当初は、個人事業主として土地を借りて事業を始めたけれど、事業が軌道に乗り法人化する場合、個人事業主と新設会社とで形式的には賃借人が交代することになります。

この場合、「借地権の譲渡」として扱われて、地主の承諾が必要なのでしょうか?

借地人が法人成りしたり、法人の役員gが入れ替わった場合には、地主の承諾が必要ですか?と疑問に思う借地人のイラスト。

似たような問題として、小規模閉鎖会社(例:家族経営の会社)において実質的経営者が交代した場合には、賃借人は法人で変更ありませんが、実際の土地利用者が様変わりしますので、「借地権の譲渡」に該当しないでしょうか?

確かに、借地権を譲渡する場合には、地主の承諾が必要となり、承諾を得ない譲渡は借地権が解除されるのが原則です(民法612条)。

もっとも、裁判所は、無断譲渡があった場合に常に解除を認める姿勢を採っておらず、背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には解除権が発生しないとして、解除事由を制限しています。

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借地権の譲渡と地主の承諾について

今回の事例のような法人成りをした場合や、法人の経営者が交代した場合(家族経営の小規模閉鎖会社を含みます)のいずれにおいても、地主の承諾がなかったとしても、地主は借地権の解除を行うことはできないと考えられています。

借地権と法人成りや法人における経営者の交代について、土地所有者(地主)の承諾は基本的には不要です。

より詳しく説明していきます。

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第1 法人成りの場合

1 リーディングケース(最判昭39年11月19日)

事案の概要

借地人が、個人事業主としてミシン販売業を営んでいましたが、会社組織を設立し(いわゆる法人成り)、会社名義にて、地主の承諾なく賃借家屋を使用していました。

この判例において、地主からの借地権の解除(土地賃貸借契約の解除)を認めませんでした。

判旨(🔗「裁判例結果詳細」裁判所HP

賃借家屋を使用してミシン販売の個人営業をしていた賃借人が、税金対策のため、これを株式会社組織にしたが、その株主は賃借人の家族や親族の名を借りたにすぎず、実際の出資はすべて賃借人がなし、該会社の実権はすべて賃借人が掌握し、その営業、従業員、店舗の使用状況等も個人営業の時と実質的になんら変更がない等判示事実関係のもとにおいては、賃貸人の承諾なくして賃借家屋を右会社に使用させていても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるから、賃貸人に民法第612条による解除権が発生しない。

2 判例の判断とポイント

この判例の後も、最高裁は賃借人個人が法人成りしたケースにおいて、地主の解除権を否定する判決を出しています(最判昭43年9月17日)。

このように、裁判所のスタンスは、個人の賃借人が法人成りした場合において、借地権の解除事由とは基本的に考えていないことがうかがえます。

法人成りにおけるポイントは、法人成りによって賃借人に実質的な変更がないという点が挙げられます。

法人成りの前後を通して使用態様にほぼ変更がないのに、法形式が個人から法人になっただけで借地権が債務不履行解除されるのは、不当であるとの価値観を読み取ることができます。

しかし、これは裏返しで言えば、実質的な変更を伴う場合には、借地権の解除が認められる可能性がある点には注意が必要です(実質的な変更がある場合に解除と認めた例として、大阪高判昭43年9月17日があります)。

実務上のポイント

事業を経営する上で、組織変更や役員等の経営陣の交代などは必然的に発生するものです。

借地権が債務不履行解除される場合には、借地上の建物を含め、事業のために投下していた資本を失ってしまうという非常に大きなリスクを背負うことになります。

基本的に法人成りに地主の承諾は不要といえますが、土地賃貸借契約が当事者の信頼関係の上に成り立っている契約であることを踏まえ、地主との協議を行っておくことは推奨されます。

3 問題の背景

弁護士 岩崎孝太郎

法人成りは、法律に疎い賃借人が、税理士等から税金対策面の助言を受けて、営業も軌道に乗ってきたとして法人組織にするとき、賃借権を「譲渡」したという意識が賃借人に全くないのがほとんどです。

そうであるにもかかわらず、「背信行為」として借地権が解除され、何が何だか訳も分からないまま、路頭に追い出されるという悲劇性がありました。

そのため、裁判所は「実質的な変更」をキーポイントとして、賃借人の保護を図っているものといえます。

第2 法人の実質的経営者の交代

1 リーディングケース(最判平8年10月14日)

事案の概要

運送業を営む借地人(有限会社)は、借地上に車庫を建築所有していました。

借地人の会社は、代表取締役と家族が株式の持分全部を保有し、役員も親族だけでしたが、代表取締役が持分全部を譲渡しました。
これにより、代表取締役を含む役員も全員交代して、実質的な経営者が交代されましたが、引き続き借地上の車庫を利用して運送業が営まれていました。

これに対し、地主より土地を買受けた新所有者が、賃借権の無断譲渡を理由として借地契約の解除を主張しました。

判旨(🔗「裁判例結果詳細」裁判所HP

賃借人である小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、法人格の同一性が失われるものではないから、民法612条にいう賃借権の譲渡に当たらない。

そして、右の理は、特定の個人が経営の実権を握る…小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはない。

2 判例の判断ポイント

先ほどの法人成りの場合とは対照的に、外形的・形式的には賃借人である会社の法人格には変動はありませんが、役員・資本構成の変動により実質的な使用収益の主体は変動しているとみられる場合に、「譲渡」(民法612条)にあたるかどうかが問われました。

最高裁は、小規模・閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡や役員の交代により実質的な経営者が交代しても賃借権の譲渡にあたらないと判断をし、現在も同様に考えられています。

地主の視点から

日本では、その実態が個人企業と変わらない小規模で閉鎖的な株式会社、特例有限会社が多いという実情があります。

そのため、個人企業、同族会社が土地建物を賃借する場合には、会社の代表者個人の資産、信用や代表者と地主の個人的信頼関係を基礎として賃貸借契約が締結されることも多く、地主からすると代表者の交代は、賃借人の交代に映るのもいわば当然といえます。

しかし、実質的な使用者の交代をもって賃借権の譲渡とすると、会社の法人格を無視して妥当性を欠くという指摘を受けてしまいます。

そこで、地主としては、借地(賃貸借)契約の相手方を代表者個人としたり、借地人の承諾を得ずに役員や資本関係を変動させたときは、借地契約を解除する特約を定めておくことが重要です。

3 問題の背景など

弁護士 岩崎孝太郎

本件の事案において、借地権が債務不履行により解除された場合には、借地人は企業の信用(銀行や仕入れ先等)や得意先網の喪失だけでなく、地下タンク、車庫、車両、什器備品等すべてが廃棄され、倒産して従業員や経営者を含めた家族が路頭に迷う恐れがあります。

これに対して、地主は全借地権価額を借地人から取得することができ、大きな利益を得られますが、仮に敗訴したとしても積極的に失うものはなく、従来の現状維持にとどまります。

そうすると、借地権の譲渡にあたるとして解除が認められる場合には、借地人企業にとっては突然の破産宣告に近いものがあり、借地人に背信性が認められない限りは、解除の認定に対して慎重な姿勢を見せる裁判所の姿勢は支持されるべきと考えています。

賃料(地代)不払いの債務不履行解除は当然ですが、借地権の譲渡が債務不履行にあたり解除される場合、この賃料不払いと同様の制裁を借地人に与えてよいか?との価値判断は、慎重に考慮されるべきといえます。

4 残された問題

個人事業主の法人成りや、法人の実質的経営者の交代は、基本的に借地権の譲渡に当たりません。

もっとも、個人事業主が法人成りした後に、法人の実質的経営者が交代となった場合については、この記事で紹介したリーディングケースがそのままあてはまるものではなく、どのような結論となるかは裁判例の集積が必要な状況ではあります。

ただ、借地権が当事者の信頼関係の上に成り立つ契約であることを踏まえると、法律的な判断もさることながら、借地人・地主の双方において円満な関係を継続するための努力が必要なことは、いうまでもありません。

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