誰しも、子どもが生まれたり、子育てが終わったり、自身が介護が必要になったりと、ライフステージの変化によって、住まいを変えたいと思う場面があるでしょう。

そのような場面で持ち家を売りたいと思った時、借地権付きの建物を所有して居住している場合には、家(借地権及び建物)を売るにも、地主の承諾が必要となります。

老人ホームへの入所を考えている借地人が、借地権付の自宅建物を売りたいと考えているのに、地主が承諾をしてくれないので、悩んでいるイラスト。
借地人のお悩み

地主が承諾をしてくれない場合には、借地人はどうすべきでしょうか。

この問題を解決してくれるのが、借地非訟という裁判手続きになります。

仮に、地主が承諾をしてくれないまま、どうしても売りたいからと譲渡を強行してしまうと、地主から債務不履行による解除を主張され、貴重な財産である借地権を失ってしまう恐れがあります。

このように、借地権を第三者に譲渡したい、又は転貸をしたい場合に地主が承諾をしてくれないときに、裁判所が一定の費用と引き換えに許可をしてくれる制度が、賃借権譲渡・転貸許可申立事件(借地非訟)となります。

借地人が譲受人である第三者に対して建物(借地権)を譲渡しようとするが、地主が認めないと承諾しない図。
借地人の建物譲渡(借地権)を地主が認めない
下向きの矢印
第三者たる譲受人に借地権(建物所有権)の譲渡が認められないために、困った借地人は裁判所に借地非訟の申立てを行っている図。
借地人は裁判所に、地主の許可に代わる裁判を求めて申立てます
弁護士 岩崎孝太郎

この記事では、借地非訟手続における、賃借権譲渡・転貸許可申立事件について詳しく解説します。

借地権の譲渡を強行すれば、信頼関係を破壊したかどうかによって、債務不履行解除が認められるか否かが争われます。

しかし、この争いは貴重な財産である借地権が失われるかどうかが争われるもので、借地人にとって非常にリスクが大きい選択と言わざるを得ません。

そこで、承諾料等の経済的な対価を支払いつつも、借地権の譲渡をソフトランディングさせる制度が、この借地非訟手続(賃借権譲渡・転貸許可申立事件)です。

借地権の譲渡全般については、別記事でも解説をしていますので、合わせてお読みいただけましたら幸いです。

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第1 賃借権譲渡・転貸許可申立事件が規定された理由

賃借人は、賃貸人の承諾を得ずに賃借権の譲渡・転貸をすることができないと規定されています(民法612条)。

これに違反した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。

もっとも、賃借人にとっては、土地を借りることの必要性がなくなっているにもかかわらず、第三者に売ることもできないのでは、あまりに不都合な制度といえます。

一方、賃貸人にとってみても、賃借人の変更が必ずしも賃貸人に不利になるとはいえず、いかなる場合にも拒否できるとすることは、あまりに不合理と言えそうです。

そこで、賃貸人(地主)の不利益にも配慮しながら、賃借人(借地人)の所有する建物の処分の必要性を認めて、その処分の自由を実質的に保障しようとしたのが、賃借権譲渡・転貸許可申立事件(借地借家法19条)です。

民法612条に規定されているように、原則的には地主の承諾ない譲渡・転貸は不可だが、賃借人の譲渡を認める必要性があることから、修正として、賃借人の処分の自由を保障したものといえる。

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第612条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

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(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第19条 第1項

借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

🔗e-Gov法令検索「借地借家法」

第2 賃借権譲渡・転貸許可申立へ

1 当事者 ~ 誰が申立てるか

借地上の建物を譲渡しようとする場合に申立てる制度ですので、借地上の建物の所有者である借地人が申立てるのが原則です。

しかし、実際には借地人の近親者が建物を所有している場合や、借地人が代表者を務める法人が建物を所有している場合があります。

そのような場合には、借地人と建物所有者とが当事者である資格を分有しているものと考えて、借地人と建物所有者の両方が共同して申立てるべきとされています。

建物の譲受人(購入者)は申立てができるか?

たとえば、借地人と建物を譲渡(売買)する契約をしたにもかかわらず、借地人が借地権の譲渡について地主の承諾を得ようとしてくれない場合、譲受人(買受人)は借地人に代わって賃借権譲渡許可の申立てをすることができるでしょうか。

この問題については、申立人を借地人に限定している条文とそぐわないことや、地主が介入権を行使した際に現在の所有者である借地人が蚊帳の外にいる事態になってしまうことなどから、受人は申立てをすることができないとされています。

譲受人は、借地権の譲渡を受けられない場合には、借地人に対して債務不履行責任を追及できます。

借地人に対して、この債務不履行責任が発生することを説明して、申立てを行うよう促すことが、最善の選択肢といえそうです。

2 借地権の争いや内容など

借地の一部についての申立て

借地の内、一部についての申立てもできると考えられています。

但し、借地が分割されることによって不利益を受けるのは地主です。

そのため、地主に対して不利益を与えないかどうかを判断する必要から、申立書において譲渡をする借地の一部分を明らかにする他、その位置・建物との関係等を図面により明らかにする必要があります。

借地権の存在自体に争いがある場合

借地権の存在が認められない場合には、申立ては不適法却下されます。

借地権の存否に争いがあり、裁判で争っている場合でも、裁判所は借地非訟手続においてその存否を審理した上で、借地非訟事件の手続を進めることができます。

もっとも、借地非訟事件の判断は、裁判と矛盾する場合には効力が否定され、借地非訟事件の決定は効力を失います。

そのため、裁判で争っている場合には、裁判が終わるまで借地非訟事件の手続が中断されることが多いです。

借地権の種類

一時使用目的の借地権定期借地権なども、約定の期間が満了することで借地権が確定的に消滅することが普通借地権と異なるだけですので、申立てをすることができます。

なお、実際には一時使用目的の借地権は残存期間の短さがあり、また建物譲渡特約付借地権は譲渡特約を譲受人に承継させられるかの問題もあり、申立てが認められるかはまた別のハードルがあります。

3 申立ての時期

賃借権譲渡許可の申立ては、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡する前にしなければいけません。

紛争予防という趣旨や、また条文が「建物を第三者に譲渡しようとする場合において」としている文言から、譲渡「前」であることが必要とされています。

そのため、建物を譲渡した「」にされた場合には、申立ては不適法として却下されます。

なお、民法上は、契約成立時点で所有権が移転するとされますが、実務上は賃借権譲渡許可の裁判を効力発生条件とする所有権の移転時期の特約が付されているのが一般的です。

4 借地上の建物は必要?

賃借権譲渡許可の申立ては、土地賃借権自体の処分の自由を認めたものではなく、建物の譲渡に伴っての土地賃借権の処分に限ってその自由が認められたものです。

そのため、土地が更地の状態にあるときや、建物とはいえない工作物テレビ塔ガスタンク等)が存在するにすぎないときは、申立てをすることができません。

建物の譲渡が伴わない賃借権だけの譲渡が申立て対象となっていないのは、この制度の趣旨が、借地人の投下資本の回収を可能にするものであることが挙げられます。

申立てた後に建物が滅失した場合は?

審理の途中で建物が火災等によって滅失した場合は、申立ての適法用件を欠いたものとして、却下されます。

また、譲渡を許可する裁判が確定した後、譲渡前に建物が滅失した場合には、建物の滅失によって許可の裁判は当然失効すると考えられ、再度賃借権譲渡許可の申立てをする必要があります。

5 譲渡のポイント

賃借権譲渡許可の申立ては、特定の建物譲受人に対する譲渡が対象になります。

そのため、申立ての時点において、建物の譲受予定者が特定されている必要があります。

誰に建物を譲渡するのか明らかにしないで、抽象的な賃借権の譲渡について承諾に代わる許可の申立てをすることは、不適法として却下されます。

譲渡許可の裁判に時間を要することもあり、建物譲受予定者の変更も申立ての変更の一つとして認められています。

弁護士 岩崎孝太郎

建物譲受人(買受人)が決まらないと申立てをすることができない点は、申立ての障害となることが多いです。

そして、譲渡許可の申立てを行う場合、期間として1年程度は見積もっておいた方がよいでしょう。

そうすると、買受時期が不安定な売買を待ってくれるエンドユーザーは皆無で、ほとんどのケースで建物譲受人は借地権物件を取り扱う業者となってしまい、どうしても売却価格が抑えられてしまう弱点があります。

借地権建物を売却する際に地主の承諾を得られない場合の、最大のリスクといえます。

「譲渡」に該当するか?

建物の譲渡は、建物の所有権を移転することを意味しますので、売買などの有償の場合だけでなく、贈与などの無償であっても「譲渡」に該当します。

また、時効取得や相続は、当事者の意思とは無関係のため、「譲渡」に該当しません。

そのため、時効取得や相続によって借地上の建物の所有権を手にした場合は、「譲渡」に該当せず、地主の承諾も不要です。

なお、同じ包括承継であっても、包括遺贈や会社の合併や分割は、借地人の意思に基づいて建物所有者を替える行為ですので、建物の「譲渡」に該当します。

時効取得や相続は、譲渡に該当しない。
一方、包括遺贈、会社の合併、分割は、譲渡に該当します。

6 地主の承諾の有無を争う場合

借地人が承諾の存在を主張する一方、地主が承諾はないと主張している場合が想定できます。

借地人

借地権を譲渡することについて、承諾してもらったはずです。

地主

そんな承諾はしていません。第三者に譲渡することは認めません。

このような場合は、承諾がないと認定できる場合が多いと思われます。

そのため、承諾の有無について争いがある場合にも、賃借権譲渡・転貸許可申立事件を活用でき得ます。

もっとも、借地非訟事件の手続内で地主の承諾の存否が明らかにならない場合には、承諾の存在又は不存在を前提とする民事訴訟を提起することを促し、その結果を待って借地非訟事件の手続を進めることも考えられます。

7 他の申立てとの関係

借地権譲渡許可の申立てがされる事案では、譲受予定者が建物をそのまま使用するのではなく、居住用だったものを店舗として利用したり、増改築を施して利用しようと意図している場合があります。

譲受人

借地権を譲受けたら、用途を変更したり、建物を再築して利用したいと思っています。

譲受予定者が借地条件の変更や増改築を予定している場合には、まずは借地人が賃借権譲渡の許可の申立てを行って、それが認容されて賃借権の譲渡がされた後に、譲受人が借地条件の変更や増改築の許可の申立てをするのが原則です。

ただ、方法として二度も申立てをする必要があり、手続きとして迂遠です。

そこで譲受予定者において、借地条件の変更や増改築を予定している場合には、賃借権譲渡の許可と借地条件や増改築の許可の申立てを同時に行うことが認められています。

この同時申立てのメリットは、手続経済上合理的なことだけでなく、申立人にとって片手落ちになるリスクを回避できる点が挙げられます。

つまり、双方の申立てを一体としてのみ許可を求めている場合に、いずれか一方のみが却下や棄却がされるときは、双方の申立てともに却下又は棄却されます。

介入権の申立てがされた場合

地主が介入権の申立てをした場合には、原則として介入権の申立てのみについて審理・裁判されます。

なぜならば、申立人としては、賃借権譲渡許可の申立てと同時に申立てられた他の申立ては、介入権の申立てがされないことを条件とする趣旨と理解されるからです。

そのため、介入権の申立てがされた場合には、他の申立てについて裁判をする必要はなくなります。

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第3 裁判ではどのような点が審理されるか?

1 ポイント:地主に不利となる恐れがないこと

譲受予定者について、地主に不利となる恐れがある場合には、譲渡が認められません。

地主に不利となる恐れの判断は、経済的信用、社会的・人的信用が問われます。

経済的信用とは、賃料の支払い能力が見られ、これに対して、社会的・人的信用とは信頼関係の維持が見られます。

経済的信用

地主は、賃料を確実に支払うことができるのかについて、強い利害と関心を有していることでしょうから、賃料の支払能力についての経済的信用が求められます。

もっとも、譲受人は、借地権付き建物を購入する資力を有していることから、現実的に経済的信用が問題となるケースは僅少です。

社会的・人的信用

一般社会通念に照らして信頼関係の維持が困難であると客観的に判断し得る場合には、社会的・人的信用が問題となります。

具体的には、譲受予定者がいわゆる暴力団等の反社会的勢力に属し社会的信用を著しく欠く者である場合や、風俗営業や騒音・振動・悪臭を伴う営業をしようとしている者である場合等が考えられます。

社会的・人的信用が否定された裁判例として、以下のようなものがあります。

  • 競売により土地賃借権を譲受けた者の夫が暴力団の幹部で不動産侵奪罪の疑いで逮捕されたことがある事案(名古屋地裁昭43年11月28日決定)
  • 譲受予定者が地主や地主の姉を刑事告訴するなど、従前から悪感情を抱く事情があった事案(福岡地裁大牟田支部昭43年9月26日決定)
  • 譲受予定者が以前にも地主の土地を不法占拠したことがあり、信頼関係を維持することが期待できないとされた事案(東京地裁昭51年9月24決定)

2 マンションを建築しようとする場合

借地権付きの分譲マンションは、1個の借地権についての持分を多数の区分所有者に対して分割譲渡することとなります。

これが認められてしまうと、地主は多数の借地人を相手にしなければならず、管理の煩雑さは一時いものといえます。

そのため、地主がマンション建築を承諾していた場合を除いて、地主に不利となるおそれがあるため、基本的には認められません。

3 諸事情の考慮

借地契約の残存期間について、残りが2~3年である場合は、他の類型の申立てと同様に、更新の可能性を考慮して申立ての許否が判断されることになります。

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親族等の事情

借地権契約を設定する事情に、「地主と借地人が親戚だから」など、特殊な関係があるために賃料が安く設定されているケースなどがあります。

このような場合には、特に地主が「その借地人に限って貸す」ということが、当事者間で了解されていることが多いでしょう。

この特殊事情をどこまで考慮するかが問題となりますが、地主があくまでも他人には貸したくないという場合には、自ら介入権を行使すれば足りる話ともいえますので、借地権の譲渡を許可する方向で検討がなされることが多いでしょう。

第4 付随処分について

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第19条 第1項

借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

🔗e-Gov法令検索「借地借家法」

1 賃借権譲渡・転貸許可の裁判における付随処分

裁判の許可を財産上の給付に係らしめるとは、借地人から金銭支払いと引き換えを条件とする意味です。

借地権の譲渡や転貸は、譲受人・転借人という相手のあることのため、相手の翻意などにより譲渡や転貸が実現されないこともあるので、その成否が未了のまま、金銭の支払い(財産上の給付)だけが強制されることがないようにされています。

2 財産上の給付に係らしめる意義とは?

譲渡や転貸が地主に不利となる恐れがある場合には、そもそも許可の要件を満たしませんので、譲渡等の許可がされる場合は、地主に経済的又は社会的・人的信用欠如による不利益の発生は想定されていません。

それにもかかわらず、譲渡許可がなされる場合には、借地権価格の10%相当額を基準とした財産上の給付が決定されています。

この理由については様々な見解があり、借地人の譲渡による売却益の一部を地主に還元することが衡平に適うとするものや、譲渡性のある賃借権はないものと比べて価格が上がる点を根拠にするもの、名義書換料として存在していた慣行を法制化されたとするもの、などがあります。

現在の運用は、理論的根拠に言及することなく、借地権価格の10%相当額を基準として決定されており、ほぼ定着しているものといえます。

3 10%基準と異なる扱いがされる場合とは?

借地権価格の10%基準があるものの、そもそも譲渡許可の申立てをしなくても背信性が低く、契約を解除される恐れが低い類型については、財産上の給付も低く決定されることが多いです。

譲受人が推定相続人である場合

譲受人が推定相続人である場合には、相続が発生した場合には無償で借地権を取得する可能性が高いといえます。

この場合、相続等によって無償で借地権を取得する見込みの有無、程度、具体性(申立人の年齢、意向、推定相続人の数、申立人や譲受予定者と他の推定相続人との関係等)が考慮されます。

【裁判例の紹介】

高齢の親が同居の子に譲渡した事例8%(東京地決平19.9.27)
(但し、介入権の行使を裁量棄却した事情も考慮された)
母親が同居を企図して子に譲渡した事例3%(東京地決平25.3.22)
借地上の建物に抵当権を設定する際に建物を連帯債務者である推定相続人との共有にすることを求められたことから、推定相続人へ転貸1.7%(東京地決平11.11.15)
借地人が先に亡くなった弟の妻に対して包括遺贈した事例3%(東京地決平23.6.13)
(仮に弟が生存していればいずれ譲受予定者となり相続によって無償取得し得たことが考慮された)

譲受予定者が近親者で、譲渡の前後で使用収益に変化がない場合

申立人と譲受予定者が近親者で、譲渡の前後で土地の使用収益の実態に変化が生じない場合には、賃借権譲渡の背信性が低く、借地人が無断譲渡しても地主は債務不履行解除できる可能性が低いことが挙げられます。

【裁判例の紹介】

子から親への譲渡の事例6.7%(大阪地決平23.7.5)
子が同居の母へ譲渡した事例7%(東京地決平25.7.4)
長年営んできた事業の後継者で我が子同然に扱ってきた血縁上の甥に包括遺贈した事例2%(東京地決平13.10.24)
賃借権の準共有者の一方が他方に持分を譲渡した事例5%(東京高決平10.9.18)
(過去に高額の譲渡承諾料を支払っていることも考慮された)

譲渡が連続している場合

単に連続して譲渡が行われているだけでは、減額すべき事情とは言えません。

もっとも、時間的間隔が非常に短い場合には、両譲渡間に生じる借地権価格や賃料の上昇等の地主に配分すべき利益の増分が乏しいことを理由に、減額した事例があります。

裁判例では、転売目的でホテル用の建物及び賃借権を競売にて取得し、その際に10%の承諾料を支払った借地人が約4か月後にホテル等の経営を目的とする会社に譲渡した事例があります(5%:東京地決平16.10.5)。

4 基準となる「借地権価格」とは?

「借地権価格」とは、適正な市場価格をいいます。

具体的には、借地の更地価格に、借地権割合(取引事例や相続税路線価等によって決められた借地権割合)を乗じて算出されることが一般的です。

借地権価格 = 更地価格 × 借地権割合

借地人の事情を考慮すべきか?

借地人より、譲渡予定価格の10%基準の主張がなされることがあっても、あくまでも譲渡予定価格は考慮すべき一資料にすぎないと考えられています。

なぜならば、借地人の売買交渉などの事情によって、地主の受け取るべき給付額が低額となってしまうのは不当と思料されるからです。

同様に、借地上の建物が賃貸されていたとしても、借地権価格から借家権価格を差引いた額は基準となりません。

借地上の建物を賃貸するかどうかは借地人の事情によるもので、地主には関係ないことだからです。

借地条件の変更が伴う場合

借地条件変更の申立てと賃借権譲渡許可の申立てが併合して審理される場合、借地条件変更がされることを前提として賃借権譲渡許可の財産上の給付額は算定されます。

つまり、原則として、借地条件変更後の借地権価格が基準となります。

なお、競公売に伴う賃借権譲渡許可申立事件は、借地条件変更申立てがあっても、従前の借地条件を前提とした借地権価格を基準として算定されます。

なぜなら、借地権の譲受人が従前の借地条件を内容とする借地権を譲り受けることについて許可を受けることを求める制度であるためです。

5 借地条件の変更など

存続期間の延長

存続期間の延長を付随処分を行うことは、地主に不利益となり、当事者間の衡平を図るものとはいえないため、現在は存続期間の延長の付随処分はなされません。

賃料の改定

借地条件の変更や増改築許可、更新後の建物再築許可の各申立事件においては、借地の利用効率の増大を根拠として賃料の増額改定がなされることが多くあります。

もっとも、賃借権の譲渡・転貸では、借地の利用形態に変更はありませんので、許可の裁判と賃料の改定は論理的に結びつきません。

そのため、従来の賃料が不相当である場合など、これを補正することが必要とみられる場合などに、賃料改定の付随処分がなされています。

敷金の交付

競公売に伴う賃借権譲受許可の裁判の場合には、旧賃借人が交付していた敷金の額、第三者の経済的信用、敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で、借地借家法20条1項後段の付随的処分の1つとして、当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め、第三者に対してその交付を命ずることができるものと解するのが相当とされています(最決平13.11.2)。

そのため、敷金の交付の付随処分は、地主からの希望の有無、事案の内容及び鑑定委員会の意見を踏まえ、判断されることになります。

これに対して、借地借家法19条に基づく一般的な形態の賃借権譲渡許可については、譲受予定者は譲渡許可の裁判の当事者ではないことから、裁判所が譲受予定者に敷金の交付を命じる付随的裁判をすることはできないと考えられています。

第5 借地権の譲渡許可を申立てる

1 申立書式・必要書類は?

借地非訟の手続は、各類型の申立書のひな形が裁判所のホームページに掲載されています。

そのため、基本的には弁護士もこのひな形を活用して、申立てを行います。

【参考】🔗「借地非訟事件(書式例)」(東京地裁ホームページ)

2 主文例

最後に、賃借権譲渡を認容する裁判の主文例を紹介します。

「申立人が、この裁判確定の日から3か月以内に、相手方に対し、〇〇円を支払うことを条件として、申立人が、別紙土地目録記載の土地についての賃借権を〇〇に譲渡することを許可する。」

3 費用(申立手数料)について

申立手数料は、借地部分(土地)の固定資産評価額の半分となる「目的物の基礎となる価格」を算定し、以下の表を基準にして算定されます。

ただ、実際にはもっと細かいため、申立書に手数料の収入印紙は貼付けをせず、後で裁判所による正確な計算を待ってから納付します。

目的物の基礎となる価格手数料
500万円12,000円
1000万円20,000円
1500万円26,000円
2000万円32,000円
2500万円38,000円
3000万円44,000円
3500万円50,000円
4000万円56,000円
一部を抜粋しました

この他に、郵券(郵便切手代)として、4500円が必要になります。

【参考】🔗「第3 費用」(東京地裁HP)

第6 借地権の譲渡の問題を弁護士に相談する

1 借地権に強い弁護士に相談する

弁護士 岩崎孝太郎

借地非訟事件の類型の中でも、最も申立件数が多いのが、この賃借権譲渡・転貸許可申立事件になります。

譲渡が認められなければ、借地人は建物建築という投下資本の回収手段が確保されず、借地権の流通が著しく阻害されてしまいますので、基本的には許可がされる方向で審理は進んでいきます。

譲渡許可の申立てを行う借地人の視点からすると、申立ての前段階として譲受人予定者を見つける苦労があります。

そして、せっかく譲受予定者を見つけて売買契約を締結したにもかかわらず、地主に介入権を行使されて、譲受予定者に借地権を譲渡させることができなかったというケースは数多く存在します。

借地人からすると、不動産業者、弁護士、譲受予定者と歩調を揃えながら進めていく必要があります。

地主からは、更地を取戻せる千載一遇のチャンスですので、基本的には介入権を行使する方向で検討することが多いでしょう。

いずれの立場であっても、借地権に詳しい不動産業者、弁護士に相談の上、具体的な見通しを持ちながら手続を進めていくことで、その過程において最善の選択ができるものと考えます。

2 当事務所へのお問合せ

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