更新料については、平成23年7月15日に最高裁判例が出され、契約書に明記されていれば、不当に高額過ぎる場合でなければ有効であるとされました。
もっとも、更新料をめぐる紛争は、絶えず発生しており、難しい問題に直面する場面が少なくありません。
また、借地と借家(建物賃貸借)によっても、更新料の考え方は異なります。
この記事では、借家(建物賃貸借)の更新料について、裁判所における考え方を中心に、法定更新された場合や、更新料不払いと契約解除の可否、更新料相場などについて解説します。
借地の更新料については、別記事にて詳しく解説をしていますので、合わせてご覧ください。
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第1 更新料とは
1 更新料とは何か?
建物賃貸借契約書の多くは、「契約期間は2年とする」など期間が定められています。
多くの賃貸借契約では、契約期間が満了した場合でも、賃貸借契約が終了せずに更新されます。
この契約更新の際に、賃借人(借り主)から賃貸人(大家)へ支払われるのが、更新料です。
更新料がどのような趣旨や目的で支払われるのかについては、一般に、賃料の補充、前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと説明されています(最判平23年7月15日)。
2 更新料は支払わないといけない?
更新料は、借り主が大家に対して支払う旨が契約書に規定されていれば、借り主は更新料を支払わなければいけません。
これに対して、契約書の中に更新料に関する規定が一切ない場合には、借り主は更新料の支払義務を負いません。
これは、更新料を支払う慣習が存在しないからと説明されます。
民法や商法において、金銭の支払い義務などの法的な権利や義務は、当事者間での具体的な合意(契約書の記載など)がなくても、「慣習」があれば、法律上の義務が発生するとされています(民法92条)。
確かに、賃貸借契約において更新料の支払いがなされている場合は少なくありませんので、更新料の支払いが「慣習」に当たるとすると、「慣習」として更新料の支払義務が認められることになります。
もっとも、最高裁は、更新料の支払いがなされている事実は存在するものの、「慣習」といえるほどは成熟していないとして、更新料の支払義務を否定しました(最判昭51年10月1日)。
更新料は、法律に規定されていません。
また、慣習といえるほどの定着はされていないと判断されています。
そのため、更新料の支払義務が生じるのは、契約書に規定された場合に限られることになります。
3 更新料の注意点
契約が更新される際に支払われるのが更新料であるため、契約が更新されなければ、更新料は生じません。
逆に、更新されれば、たとえ更新後に短期間で契約が終了したとしても更新料は生じます。
更新後、期間経過後に更新料を請求した場合は?
期間満了の際に更新料を請求することなく、時間が経過した後にはじめて更新料を請求するような場合には、信義則や権利濫用などによって更新料の請求が否定されることがあります(東京地判平25年2月4日)。
また、更新料請求権も、更新時を起点として消滅時効にかかりますので、賃貸人(大家)としては、適切に請求を行わないといけません。
4 (参考)更新手数料とは?
更新料と似ているものとして、「更新手数料」があります。
更新に際して、契約更新の事務を行うために必要となるもので、賃貸借契約に関与する不動産業者が請求します。
賃貸人・賃借人の契約書の書換え、両当事者の署名・押印などの手続を行う対価としてかかるもので、賃料の0.5ヵ月~1ヵ月が一般的です。
裁判例においては、借り主から貸し主(大家)に対する賃料の0.5ヵ月分の更新事務手数料の支払い義務が肯定されています(東京地判令3年1月21日)。
第2 法定更新の場合の更新料支払義務について
1 概観 ~ 裁判例は分かれている
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契約書に自動更新条項がなく、本来なら当事者間の合意の上で更新することが予定されていたのに更新合意がなされずに、法定更新された場合に、借り主は契約書上の更新料の定めに従って更新料を支払う義務を負うのでしょうか。
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更新料特約の内容によります。
更新料特約が、法定更新の場合にも更新料を支払うと定められている場合、特約の効力として支払義務があります。
特約に法定更新の場合が明示されていない場合、契約書の文言や当事者の意思などを合理的に解釈して判断されますが、裁判例の判断は分かれているのが現状です。
2 裁判例の概観
肯定した裁判例
- 更新料条項をみても、更新料の支払義務を合意更新の場合に限る旨を読み取ることはできず、かえって「更新の場合」との文言からは、合意更新と法定更新とを問わない趣旨で条項を定めたことがうかがわれる(東京地判平27年12月25日)
- 賃借人が賃借を継続する限り、更新の原因がいずれであるかを問わずこれを支払うべきものとしても、賃借人に不利益であるとはいえず、むしろ、賃借人が更新の協議に応じない間に期間が満了して法定更新された場合には更新料の支払を免れるとすれば、かえって公平を害する(東京地判昭57年10月20日)
- 本件賃貸借契約には、「更新される場合」に更新料を支払うものとする旨が定められているところ、「更新される場合」との文言が、法定更新がされた場合をあえて除外するものと見ることはできない(東京地判令3年7月29日)
否定した裁判例
- 更新料の支払を約する条項は、賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、賃借人の義務を加重するものである(東京地判平25年10月21日)
- 「合意により本契約を更新することができ、この場合、更新料は更新後の賃料の1か月分とする」との文言からは、合意による更新の場合にのみ更新料支払義務が発生するものと解される。このような解釈は、合意による更新の場合には期間が2年間とされるのに対し、法定更新の場合には期間の定めのない契約となることに照らしても、一定の合理性を有する(東京地判平29年11月28日)
- 「合意更新・法定更新にかかわらず本契約が存続する限り・・・」とあるように、本契約の契約書においても合意更新と法定更新の区別は意識されていたのであるにもかかわらず、更新料については、「協議の上、本契約を更新することができる。」と敢えてこのような書きぶりしかしていないのであるから、「更新」に漫然と法定更新を含める趣旨であったとは、にわかに解しがたい(東京地判平30年1月30日)
このような争いを未然に防止するためには、契約書に法定更新の場合についても規定しておくことが大切です。
4 自動更新の場合の更新料支払義務について
契約書に自動更新条項(期間満了に際して明示的な意思の合致がなくても、自動的に更新される旨の定め)が置かれることも多くあります。
自動更新条項に基づく更新の場合は、法定更新とは異なりますので、法定更新の場合の議論は当てはまりません。
自動更新条項の場合は、一定の期間までに当事者の少なくとも一方から更新しない旨の通知がされない場合にも、契約は更新されること、及び、その規定により賃貸借契約が更新された場合には、賃借人は所定の額の更新料を支払う内容が規定されている場合には、更新料の支払義務は認められます。
第3 更新料の不払いによる債務不履行解除の可否
1 基本的な考え方(解除肯定)
更新料の支払義務が契約書で明確に定められていた場合に、借り主が更新料を支払わなかったら、貸し主(大家)は賃貸借契約を解除することができるでしょうか?
他の債務不履行に基づく解除と同様に、信頼関係の破壊によって解除の可否は判断されます。
つまり、更新料の不払いが信頼関係を破壊するものであれば、解除は肯定されます。
具体的には、賃料の1ヵ月分の更新料不払いだけを理由とする解除は、いくつもの裁判例で効力が否定されています。
賃料滞納による解除の場合と同様に、3ヵ月分の賃料滞納が1つの目安ではあるものの、絶対的な基準ではなく、個々の具体的な事情も考慮されて、信頼関係が破壊されたかどうかが判断されます。
更新料の不払いについても、債務不履行の原因となり、信頼関係が破壊される程度に達すれば、解除できることになります。
2 更新料不払いにより解除した裁判例
事案の概要
原告(賃貸人)が、被告(賃借人)に対し、建物賃貸借契約の解除による、建物の明渡し及び未払更新料の支払いを求めた事案です。
賃貸借契約を更新しましたが、被告(賃借人)は更新料を支払わず、また、賃料等の保証人をつけるよう原告(賃貸人)より要請されましたが、被告(賃借人)は対応しませんでした。
第2回の更新時期に先立って、何度も原告(賃貸人)は被告(賃借人)に対して、更新料の支払いと保証委託手続を求めましたが、被告(賃借人)は対応しませんでした。
判決の要旨
第1回更新料については口頭弁論終結時までの2年9ヵ月間、第2回更新料については9ヵ月間、その支払義務を履行していない。
今後,、被告において、原告に対し本件更新料を任意に支払うことは期待できず、本件更新料の不払の問題を原被告間の協議に委ねたとしても自主的な解決は期待できないものといわざるを得ない。
以上のように、本件更新料の不払の期間が相当長期に及んでおり、不払の額も少額ではないこと、被告が合理的な理由なく本件更新料の不払をしており、今後も当該不払が任意に解消される見込みは低く、原告・被告間の協議でその解消を図ることも期待できないことなどに照らすと、本件更新料の不払は賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足る程度の著しい背信行為であるということができる。
この裁判例は、信頼破壊の内容として、賃借人の不退去により警察沙汰になった事実や、恫喝した事実なども含めて判断をしています。
もっとも、更新料の不払いが解除事由になると判断した判例(借地契約の最高裁)を引用して判断を下しており、建物賃貸借契約においても更新料の不払いが解除事由になることを前提として判断をした点に特徴があります。
第4 更新料の金額相場と有効性について
1 更新料規定の有効性について
更新料は、法律に定められていないもので、当事者間の合意によって請求が正当化されるものです。
もっとも、消費者契約法の適用がある借家契約において、更新料を徴収することについては、その金額にかかわらず、借り主の利益を不当に侵害するものとして、消費者契約法10条の規定に反して無効なのではないかという議論があり、多くの裁判でその有効性が争われてきました。
最高裁(最判平23年7月15日)は、更新料条項は、借り主に対して民法や借地借家法などの規定にはない義務を加重するものであることを認めつつも、契約書に一義的かつ具体的に記載されて当事者が合意している以上、更新料の額が高額過ぎるなど特段の事情がない限り、消費者契約法10条に違反しないと判断しました。
✍ 更新料を有効とした最高裁(最判平23年7月15日)
【賃貸借契約の概要】
京都のマンションの一室について、契約期間1年、賃料月額3万8,000円、更新料を2ヵ月分とし、法定更新か合意更新かにかかわりなく1年経過するごとに更新料として賃料の2ヵ月分を支払うこと、及び貸し主(大家)は入居期間にかかわりなく、更新料の返還、精算等に応じないとしていました。
【裁判所の判断の骨子】
▶ 更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する
▶ 更新料条項が賃貸借契約書一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない
▶ 更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法に違反しない
2 更新料の金額が許容される範囲とは?
上記の最高裁では、更新料が1年ごとに月額賃料の2倍の7万6,000円という、地域の相場(月額賃料の1ヵ月分)よりも高額かつ、支払いの頻度も高いという事案ですが、有効と判断しました。
そうすると、一般的に多く見られる2年に1度の頻度で2ヵ月分程度の更新料を請求する分には、有効性が否定される可能性は極めて低いと言えそうです。
更新料条項の有効性は、更新料があまりに高額であるかどうかがポイントになります。
高額に過ぎるかどうかは、賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし総合的に判断されることになります。
最高裁のケースは、なかなか関東では見られない高額さで、京都という地域性を感じさせるものではあります。
もっとも、建物の保全の観点から、短期間での賃借人の交代を促し、清掃・補修を行いたい賃貸人の意向もあるでしょうし、一方で毎月の賃料負担を少なくしたり、短期間で退去予定の賃借人のニーズもあることから、更新料だけを取り上げて有効か無効かの判断をするのは難しい面があります。
頻度高く高額な更新料を徴収する物件は、競争力の弱い物件ともいえますので、賃料の定め方も含めて、法律的な関与を強くすることなく市場に任せるというあり方自体は、肯定的に捉えて良いものと考えています。
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第5 不動産賃貸借のトラブルを弁護士に相談
1 不動産の問題は専門性の高い弁護士へ
建物賃貸借の更新料は、その有効性を巡り様々な議論がなされ、最高裁の判断が示された時はニュースでもたびたび取り上げられました。
現在では、最高裁の判断が示され、有効性を巡る議論にも一応の決着がついたことで、沈静化している状況です。
更新料は、地域性も強く(最高裁の事案は京都)、全国的には更新料の定めが置かれているのは半数にも満たない状況のようです(国土交通省市場調査)。
この記事でも解説しましたように、更新料の争いのほとんどは、契約書の定めにより未然に防げるものばかりです。
無用な争いを生まないためにも、契約前に賃貸人・賃借人の双方ともに確認をしておきましょう。
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