借地借家法は、「建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権」(借地借家法1条)を対象としています。
そのため、建物の所有を目的としない土地賃貸借(たとえば、駐車場や資材置き場等)の場合には、借地借家法の適用はなく、民法の適用を受ける土地賃貸借契約が成立するにすぎません。
借地借家法の適用がなければ、借地借家法の正当事由制度、法定更新制度、建物買取請求権制度などが適用されませんので、契約期間の満了と共に地主に土地を返さなければなりません。
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借地借家法の3つのポイントを解説しますこの制度設計のために、(定期借地権が立法化される以前は)一時使用目的の借地権であることを含め、建物所有目的ではない土地賃貸借契約を締結することにより、借地借家法の適用を避けようという地主の努力がみられました。
現在は、一定年月の経過により土地の返還を希望する地主は、定期借地権を利用することができますので、土地賃貸借が「建物の所有を目的」としているかどうかを議論する重要性は、小さくなっています。
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一時使用目的の借地権とは?もっとも、貸す土地に建つ建物が従たるものだと軽信して、実際には土地上に一定の建物(事務所、食堂、従業員の休憩室など)が建築される場合があります。
このような場合、建物所有目的の土地賃貸借として借地借家法の適用があり得ますので、引き続き注意が必要です。
地主としては、何のために借りようとしているのか、その場合に建物所有目的があるのかどうかを確認します。
少しでもある場合には、注意しないといけません。
建物所有目的が少しもないならば、土地賃貸借契約書において「いかなる建物所有も認めない」旨を明記しましょう。
賃借人がどうしても工作物の築造を求める場合には、土地に定着しない移動可能な動産を置くのに留めるようにしましょう。
それでは、借地権と認定される危険性はどのようなものか?
具体的にみていきましょう。
この記事では、土地を貸す主たる目的が「建物の所有」に該当するのは?を詳しく解説します。
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第1 建物所有目的の借地権とは?
1 建物所有目的であることの要件
土地賃貸借契約が「建物の所有を目的」とするものに該当するためには、
- 建物要件(借地上に所有する建造物が建物であること)
- 主たる目的要件(建物所有が主たる目的であること)
という2つの要件を充足する必要があります。
2 建物要件について
「建物」に該当するか否かは、物理構造が主な判断の基準となります。
不動産登記簿に建物として登記されている必要はなく、不動産登記で対象とされる「建物」と同一には考えられていません。
ただ、不動産登記における「建物」の定義が該当性を考える上では参考となります。
不動産登記における「建物」の考え方
不動産登記では、「建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない。」(不動産登記規則111条)と定義されています。
そして、不動産登記事務取扱手続準則において、建物として取り扱うものとそうではないものが例示列挙されています。
(建物認定の基準)
🔗「不動産登記事務取扱手続準則」(法務省民事局通達)
不動産登記事務取扱手続準則第77条
建物の認定に当たっては、次の例示から類推し、その利用状況等を勘案して判定するものとする。
一 建物として取り扱うもの
ア 停車場の乗降場又は荷物積卸場。ただし、上屋を有する部分に限る。
イ 野球場又は競馬場の観覧席。ただし、屋根を有する部分に限る。
ウ ガード下を利用して築造した店舗、倉庫等の建造物
エ 地下停車場、地下駐車場又は地下街の建造物
オ 園芸又は農耕用の温床施設。ただし、半永久的な建造物と認められるものに限る。
二 建物として取り扱わないもの
ア ガスタンク、石油タンク又は給水タンク
イ 機械上に建設した建造物。ただし、地上に基脚を有し、又は支柱を施したものを除く。
ウ 浮船を利用したもの。ただし、固定しているものを除く。
エ アーケード付街路(公衆用道路上に屋根覆いを施した部分)
オ 容易に運搬することができる切符売場又は入場券売場等
裁判例における事例
【肯定例】
○堅固な木造合掌の骨組みを有する屋根、太い柱のある鶏舎、犬舎(3階には住居あり)
○木造トタン葺き平屋建で柱を組み、屋根を葺き囲壁を完備しているバスの待合所兼切符売場
【否定例】
●ベニヤ板の天井、トタン板の屋根とテントを施した露店設備
●駅のホームに築造されたプレハブ造りの売店
3 主たる目的要件について
借地人が土地上に建物を築造し、所有していたとしても、建物所有が主たる目的ではなく、従たる目的にすぎない場合などには、借地借家法は適用されません。
ただ、建物所有が主たる目的といえるかどうかは、必ずしも明確ではありません。
土地賃貸借契約の趣旨と土地の利用状況、借地上の築造物の構造、規模や用途などを総合的にみて判断することとなります。
第2 裁判例の概観
1 自動車運転教習所
下に紹介する昭和58年と昭和35年の最高裁の判決で結論が分かれた理由は、①賃借している土地の建物部分の割合が4.5%と1.67%と異なること、②自動車練習場に付随的に設けられた建物か、「自動車学校建築のため木造家屋の敷地に使用する」ことが契約書に明記されているかの違い、③自動車練習場と異なり、自動車学校には交通法規等の教習のための建物が不可欠である点、などが挙げられると考えられます。
判決の内容 | 結論 (建物所有目的) | 裁判所・日付 |
交通法規等を教習するための校舎、事務室等の建物が不可欠であり、その両者が一体となってはじめて自動車学校経営の目的を達しうるのであるから、自動車学校経営のための本件賃貸借は借地法一条にいわゆる建物の所有を目的とするものにあたる。なお、契約書にも「自動車学校建築のため木造家屋の敷地に使用する」契約書に明記。 | 〇 | 最判昭58.9.9 |
建物は使用目的の便益に供するため付随的に設置されたに過ぎない。 | ✖ | 最判昭35.6.9 |
大部分が自動車運転練習コースとして…利用されている。…ビデオ教室等として利用するために建築したが、その床面積は本件土地の100分の1にも満たない。…契約書にも建物の所有を目的とする旨の記載はない。 | ✖ | 東京高判昭60.8.28 |
2 ガソリンスタンド
ガソリンスタンドは、建物所有目的が肯定された裁判例においても、明渡請求は棄却されています。
ただ、両裁判例を比べると、建物所有部分が少し(従たる目的)といえるか、相対的判断の難しさが分かります。
判決の内容 | 結論 (建物所有目的) | 裁判所・日付 |
工具室、販売室等の鉄筋コンクリート造平屋建建物について、ガソリンスタンド経営のためには従業員の控室あるいは商品、工具置場等に当然建物が必要とされるし、その主たる販売品であるガソリンの貯蔵のために地下タンクを要し…このタンクは営業品を貯蔵する地下倉庫と同視されるべきであり、これ自体建物の一部というを妨げない…本件土地使用は建物所有と目的とする(但し、一時使用の賃貸借と認定し、明渡請求を容認)。 | 〇 | 東京地判昭44.4.5 |
一般的には、その全体に占める割合において事務所建物の敷地部分はさほど大きいものとはいえず、またその目的においても、給油業務という本来の目的に比べると事務所建物の所有自体は依然従たるものにとどまっている。 | ✖ | 東京高判平14.4.3 |
3 中古自動車展示販売場・自動車修理工場
中古自動車展示販売場、自動車修理工場では、建物所有が主目的と認められないことが多いです。
肯定事例は、建物建築の容認(黙認)から建物所有目的が認定されているように読めます。
判決の内容 | 結論 (建物所有目的) | 裁判所・日付 |
「使用目的は車輛展示場とし、建物を建ててはならない」旨の文言があった契約書に難色を示され、建物建築の点は了解のうえ契約が交わさた後、借地人は直ちに建物の建築にとりかかり、建物完成後行われた開店祝いの際には地主も出席して、建物の建築自体には特段の文句も言わなかった | 〇 | 東京地判昭和44.3.29 |
自動車の駐車場、販売用の自動車の展示する等の用途で利用することを主たる目的とするものは、建物所有を目的とするものではない。 | ✖ | 大阪高判昭54.7.19 |
展示中の自動車の管理棟のため仮設建物を建築し、配電、給水等の最小限の設備を設置することを賃貸人が黙認していたが、契約書が作成されず、権利金や敷金等の授受もなかった事案。 | ✖ | 東京高判昭50.5.19 |
4 ゴルフ練習
判決の内容 | 結論 (建物所有目的) | 裁判所・日付 |
反対の特約がある等の特段の事情のない限り、土地自体をゴルフ練習場として直接利用することにあったと解すべき…ゴルフ練習場を経営するのに必要な…事務所用等の建物を築造・所有することを計画していたとしても…従たる目的にすぎなかったと判示。 | ✖ | 最判昭42.12.5 |
本件契約においては、ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎない…本件土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないと判示。 | ✖ | 最三小判平25.1.22 |
5 バッティングセンター、材木置き場
判決の内容 | 結論 (建物所有目的) | 裁判所・日付 |
営業上必要な切符売場、便所、物置、管理人室等の建物所有は、バッティング練習場として土地を利用するための従たる目的にすぎない。 | ✖ | 最判昭49.10.25 |
賃貸借契約締結後に9つの倉庫兼加工場が建設(未登記で簡易な造り)され、契約書に「普通建物所有の目的をもって」という文言があっても、「材木置場」と手書きで記載され、土地面積(1,000㎡超)等にかんがみると、主たる利用目的を材木置場として認識していたことが認められる。 | ✖ | 東京地判平28.4.21 |
6 隣接地の利用
賃借地上に建物がない場合でも、隣接地に建物があり、隣接地の利用が建物にとって必要不可欠である場合に、借地借家法が適用される余地があります。
判決の内容 | 結論 (建物所有目的) | 裁判所・日付 |
百貨店の仕入センターへの進入路となり、駐車場や物品置場として使用するための土地の賃貸借。 | 〇 | 東京地判昭52.12.15 |
信用金庫の支店用駐車場としての支店の土地の賃貸借。 | 〇 | 東京地判平20.3.24 |
建物のある土地から公道に出るための唯一の経路として継続的に利用されている土地の賃貸借。 | 〇 | 東京地判令2.10.27 |
幼稚園園舎の隣接地の運動場について、幼稚園の運動場としてのみ使用する旨の合意が存在し、現実にも同目的以外に利用されたことはなく、公正証書又は調停により期間を定めて更新されてきた事案において建物所有目的を否しました。 | ✖ | 最判平7.6.29 |
第3 まとめ
1 地主の心構え
以上のように、特に主たる目的が建物所有であるかどうかは、裁判官による評価が伴うものですので、建物所有が主たる目的であるとして「借地権」と認定されるリスクがつきまといます。
そのため、建物所有が少しでもある場合には、地主としては注意が必要です。
2 地主の取るべき対策
たとえ青空駐車場や資材置場であっても、「建物所有を目的としない」旨を契約書に明記しておくことが安全です。
ただし、これだけでは十分とはいえません。
賃貸人が知らない間に建物が建築されてしまい、賃貸人も分かりつつも異議を言うことなく放置してしまっているような場合には、状況の変化として、建物所有を目的とすることを承諾したと認定されるリスクが発生します。
地主の対策としては、契約書への明記を忘れないこと。
築造するとしても、移動可能な動産類に留めておくこと。
ダメ押しは、事情の変更による黙示の承諾と言われないよう、賃貸借土地の定期的なチェックと、違反があった場合に適切に対応すること(形に残る形での異議等の申出と法的対応等)を念頭に置いておくと良いです。
第4 当事務所の弁護士費用など
1 弁護士費用
交渉などの費用(目安)
借地非訟事件の弁護士費用
土地の明渡し
2 当事務所への問い合わせ
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終了
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