定期借地権の一つである、「事業用定期借地権」について解説します。
事業用定期借地権は、土地の利用用途が事業に限定され、かつ、設定期間が50年以上とする一般定期借地権と比べて短い点(10年以上50年未満)が特徴です。
定期借地権を設定することにより、必ず土地が返ってくる保証を得ながら、土地を有効活用することができます。
それでは、詳しくみていきましょう。
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第1 事業用定期借地権の概要
1 借地借家法に規定されている2つの類型
借地借家法には、設定期間を30年以上50年未満とする事業用定期借地権(借地借家法23条1項)と、設定期間を10年以上30年未満とする事業用定期借地権(同23条2項)があります。
23条1項
前者の場合、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がありません。
同様に、存続期間の満了により契約が終了する場合において、建物買取請求権を行使しない旨を定めることができます。
これらの特約を定めて公正証書にて借地権を設定すれば、借地借家法の強行法規にもかかわらず、特約を有効にすることができます。
23条2項
後者の場合、公正証書により借地借家法23条2項の事業用借地権として設定契約をすれば、法律上当然に更新及び建替えに関する規定(同法3~8条、18条)や建物買取りに関する規定(同法13条)の適用がなくなります。
設定期間と内容の差異
このように事業用定期借地権は、借地借家法23条1項と2項の2つの類型を規定していますが、両者は存続期間と設定契約の内容に差異を見出すことができます。
ただ、その要件や効果はほとんど変わりありません。
事業用定期借地権が制定された当初は、期間は10年以上20年以下のみの規定でした。
長期が20年までとされていたのは、事業用借地権の利用が、郊外型レストランや遊技場など事業計画期間を20年までとする業種に集中していると判断されたからです。
しかし、時代の変化と共に、商業施設、レジャー施設、物流センターなど、計画期間が20年を超えるものの、50年以上までは不要という事業も多くなってきました。
建物の税法上の減価償却期間は20年を超えるものが多く、これに見合った条件で法律も改正され、10年から50年未満の期間とする規定となりました。
第23条
🔗「借地借家法」e-Gov法令
1 専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を30年以上50年未満として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
2 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を10年以上30年未満として借地権を設定する場合には、第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、適用しない。
3 前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。
2 用途(事業専用)の要件
「事業」とは?
「事業」とは、営業よりも広く、公共的・公益的な目的も含みます。
具体例としては、事務所、店舗、工場、倉庫、遊技場、映画館、公会堂、集会室などが挙げられます。
「専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)」との規定にもあるように、一部でも居住の要素(特定人が継続してその建物を占有使用すること)があれば、事業用とは認められません。
たとえば、旅館やホテルは、不特定人を対象としますので事業用といえますが、賃貸マンションの経営は、特定人の居住の用に供されるので事業用建物といえません。
また、事業用の建物の一部に、社員寮や社宅が付いているものも、それが量的にわずかだとしても、事業用の建物とは認められません。
居住要素とはいえない事例
事業用建物に宿直室や守衛室がある場合でも、全体の事業を維持し管理するためであれば、全体として事業用建物として扱われます。
ただ、管理人などの特定の一個人が専ら居住する場合には、事業用建物とはいえないと考えられています。
同様に会員制リゾートマンションも、区分所有者による別荘であれば、事業用建物とはいえません。
しかし、共有持分権付で多数の会員が存在する形態は、事業用建物に該当します。
3 公正証書の要件
事業用定期借地権は、公正証書によって契約締結することが必要不可欠です。
公正証書を作成することで、権利義務を明確化し、定期借地制度の濫用が防止されるものと考えられています。
この点は、他の定期借地権と異なります。
一般定期借地権は、書面であれば公正証書である必要はありませんし、建物譲渡特約付借地権は書面自体が要求されていません。
第2 事業用定期借地権で問題になり得ること
1 用法の変更の問題
事業用建物として契約をしていたけれども、途中から居住用として利用され始めた場合、事業用定期借地権はどうなるのでしょうか。
地主の意思に反する場合
契約目的に反する利用がされているため、地主は債務不履行を根拠として借地権を解除し得ます。
ただ、この場合であっても、信頼関係が破壊された場合でなければ、解除ができない点には留意しましょう。
地主の黙認等がある場合
建物賃借人や借地権付き建物の譲受人等の第三者が関与する可能性を考慮すると、居住用の建物について地主と借地人との間で「事業用」と定めたことだけをもって、事業用定期借地権とはできません。
そのため、事業用定期借地権は無効となり、普通借地権として扱われる場合が多いと思われます(契約の一部無効)。
2 期間の定めに反する場合
期間の定めに反する事業用定期借地権は、無効です。
ただ、公正証書によって成立しますので、現実的には期間の定めに反して無効になることはほぼないと思います。
仮に、実際の利用がすでに始まっている場合には、普通借地権として扱われる場合が多いと思われます。
3 期間の延長
借地契約の期間を延長することも可能です。
新しい契約を設定するわけではありませんので、延長にあたり公正証書は不要です。
ただ、当初の期間から通算して、30年又は50年を超えるような延長は許されません。
当事者が、30年又は50年を超えることを承知しながら、あえて契約の延長を行った場合には、普通借地権として扱われます。
4 中途解約
不況による事業縮小や経営不振等を理由として、借地人が中途で解約を申出る場合も想定できますので、中途解約条項が多くの場合で設定されています。
中途解約される場合、借地上の建物をどうするかの問題が残ります。
原則的には、建物を取壊して更地での返還(原状回復)になりますが、建物を譲渡する特約を結ぶことも可能です。
第3 事業用定期借地権の契約の終了
1 再契約の可否
事業用定期借地権は更新されません。
ただ、当事者間で当初の契約の終了後、再度、事業用定期借地権を設定することは可能です。
再契約といえど、事業用定期借地権を設定することになりますので、公正証書によって契約するなど、当初と同様に法律上の要件を備える必要があります。
2 契約終了時の建物の取得
原則
事業用定期借地権では、建物買取請求権の適用が排除されていますので、借地人は建物を取壊して更地にして土地を返すことが原則です。
当事者の特約
地主が借地人から、建物を買取る特約も有効と考えられています。
借地借家法23条1項は、建物買取請求権(同13条)の規定を排除していますが、当事者間の特約により建物の売買を行うことまでも排除するものではありません。
つまり、事業用定期借地権の契約満了後に建物を買取る特約は、建物買取請求権とは別のものといえます。
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