Question
スーパーの一部を借りて、パンの製造販売をしています。
スーパーより店舗の入れ替えを行うので、パン販売に関する業務委託契約を更新しないと言われました。
ですが、パンの製造販売機材の費用や内装工事費等、多額の資金を支出しており、できれば立退きはしたくありません。
Answer
業務委託契約であれば、契約期間満了の前に更新しない旨の解約通知によって、契約が終了するのが原則です。
そのため、パン販売に関する業務委託契約であれば、契約満了時には退去しなくてはなりません。
もっとも、契約書の文言が「業務委託契約」となっていながら、実質的には建物の「賃貸借契約」にすぎないことがあります。
その場合、借地借家法が適用され、契約の終了には「正当事由」が必要とされ、単に賃貸人の意向だけで契約を終了させることはできなくなります。
ご相談の契約が、業務委託か賃貸借契約か、どちらに近いものといえるかを具体的に検討し、立退きをせざるを得ないかどうかを検討するべきです。
借地借家法は、「建物」の「賃貸借契約」に適用されます。
問題となる契約が借地借家法の適用を受けるかどうかは、対象となる区画が「建物」といえるか、当事者間の契約が「賃貸借契約」といえるかを検討します。
契約書の表題も大切な要素ですが、契約の実態がいかなるものであるかが一番大切です。
そのため、業務委託契約とされている場合であっても、その実態から賃貸借契約と判断され、明渡請求が認められなかった事例も複数ありますので、裁判例の基準から具体的に検討することが必要不可欠です。
より詳しい説明をしていきます。
第1 賃貸借か業務委託か、なぜ問題になるか? → 判断基準は?
1 賃貸借 or 業務委託が問題となる理由
契約の更新・終了における違い
賃貸借契約か業務委託契約かの区別が如実に問題になる場面として、契約の更新・終了に現れます。
賃貸借契約として認定される場合は、借地借家法が適用され、契約の解消には「正当事由」が必要になります。
これに対して、業務委託契約であれば、一般には更新前の解除条項(「契約終了の〇ヵ月前に書面をもって解約できる」)が規定され、同規定に基づき更新拒絶・契約終了が認められます。
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上記の場合とは逆に、賃借人が第三者に委託して事業を行う場合には、賃貸人から第三者の利用について許諾を得ていなければ、無断転貸として賃貸借契約が解除されてしまうリスクが発生します。
一般的には、第三者が、貸室を独立して使用していれば転貸となり、独立して使用していなければ転貸にはなりません。
もっとも、業務委託では、賃借人が受託者(第三者)にある程度の指揮監督をしながら独立的な営業をさせ、その収益から一定の割合を委託料等にて受領する形態が多くあり、業務委託が転貸借に該当するかどうか、微妙な判断を求められるケースが少なくありません。
2 賃貸借契約と業務委託契約の相違点とは?
賃貸借契約とは、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと…を約することによって、その効力を生ずる」契約です(民法601条)。
無償であったり、固定資産税程度の金額しか支払われない場合は、使用貸借契約と区別されます。
ただ、有償であれば、定額賃料だけでなく、商業ビルのショッピングセンターにみられるように、歩合賃料の形も認められます。
3 判断基準
リーディングケースとなる最判昭39年9月24日は、鳥禽類の仕入販売店舗の賃借人が、経営委託契約の形式で店舗の一部を使用させ、第三者が自己の計算において仕入れ販売を行い、収益状況にかかわらず毎月一定額を下回らない金額の支払が約束されていたケースでは、転貸借に当たると認定されました。
同判例では、「経営の委任または委託の場合、法律上委任の形式をとるにかかわらず受任者が自己の計算において自己の裁量に従つて経営を行い、委任者に対して一定の金員を支払うことが少なくない。かかる場合、経営の委任といつても実質は営業の賃貸借に外ならないと解すべきである」と判示しています。
他に、ビルの一室が飲食業用店舗として使用されていた契約(契約書は「店舗経営委託契約」と記載)が争われた事案(大阪高判平成9年1年17日)があります。
同裁判例では、実際の店舗の経営主体、経営の実情、内装工事、飲食店の営業許可の取得、業務委託料が収益の額に関係なく一定の額であったこと等を理由に賃貸借契約と認定しました。
具体的には、「店舗経営委託契約の性格を持たず、…内装・器具を営業のために自由に使用収益して、その収益を取得することを許し、その対価として一定額の金員を受領することとする建物賃貸借の性格を有することは明らかである」と判示しています。
なお、業務委託か賃貸借かを判断するにあたり、冒頭の「建物」であるかの判断とも重なる面があります。
まとめ(賃貸借と業務委託を判断する考え方)
このような裁判例を基に、次のように考えていきます。
まず、契約書に「賃貸借契約」と記載あれば、賃貸借契約である可能性が高いといえます。
次に、契約書に「業務委託契約書」と記載があったとしても、使用態様、売上や報酬の仕組み、受託者から委託者に対する指揮監督の状況、営業における利益の帰属、営業許可や内装工事の主体などの要素を総合的に考慮し、賃貸借性が肯定されないか検討します。
4 最後の利益調整手段(権利濫用)
たとえば、賃借人が契約継続を信じて、多額の設備投資等を行ったにもかかわらず、かつ、賃貸人に特段の明渡しを求める事情がないにもかかわらず明渡しを求める場合には、権利の濫用として、明渡しが認められない可能性もあります。
賃借人の視点から見る場合、仮に賃貸借契約が否定されて業務委託契約と認定される場合であっても、立退きを求められるのは厳しすぎるといえる場合には、このような権利濫用などの一般条項によって、利益調整が図られることもあります。
第2 賃貸借契約と業務委託契約の区別が問題となった裁判例
1 賃貸借が肯定されたケース
東京地判平成8年7月15日では、スーパーマーケット(京北スーパー)の一角におけるパン販売について、以下の点を指摘して賃貸借契約を肯定しました。
- 昭和45年から23年にわたり定まった場所を使用してきた
- 食品営業許可はスーパー名義で取得されているが、店舗図面の作成、保健所との打合せ、許可申請、工事終了後の検査を受けるなどの実際の手続は全てパン屋が行っている
- 内装工事費を負担し、その後の改装、修理、模様替えの費用もパン屋が負担
- ビルの改装工事や給排水、冷房換気工事の際には、改築負担金を支払い、商店街のアーケードなどの費用も売場部分の間口に応じた負担をしている
- 賃料は、売上総額から定まった率をスーパーが取得し、定まった額に達しないときは最低保証金を受け取る、いわば最低保証家賃と売上に応じた歩合家賃の合体したもの
- パン屋が仕入れや商品の構成等を独自に決定し、スーパーはほぼ営業には関与せず、セールの実施やちらしもパン屋が独自に行う
- レシート伝票や包装はパン屋の表示で、スーパーの名称はない
- スーパーの他の売り場とは扉等はなく自由に行き来できるが、一応独立した区画がある
スーパーとパン屋は明瞭に区画された売り場があり、長期間にわたり場所を移動することなく、内装工事費や設備器材費等を自己負担し、独自の経営判断と計算において営業を行ってきた。
スーパーは一旦売上金の一定割合の歩合金や諸費用を控除した残額をパン屋に支払う方式であるが、営業自体には関与せず、まさに売場部分を提供することの対価として、保証金や歩合金を取得している。
2 賃貸借が否定された(業務委託)ケース
大阪地判平成4年3月13日では、阪神百貨店の地下2階部分でスパゲッティ等の販売をしていた使用関係について、業務委託と認定しました(なお、契約解除は権利濫用として否定されています)。
- 阪神百貨店は全国に本件1店舗しかなく、限られたスペースを最大限有効に活用する必要が極めて高く、借地借家法の適用の排除を前提にする必要があった
- 賃貸借契約に付随する権利金、敷金、保証金等の授受が全くない
- 売上代金は、スパゲッティ屋から毎日全額を収納したうえ、18%を歩金として控除し、スパゲッティ屋に返還している。固定される賃料と異なり、売上の増減に従って増減し、最低保証額の定めもない
- 百貨店が決めた包装紙を使い、領収証やレシート等も百貨店名で発行されている
- 百貨店の都合で売場の位置が変更されていた
営業に必要な什器備品類は、スパゲッティ屋の費用負担で備えられ、従業員の採用や給料の支払いも行っていること等から、相応の独立性を有するといえる。
もっとも、敷金等が全くなく、売上の一定割合をもって定められる歩金は賃料とは全く異なること、売場の設定・変更に百貨店の権限が強く及んでいること等を考慮すると、販売業務委託契約である。
3 他裁判例の紹介
前述の裁判例は、2つともに固定の賃料ではなく、売上歩合による利用料支払いのケースです。
結論を分けたのは、敷金・権利金・保証金の有無、経営への関与の度合いが大きな考慮要素として挙げられるでしょう。
複数の裁判例を見て、具体的なイメージを持てるといいですね。
賃貸借契約の肯定事例
スーパーマーケット内の店舗について、独立した占有権を有し、その営業も独立性、自主性を具備しているのであって、利益分配金名義の金員は建物使用に対する対価的意味(賃料)を有し、残額代償名義は、賃貸借契約の際に通常支払われる権利金の性質を有するものというべく、出店営業契約名義でなされているものの、実質は賃貸借契約と判断した事例(東京地判昭和47年3月29日)。
業務委託契約と認定した事例
原宿の竹下通りに面している建物の一部について、場所的利益の高い物件については、賃貸借契約であれば敷金、権利金、保証金に相当する金員の授受がなかったとして、賃貸借契約を否定した事例(東京地判平成3年9月12日)、百貨店内の区画において、期間の定めなく委託料を売上げの80%とすることを内容とするネイル・フットケア等の業務を行うのは業務委託であるとした事例(東京地判平成18年10月27日)があります。
第3 建物賃貸借トラブルを弁護士に相談する
1 建物賃貸借のトラブルは弁護士に相談
建物の賃貸借については、借地借家法の適用を免れるなどの目的で、契約書では経営委託等の記載をし、支払うべき金銭も家賃以外の名目を用いることが往々に行われています。
しかし、契約の性質は、契約書に用いられた契約の名前だけで決定されるわけではありません。
契約書の他の条項、特に営業の損益の帰属と支払金額が一定かどうかの定めや、営業の実態も重視されます。
実際にトラブルになりそうな場合でも、賃貸借か業務委託かでの一刀両断するよりも、どちらかに比重を置きつつの条件交渉で解決を図られることも多いです。
その条件交渉を有利に進めるためにも、裁判となった場合の見通しを持っておくで、不測の損害を被ることも少なくなりますし、強気な交渉もかのうになるものと考えています。
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