土地所有者(地主)が、建物を壊して土地を明渡してもらう裁判(建物収去土地明渡請求)を起こし、勝訴判決を得た場合、どのようにして強制執行手続は進められていくのでしょうか?

典型的な場面は、土地所有者が借地権を解除して、借地人に対し、借地上にある建物を取壊して明渡しを命じる判決が出た場合です。

土地所有者(地主)が、借地人が建てた建物の収去など、借地権が解除された後の建物収去土地明渡請求の強制執行方法について案じている図。

この記事では、借地人に対して、土地賃貸借契約の解除が認められ、いざ土地を返してもらう場合に、その強制執行はどのような手続で進められていくのかを解説します。

借地権を解除し、裁判(訴え・訴訟)を提起し、明渡判決を獲得した後、強制執行の申立てにより、建物を壊し土地の明渡しを目指します。
全体手続における建物の取壊しと土地の明渡し

まず、建物を壊す行為(建物収去行為)は、借地人が行わずとも、土地所有者(地主)や第三者において行うことが可能な行為です。

そのため、建物収去は、土地所有者(地主)が執行官に申立て、執行官が借地人に代わって行います。

このように、土地所有者などが代わりに強制執行をすることができる手続を、代替執行と呼びます。

建物収去は、執行官が執行補助者(専門業者)を使って行います。
実働は執行補助者(専門業者)が担います

そして、土地の返還(明渡し)を求める流れは、建物の明渡しの強制執行と同様の流れとなります。

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不動産明渡・引渡の強制執行の流れ

この記事では、建物収去土地明渡請求における、「代替執行」と呼ばれる強制執行手続の流れを解説します。

この記事のポイント。
建物を取壊して土地を返してもらう、代替執行手続の流れを解説します。
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第1 代替的作為義務の強制執行手続の流れ

手続における呼称は、土地所有者(地主・賃貸人)は債権者、借地人(賃借人)を債務者といいます。
手続における呼称

1 代替的作為義務の強制執行とは

代替的作為義務とは、債務者が任意に履行しない場合に、債権者が債務者の費用をもって、第三者に債務者のなすべき行為を行わせる方法をいいます。

たとえば、建物を収去する義務や、物の運ぶ義務などが挙げられます。

この代替的作為義務の強制執行の方法は、裁判所が債権者に対して、執行官を作為者として作為の実施(建物の収去)を許可する授権決定を発令します。

そして、この授権決定をもって、執行官に対して作為実施の申立てと共に土地明渡しの強制執行の申立てを行います。

建物収去土地明渡しの強制執行は、以下の流れで進んでいきます。

代替執行の強制執行手続は、まず代替執行の申立てを行い、授権決定(代替執行決定)と費用前払決定を得ます。
そして、作為者である執行官へ土地の明渡しと共に強制執行を申立てます。
以降は、土地の明渡しと共に明渡催告、断行期日、目的動産の処分となっています。
代替執行手続の流れ

2 授権決定の流れ

授権決定(代替執行決定)

代替執行の申立(建物収去命令の申立)を受けた裁判所は、債務者の審尋を行います。

実務上は、意見があれば所定の期限までに意見書を提出させる書面審尋を行い、授権決定をします。

(例)
「〇〇地方裁判所執行官は、別紙物件目録記載の建物を債務者の費用をもって収去することができる」

執行費用支払決定

授権決定を申立てる際には、授権決定に掲げる作為を実施するための費用を、債務者があらかじめ債権者に対して支払うべき旨の申立てをすることができます。

この申立てを認容する決定が、代替執行費用の支払決定です。

債権者は、建物収去に必要な費用を業者に見積もってもらい、その見積書を添付して裁判所に提出します。

なお、債権者が実際に建物収去費用を立替えて、建物の収去を完了した後に、実際に債務者が負担する費用を確定する執行費用額確定処分申立てという手続きもあります。

ただ、債権者が立替えた費用を債務者から現実に回収することは困難であることや、概ね見積もりの範囲で取壊しが完了することが多く、あまり活用されていません。

(例)
「債務者は、あらかじめ債権者に対し、別紙物件目録記載の建物を収去するための費用として金〇〇円を支払え」

3 執行官に対する作為の実施&強制執行の申立て

債権者は、執行官に対して授権決定に定められた作為の実施の申立てを行い、土地についての明渡しの強制執行を申立てます。

執行官に対する申立てでは、手数料と明渡執行の手続に必要な費用の概算額の予納が必要となります。

建物収去は専門業者が担いますので、収去費用が大きな金額を占めます。

なお、債権者が専門業者に直接代金を支払うこともあり、その場合には、予納(専門業者費用分)は不要となります。

収去費用や、立退費用など、執行補助者(業者)への実費を除くと、執行官に納める予納額は、東京地裁で6万5,000円、京都地裁で10万円など地域により異なりますので、各裁判所に確認します。
なお、未使用分は返還されます。

【参考 予納額】
🔗「予納金額標準表」(東京地裁令和3年版)

🔗「民事執行予納金基準額表(京都地裁)

4 明渡しの催告

執行官は、強制執行の開始要件が満たされるときは、引渡期限を定めて明渡しの催告をすることができます。

この催告には、債務者(占有者)に対する占有移転禁止の効力、当事者恒定効が付与されています。

5 断行・目的外動産の処分

執行官は、建物内に債務者所有の動産があるときは、これを建物外に搬出して、債務者や家族等に引渡さなければなりません。

引渡すことができなければ、執行官は債務者の費用で保管し、債務者が引渡しを拒んだときは、動産執行の売却手続によって換価します。

建物収去の実施によって取り壊された建物に使用されていた資材の処理同様の取扱いをします。

つまり、執行官は、資材を債務者に引渡すべきですが、それができない場合は、資材を一応相当期間保管し、なお引渡すことができないときは、所定の手続きにより売却を試みて、売却されればその代金を供託します。

売却できずに無価値物と判断される場合には、廃棄処分として差し支えありません。

6 まとめ~建物収去土地明渡請求の強制執行

建物収去土地明渡請求の判決は、建物の収去と土地の明渡しが含まれます。

以上のように、建物収去土地明渡請求の強制執行は、債権者が建物収去の授権決定を得て、建物収去行為を執行官に対する作為実施の申立て等により実施するとともに、執行官に対し、土地明渡しの直接強制を申立て、同時に実施する方法にて行われます。

建物の収去は代替執行、土地の明渡しは直接強制の方法によって強制執行が行われます。

【参考サイト】
🔗「代替執行Q&A」(東京地裁民事第21部代替執行係ホームページ)

🔗「執行手続・書式等のご案内【代替執行係の手続】」(東京地裁ホームページ)

第2 建物収去土地明渡請求を弁護士に依頼する意義と費用

弁護士 岩崎孝太郎

建物収去土地明渡請求は、強制執行手続が建物収去と土地の明渡とが併存するもので、やや複雑です。

借地契約の場合、解除の有効性を争う場面が主戦場となることが多いでしょう。

その際にも、強制執行手続までも見通した専門家によるサポートがあると、安心して手続を進められるものと思います。

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