美容院、ネイルサロン、エステサロンのような美容業界では、顧客からの「思っていたのと違う!」等のクレームは避けて通れないものです。
ところが、顧客からのクレームに対して、どのように対応すべきかを明確な方針がないまま、場当たり的な対応をしている店舗が多いのではないでしょうか。
この記事では、美容業界におけるクレーム対応法について、解説します。
第1 クレーム対応の基本的な考え方
当事務所の色々な記事にも書いていますが、基本的な対応要領は、どの業界においても異なるものではありません。
クレーム対応においては、顧客の主張を聞き事実関係を調査しながら、正当なクレームか不当なクレームかの判断をします。
どのようなクレームに対しても、この流れはルーティーンとして行います。
そして、正当なクレームには真摯に対応する一方、不当なクレームに対しては断固として拒否し、関係遮断を求めることがクレーム対応の基本的な流れです。
詳細は、以下の参考記事をご覧ください。
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第2 クレーム発生時の具体的な対応
1 考え方の出発点
どのようなクレームであっても、要求内容の把握と事実関係の調査は、必ず行いましょう。
その上で、経営判断としてどのような対応を行うかを検討します。
適性な判断をするためにも、前提となる事実関係の調査は必要不可欠といえます。
2 正当なクレームに対して
調査の結果、当方の落ち度、結果に対して要求内容が相当である場合は、正当なクレームといえますので、真摯に対応すべきです。
当方の落ち度により最も大きな結果が生じる典型的な場面は、顧客にケガを負わせた場面でしょう。
リスクを知る~適正な賠償へ
たとえば、ハサミで傷をつけてしまった、光脱毛で火傷を負わせてしまった場合を想定します。
事業者は、顧客に対してサービス料の返還と共に、治療費、通院交通費、(仕事を休んだ場合)休業損害、慰謝料などを支払う法的義務が発生します。
ただ、いずれも顧客の主張通りの金額が認められるわけではなく、あくまでも加害行為と相当因果関係ある損害に限定されますので、無意味に通院を続けられたり、必要性もなく仕事を休まれた場合には、支払う必要性はありません。
クレーム対応の場面では、落ち度がある場合にどの程度の責任が発生すべきかについては、「評価」が伴います。
この点は、専門家に相談することをお勧めしています。
✍ 参考裁判例
- 美容師によるヘアカットの際、美容師の過失により右耳側部の一部を切り落とされ、右耳介切創の傷害が発生した事件において、被害者(男性)は耳介の一部を欠損し、1年以上経過した現時点でも、右耳の接触痛やしびれ痛が残存し、特にファッション業界で稼働する被害者にとって精神的苦痛であり、男性の耳は髪で一般に隠れるものではないことを考慮し、治療費5,840円、慰謝料200万円、弁護士費用20万円が認められました(東京地判H26.10.10)。
- 美容室において、求めたデザインと異なるカットをされたとして損害賠償を求めた事件で、頭頂部が7㎝ないし8㎝と短く、ウルフレイヤーに近く、トップの長さ17~20㎝とも一致しないことについては、美容契約上の義務違反ないし違法行為に該当するとして、慰謝料30万円、弁護士費用5万円を認めました(東京地判H17.11.16)。
なお、この他にもカラーリングによって頭皮に傷害を負い、そのヘアスタイル等についての後遺障害を負い、そのためキャバクラにおける売上げが低下したことによる損害等も請求していましたが、いずれも棄却されています。 - 痩せたい部位に機器を当て脂肪を冷却して脂肪細胞を破壊するという痩身法である「脂肪冷却」という施術(6回実施)により、2度の凍傷を負ったとして損害賠償を求めた事件。
エステサロンにおける過去の事故から、利用者が脂肪をマイナス10度で1時間冷却する施術により凍傷になる可能性を予見しており、直ちにかかる危険な施術を停止して同様の被害を繰り返さないようにする結果回避義務を負っていたとして、治療費等2万3,576円、、施術料の返還として7万4,800円、慰謝料50万円、弁護士費用5万円を認容しました(東京地判R1.6.6)。 - エステサロンにおいて、フットケアの施術を受けた際、その足に塗布された薬剤により皮膚が炎症を起こすという化学熱傷を負ったなどとして損害賠償を求めた事件。
裁判所は、施術の際、強アルカリ性の薬剤に患部が一定時間接触したため、その刺激により生じた化学熱傷であると認定し、店舗に薬剤の使用方法を誤る過失、及び痛みを訴えた際に水で洗浄することなく、タオルで強く拭き取った事後処理を誤る過失がある判断しました。
治療費2,870円、慰謝料13万円、弁護士費用2万円を認容しました(東京地判H30.6.27)。
【コメント】
上記の裁判例1⃣は、傷害の程度が詳細には分かりませんが、被害部位が見える場所であることと被害者の職業の特殊性から、相場より高額の慰謝料が認定されたケースと考えています。
裁判例2⃣は、キャバクラ嬢のケースであり、ホストの彼氏を連れて、「本人の希望する髪の長さを私が誤ってカットしてしまいました。」、「私が責任を持って本人が納得するまで無料でケア到します。尚、他社でケアした場合の費用も私が責任を持って負担到します。」などと記載した念書を差し入れるなどの対応もさせられています。
店舗としても対応を誤っている印象を否めず、本件のような場合は弁護士などを介入させるべきケースだったと考えます。
裁判例3⃣、4⃣のように、エステにおける裁判例は意外と存在しますが、請求が棄却されているものも多数存在しますので、事実関係の調査が重要になります。
3 不当なクレームに対して
顧客が執拗な謝罪を求める場合や、仮に当方に落ち度がある場合であっても土下座を要求したり、あまりに過大なサービスや金銭の要求をするような場合は、不当なクレームと捉えて問題ありません。
特に落ち度があるような場合に、後ろめたさから過大なサービスや金銭の要求に対して、安易に応じてしまうケースが少なくないように見受けられます。
落ち度があったとしても、過大なサービスや金銭を要求される場合には、毅然と拒否して良いことを押さえましょう。
拒否しても全く問題ないことを知る
不当なクレームに対しては、応じる必要がありません。
謝罪の姿勢を示しつつ、要求には応じられないことを伝えます。
【対応イメージ】
申し訳ありませんが、対応致しかねます。
拒否してもあまりにひどい場合(激昂する、執拗に要求するなど)には、もはや顧客ではなく、業務妨害者であることを理解させます。
顧客が事業者を選ぶのと同様に、事業者も顧客を選ぶ権利があります(取引自由の原則)。
4 経営判断としての対応検討
このクレーム対応の基本要領は、事業者として対応をどうするかにあたり、覚えていただきたい思考手順です。
客商売であっても、不当なクレームに対しては毅然と拒否して全く問題ありません。
(会社の裁量)「顧客サービス」としての対応余地
もっとも、クレーム対応に割かれる時間や労力等の兼ね合いがありますので、事業者が譲歩して、提供サービスの無償化(返金対応)などを行うことも経営判断として十分にあり得ます。
その際の留意点としては、譲歩できる範囲を予めルール化しておき、それを超える対応には応じられないと決めておくことです。
たとえば、強い不満を言われた場合に、サービスの無償化(返金対応)までは許容範囲としておき、それ以上の譲歩は行わない、などが挙げられます。
他に注意すべき点は、従業員に対して、意に反する謝罪を求めてはなりません。
(当該従業員に明白な落ち度がありながら、適切な謝罪すら拒否する場合は除きます)
経営者には、悪質なクレーマーから従業員を守る法律上の義務がある点を覚えておきましょう(安全配慮義務と呼びます)。
✍ 参考裁判例
市立小学校の教諭が児童の保護者から理不尽な言動を受けたことに対し、校長が教諭の言動を一方的に非難し、また、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことについて、不法行為と判断し、小学校を設置する市と教諭の給与を支払う県に損害賠償を支払うよう命じました(甲府地判H30.11.13)。
第3 クレーム対応に弁護士ができること
最後に、クレーム対応において弁護士ができること(提供サービス)をお伝えます。
弁護士は、①法的相談や助言を行うこと、②代理人としてクレーマーとの交渉窓口となること、最悪の場合には③法的手続を活用して終局的な解決を図ることができます。
弁護士の助言は、日常業務は当然として、クレームの初期から最終段階までのあらゆる段階に及びます。
クレームの正当・不当の判断だけでなく、あらゆるクレーム対応について、事業者にとっては常にバックアップを得ることができます。
そして、会社では手に余る場合や通常業務への影響が大きい場合には、弁護士に代理人を委任し、対応の一切を委ねることが可能です。
会社にとっては、通常業務に専念できる環境を作ることができます。
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クレーム対応を弁護士に依頼するメリット第4 当事務所の弁護士の紹介
弁護士 小川 弘義 弁護士 岩﨑 孝太郎
私たちは、常に最善のリーガルサービスを提供できるように、日々研鑽を積んでいます。
クレーム対応は注力している分野であり、高い知見と豊富な経験を有していると自負しています。
第5 Q&A
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クレーマー対応以外にも、顧客に記載してもらう同意書などの書面もチェックしてもらえますか?
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予防法務にもつながるものですので、もちろん対応できます。
提供サービスや顧客にサービスを提供する導線は、各店舗によってカスタマイズする必要がありますので、法的な観点からアドバイスいたします。
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美容業界では、他にどのような法律トラブルが発生しがちでしょうか?
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美容院、ネイルサロン、エステサロンに共通しているのは、従業員がいる場合には労務問題(特に美容院の残業代トラブルは要注意です)、商標(業界的に特に登録している事業者が多いため、積極的な登録を推奨しています)、ネット被害(風評や嫌がらせ)、不動産(賃料や原状回復、使用法などが挙げられます)に関するトラブルが発生しやすいと思います。
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東京から離れた地方に店舗がありますが、対応可能でしょうか?
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Zoomを活用した法律相談を実施しており、全国からのご相談に対応しております。
クレームなどの代理人対応としても、いきなり面談するわけでも、何度も相手方と直接面談するわけでもありませんので、対応困難と思われるケースは少ないと考えています。
ただ、現地に赴く際は交通費のご負担をお願いしていますので、その分は地元の弁護士より割高になってしまいますので、ご了承いただきたいと思います。
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費用の支払い方法は、どのような方法がありますか?
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銀行振込、もしくは現金でのお支払いをお願いしています。
第6 ご相談の流れ
お問い合わせ
ご相談については、予約制となっております。
来所相談だけでなく、Zoom相談も対応しておりますので、全国対応しております。
お問い合わせフォームまたはお電話にてご連絡ください。
相談時に必要なもの
事前に以下のものをご準備いただくと、ご相談がスムーズに進みます。
- 相談内容の要点をまとめていたメモ
- ご相談に関する資料や書類
ご相談(初回相談料:1時間あたり1万1,000円)
法律上の問題点や採り得る手段などを専門家の見地よりお伝えします。
問題解決の見通し、今後の方針、解決までにかかる時間、弁護士費用等をご説明いたします。
※ご相談でお悩みが解決した場合は、ここで終了となります。
ご依頼
当事務所にご依頼いただく場合には、委任契約の内容をご確認いただき、委任契約書にご署名・ご捺印をいただきます。
問題解決へ
事件解決に向けて、必要な手続(和解交渉、調停、裁判)を進めていきます。
示談、調停、和解、判決などにより事件が解決に至れば終了となります。
終了
委任契約書の内容にしたがって、弁護士費用をお支払いいただきます。
お預かりした資料等はお返しいたします。
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