賃貸の仲介手数料は、賃料の1ヵ月というイメージを持っている方も多いと思います。
それは、法律的にも正しいといえるのでしょうか?
不動産賃貸の仲介手数料について解説します。
不動産業にお勤めの方でも、若い方は法的規制をしっかりと学んだことがない方もいらっしゃると思います。
「コンプラ」に対して時代は厳しくなり、不動産業界も法令遵守が求められます。
正しい知識は武器となります。
第1 不動産仲介手数料【賃貸】の上限規制とは?
1 宅建業法46条による規制
不動産仲介業者の手数料(報酬)は、宅建業法46条1項により「国土交通大臣の定めるところ」と規定され、第2項にて「前項の額をこえて報酬を受けてはならない。」と定められています。
この「国土交通大臣の定めるところ」とは、🔗「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」を定める告示(昭和45年10月23日建設省告示第1552号、最終改正令和6年6月21日国土交通省告示第949号)を指します。
つまり、この報酬告示を上限とする規制を受けます。
この報酬告示は、事務所での掲示が義務になっており、46条の2項と4項に違反した場合には、罰金刑(82条、83条、両罰規定の84条)に処せられます。
また、「不当に高額の報酬を要求する行為」自体が禁止され(47条2号)、違反した場合には「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金」、又はその両方(80条)に処せられます。
この規定は、貸主及び借主が宅建業者同士であっても適用されます(78条2項が適用除外としていません)。
(報酬)
🔗「宅地建物取引業法」(e-Gov法令検索)
第46条
1 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。
2 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。
3 国土交通大臣は、第1項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。
4 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第1項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。
(業務に関する禁止事項)
第47条
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
二 不当に高額の報酬を要求する行為
(罰則)
第80条
第47条の規定に違反して同条第2号に掲げる行為をした者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第82条
次の各号のいずれかに該当する者は、100万円以下の罰金に処する。
2 ・・・第46条第2項の規定に違反した者
第83条
次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
2 第46条第4項・・・の規定に違反した者
第84条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
2 第80条又は第81条から第83条まで(同条第1項第3号を除く。)各本条の罰金刑
宅建業者に対する報酬規制は、強行法規です。
つまり、報酬告示に定める限度額を超過した部分の合意は、法律上無効とされます(最判昭和45年2月26日)。
支払済みであったとしても、顧客が法律違反であることを知っていながら合意したとしても、後から返せと言われた場合には、返さなくてはなりません。
2 報酬告示の具体的内容 ~ 店舗・事務所ビルなどの事業用物件
報酬告示の内容は、居住用については特例を定めていますので、店舗・事務所ビルなどの事業用物件について、先に見ていきます。
賃貸借の仲介報酬基準は、報酬告示において、双方から受け取ることのできる報酬の合計額の上限が、「賃料の1ヵ月分+消費税」以内とされます。
報酬の合計額が、賃料の1ヵ月分以内であれば、依頼者の双方からどのような割合で報酬を受けても問題なく、依頼者の一方からのみ報酬を受けることもできます。
具体的には、以下のような受け取り方は問題ありません。
- 貸主から0.5ヵ月分+消費税、借主から0.5ヵ月分+消費税
- 貸主から1ヵ月分+消費税 (借主はなし)
- 借主から1ヵ月分+消費税 (貸主はなし)
貸主・借主の双方に対して、それぞれ1ヵ月分を請求できるわけではありません。
貸主・借主に対して、請求できる割合は自由だけれども、合計して1ヵ月以内に収めないといけません。
そして、「賃料」には、共益費や管理費などは入らず、純粋な賃料のみが基準となります。
【報酬告示】
🔗「昭和45年10月23日建設省告示第1552号)
第四 貸借の媒介に関する報酬の額
宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃(当該貸借に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該媒介が使用貸借に係るものである場合においては、当該宅地又は建物の通常の借賃をいう。以下同じ。)の1月分の1・1倍に相当する金額以内とする。
この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0・55倍に相当する金額以内とする。
片手仲介の場合
貸主の媒介業者(元付)が貸主から、借主の媒介業者(客付)が借主から、それぞれ依頼を受けると、各媒介業者が受けることができる報酬の合計は、賃料の1ヵ月分+消費税となります。
すなわち、片手仲介でも、両手仲介の場合と報酬上限は同一となります。
売買の仲介手数料と違って、両手仲介だから2倍もらえるわけではありません。
3 居住用建物の特例
建物賃貸借の内、居住用建物の賃貸借の仲介については、借主保護の趣旨から、依頼者の一方から受けることのできる報酬上限を、賃料1ヵ月分の0.5倍+消費税とされています。
この特例のポイントは、次のとおりです。
- 貸主に0.5ヵ月を超えて請求できません。同様に、借主に0.5ヵ月を超えて請求できません(双方から0.5ヵ月ずつを原則としています)。
- 双方仲介であれば、貸主と借主の双方に0.5ヵ月分ずつ請求して、合計して1ヵ月分を受けることはできます。
- 店舗併用住宅など、事務所・店舗などの用途を兼ねるものは対象外です。
- 片手仲介の場合は、貸主・借主の場合のいずれも、それぞれの依頼者から受け取れる報酬は、0.5ヵ月分+消費税となります。
4 居住用建物賃貸借でも1ヵ月分の報酬を請求できる場合とは?
居住用建物の賃貸借であっても、「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」は例外として、事業用建物賃貸借と同様に、賃料1月分+消費税を報酬の合計とすることができます。
①媒介の依頼を受けるに当たって
「媒介の依頼を受けるに当たって」とは、不動産業者が、依頼者から仲介の依頼を引き受けるのに先立って、という意味です。
賃貸借契約の成立に向けた手続が進んだ状態で報酬額を提示された場合には、提示を拒絶することが困難な心理状態のもとで承諾をしたものとなり、自由な意思に基づく承諾とはいえません。
裏返していうと、依頼後に承諾を得た場合には、この要件を満たしていませんので、賃料0.5ヵ月分を超えて報酬を受領することはできません。
②依頼者の承諾を得ている
「承諾」とは、受領する仲介手数料の金額(賃料の1ヵ月分+消費税)の了解を得ているだけでは足りません。
得るべき「承諾」とは、
①建物賃貸借の媒介報酬は、貸主・借主双方合わせて賃料の1ヵ月分+消費税が報酬告示の上限であること、
②居住用建物の賃貸借の媒介報酬は、依頼者の一方から賃料の0.5ヵ月分の範囲内とする特例があること、
③その特例はあるものの、1月分の0.5倍以上の仲介手数料を受領すること、
が対象となります。
つまり、報酬告示によれば、本来は貸主が0.5ヵ月分を支払うべきところ、貸主には仲介手数料を請求せず、借主が全額(賃料の1ヵ月分)を支払うことについて承諾していることを意味します。
不動文字で「仲介手数料として賃料の1ヵ月分と消費税を支払う」と記載のある重要事項説明書に対して、借主に署名押印させるだけでは、到底「承諾」があったことにはなりません。
なお、逆に、依頼者と仲介手数料の合意ができていなかったとしても、宅建業者は「商人」に該当しますので、賃料0.5ヵ月分以内の「相当な報酬を請求する」ことができます(商法512条)。
5 仲介手数料超過分(居住用)を無効とした裁判例(東京地判令和元年8月7日)
争点
貸主(控訴人)が宅建業者(被控訴人)に媒介を依頼して賃貸借契約を締結した際、媒介報酬の金額について宅建業法及び報酬告示の規定を超過する額が請求されたとして、不当利得返還を求めた事案です。
「媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合」といえるかが、争われました。
判決のポイント
宅建業法46条は強行法規であり、報酬告示の上限額を超える契約部分は無効とされます。
媒介契約成立前に報酬額の承諾を得ていなければ、依頼者の意思に基づく自由な承諾とは認められず、上限を超える報酬部分について、依頼者からの返還請求が認められることとなります。
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【賃貸】不動産仲介手数料をめぐる裁判例を解説します第2 報酬以外の費用等の請求の禁止
1 諸経費等の受領禁止規定
報酬告示は、報酬上限を定めるだけでなく、脱法的な費用の請求を阻止する規定を置いています。
不動産仲介では、仲介活動に伴う人件費や交通費、広告費などの諸経費について請求をすることができません。
このような経費は、仲介手数料に含まれるものとされます。
これは、名目が「案内料」、「申込料」、「相談料」、「コンサル料」などとあっても、報酬以外の名目を使って報酬告示を超える金員を受領することになりますので、ご注意ください。
【報酬告示】
🔗「昭和45年10月23日建設省告示第1552号)
第11
第2から第10までの規定によらない報酬の受領の禁止
①宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関し、第二から第十までの規定によるほか、報酬を受けることができない。
ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りでない。
2 (例外)広告料
宅建業者が請求できる費用の例外として、広告料(「ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りでない。」)があります。
この請求できる「広告料」とは、大手新聞への広告掲載等報酬の範囲で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金をいいます。
そのため、通常必要とされる程度の広告宣伝費用は、営業経費として報酬の範囲に含まれます。
たとえ依頼者からの依頼であったとしても、新聞チラシやウェブサイトへの広告掲載は、通常必要とされる範囲に含まれ、広告費用を請求することはできません。
3 裁判例の紹介
広告宣伝費名目の報酬超過部分の返還を命じた例(東京地判令和4年6月22日)
【事案の概要】
貸主X(原告)は、所有する賃貸建物の管理業務を宅建業者Y(被告)に委託していました。
管理契約の中で、新規契約広告宣伝費や客付業者協力金などの名目で費用が控除されていましたが、Xはこれらの費用が宅建業法の規制を超える不当利得であると主張し、費用の返還を求めました。
【判決の要旨】
判決は、Yが賃料1か月分相当額を報酬として取得していましたが、その一部は宅建業法の媒介報酬上限を超過しており、不当利得として約48万円の返還を命じられました。
また、客付業者協力金についても、協力金の一部は正当な実費と認められましたが、説明のつかない差額部分(約42万円)は不当利得として返還が命じられました。
広告料名目の過大請求が無効として返金を命じた事例(東京地判平成27年7月9日)
【事案の概要】
貸主Xは、自社所有の賃貸建物の入居者募集を媒介業者Aに依頼していましたが、成約に至らない状況が続いていました。
Aは、借主側媒介業者に広告料を支払う条件を加えたチラシを作成し、フリーレント期間2ヵ月を提示して再募集を行いました。
借主側媒介業者Yが、フリーレントを削除する代わりに、「広告料」として賃料3か月分を要求し、Xがこれを応じて支払いました。
その後、Xはこの支払いが宅建業法に違反し、法律上の原因のない利得であるとして、返還を求めました。
【判決の要旨】
- 広告料請求の違法性
Yが広告料名目でXに賃料3ヵ月分を負担させた行為は、不当利得および不法行為に該当すると認定。 - 損害賠償の認容
Xに生じた損害(賃料3ヵ月分に相当する242万円余)について、Yの故意による行為と因果関係が認められ、不法行為に基づく損害賠償請求を認容。 - 金銭の流れの不透明性
Yが直接金銭を受け取らないようAを介在させた取引は宅建業法の報酬規制を潜脱するものであり、違法と判断。
第3 不動産賃貸業者にとっての顧問弁護士
1 不動産仲介手数料の法規制と実態
賃貸の仲介手数料について、貸主からの広告費名目での受領や、レジデンスでも借主が当然のように賃料の1ヵ月分を負担することなど、法規制と異なる実態が見受けられます。
正しい法律知識のもと、どこまで踏み込むかが経営判断です。
他社がやっていたとしても、それは他山の石とすればよいだけです。
真っ当に商売をする業者が、しっかりと売上を伸ばしていく、そんな社会を築き上げていきたいです。
2 当事務所の弁護士費用とお問合せフォーム
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問題解決へ
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終了
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