借地契約が期間満了となった場合であっても、当然に借地契約が終了する訳ではありません。

旧法借地権、借地借家法法(新法借地権)のいずれにおいても、地主には契約を終了させるためには、「正当事由」が必要とされています。

借地契約が期間満了するため、土地を返してもらいたいと考えている地主が、立退料の支払を心配している図。
地主のお悩み

借地人、地主のいずれの立場であっても、借地契約が継続できるのか、終了させることができるのかは、非常に大きな問題といえます。

そこで、この記事では、借地契約が期間満了となった場合に、契約継続を望む借地人と、契約終了を望む地主が対立した場合、地主の更新拒絶に正当事由が認められる場合には、借地契約が終了します。

では、「正当事由」とは、どのようなものでしょうか?

この記事では、更新拒絶の制度設計と、その内容について解説します。

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第1 借地権が期間満了した場合の法律関係

1 借地契約の期間満了と契約の更新(拒絶)

借地契約の期間が満了した場合に、地主が契約を終了させたい場合には、地主は遅滞なく異議を述べなければならず、しかも、その異議に「正当事由」がある場合に限り、法定更新とならずに、借地契約が期間満了により終了となります(借地借家法5条、6条)。

借地契約の期間満了時における、契約更新をめぐる全体像は下図の流れとなります。

借地権契約が期間満了により終了した後、借地人から更新請求がある場合には、地主は遅滞なく異議を述べないといけません。
借地人に更新請求がなくても、借地人が土地の使用を継続している場合には、地主が遅滞なく異議を述べないと借地契約は更新されます。
特にこの場合は法定更新と呼びます。
そして、地主の異議には、正当事由が必要とされており、正当事由のない異議では、借地契約は終了しません。

2 「正当事由」とは?

以前の旧借地法では、条文には「土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要とする場合其ノ他正当ノ事由アル場合」(旧借地法4条1項但書)として、地主の必要性のみが規定されていました。

しかし、裁判所の判断では、借地人側の事情も考慮して正当事由が検討され、判例理論が形成されていました。

この判例理論を明文化したものが、借地借家法6条です。

正当事由の存否を判断するにあたっては、①当事者双方が土地の使用を必要とする事情を土台として、②借地に関する従前の経過、③土地の利用状況、④借地権設定者(地主)が提供する立退料を考慮します。

第6条借地契約の更新拒絶の要件 
前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

🔗「借地借家法」(e-Gov法令)

まずは当事者双方の土地の使用を必要とする事情主要な判断要素となります。

地主と借地人にどのような土地の必要性があるかを個別具体的に検討し、それぞれを比較し、相対的により必要性が高いのはどちらかを判断します。

その上で、土地の必要性の比較衡量だけでは判断できないときに、従前の経過利用状況立退料などの要素を補完的に考慮します。

そのため、いくら高額な立退料を準備したとしても、地主に土地を必要する事情がなければ、正当事由が具備されることはありません。

このように、正当事由の有無は、土地使用の必要性を主要な判断要素として、地主の利益と借地人の利益を比較衡量して判断されます。

正当事由の存否を判断するにあたっては、①当事者双方が土地の使用を必要とする事情を土台として、②借地に関する従前の経過、③土地の利用状況、④借地権設定者が提供する立退料が考慮されます。
正当事由の判断枠組み

3 旧法借地権の正当事由の判断

借地借家法施行前に設定された借地権の契約の更新については、旧借地法が適用されます(借地借家附則6条)。

ただ、前述のように、借地法の適用される場合であっても、借地借家法の正当事由の判断基準と大きな違いはありませんので、同じように考えて問題ありません。

4 正当事由が必要な時期と立退料の申出時期

地主の異議に正当事由が必要とされるため、異議の申出時正当事由が具備されている必要があります。

ただ、財産上の給付(立退料)については、裁判が終わる時点(専門的には「事実審の口頭弁論終結時」といいます)までになされた申出が有効なものとして考慮されます。

立退料は、更新拒絶の際に当事者双方の利益調整役を果たしますので、より柔軟な解決を可能にした調整といえるでしょう。

両当事者の土地使用の必要性が同等と思われるような場合や、裁判でも熾烈に争っている場合などでも、立退料を調整することで、できる限りの軟着陸を図る余地を残しているといえますね。

第2 土地の使用の必要性とは

土地の使用を必要とする事情は、正当事由の有無の判断において最も重要な判断要素です。

地主、借地人の双方の土地使用の必要性を具体的に比較検討する必要があります。

1 地主の土地を使用する必要性

地主が、自分の居住のために建物を建てる必要がある場合や、他の家族のために建物を建てて利用したい場合、またはその土地を営業するために必要とする場合、さらには再開発などにより高層ビルを建てて収益を得たいなど、多様なものがあります。

地主の土地使用の必要性には、地主の家族など、地主側の事情を含めて考慮されます。

たとえば、同族会社である地主の実質的な経営者個人の事情も、地主の土地を使用する必要性として考慮されています(東京地判平21.4.23)。

2 借地人の土地を使用する必要性

借地人の事情としては、自身が居住するために建物を利用すること、家族のために建物を利用すること、土地上の建物を事業・営業用に利用することなどが挙げられます。

たとえば、借地人が居酒屋を経営し、それによって生計を立てている場合に、本件建物と異なる場所で同等賃料で同様に居酒屋を経営することが可能とも認め難いと正当事由を否定した裁判例があります(東京地判平27.9.29)。

ただ、借地上の建物の賃借人の事情は、借地契約が当初から建物賃借人の存在を容認していたとか、実質的に建物賃借人と借地人を同一視できるなどの特段の事情がない限り、借地人側の事情として考慮されません(最判昭58.1.20)。

3 土地使用の必要性の基本的な考え方

土地使用の目的について、居住用営業用かによっても重さが異なるとされます。

居住用である場合、借地人としては、借地権が消滅すると生活の本拠地を失ってしまいますので、地主側に強力な土地使用の必要性がない限り、正当事由は認められません。

これに対して、借地人が営業目的で賃借している場合には、借地人の利益は、建物建設等による投下資本の回収と、営業利益の補償によって、守られるものと考えられます。

そうすると、居住目的で賃借しているよりは、正当事由が認められやすいといえます。

ただ、借地人が相当な資産を有していて、他に居住できる土地を所有していたり、それほど苦労なく代替の家屋に居住できるような場合には、そうでない場合に比較すると正当事由は認められやすいといえます。

第3 借地に関する従前の経緯とは

借地に関する従前の経過としては、権利金の授受の有無借地人が使用してきた期間、賃貸期間中に借地人賃料不払等の不信事由があったか更新料や承諾料の授受があったか等の事情が考慮されます。

このように、考慮される事情は数多く、かつ同時に複数の事情がありますので、どの要素がどの程度の重要性があるかは、個々具体的な事案で検討されます。

1 権利金、更新料、承諾料の授受の有無

権利金の支払いがなかったことは、正当事由ありとする要素になります。

これに対して、高額の権利金更新料支払っていること正当事由なしとする要素として働きます。

2 借地権設定以来の期間の長さ

借地人が長期間利用していることを、正当事由の判断に際してマイナス要素として考慮する裁判例は、数多くあります。

長期間の利用は、賃貸借契約の目的が達せられたこと、借地人の投下資本の回収が終了したこと、さらに借地権を維持させることは地主に酷なこと等に考えられるため、マイナス要素として評価しています。

3 借地権設定の事情

一時使用に近い形で借地契約が設定されたように思われる場合や、借地人の再三にわたる懇望を断り切れずに貸したという事情などは、正当事由を肯定する要素となります。

これに対して、親族間での土地の賃貸借である事情は、正当事由の要素としては大きな比重を持たないとされます。

4 賃料額の相当性・支払いの順調さ

地主が将来の土地明渡しを見据え、賃料増額請求を全然しなかったことは、正当事由ありと判断する方向を支えます。

反対に、借地人が賃料を誠実に支払い続けていたことは、正当事由を否定する要素となります。

第4 土地の利用状況とは

正当事由が、借地人の土地利用の利益を保護するためにありますので、借地人がどのような建物を建て、その土地をどのように利用しているかが判断要素になります。

具体的な要素は以下の通りです。

  • 借地上の建物の存否
  • 建物の種類・用途
    ~ 居住用か事業用か
  • 建物の構造・規模
    ~ 建物が低層であるか高層であるか、堅固建物かどうか等
  • 建物の老朽化の度合い
    ~ 建ててからどのくらい経過しているか
  • 建物の面積
    ~ 土地面積の中でどのくらいを占めているか
  • 建築基準法当の違反の有無
  • 借地人の利用状況
    ~ 借地人自身が利用しているか、賃貸に貸し出しているか

第5 財産上の給付(立退料等)について

1 正当事由の補完要素としての立退料の提供

地主、借地人の双方に土地使用の必要性がある場合、土地の使用の必要性だけでは判断し難いものとなります。

そうすると、借地に関する従前の経過・土地の利用状況にもよりますが、財産上の給付がないと正当事由は具備されず、更新拒絶はできないものといえます。

立退料は、他の事情だけでは正当事由が完全ではないが、一定の割合までは認められるという場合に、借地人の不利益を経済的観点から軽減させる役割があります。

立退料の提供によって、正当事由の不足分を補完・補強し、正当事由を肯定する役割を担います。

繰り返しになりますが、あくまでも不足分を補完するだけであって、そもそも土地使用の必要性が認められない場合には、立退料をいくら積んでも、正当事由は肯定されません。

裁判例では、地主の使用の必要性が借地人の必要性をかなり下回る場合には、30億円またはそれを大幅に上回る立退料の提供があっても正当事由を認めなかったものがあります(東京地判平2.4.25)。

なお、財産上の給付は、立退料に限定されるわけではなく、代替土地建物の提供も含まれます。

2 立退料の算定

借地の場合の立退料について、明確な算定基準はありません。

一般的には、まず借地権価格を基準にしながら、さらに営業用賃貸借においては、営業補償についても加味されることがあります。

借地権価格

借地権価格とは、借地借家法に基づき土地を使用収益することにより、借地権者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものです。

借地権価格の算定にあたっては、①割合方式(更地価格又は建付地価格に借地権割合を乗じて求めるもの)、②差額地代還元法(正常賃料と現実の賃料との差額を還元利回りで除して求める)、③収益還元法(借地権付き建物の総収益から総費用・建物に帰属する純収益・地代を差引いた額を還元利回りで除して求める)、④取引事例比較法(近隣の取引実額に各種の補正を施して求める)、⑤控除方式(更地価格又は建付地価格から底地の正常価格を控除して求める)の方式が利用されます。

営業補償

立退きによって、店舗を休止し、移転によって営業再開後一時的に顧客等を喪失し、従前の売上高を得ることができなくなると予測される場合に、低下した売上高が従前と同じ売上高になるまでの減少分の補償が問題になります。

この営業補償は、借地権評価に営業補償を含んでいない場合に、営業補償を加味して立退料が算定されます。

3 裁判における立退料の規律

立退料の判決(引換給付)

裁判所が立退料の支払いを定める判決をするには、地主が立退料の申出をすることが必要不可欠です。

仮に地主が立退料の申出をしない場合には、仮に立退料の支払いがあれば明渡しを認容できる場合であっても、立退料を定める判決を言渡すことはできません。

判決を言渡す場合は、「金〇〇円の支払を受けるのと引換えに、原告に対し・・・明渡せ」との判決がなされます。

立退料の支払いと土地の明渡しが引換えになっていますので、この判決を引換給付判決と呼びます。

立退料の支払いと強制執行の可否

では、地主が立退料が高額すぎるとして支払いを拒んだ場合は、借地人は立退料の支払いを強制できるでしょうか。

引換給付判決では、地主に対して強制執行をすることはできません。

そのため、立退料を支払わせるには、立退料の支払いを求める別訴を提起する必要がありますが、地主の意思を越えた立退料が認定された場合には、立退料の支払義務が否定される可能性があるとされます。

そのため、立退料の支払いを求めて別訴を提起しても、必ずしも請求が認容されるかが分かりません。

借地人は何をすべきか?

土地の明渡しはやむを得ないが、そのためには立退料を確保したい場合には、借地人はどうすれば良いでしょうか。

借地人は判決を求めるのではなく、裁判上の和解を成立させ、地主の立退料支払義務を明文化しておくことが大切だと考えます。

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第6 借地権の法律相談は弁護士へ!

1 正当事由の判断は非常に見通しが立てにくい

弁護士 岩崎孝太郎

地主と借地人について、土地使用の必要性に明らかな差がある場合であれば、比較的最終的な見通しが立てやすいです。

しかし、実際には双方共に必要性が乏しそうだなと思われるケースは少なく、最終的な結論がどちらになるのか、明確な見通しを持つことが難しい場合が少なくありません。

誤解を恐れずに分かりやすく整理すると、借地人が営業用に利用している場合には、立退料による経済的補償で賄える余地はあるでしょうが、居住用として利用している場合には、地主としては厳しい見通しを持たなくてはなりません。

地主、借地人のいずれにおいても、土地使用を必要とする事情を個別具体的に、説得的に述べる必要があります。

多くの裁判例を見ながら、具体的なイメージを作っていくことになりますが、この争いは熾烈になりやすく、専門家が早期の段階から関与していく必要性が高いものと考えています。

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