借地非訟事件において、不満が残る判断をされることもあり得ます。
このような場合に、裁判所の決定を争う手段があります。
裁判所の決定に不満がある場合には、決定書の送達を受けた日から2週間以内に「即時抗告」をすることができます。
申立てを認容した終局決定に対して相手方が、申立てを棄却した終局決定に対して申立人が、それぞれ抗告権者となります。
借地非訟における裁判所の決定に対して、不服申立ての手段である即時抗告を中心に、抗告審について解説をします。
弁護士にとっても、あまり馴染みのない手続ともいえますが、抗告審を知るからこそ、地方裁判所(原審)の決定の重みを理解することができると考えています。
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第1 即時抗告とは
1 即時抗告とは?
裁判所の決定に不満のある当事者は、その決定に対して、即時抗告をすることができます。
借地非訟事件は、裁判とは異なり、借地「非訟」手続となり、公開の法定で出される判決ではなく、決定です。
そのため、判決に納得ができない場合の上訴を控訴・上告といいますが、決定に対して納得ができない場合の上訴を「抗告」といいます。
(即時抗告をすることができる裁判)
🔗「非訟事件手続法」(e-Gove法令検索)
第66条
1 終局決定により権利又は法律上保護される利益を害された者は、その決定に対し、即時抗告をすることができる。
2 申立てを却下した終局決定に対しては、申立人に限り、即時抗告をすることができる。
3 手続費用の負担の裁判に対しては、独立して即時抗告をすることができない。
2 即時抗告の期間制限
即時抗告は、2週間以内にしなければならないという、期間制限が厳格です。
起算日は、決定書の送達の日の翌日から起算して2週間です。
抗告権者が、その責めに帰することができない事由により2週間の期間制限を過ぎてしまった場合は、その事由が消滅した後1週間以内に限り、手続行為の追完をすることができます。
期間制限に2週間の猶予もありながら、なぜ「即時」なのだと疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
単に「抗告」という場合は、期間制限がなく、いつでも申立てができます。
その抗告との対比で、1週間や2週間など、期間制限があるものを「即時」抗告と呼んでいます。
3 即時抗告の方式
即時抗告は、即時抗告をする旨を記載した抗告状を原裁判所(基本的に地方裁判所)に提出します。
抗告状を提出する際に、原決定の取消し又は変更を求める具体的な理由の記載が間に合わない場合には、抗告人は、即時抗告の提起後14日以内に、具体的な理由を記載した書面を提出しなければなりません。
また、抗告状は、当事者と利害関係参加人に送達する必要がありますので、相手方の数と同数の副本を添付する必要があります。
即時抗告は、決定書を受領して2週間以内にしなければなりませんので、非常にタイトなスケジュールで対応をしなければなりません。
この2週間の期限を過ぎると、即時抗告はその時点でアウトとなります。
そのため、不満がある場合には、まず即時抗告する旨を記載した抗告状を提出し、具体的な理由は追って提出するとして対応します。
決定に対する具体的な理由の記載は、トータルで約1ヵ月ほどの余裕があることになります。
抗告状を受けた裁判所の対応
抗告状を受理した裁判所は、遅滞なく事件を抗告裁判所に送付します。
基本的には、地方裁判所から高等裁判所への送付となります(抗告裁判所=高等裁判所です)。
そして、抗告裁判所に事件を送付するときは、原裁判所(地方裁判所)は、抗告事件についての意見を付さなければなりません。
実務上、原裁判所の意見には、「本件抗告の申立ては理由がないものと思料する」との定型的なものだけでなく、参考判例や実務上の扱いについて参考文献などを引用して詳しく抗告審の判断の参考となる事項を記載している例もあるようです。
そうであれば、抗告権者としては、抗告裁判所に原裁判所の判断を覆してもらうために、より説得的な理由書の作成が求められるといえます。
4 抗告権者
申立てを認容した終局決定に対して相手方が、申立てを棄却した終局決定に対して申立人が、それぞれ抗告権者となります。
借地権の譲受予定者は抗告できるか?
たとえば、賃料を増額する付随処分がなされた上で賃借権の譲渡を許可する決定がなされた場合に、増額された賃料に不満がある場合には、譲受予定者は不当に賃料が改定された賃借権の譲受を余儀なくされることになります。
増額された賃料により不利益を受けるのは、現在の借地人ではなく、譲受予定者です。
現借地人は、賃借権譲渡が許可されている以上、譲渡後の賃料にまで関心を持っていないことが多く、現借地人が抗告する実益は乏しいです。
このような理由から、譲受予定者は、一般的には抗告をすることができないとされていますが、抗告権を有すると解釈する余地はあると考えられています(理論上の争いで、実際には現借地人名義で抗告をしていることがほとんどです)。
保証人、抵当権者、建物賃借人、隣地所有者などは抗告できるか?
借地人の保証人や、借地又は建物の抵当権者、建物の賃借人、日照・通風等を害されるおそれのある隣地所有者等は、終局決定により権利が害されるという関係にはないことから、抗告権がありません。
5 抗告状を提出すると?
即時抗告を提起すると、借地非訟事件の決定の効果は、確定しません。
そして、即時抗告によって移審する範囲は、不服のある範囲に限定されずに、決定によって裁判された事件の全体となります。
つまり、付随処分の裁判のみに不満があるとして即時抗告をした場合でも、申立許否の部分についても移審します。
6 抗告の取下げ
抗告は、抗告審の裁判があるまで取下げることができます。
抗告が取下げられた場合には、裁判所書記官より原審の当事者や利害関係人に通知されます。
第2 抗告審の審理
1 抗告審の審理構造
抗告審は、事実審かつ続審です(非訟事件法73条、民事訴訟法298条1項参照)。
民事訴訟の控訴審と構造は同じです。
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民事訴訟の控訴審手続とは?この意味は、原審の審理を基礎としつつ、抗告審においても新たな証拠等の提出を認めて事件の再審理を行います。
対比として「事後審」があり、これは原裁判の当否の審査を行うもので、新たな証拠等の提出を原則として認めません。
事後審の例としては、刑事事件の控訴審があります。
2 抗告審の審問期日
抗告審の手続には、借地借家法51条(審問期日)、54条(審理の終結)の規定の適用はなく、抗告審で審問期日を開くことは、必ずしも必要とされていません。
これは、原審で審問期日を開いて当事者の陳述を十分に聴いていること、抗告に理由がないことが明らかで、かつ、和解の可能性もなければ、審問期日を開くまでもなく速やかに抗告を棄却する裁判をするのが望ましいといえること等が理由に挙げられます。
借地借家法51条(審問期日)
🔗「借地借家法」(e-Gove法令検索)
1 裁判所は、審問期日を開き、当事者の陳述を聴かなければならない。
2 当事者は、他の当事者の審問に立ち会うことができる。
借地借家法54条(審理の終結)
裁判所は、審理を終結するときは、審問期日においてその旨を宣言しなければならない。
3 抗告審と鑑定委員会
原審の鑑定委員会の意見が不当でない限り、抗告審が鑑定委員会を改めて組織して意見を聴くことはありません。
抗告裁判所が鑑定委員会の意見を聴く場合は、以下の事由がある場合に限られます。
- 原審における鑑定委員会の意見が不当であると認められる場合
- 新たな事項について意見を求める必要が生じた場合
- 申立てが不適法であること、又は実質的要件に欠けることを理由に、原審が鑑定委員会の意見を聴かずに申立てを却下又は棄却した場合において、この判断を不当とする場合
4 抗告審の裁判
裁判(決定)の種類
抗告審の裁判には、抗告を不適法として却下する裁判(形式的要件を充たさない申立てに対して)、抗告は適法になされても、原裁判の内容が正当だと判断して抗告を棄却する裁判、抗告を理由ありとして認容し、原決定を取消し、又は変更する裁判があります。
抗告裁判所は、原裁判所の終局決定を取消すためには、原審の抗告人を除く当事者の意見を聴く必要があります(非訟事件手続法70条)。
そして、取消す場合には、事件について抗告審自らが裁判をします(決定を下します)。
ただ、相当の事実調査の必要がある場合には、事件を原審に差戻すこともできます。
(参考)不利益変更禁止の原則と付帯抗告の可否
非訟事件手続法では、裁判所が公益的・後見的な見地から適切な裁量権を行使することが期待され、処分権主義が貫かれていないため、附帯抗告に関する規定(民事訴訟法331条、293条1項)も準用されていません(非訟事件手続法73条2項)。
この原則からすると、抗告人の相手方としては、自己に有利に原裁判を変更するよう求める場合、附帯抗告を申立てるのではなく、その旨を抗告理由に対する答弁と共に主張すれば足りることになります。
もっとも、借地非訟事件では、二当事者対立構造があり、かつ、争訟性が高いため、不利益変更禁止の原則の適用の余地があるとする見解も有力に主張されています。
この説を前提にすると、附帯抗告に関する民事訴訟法の規定を類推適用でき得ることとなり、抗告人の相手方は、不利益変更禁止の原則の適用を排除するためには、附帯抗告(又は独立の抗告)を申立てる必要があります。
手続の進め方の見解対立になりますので、この問題意識を持っていることが大切となります。
当事者としては自身の意思を明確にした上で、裁判所にその手続として問題ないかを確認することが、一番確実な方策といえるでしょう。
第3 更なる不服申立て手段等
1 特別抗告
高等裁判所(抗告審)の決定に対して、憲法の解釈の誤りがあること、その他憲法の違反があることを理由とするときは、最高裁判所に対して特別抗告をすることができます(非訟事件手続法75条)。
特別抗告は、裁判の告知を受けた日から5日の不変期間内に、高等裁判所に特別抗告状を提出する必要があります。
2 許可抗告
高等裁判所の決定に対し、その高裁の許可を得て、最高裁に抗告できます(非訟事件手続法77条1項)。
高裁は、終局決定について、最高裁の判例等と相反する判断がある場合、その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合は、申立て(抗告許可の申立て)により抗告を許可しなければなりません(非訟事件手続法77条2項)。
許可抗告の申立ては、裁判の告知を受けた日から5日の不変期間内に、原裁判所に申立書を提出する必要があります。
3 再審
確定した終局決定その他の裁判(事件を完結するもの)に対しては、再審の申立てをすることができます(非訟事件手続法83条1項)。
再審事由その他再審に関する手続は、民事訴訟の場合と同様です(非訟事件手続法83条3項、民事訴訟法第4編)。
高裁の決定に対しても、争う手段は残されています。
ただし、統計的に見る限り逆転できるケースは極めて稀で、高裁の決定を事実上の「最終決定」と捉える弁護士がほとんどではないかと思います。
4 (参考)終局決定以外の裁判に対して
終局決定以外の裁判に対して、特別の定めがある場合には、1週間の不変期間内に即時抗告をすることができます(非訟事件手続法79条)。
即時抗告をすることができる定めのうち、借地非訟事件に関連する主な内容は、以下の通りです。
- 移送の裁判及び移送の申立てを却下した裁判(非訟法10条、民訴法21条)
- 強制参加の申立てを却下した裁判(借地借家法43条3項)
- 除斥又は忌避の申立てを却下する裁判(非訟法13条9項)
- 費用額確定処分に対する異議についての裁判(非訟法28条、民訴法73条2項、71条7項)
- 手続上の救助の裁判及び手続上の救助の申立てを却下した裁判並びに手続上の救助の裁判を取消す裁判(非訟法29条2項、民訴法86条)
- 裁判所書記官の処分に対する異議についての裁判(非訟法39条2項)
- 証拠調べの決定・文書提出命令についての裁判(非訟法53条1項、民訴法199条2項、214条4項、223条7項)
- 更正決定(非訟法58条3,4項)
第4 即時抗告が高裁で認容された事例
1 借地条件変更申立て認容決定に対する抗告 ~ 東京高裁平5年5月14日決定
原審は、建物の構造に関する借地条件の変更を認めました。
これに対して、抗告審は、借地権の期間満了が近い場合に、借地非訟事件において、借地条件変更許可の申立を認容するためには、条件変更の要件を備えるほか、契約更新の見込みが確実であること、及び現時点において申立を認容するための緊急の必要性があることを要すると判断し、借地条件変更の申立てを棄却しました。
借地期間の満了が近く、土地所有者(地主)は契約更新を拒絶することが明白でした。
借地非訟で申立てが認容されれば、契約更新の正当事由について争いたい地主としては、更新拒絶をすることが極めて困難となり、地主は正当事由の存否を争う機会を事実上奪われてしまいます。
そのため、抗告審では、原審を覆し、前述のように述べました。
2 非堅固建物を堅固建物への借地条件変更を抗告審で棄却 ~ 大阪高裁平4年12月18日決定
原審は、非堅固建物から堅固建物への変更を認めました。
これに対し抗告審は、「本件借地権は、それほど遠くない時期に、本件建物の朽廃により、終了する見込みである・・・、相手方が本件建物を取り壊して堅固な建物である鉄骨鉄筋コンクリート造マンションを建築すれば、本件土地の賃貸借契約の期間は少なくとも30年となり、更に30年後には、これが更新される見込みであること・・・、非堅固な建物である本件建物の所有を目的とする本件土地の借地権を、堅固な建物所有を目的とする借地権にその借地条件を変更することは相当でない」と述べて、原審決定を取消しました。
3 非堅固建物から堅固建物への変更を却下した抗告審 ~ 高松高裁昭和63年11月9日決定
本件申立の主たる動機は、地域環境の変化により従前の土地利用状態の維持が困難になったというのではなく、申立人(借地人)が新たに営業用建物を建築して収益を増加させようとすることにあり、借地条件変更の緊急の必要性に乏しいこと、相手方(地主)が借地期間の満了時には更新を拒絶して争うことが必至の状況にあり、残存期間は7年足らずで、更新拒絶の正当事由が認められる余地もないわけではないこと、などを考慮し、将来の更新拒絶をほとんど不可能とするにも等しい借地条件の変更を認めるのは相当でないと判断しました(原審は変更を認めました)。
4 賃借権譲渡許可を認めた原審を変更した抗告審 ~ 東京高裁平5年11月5日決定
原審が借地権の譲渡を認めたのに対し、抗告審は建物の朽廃が近いことを理由に、譲渡を認めませんでした。
右に認定したところによれば、本件はすでに朽廃に近い状態にあって、今後短期間のうちに朽廃の状態に到達し、本件土地の賃借権もこれに伴い消滅する可能性が高いものと認められる。
このように借地権が今後短期間のうちに消滅する可能性が高い場合には、借地人が建物の修繕その他の改築をしようとしても、賃貸人がこれを承諾しない可能性が高く、その場合に裁判所がその承諾に代わる許可の裁判をすることが適当でない場合が多いから、このような建物及び借地権を譲り受けても、譲受人は結局その建物を利用することかできず、買い受けの目的を達成することができない可能性か大きい。
このように、売買の目的を達成することが困難な事情があるにもかかわらず、借地権の譲渡を許可するのは、借地をめぐる紛争の予防を目的として制定された借地権譲渡許可の制度の趣旨に合致しないものといわねばならない。
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第5 借地のトラブルを弁護士に相談する
1 借地非訟の決定に対する即時抗告
借地非訟では、鑑定委員会の意見に不満を持つ場合が多くあります。
もっとも、不動産鑑定は、不動産鑑定評価基準という国交省が定めた理論に基づいて評価されますので、誰から見ても著しく不合理でない限り、鑑定意見を覆すことは極めて困難と言えます。
これは、一方当事者が、不動産鑑定士に依頼をして鑑定をしてもらったとしても、変わりません(裁判所の鑑定委員会の意見が優先されます)。
むしろ、事実認定であったり、結論の不当性や法律解釈の問題などが、抗告審として認められやすい戦い方だといえるでしょう。
いくつか覆った抗告審を挙げましたが、抗告審で争うべきかどうか、ある程度は見極められるように思います。
鑑定結果の不当性を争う場合には、そもそも鑑定委員会に付される前に、自身で不動産鑑定士に依頼し(費用は自己負担)、自己が想定する金額となっている鑑定結果を提出し、事前に自身の側に引き込む戦略を執るべきといえます。
抗告審を知ることは、原審の借地非訟事件の戦い方に活きるものと考えています。
2 弁護士費用(借地権トラブル)
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