者Y(被告)に委託する管理委託契約を締結していました。
この契約には、「契約期間中に中途解約する場合、貸主または管理業者が満室時賃料の3か月分を違約金として支払う」旨の特約が付されていました。
(争点発生の背景)
Yは、集金賃料等から「新規契約広告宣伝費」や「客付業者協力金」名目で金額を控除。
Xはこれらの控除について、以下のように主張。
①Xが承諾していない支出であり、宅建業法46条の規制を潜脱して報酬を不当に受領している。
②「新規契約広告宣伝費」や「客付業者協力金」は媒介費用に該当し、法律上の原因なく得た不当利得にあたる。
Xは、これらの費用の返還およびYによる債務不履行を理由に契約解除を主張して訴訟を提起。
一方、Yは自身の行為を正当と主張し、契約解除を無効とし、特約に基づく違約金を求めて反訴。
裁判所の判断(判決の要旨)
1.新規契約広告宣伝費について
Yは、新規賃貸借契約が成立した場合、「新規契約広告宣伝費」名目で1か月分の賃料相当額を控除していました。
Yが賃貸借契約成立のための業務を行い、Xが1か月分の賃料相当額を支払うことを承諾していたことは認められる。
しかし、宅建業法の報酬制限(賃料1ヵ月+消費税)を超過した部分(約48万円余)は不当利得と認定され、返還を命じた。
2.客付業者協力金について
Yは、新規賃貸借契約を成立させるために、「客付業者協力金」を仲介業者に支払うため、集金賃料から控除していました。
客付業者協力金については、Yが実際に支払った部分は、Yに利得が残存していないとしました。
しかし、Yが控除したと主張する金額(92万円余)と実際に支払った金額(49万円余)の差額(42万円余)については、合理的な説明がなく、不当利得として返還を命じた。
3.契約解除と違約金請求
裁判所は、Yによる債務不履行が認められるとして、Xの契約解除を正当と認定
Yの反訴(違約金請求)は棄却。
3 礼金を広告料名目で取得した事例 ~ 東京地判平成25年6月26日
1 裁判のポイント
宅建業者の報酬の額は、宅建業法46条に基づき、国土交通大臣の告示によって、最高限度額が定められています。
仲介(媒介)不動産業者が、借主から1ヵ月分相当額を受領する一方で、貸主に対して報酬を請求しない代わりに広告料相当を支払って欲しいなどと請求すると、その請求は宅建業法46条、報酬告示の潜脱行為として、法律的には無効な行為となります。
さらには、貸主・借主への説明次第では、事実不告知・不実告知として不法行為の対象にもなり得ます。
本件の裁判例は、借主から礼金名目で受領したものを、貸主から広告料名目で受領したケースです(本件では、礼金合意と呼ばれています)。
2 裁判例の紹介
事案の概要
【登場人物】
媒介業者X(原告):本件建物の賃貸借契約の媒介を担当。
賃貸人Y(被告):建物の所有者で、媒介業者Xに媒介を依頼。
【経緯】
貸主Yは媒介業者Xに対し、建物賃貸借の媒介(仲介)を依頼し、Xは平成18年11月から平成22年2月にかけて、4件の賃貸借契約を媒介。
Xは、賃借人から「礼金」名目で金銭を徴収し、その一部を「広告料」として収受することをYと合意(礼金を広告料名目での取得:礼金取得合意)。
平成22年3月、YがXの金銭精算に疑問を抱き、Xの事務所に押しかけて抗議。この際、Xは営業妨害を受けたとしてYを提訴。
一方、YはXに対し、本来はYが取得すべき金員をXが預かったまま返還していないとして預り金等返還請求(反訴)をしました。
裁判所の判断(判決の要旨)
礼金取得合意について
Xが賃借人から礼金を収受し、それを広告料として取得することをYが了承していた事実は認められる。
しかし、礼金取得合意は、宅建業法の報酬制限を潜脱する目的で設定されたものであり、無効。
さらに、各賃借人とY間の礼金支払合意も、礼金取得合意に基づくものであるため、無効。
礼金・預り金の返還について
礼金は、宅建業法に反して収受されたものであり、本来は賃借人に返還されるべきものである。
Yが礼金を取得する権利はなく、Xもまたこれを保持すべき正当な理由はない。
⇒ Yの反訴請求も棄却(双方の請求を棄却)。
XY間の礼金取得合意は無効とされましたが、Yも礼金を取得する正当性がないため、Yの請求も棄却されました。
そうすると、結局礼金を取得したXが、結果的に得しているように見えます。
もっとも、裁判所は「Xが礼金を取得することを是認するものではない」として、「本来賃借人に返還すべきもの」としています。
つまり、賃借人がXに請求した場合には返還せよと明言しています。
4 報酬告示の例外 ~ 東京地判令和元年8月7日
1 裁判のポイント
居住用建物の仲介手数料は、原則として貸主と借主がそれぞれ0.5ヵ月分+消費税を支払うことが原則です。
もっとも、報酬告示第4後段の「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」には、借主に1ヵ月分+消費税を請求することが出来ます。
本件は、承諾を受けていないとして、仲介業者であった東急リバブルに対して、支払い済の超過部分である0.5ヵ月分の仲介手数料の返還を求めました。
実務上、「承諾」を得るための時期として、「依頼を受けるに当たって」がいつなのか。
宅建業法の例外要件について直接判断した事例がほぼ皆無だったため、非常に参考になる裁判例です。
時系列の流れと共に、裁判所がいつ媒介契約(仲介契約)が成立したと判断したのかを読んできたいですね。
2 裁判例の紹介
事案の概要
貸主(控訴人)は、賃貸借契約の媒介を依頼した宅建業者(被控訴人)が、宅建業法46条及び報酬告示の上限規制を超える媒介報酬を受領したとして、不当利得返還請求を行いました。
媒介契約時に報酬額の承諾が得られていたかどうかが争点となった裁判例です。
(時系列)
①
平成24年12月24日、控訴人(借主)が不動産業者である被控訴人(仲介業者の東急リバブル)に問い合わせ、3件程度の賃貸物件を内覧しました。
②
12月28日、賃貸住宅入居申込書に契約者や連帯保証人など主要な事項を記入して提出しました。
これに対して被控訴人(東急リバブル)の担当者は、「こちらで1番手の手続をさせていただきます。ほかの方に物件が流れることはありませんので、ご安心ください。」とメール返信し、優先的に手続を行う意向を伝えました。
③
翌年1月6日、控訴人(借主)は妻と子どもとともに再度内覧し、賃借申込みの意思を固めたとして、遅くとも8日までに被控訴人(東急リバブル)に連絡をしました。
④
1月10日、被控訴人(東急リバブル)は控訴人(借主)に対し、契約締結日を20日とする旨の連絡をしました。
⑤
1月11日、被控訴人(東急リバブル)は、控訴人(借主)の勤務先に在籍確認をしました。
⑥
1月14ro15日、被控訴人(東急リバブル)は賃貸借明細書(借主用)を控訴人(借主)に交付しました。
同書面には、賃料、敷金、礼金、並びに被控訴人(東急リバブル)の仲介手数料の振込依頼も記載されていました。
⑦
1月15日、控訴人(借主)は、記載に従い、賃料等を支払いました。
⑧
被控訴人(東急リバブル)は、1月20日までに、本件賃貸借に関する重要事項説明書、賃貸借契約書の作成等を行いました。
⑨
1月20日、控訴人(借主)は、賃貸住宅入居申込書及び賃貸借契約書に署名・押印して賃貸借契約を締結しました。
また、被控訴人(東急リバブル)への仲介手数料として賃料1ヵ月分+消費税を支払うことを承諾し、22日に支払いました。
争点
1.媒介契約が成立時期
控訴人(借主)は、平成24年12月28日、または翌年1月10日、もしくは11日に媒介契約が成立したと主張しました。
これに対して、被控訴人(東急リバブル)は平成25年1月20日に契約が成立したと主張しました。
2.媒介契約成立時点で媒介報酬額が提示され、控訴人(借主)が承諾していたか?
判決の結論
媒介契約成立日について、1月10日(上記の④)と認定しました。
そのため、必然的に媒介の依頼を受けた後でしか承諾を得ていないことになるため、被控訴人(東急リバブル)に対して、賃料0.5ヵ月分+消費税の超過分の返還を命じました。
判決の要旨
「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」とは、宅建業者が媒介の依頼を受けて媒介契約を締結するに当たって当該依頼者の承諾を得ておくことが必要であり、媒介契約の締結後に上記規制を超える媒介報酬額について依頼者の承諾を得ても後段に規定する承諾とはいえず、同規制に服するものと解するのが相当である。
平成24年12月28日、控訴人(借主)及び妻はその子にも本件建物を実際に見させた上で賃借するか否かを正式に決定する意向を示して再度の内覧を求め、本件賃貸借契約の申込みを留保していることからすれば、被控訴人(東急リバブル)に対し本件賃貸借契約の成立に向けてあっせん尽力を依頼したとまではいえず、同日の段階では本件媒介契約が成立したと認めるに足りない。
次に、借主(控訴人)は平成25年1月6日に妻及び子とともに本件建物を再度内覧し、本件賃貸借契約の申込みの意思を確定し、遅くとも同月8日までにその意思を被控訴人に伝えている。
そして、上記認定事実によれば、被控訴人(東急リバブル)担当者は、これに応じて、建物オーナーに対して控訴人(借主)が本件建物の賃借を希望していることを説明し、本件賃貸借契約の締結についオーナーの了承を得た上で、本件賃貸借契約の契約締結日の日程調整を行い、同月10日に控訴人(借主)に対し上記契約締結日を同月20日とする旨を連絡しているのであり、同月10日の控訴人に対する上記連絡は本件建物の貸主であるAとの間で本件賃貸借契約の成立に向けてあっせん尽力する事実行為を行うことを承諾したものとみることができるから、同連絡をもって、同日に本件媒介契約が成立したと認められる。
さらに、被控訴人(東急リバブル)は、上記連絡の後又はこれと並行して、控訴人(借主)の勤務先に連絡を取り、控訴人(借主)の在籍確認をし、また、建物オーナーと控訴人(借主)との間で賃料などの本件賃貸借契約の条件を確定し、初期費用の支払時期、入居時期の調整及び本件賃貸借契約に関する重要事項説明書及び賃貸借契約書の作成等を行っているところ、これらの行為は本件賃貸借契約を締結するために必要な作業であって、賃貸借等の契約の成立に向けてあっせん尽力する媒介行為そのものである。このように上記連絡の後又はこれと並行して媒介が行われたことは、被控訴人が上記連絡をもって本件媒介契約を成立させたことを示している。
これに対し、被控訴人(東急リバブル)は、1月20日に本件媒介契約が成立したと主張する。
しかし、媒介契約は、宅建業者が賃貸借等の契約の成立に向けてあっせん尽力することを約する契約であるところ、同日までの間に本件媒介契約に基づく建物オーナーに対する被控訴人(東急リバブル)によるあっせん業務は大部分が終了し、同日には、本件賃貸借契約を締結するための最終的な手続として借主(控訴人)に対する重要事項の説明及び控訴人による賃貸借契約書への署名・押印等が残されていたにすぎないことから、1月20日に本件媒介契約が成立したとみることはできない。