Q
賃料の滞納などにより、借地権を解除して土地の返還を求めたい場合に、確実に返還を受けるためにはどのすればよいでしょうか。
A
地主(土地所有者)が、土地の明渡しを求めようとする場合、土地の占有者(建物の所有者)に対し、建物収去土地明渡しを求めます。
「建物収去土地明渡し」とは、「建物を取壊して土地を返せ!」という請求をいいます。
特に借地料が滞納されている場合は、なかなか任意交渉では解決を図ることが難しいことが多いでしょうから、裁判などの法的手続を執る必要があります。
裁判において、土地の明渡しを求めるだけでは、判決の主文に建物の収去が記載されず、地主(土地所有者)は、この判決によっては、土地とは別個の不動産の建物に対して取壊しの強制執行をすることができません(執行法上の制約があるためです)。
そのため、建物の所有者に対し、土地の明渡と共に建物収去を求めます。
ただ、この場合においても、建物の明渡しを求めた場合と同様に、裁判の途中で建物を第三者に譲渡されてしまった場合、土地の所有者は建物の新しい所有者に対して、別に最初から裁判を起こさないといけません。
そこで、建物の明渡しで占有移転禁止の仮処分を行ったように、土地の明渡しの場面においても、第三者への譲渡を禁止する、所有権の「処分禁止の仮処分」を行っておくと、確実な明渡しを実現することができます。
この記事では、建物収去土地明渡請求を保全するための「処分禁止の仮処分」について説明します。
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第1 処分禁止の仮処分とは
1 建物収去土地明渡請求の相手(被告)とは
地主が、借地契約を解除して土地の返還を求める場合、建物を所有して土地を占有している者(借地人)に対して、建物収去土地明渡請求(建物を取壊して土地を返せ!)を求めます。
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不動産明渡・引渡の強制執行の流れ2 建物収去土地明渡請求で困難が生じる場合
建物収去土地明渡請求の場合においても、建物の明渡しの場合と同様に、裁判の口頭弁論終結後に譲渡されている場合は、借地人を被告とした判決で強制執行を行うことができます。
しかし、口頭弁論終結前に第三者に建物を譲渡してしまった場合には、第三者を相手として別に裁判を最初から起こさなくてはなりません。
そのため、土地の明渡しを受けるという目的を達成するためには、建物の所有権の処分を許さないことによって、裁判で被告となるべき建物の所有者を固定しておく必要性が高い(これを「当事者恒定効」と呼びます)ものといえます。
占有移転禁止の仮処分では、建物の事実上の占有の移転が制限されるだけです。
そのため、建物の所有者を固定しておく必要性があり、それが「処分禁止の仮処分」となります。
3 処分禁止の仮処分とは
建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分は、処分禁止の登記をする方法によって行います。
この登記は、仮処分命令を発した裁判所が保全執行裁判所として、裁判所書記官が登記の嘱託を行います。
裁判所が保全執行を行うので、債権者としては仮処分命令が発令されると、特に何も手続を行うことなく、登記まで進んでいきます。
占有移転禁止の仮処分では、執行官が保全執行を担うため、仮処分の申立てとは別に、保全執行の申立てが必要でした。
この点は、誰が保全執行を行うかによる手続の違いがありますね。
4 処分禁止仮処分の効力
処分禁止の仮処分の登記がされた場合、この登記の後に建物を譲り受けた者に対して、借地人を被告とした判決によって建物収去土地明渡の強制執行をすることができます。
これが、建物収去土地明渡しの強制執行をするための当事者を恒定する効力です。
建物について売買等の取引をする場合には、その登記を確認するはずであるため、処分禁止の登記の後の建物譲受人は、この仮処分がされたことを知っているものとみなして、仮処分の効力を実効的なものとしています。
5 処分禁止仮処分の登記
処分禁止の登記は、登記の後にされた第三者の所有権移転登記を抹消することまでは認められていません。
これに対して、登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の場合は、処分禁止の登記の後にされた第三者の登記の抹消することができます。
そのため、この両者を区別するために(登記官が建物収去土地明渡の処分禁止であるにもかかわらず、第三者の登記を誤って抹消しないように)、登記には建物収去土地明渡請求権が被保全権利であることを示す記載がなされます。
第2 処分禁止の仮処分の申立て
1 申立ての趣旨
処分禁止の仮処分では、
「債務者は、別紙物件目録記載の建物について、譲渡並びに質権、抵当権及び賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。」
との裁判を求めます。
2 被保全権利
①所有権に基づく請求権と、②賃貸借契約終了に基づく請求権の2つが想定できます。
いずれの請求権を根拠とするにしても、全く見ず知らずの第三者が家を建てて不法占有していることはほとんどなく、何かしらの関係をもった債務者が占有を続けている場合がほとんどです。
そのため、債権者は、賃貸借契約の締結や終了の経緯などを疎明することになります。
具体的には、土地、建物の不動産登記簿謄本、土地の賃貸借契約書、未払賃料の催告書、賃貸借契約の解除通知書等を提出して、借地人に占有権限がないことを疎明していくことが多いです。
3 保全の必要性
処分禁止の仮処分は、建物収去土地明渡請求訴訟の途中で建物が第三者に移転されることに備えて、当事者を固定化させるものです。
そのため、保全の必要性の有無は、建物の所有権の移転の恐れの有無によって判断されます。
ただ、実際問題として、建物の所有権が移転される具体的な恐れを疎明することは、相当に困難です。
たとえば、売りに出されている情報があれば確実ですが、そのような証拠を入手できるケースはほとんどありません。
そのため、処分禁止の仮処分においては、被保全権利が確実であれば、そのことから保全の必要性もある程度推認されるものと考えられています。
4 処分禁止仮処分の効力が及ぶ範囲
現実に建物が建っている土地の敷地部分に及びます。
これは、建物所有者が建物を所有することによってその敷地を占有しているものと評価されるためです。
(建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分の執行)
第55条
第1項
建物の収去及びその敷地の明渡しの請求権を保全するため、その建物の処分禁止の仮処分命令が発せられたときは、その仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。(建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分の効力)
🔗e-Gov法令検索「民事保全法」
第64条 第55条第1項の処分禁止の登記がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、その登記がされた後に建物を譲り受けた者に対し、建物の収去及びその敷地の明渡しの強制執行をすることができる。
第3 関連する問題~占有移転禁止仮処分は必要か?
1 建物の占有移転禁止の仮処分
建物の所有者と占有者が一致していたとしても、建物の所有者が第三者に建物を貸出すなどして占有のみを第三者に移転することがあります。
処分禁止の仮処分には、建物の占有の移転を禁止する効力はありませんので、債権者がなにもしなければ、第三者に対して建物退去土地明渡しの訴えを提起しなければなりません。
そのため、建物の所有者が建物の占有を移転する恐れがある場合には、建物の処分禁止の仮処分と共に、建物について、占有移転禁止の仮処分命令を取得する必要があります。
建物の所有者に対して、建物を取壊せという「建物収去」土地明渡請求をします。
これに対して、建物の占有者に対しては、建物から出て行けという「建物退去」土地明渡請求をします。
呼び名が似ていますが、求めている内容は異なりますね。
2 土地の占有移転禁止の仮処分
処分禁止の仮処分は、建物の敷地に及びます。
そうすると、1筆の土地の内、独立に占有することができる土地がある場合には、その土地部分の占有が第三者に移転されるリスクが生じます。
そのため、その土地部分について、当事者恒定効を生じさせるため、別途に占有移転禁止の仮処分をしておく必要があります。
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1 仮処分を弁護士に依頼する
建物の明渡しを求める場合、占有移転禁止の仮処分を行うかは、賃借人等のこれまでの態度や費用対効果から検討します。
これに対して、土地の明渡しを求める場合、借地権が財産的価値が大きいことや、債務不履行解除もハードルが高いこともあり、裁判に集中するためにも仮処分は基本的に行うべきものといえます。
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