Question

借地に関する紛争解決手段として、「借地非訟」という手続があることを知りました。

これはどのような制度ですか?
どのような場合に活用を検討すればよいでしょうか?

Answer

借地非訟とは、借地に関し当事者が合意によって定めるべき事項を、裁判所の手続(非訟手続)により定めてもらう制度をいいます。

要は、借地に関する紛争について、裁判所の判断を仰ぐ制度です。

非訟事件」という、聞き慣れない言葉があります。

大雑把には裁判と異なり、以下のような特徴があります。

  • 非公開の審問室で手続が行われること、
  • 当事者が提出しない証拠に基づいて判断を下せること(裁判所が事実・証拠の収集・提出について権限を有し責任を負う建前職権探知主義」の採用)、
  • 判断の形式が、判決ではなく「決定」であること、

ただ、当事者の感覚として、これらの違いを意識することはあまり多くありません。

特に職権探知主義については、当事者が証拠・準備書面を提出し、当事者の主張・立証活動が重要となりますので、訴訟との違いを実感することは多くありません。

むしろ、借地非訟は、裁判手続によっても解決を図ることができる問題を、訴訟という本格的な争訟手続に至る前に、なるべく穏便かつ柔軟に解決を図る制度として活用されているイメージを持つことが大切です。

特に、鑑定委員会の関与が制度上設けられているため、当事者に経済的負担なく、専門的な知見に基づく解決を期待できる点が、大きな特徴といえます。

そして、申立てを認容する場合には、たとえば、借地条件の変更や借地権譲渡を認める代わりに「月額賃料を〇〇万円に改定する」などの踏み込んだ判断を行います。

この借地人が支払うべき財産的給付のことを、「付随処分」と呼びます。

争いごととして大げさなものとせず、付随処分を含めた柔軟な解決を図ることができます。

不動産の鑑定を、当事者の費用負担なくできることが何よりの特徴といえますね。

敷居の低い制度として、積極的に活用していきたいですね。

このように借地非訟は、紛争の未然防止と円満な解決を目指し、地主と借地人の争いをソフトランディングさせることで、借地権付土地の合理的な利用を促進するために活用されています。

借地非訟の活用意義は、①紛争の円満な解決と、②借地権付土地の利用促進にあります。

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第1 借地非訟という制度を知ろう!!

1 借地非訟のメリット(制度の意義)

借地権のお困りごと(架空事例によるイメージ)

借地人

私は、地主より土地を借りて、自ら建てた建物で飲食店を営んでいます。
地主に対し、焼肉の提供もできるよう改築したいと伝えました。
ところが、地主は承諾してくれません。

相談した弁護士より、その程度なら問題ないとのことで、工事を強行できると言われました。

果たして、このまま改築工事を強行しても大丈夫でしょうか?

地主と借地人が借地契約をていけつしており、借地人が改築をしたい場合の想定図です。

裁判では、、、

借地のトラブルでは、「転貸や増改築について地主が承諾をしてくれない。」との相談が多くあります。

借地人の中には、理不尽な不承認に異を唱え、強行する方もおります。

このような場合に、地主が「無断改築は契約違反だから、借地契約を解除する!」と主張して裁判になることがあります。

裁判では、単に形式的に契約違反があっただけでは解除とならず、無断改築等によって賃貸借契約を継続することができないと言い得るほどの信頼関係が破壊されたといえる状態になったか」によって解除の可否が判断されます。

そのため、確かに借地人としては強行することも選択肢の1つとして合理的な行動ともいえます。

しかし、万が一にも敗訴した場合には、債務不履行解除となり、土地の約7割程度の価値があるといわれる借地権を失い、そして借地上での飲食店経営もできなくなります。

借地人にとっては、あまりにもリスクの大きいギャンブルと言わざるを得ません。

このような場合に、裁判による争いの前に、事前の承諾に代わる許可の裁判借地非訟の手続)を経ることで、借地を巡るトラブルについて円滑な解決を図ることができます。

借地非訟の活用メリット

借地に関する紛争を未然に防止すると共に、円満な解決を図り、借地の利用を促進するものが、「借地非訟」という制度ですね。

2 事件類型

借地非訟は、借地に関する典型的な紛争が類型化され、借地借家法に規定されています。
事件類型と対応条文は、下の表の通りです。

      【事件類型】       【借地借家法の条文】 
借地条件の変更17条1項
増改築の許可17条2項
借地契約の更新後の建物の再築の許可18条1項
賃借権の譲渡等の許可19条1項
建物競売等に係る賃借権の譲渡等の許可20条1項
建物及び土地賃借権の譲受等の命令(介入権)19条3項
借地非訟事件一覧と対応条文

いきなり事件類型を眺めても、なかなかイメージをつかみにくいと思います。
そのため、どのようなトラブルを解決する手段なのか、との視点をもって整理してみましょう。

借地契約は、数十年と長く利用する契約です。
借地人の利用ニーズに変化が出てくるのも、やむを得ません。

借地権についてのお困りの声

借地人

今ある建物(木造)を、コンクリート造に変えたいと思っています。

⇒ 借地条件の変更や増改築をしたい!!

借地人

家が古いので再築したいと思っていますが、契約更新しています。
一度更新した後では、地主の承諾がないと再築できないと言われてしまいました。

⇒ 借地契約更新後に再築をしたい!!

借地人

家を売ろうと売買契約を締結しました。
しかし、借地権の家は、地主の承諾がないと手続を進められないと聞きました。

⇒ 借地権の譲渡・転貸をしたい!!

地主

借地権を買おうとしている人が、借地料を払い続けられるのか不安です。
第三者に売られるならば、私が借地権を買取りたいと思います。

⇒ 地主が借地権を買戻したい!!(地主の対抗手段)

3 借地非訟事件の内容に基づく整理

このようなお悩みの内容に着目すると、以下のように整理することができます。

借地条件の変更や増改築として、借地条件の変更申立て、増改築の許可の申立て、が借地非訟で用意されています。
借地契約更新後の再築では、借地契約の更新後の建物の再築の許可の申立てがあります。
借地権の譲渡や転貸を行いたい場面では、賃借権の譲渡・転貸の許可の申立てや、賃借権の譲渡等の許可(競売・公売)の申立てが用意されています。
最後に、地主の対抗手段として、介入権を行使して、建物・賃借権の譲渡に対して地主に対して譲渡せよという命令を求めて、申立てを行うことが用意されています。
借地非訟の内容に基づく分類

申立書式も、この類型によって異なるものとなっています。

借地非訟を理解する上では、借地非訟全体としてどんな類型が用意されているかをイメージできると、一気に理解が深まると思います。

第2 借地非訟の各内容の説明

①借地条件の変更や増改築

借地条件の変更

多くの場合が、借地法(借地借家法より以前から締結されている借地権:平成4年7月31日以前に締結されているもの)が適用される借地権について、非堅固建物に限定されている場合に、堅固建物を可能なように改めたいケースです。

時代の変化と共に、近隣の土地の利用状況も変化してきます。

木造建物ばかりだった時代が変わり、今ではビルも建ち始めてきたような場合に、付近に合わせて堅固建物にするのがふさわしい場合もあるでしょう。

また、都市計画法の防火地域に指定されたために、法律的に堅固建物が必要となる場合もあります。

この借地条件の変更に際しては、地主側の不利益を考慮して、借地人に財産上の給付を命じたり、賃料改定という付随処分も出てくることになります。

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借地条件変更の申立て(借地非訟)

増改築の許可

増改築許可の申立ては、実際の増改築計画についてのみ、許可を与えて建替えをさせるものです。

そのため、増改築の予定が具体的にあることが必要で、通常は建築図面を添付し、計画している増改築の内容を明らかにする必要があります。

具体的な計画の有無で、借地条件の変更との違いがあります。
(ただ、実際には具体的な増改築の予定があるから、借地条件の変更の申立てをすることが多いです)

借地条件の変更の申立てと、増改築の許可の申立てでは、増改築の許可の申立てにおいては、実際の増改築計画についてのみ許可を与えるものです。
この点では、借地条件の変更の申立てが、実際に建物を建てるかどうかを問わない申立てである点と異なります。

②借地契約更新後の再築

借地契約の更新後の建物の再築の許可

契約の更新の後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情がある場合に、申立てることができます。

これは借地借家法の改正によって新たに導入された制度ですので、借地法ではなく借地借家法が適用される借地権(平成4年8月1日以降に設定された借地権)が対象となります。

そのため、平成4年から30年経った、2022年から現れる新しい事件類型となります。
今後の事例の集積が期待されます。

③借地権の譲渡や転貸

賃借権の譲渡・転貸の許可

借地上の建物を誰かに売りたい、転貸したいのに、地主から拒否された場合に申立てる類型です。

事件数として一番多いのも、この類型になります。

以下の観点から、許可について検討されます。

  • 賃借権譲渡・転貸しても地主に不利になる恐れがないこと
  • 賃借権譲渡・転貸を相当とする事情があること

       

    借地権者が譲渡しようとする目的、買受ける側の目的、今後の賃料の支払可能性などが審理されます。

建物競売等に係る賃借権の譲渡等の許可

借地上の建物を競売や公売で取得する場合に、土地賃借権もついてきます。
その譲り受けについての許可の申立事件です。

④地主の対抗手段

介入権 ~ 建物及び土地賃借権の譲受等の命令

賃借権譲渡・転貸や競売等に伴う賃借権譲受に対する対抗手段としての介入権申立事件です。

借地権を第三者に譲渡・転貸する際に、地主が「介入する」権利のため、「介入権」と呼ばれています。

これは、借地人の変更に対して抵抗する地主の権利で、借地人から裁判所に譲渡・転貸に際して承諾に代わる許可を求める申立てがあった場合にのみ行使できるもので、裁判所により行使できる期間も定められます。

第3 借地非訟の手続の流れ

1 全体の流れ

借地非訟事件は、大まかに以下の流れで進行します。
裁判所への申立を経て、申立書類一式が相手方に送付され、審問期日が始まります。

申立てから終わりまでの期間(鑑定委員会の調査期間を含めた全体の期間)は、7ヵ月から9ヵ月程度が一般的な期間といわれています。

【参考ホームページ】
🔗「借地非訟事件手続の流れ」(東京地裁ホームページ)

借地借家法における借地非訟事件の手続きの流れ図です。
①裁判所への申立てに始まり、②審問期日(裁判所)が開かれ、③鑑定委員会の現地調査・意見書の提出があります。④それを踏まえて、最終審問期日が開かれます。
この過程において、和解や調停が成立すれば、終了します。
成立しない場合には、裁判所が決定をします。
裁判所の決定に対しては、抗告をすることができます(即時抗告)。
借地非訟事件の手続の流れ

2 ①裁判所への申立て

管轄

借地権の目的である土地を管轄する地方裁判所に対して、申立てます。

当事者

土地建物の実際の所有者と名義人が異なっている場合や、建物は共有だけど代表者が借地契約を締結している場合、だいぶ昔に締結された契約書しか存在しない場合など、誰が申立人となって、誰を相手にして申立てればよいか、判断に迷うケースがあります。

借地非訟は、原則として手続は全員で参画すべきとされていますので、共有者全員で申立て、共有者全員を相手方にする必要があります。

例えば相続が発生して行方不明者がいる場合などが典型ですが、どのように対応すべきか難しい事情がある場合には、申立てに際して裁判所に相談するのがベストです。

申立てに必要な書類等

申立てにあたっては、裁判所の書式に従って必要事項を記入します。

申立ての趣旨、申立てを理由づける事実、借地契約の内容、申立て前にした当事者間の協議の内容などを記載します。

添付資料として必要なもの(不動産登記簿、固定資産税評価証明書等)も記載されています。

【参考ホームページ:裁判所の書式集】
🔗「借地非訟事件(書式例)」(東京地裁ホームページ)
🔗「借地非訟事件」(大阪地裁ホームページ)   

申立費用について

申立てにあたっては、①申立手数料と②郵券(郵便切手)が必要になります。

申立手数料は、借地の土地固定資産評価証明書(原本)を基にして算定されます。
通常の裁判よりも算定が複雑なので、裁判所からの金額の確認を待ち、それから印紙を購入することが確実です。

郵券は、相手方が1名ならば、4500円です。

【参考ホームページ】
🔗「費用」(東京地裁ホームページ)

申立てにあたり準備すべきこと

借地契約が数十年にわたる契約であるため、賃貸借契約書がなかったり、当事者が所有しているものが異なっていたりすることがあります。

借地契約が最初にいつ締結されて、現在までにどのように更新されてきたかは、非常に重要です。

借地に関する資料についてはすべて検討し、借地権設定以来の事情を調べて申立てを行うようにしましょう。

3 ②審問期日(裁判所)

審問期日とは、当事者から意見や主張を聴く手続をいいます。
非公開の審問室で、当事者が相対して着席して開かれます。

第1回期日において、申立人は申立書を陳述し、相手方は答弁書を陳述します。
審問が1回で終わることは少なく、第2回、3回へと双方の主張を重ねます。

話し合いで解決したい意向が当事者にある場合には、和解の手続に進みます。

ただ、土地の評価そのものが違えば、金額も大きく違ってしまいますので、和解の話をする上でも鑑定委員会の意見聴取が必要になることが多いです。

そのため、ある程度の審問期日を経て、鑑定委員会への聴取に移ります。

審問室での審問期日のイメージ図です。
当事者が相対して着席します。
審問期日のイメージ

4 ③鑑定委員会の調査・意見書提出

借地借家法上では「特に必要がないと認める場合を除き」鑑定委員会の意見を聴くことを要するとされていますが、実際には必須の手続としてほぼ全件で行われています。

鑑定委員会は、法律専門家(弁護士)、不動産鑑定士、一級建築士などから3人以上指定されて構成されます。

鑑定委員会への諮問事項には、申立ての当否に関するものだけでなく、付随条件としての財産上の給付の金額をどのようにするか、なども含まれます。

そして、鑑定委員会による現地調査が行われ、意見書が提出されます。

この鑑定委員会の調査、意見書の提出において、当事者に費用がかからない点は、借地非訟において特筆すべき点です。

5 ④最終審問期日

鑑定委員会による意見書が提出された後で、審問期日が開かれます。

ここでは、裁判所の決定が必要か、和解による解決が見込めるのか、調停に付して調停による解決が図れるかなど、裁判所が事件解決の方向性を定めます。

和解や調停が成立すれば終了します。
整わなければ、裁判所が決定を出します。

なお、鑑定委員会で出された意見は、ほぼ絶対的なものであり、この意見に不満があったとしてもそれに従わざるを得ない点は、予め留意しておきましょう。

なぜならば、鑑定委員会は、借地借家法によって定められた機関であり、公正中立な立場から意見を出すため、裁判所も不合理と断定できるものでない限り、その意見を尊重する方向で運営されているからです。

6 ⑤裁判所の決定

和解等が成立しない場合には、裁判所が決定をします。
これにより、一連の手続が終わりを迎えます。

決定に不服がある場合

決定書の送達を受けた日から2週間以内に、即時抗告をすることができます。

第4 弁護士の活用意義と費用(当事務所)

1 弁護士を活用するメリット

借地問題で話し合いがつかない場合、デッドロックとなってしまい、借地人にとっては全く身動きが取れない状態になってしまいます。

だからといって、借地人が転貸や改築を強行するとすれば、地主(賃貸人)としては訴訟提起に踏み切らざるを得ず、もはや引き返せない紛争状態となります。

弁護士 岩崎孝太郎

借地非訟は、借地人、地主の利害調整を第三者(裁判所)を介入させて行うものです。

借地問題は、不動産問題の中でも馴染みにくい分野といえ、取り扱わない不動産業者もいるほどです。

借地人であれば、大切な財産である借地権を今後も適切に利用していくために、地主であれば正当な権利を守っていくために、専門家によるサポートをご検討ください。

当事務所は、不動産問題を集中的に取扱う経験と実績があります。

オンラインを活用して、日本全国からのご相談に対応しております。

2 当事務所の弁護士費用

当事務所では、以下の弁護士費用にて借地非訟事件の対応を行っております。
借地権でお悩みの方(地主、借地人問いません)は、ぜひご相談ください。

借地をめぐる紛争についての弁護士費用。
特に、借地非訟を利用した場合の弁護士費用についての記載。

3 お問い合わせフォームへ

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そして、依頼者と「共に戦う」集団であることを志向しています。

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