借地権が設定されている土地であっても、法令や契約による制限がある場合を除いて、地主はその土地を自由に第三者に譲渡することができます。
土地が第三者に譲渡された場合に、借地人が自己の借地権を譲受人に主張することができるかは、借地人にとって非常に関心が高いものです。
このような借地人が、土地の譲受人等の第三者に対しても自己の借地権を主張して認めさせることができるかどうかの問題を、「借地権の対抗力」といいます。
借地権を対抗(主張)できるかは、他の物権変動全般の原則通り、対抗要件を先に具備していれば主張することができます。
具体的には、借地人が借地上に登記した建物を有していれば、新所有者に対しても借地権を主張することができます。
多くの場合、借地人は建物の登記をしており、借地権の対抗力が問題となる場面は多くありません。
ただ、建物の登記名義が借地人の妻や子などの家族名義だったり、経営する法人名義にしていた場合や、いくつかある敷地の1つだけに建物が建っている場合など、裁判まで争われるケースがあります。
借地権の対抗力について、トラブル事例を中心に、より詳しく解説します。
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第1 借地権の対抗力についての全体像
1 借地権の対抗手段の原則(設定登記による方法)
借地権の対抗要件として民法が予定しているのは、設定登記(地上権設定登記・土地賃借権設定登記)です。
不動産の登記は、権利者(借地人)と義務者(地主)の共同申請によって行います(🔗不動産登記法60条)。
この点、借地権が地上権である場合には、地上権者は地主に対して地上権設定登記手続を請求することができます。
もっとも、借地権が土地賃借権である場合、特約がない限り、賃借人には賃貸人(地主)に対して登記手続を請求する権利がなく、賃貸人も登記に応じるメリットがありませんので、土地賃借権設定登記がされることは珍しいといえます。
2 借地権の対抗とその沿革(歴史)
かつて、登記しか借地権の対抗力が認められていなかった時代には、借地権を消滅させるために土地を敢えて(仮装して)売買することが行われていたようです。
このような売買は、借地権の存在を覆滅しようと脅かすため、「地震売買」と呼ばれていました。
もっとも、これでは安心して借地権を利用する人がいなくなってしまいますので、明治42年に建物保護ニ関スル法律(建物保護法)が制定され、借地人が借地上に登記した建物を所有する場合には、これによって第三者に借地権を対抗できるようになりました。
この規定は、現在の借地借家法10条1項に引き継がれています。
なお、借地上の建物の登記による対抗力は、借地権が地上権の場合にも適用されます(最判昭42年9月19日)。
(借地権の対抗力)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
第10条
借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
3 「登記されている建物」(借地借家法10条1項)とは?
「登記されている建物を所有する」(借地借家法10条1項)とは、建物の所有権を示す登記のことで、具体的には、所有権保存登記、又は所有権移転登記が経由された建物を所有している場合をいいます。
未登記であれば、対抗力はありません。
この点に関して、建物の表示登記のみで保存登記が経由されていない場合であっても、その表示登記に借地人が所有者とする記載がある場合には、借地権の対抗力を有するとされています(最判昭50年2月13日)。
4 所在地の食い違い等
建物の所在地番が誤って表示された登記は、対抗力が否定されます。
これは、建物の登記から借地権を推知する可能性がなく、第三者が建物登記を見たときに、その建物によってどの範囲の土地賃借権について対抗力が生じているかを分からず、不測の損害を受けるおそれがあるからです。
そうすると、建物の所在地番の表示が正確でなかったり、登記に記載された建物の種類・構造・床面積が実際の状況と異なっているなど、登記と実状とが異なっている場合であっても、登記の表示全体において建物の同一性を認識し得る程度の相違であれば、対抗力は肯定されます。
建物の他の記載と相まって、更正登記が許される程度の軽微な差異にすぎず、その建物の同一性を認識し得る場合には、借地権のその建物登記によって対抗力を有するとされ(最大判昭40年3月17日)、判例法理として定着しています。
これに対して、同一性を否定した裁判例として、23番の3土地の賃借人が土地上の建物を認識しながら、枝番があることを知っていたにもかかわらず建物を単に23番地上に存在するものとして所有権保存登記を経たにすぎないときは、実際の地番に符合するように登記の訂正がなされない限り、賃借権は対抗力を有しないと判断したものがあります(東京高判昭34年9月30日)。
なお、建物が増改築されたり、自然現象による一部倒壊等によって、構造・床面積に変動が生じた場合の対抗力も問題になり得ますが、この場合も同様に、建物の同一性を認め得る限り、借地権の対抗力を有するとされます。
5 借地人と建物登記名義の相違
借地人が、税金対策や相続対策等として、妻や子などの近親者の建物名義にすることがあります。
この場合、判例は一貫して、他人名義の建物をもってしては借地権の対抗ができないと判断しています。
近親者名義の建物登記を認めると、他人との区別が分からなくなってしまうことが理由です。
【裁判例で対抗力が否定された事例】
- 妻名義
- 子名義
- もと内縁の妻名義
- 養母名義
- 法人の代表者名義
なお、借地権を相続した場合に、相続登記が未了である場合には、被相続人名義の有効な建物登記によって対抗力は維持されると考えられます(大判昭15年7月11日)。
同様に、建物と共に適法に借地権譲渡がされた場合に、建物所有権移転登記が未了である場合も、借地権の対抗力は維持されると考えられます。
6 土地の筆と建物の関係
一筆の土地の一部分について賃借権がある場合でも、その賃借地の一部の上に登記した建物があれば、その賃借地全部についての賃借権をもって第三者に対抗できます(東京高判昭41年8月8日)。
これに対して、隣接するA地・B地の2筆の土地を借地し、登記された建物がA地上のみに存在するときは、賃借人が両土地を一括して居宅利用の便益に供しているという事情があっても、A地上の建物の対抗力をB地に及ぼすことはできません(最判昭40年6月29日)。
同様に、A地・B地の2つにまたがって存在する建物の所有権保存登記に、建物の敷地としてA地のみが表示されたときは、敷地の表示の更正登記がない限り、B地の借地権をもってB地の譲受人に対抗することはできません(大判昭13年10月1日)。
これは、第三者が建物登記を見た場合に、その建物の登記としてどの範囲の土地賃借権について対抗力が生じているか、分かる必要があるためです。
一方、A地上に建物があって、B地上に建物がない場合であっても、2筆の土地が一体として利用されている等の事情があるときは、2筆の土地の買受人がB地の明渡し請求をすることは、権利の濫用として認められないとした事例があります(最判平9年7月1日)。
7 分筆と対抗力の問題
借地権が対抗力を備えた後に、地主(土地所有者)が土地の分筆を行い、建物が分筆の一方だけの土地上にあり、他の土地の上に存在しないという状況が起こり得ます。
この場合であっても、分筆後に建物の存しない土地についても、借地権は、第三者(土地の新所有者)に対抗することができます(最判昭30年9月23日)。
このような場合に借地権に対抗力がなくなるとすると、借地権を排除しようとする土地所有者が、土地を分筆、売却することで容易に借地権を排除できるようになる不合理な結果となってしまいます。
一方、土地が分筆されたことは登記から分かりますので、第三者が不測の損害を被るおそれもありません。
第2 建物が滅失した場合の掲示による対抗等
1 建物滅失による対抗力の暫定措置
借地権の存続中に建物が滅失した場合、借地権は消滅しないものの、建物登記による借地権の対抗はできなくなります。
もっともこの原則を貫くと、建物が滅失している間に、地主が土地所有権を譲渡することがあれば、借地人は土地譲受人に対して借地権を主張できず、大きな不利益を被ることになってしまいます。
そこで、このような不都合を回避するため、建物の滅失があった場合に、2年間の暫定的対抗力を認める規定を設けました(借地借家法10条2項)。
具体的には、建物の滅失があった場合に、建物を特定するために必要な事項、滅失があった日、建物を新たに築造する旨を、土地の見やすい場所に掲示したときには、借地権はなお対抗力を有すると定めています。
(借地権の対抗力)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
第10条
2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
2 要件と効果
まず、掲示による対抗力が維持されるためには、もともとの建物登記によって対抗力があったことが必要です。
登記もされていない建物が滅失したとしても、そもそも対抗力のない建物が滅失したにすぎませんので、掲示による借地権の対抗は認められません。
次に、「滅失」は、自然災害だけでなく、人為的な取壊し等も含みます。
掲示の効果として、建物滅失の日から2年間だけ対抗力が維持されます。
建物の滅失後、掲示をする前に土地が第三者に譲渡されたような場合や、いったん掲示をしても、それが撤去等で掲示されていない状態になったときは、借地権を対抗することができません(東京地判平12年4月14日)。
3 2年を経過した場合
建物滅失から2年を経過した後に対抗力を維持するためには、建物滅失後2年以内に、借地人が新たに借地上に建物を築造(再築)し、自己名義で登記を経費しなくてはなりません。
第3 借地権の対抗をめぐる借地人と土地譲受人(新所有者)との関係について
1 借地権を対抗できない場合の法律関係
借地人が借地権を土地譲受人に対抗できない場合には、土地譲受人は借地人に対して、建物収去土地明渡しを請求することができます。
明渡請求が認められない場合
土地譲受人が、借地権が存在することを認識しながら、借地権が対抗力を有しないことを奇貨として時価よりも著しく低廉な価格で買い受けたような場合など、土地譲受人が背信的悪意者に該当したり、または土地譲受人の借地人に対する明渡請求が権利の濫用にあたる等の理由によって、認められない場合があり得ます。
このような場合であっても、借地人が適法に土地譲受人に対して借地権を対抗できるわけではありません(あくまでも明渡請求が認められないだけです)。
そのため、土地譲受人は借地人に対して、不法占有として不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます(最判昭43年9月3日)。
または、借地人の土地についての使用収益を不当利得であるとして、その使用利益分の返還請求をすることもできます。
2 明渡請求が認められた事例
単に賃借権や未登記建物の存在を知って土地を譲受けた場合には、明渡請求は認められます。
裁判例においても、本件売買における代金が非常に安価であるということをもって、直ちに原告が本件借地権の存在について悪意であった、あるいは、本件建物が未登記建物であることを奇貨として無償に近い代金の売買契約を締結した等の背信的悪意者であったと認めることは困難である(東京地判平30年10月16日)と判示しています。
3 明渡請求が認められなかった事例
- 旧所有者が、賃料の値上げに応じない借地人を立ち退かせるために、建物の保存登記がされていないことに着目して、新所有者に譲渡して、新所有者が借地権を否認して建物収去土地明渡しを求めた事案(東京高判昭和45年5月27日)
- 新所有者は法律に明るいことを悪用し、改築のために旧建物が取り壊された合間を縫い、前所有者をそそのかして突然に本件土地を買い受けたものというべく、しかもこれを買い受けるや直ちに、借地人の賃借権は新所有者に対抗し得ない旨を主張して訴訟を提起するなどの挙に出ているのであるから、賃借権を害する目的があったことは明白とされた事案(東京地判昭和41年6月18日)
- 借地人所有の建物が存在することを前提にして借地権評価額で当該借地を買い受けるや、直ちに借地人に対して本件賃借権の買取交渉を行い、しかも未登記であることを指摘して性急に強圧的な態度で臨んでいるとされた事案(東京地判平5年3月25日)
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第4 借地のトラブルを弁護士に相談する
1 借地権をめぐるトラブルを専門性の高い弁護士に相談する
借地権は、元を辿ると家族や縁故関係によって賃貸を始めたケースも多く、契約内容なども曖昧な部分を含んでいることが少なくありません。
建物賃貸借に比べて契約書がない場合も多く、相続や譲渡などによる当事者の変更によって、紛争が顕在化しやすいといえます。
借地権の対抗力も、特に家族名義での建物所有などは、その典型例といえそうです。
借地権は、資本を投下する借地人の権限が守られやすい一方、地主の意向により制約を多く受けますので、トラブルが発生しやすい契約類型と言えます。
トラブルへの備えや、万が一発生した時には、弁護士などの専門家への相談をご活用ください。
2 弁護士費用(借地権トラブル)
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