借地契約において、建物の増改築を行うことは、耐用年数が延長され、借地権の存続期間に影響を及ぼすことになります。

契約期間の延長は、地主にとって大きな打撃となりますので、借地上建物の増改築は当事者にとって利害の対立が大きく、多くの契約書において増改築制限特約が設定されています。

建物の増改築がなされると、契約期間が延長されやすくなり(借地権消滅の期待が薄れる)、更新の正当事由に影響し、建物買取請求権の価格が上がるという、地主にとっては非常に大きな不利益があります。

そして、増改築制限特約が存在する場合に、借地人が増改築を行おうとすれば、それが法律的に許容されるか否かの判断が微妙なことが多いのも事実です。

そうすると、借地人としては、増改築を断念するか、債務不履行による解除のリスクを冒して増改築を敢行するか、地主の高額な承諾料の要求に応じるか、いずれかの選択をせざるを得ない状況になってしまいます。

そこで、このような場合には、借地人は増改築について地主の承諾に代わる裁判所の許可を得られるよう、借地非訟手続における増改築許可の申立てをすることができます。

借地人は、増改築制限特約に抵触するか否かが微妙な場合には、増改築を敢行するか、断念するか、地主(賃貸人・土地所有者)からの高額な承諾料に応じるか、判断を迫られる。
矢印
借地非訟(増改築許可の申立て)を活用することで、増改築制限特約は有効に存続させたまま、借地人は地主の承諾に代わる許可を得ることができます。

増改築許可の裁判は、増改築制限特約という借地条件を存続させた上で、具体的な増改築について当該借地条件の適用を排除し、個別に地主の承諾に代わる許可を与えるという制度になります。

この記事でその内容を詳しく説明していきます!

この記事では、借地非訟手続の増改築許可申立事件のポイントを借地人の視点から解説します。

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第1 増改築許可申立ての基本構造

1 全体像

増改築許可申立ての裁判では、「土地の利用上相当」(借地借家法17条2項)である場合に申立てが認容されます。

その場合に、裁判所は当事者間の利益の衡平を図るために必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができます。

この許可だけでなく、借地条件の変更、財産上の給付や相当の処分(これを「付随処分」といいます)があることで、地主に対する利益調整がなされ、柔軟な解決が可能となる制度設計になっています。

財産上の給付は、全面的改築の場合で更地価格の3パーセントが基準とされ、借地条件の変更として賃料の改定がされることが多いです。

増改築許可の裁判(借地非訟)では、地主の承諾に代わる許可に加えて、借地条件の変更、財産上の給付、相当の処分が、当事者の衡平のためになされることが多い。

(借地条件の変更及び増改築の許可)
第17条 
 増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
 裁判所は、前二項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。

🔗e-Gov法令「借地借家法」

2 借地条件変更の申立てとの関係

両者は一緒に申立てられることの多い類型ですが、借地条件変更の申立てと増改築許可の申立ては明確に区別されています。

増改築許可の申立ては、具体的な増改築行為を問題としますが、借地条件変更は具体的な増改築から離れ、抽象的な借地条件の問題となります。

増改築禁止特約は具体的な増改築行為を対象とするのに対し、借地条件の変更は、抽象的な借地条件を対象にします。

具体的には、「木造平屋建に限る」、「延床面積〇〇㎡を超えてはならない」、「2階建以上の増改築禁止」、「延床面積〇〇㎡以上の増改築禁止」、「隣地との境界線から1メートル以内に建築してはならない」などの制限は、借地条件に該当しますので、借地条件変更の申立てとなります。

これに対して増改築制限特約では、「一切の増改築を禁止する。」、「借地上の建物に重大な変更を加えないこと」、「現存建物の増改築には、地主の承諾を要する」などの違いがあります。

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3 賃借権譲渡許可申立てとの関係

借地人が借地上の建物、賃借権を譲渡して、譲受人が増改築を行う場合に、どのような申立てをすべきでしょうか。

この場合、現在の借地人が賃借権譲渡許可と増改築許可の申立てを同時に行うことが可能となっています。

その理由として、1度で行うことで手続的に簡易である他、増改築許可はその計画が審理されるのであり、増改築を行う主体は問題ではないこと、また、同時に行うことができるとしても地主に何ら不利益にはならないこと等が挙げられます。

第2 増改築許可の申立ての要件

1 当事者

借地人、転借地人に限られ、地主からの申立ては認められていません(地主からの申立てを認める借地条件変更の申立てと異なります)。

また、当事者が複数いる場合には、いずれも全員で行うことが必要です。

つまり、借地人であれば共有者全員で申立てることが必要で、地主が複数の場合は全員を相手方として申立てます。

2 借地権の存在

借地権の存在が認められなければ、申立は不適法却下されます。

ただ、借地権の存否について裁判が係属していたとしても、それだけでは却下事由にならず、その存否を審理判断した上で、裁判所は借地非訟事件の申立てを処理することができます。

借地権の範囲に争いがある場合でも、対象となる借地権を他と識別できる程度に特定すれば足り、厳密な範囲や面積まで認定する必要はありません。

もっとも、裁判とは異なりますので、仮に借地非訟事件で借地権を前提とする決定が出たとしても、裁判で借地権の存在が否定された場合には、裁判の判断が優先し、借地非訟の決定は効力を失います。

そのため、借地権の存否が熾烈に争われているようなケースでは、借地非訟事件の手続を中止し、裁判の結果を待ちます。

3 申立ての時期

増改築許可申立ては、増改築に関する紛争を予防することが目的ですので、すでに増改築工事が終わった後の申立ては、不適法となります。

そのため、増改築工事着手前に申立てるべきです。

なお、工事着手後完成前の申立ては、直ちに不適法とはなりませんが、進捗度合いなどによっては棄却される可能性も想定できます。

増改築許可の申立てを認容した裁判例

  • 賃貸人の家族へ持参して承諾を求めたところ、確かに伝える旨の返答を得たので承諾があったものと思い、工事に着手したが、抗議を受けたために中止した事例(東京地決昭44年7月17日)
  • 基礎工事の段階で抗議を受け中止した事例(東京地決昭42年12月22日)

4 増改築制限特約の存在

増改築制限特約が不存在であれば、申立ての利益を欠き、不適法として却下となります。

この点について、土地である賃借物の現状を変更を禁止する旨の定めは、建物の建築には土地の掘削などが必要不可欠であるとしても、建物の増改築制限特約とは考えられていません(東京地決昭58年10月26日、東京地決平5年1月25日)。

5 増改築の予定と内容の特定

申立てにあたっては、「土地の通常の利用上相当」(借地借家法17条2項)であるかどうかについて判断できる程度に、増改築の内容が特定していることが必要です。

申立ての段階で、増築又は改築の別、増改築予定建物の種類・構造・床面積等の図面(配置図、平面図、立面図、断面図、仕上仕様書)を添付することが求められています。

申立て後で、申立内容を変更する必要が生じた場合には、増改築の内容を補充し、変更することも許されます。

鑑定委員会の意見が出た後では、再度の求意見となってしまうこともあり、遅くとも鑑定委員会への求意見前には変更を完了させておきたいです。

増改築に該当しないとされた事例

内装、建具、設備系の改修や、窓への面格子の取付け等の工事について、主要構造部の修繕に当たらず、屋根に対しても既存の着色平形屋根用スレート板を取り換えることなく新たに屋根材をかぶせるもので、建築確認申請も不要な工事であった場合には、「増改築」に該当しないと判断されました(東京地決平23年5月18日)。

6 事前協議の不調

条文上は、当事者間に協議が調わないときは増改築許可の裁判ができるとされています。

ただ、借地条件変更の申立てと同様に、争いがある場合には協議を経ていなくても申立ては適法になると考えられており、消極的要件とされています。

第3 増改築許可の申立ての審理内容

(借地条件の変更及び増改築の許可)
第17条 
 増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。

🔗e-Gov法令「借地借家法」

1 土地の通常の利用上相当であるか

「土地の通常の利用上相当とすべき増改築」とは、当該土地の位置、広狭、付近の土地の状況等の客観的事情と、増改築建物の面積、構造、使用目的及び建築基準関係規定への適合性等の当該増改築の具体的内容からみて、当該増改築が社会通念上相当であることとされ、主観的な目的や感情は考慮すべきではないとされます。

認容事例

  • 平屋家屋を2階建に増改築すること(東京地決昭47年11月25日)
  • 公道及び隣地との間に段差がある場合に、土地の効率的利用のため、これを掘り下げて隣接土地と適合させること(東京地決昭46年3月10日)
  • 借地人が無断で居住用建物の一部の根太などを取り替え、2階部分を拡張してアパート用居室として他人に賃貸するように改造した事案(最判昭41年4月21日)
  • 工場用建物に間仕切りを作り、中2階の柱に継ぎ柱をして2階建とし、店舗兼住宅及び貸間として他人に賃貸するように改造した事案(最判昭51年6月3日)

否定事例

  • 土地の約2分の1の部分の地盤を深さ約1.5mにわたって削り取り、鉄筋コンクリート造の地下車庫を築造しようとした事案について、土地の現状をかなり変更し、その経済的価値を毀損するとともに、本件土地と同筆の東側隣地の地盤との関係でも不均衡を生じさせ、相手方の土地所有権の侵害となると判断された事例(東京地決昭43年12月16日)

建築基準法との関係

防火に関する規制(建築基準法24条等)、敷地の接道義務(同43条1項)、建ぺい率の制限(同53条)などに抵触する場合には、原則として棄却されます。

このような場合、裁判所はまず同法の制限に適合する内容に、計画を変更するように促します。

場合によっては、申立人の目的や意図に反しない限度で、設計を変更した上での許可又は条件付きの許可も可能であると考えられています。

日照権(建築基準法56条の2)との関係

日照権は法的保護に値する権利と考えられており、日照阻害によって被害者が受ける不利益の程度が社会生活上受忍すべき限度を超える場合には、損害賠償請求等が認められます。

借地非訟事件においても、受忍限度を超える日照被害を及ぼす場合には、「土地の通常の利用上相当」とはいえず、棄却されます。

2 諸事情の考慮

残存期間が短い場合

借地条件変更の申立てと同様に、借地権が間もなく消滅することが明らかな場合に増改築の許可の裁判がされると、地主には大きな不利益を与える恐れがあります。

そこで、残存期間が短い場合、具体的には2年乃至3年を目安として、借地権の更新の見込みを含めた判断を行います。

つまり、借地権の終了が見込まれる場合には申立てを棄却し、更新が確実である場合には申立てを認容します。

跨り建物、共同ビル、分譲マンションなど

跨り建物は、賃料不払い等の債務不履行があっても、当該部分の回復が事実上不可能となったり、借地権譲渡の際に介入権を行使できなかったりと、地主にとって不利益が大きいものです。

同様に、共同ビル、分譲マンションなどは、多数の借地人を相手にしなければならず、地主にとって管理上の煩雑さが著しく、大きな不利益といえます。

そのため、跨り建物、共同ビル、分譲マンションなどの増改築許可は、原則的には許容されていません。

第4 付随処分(付随的裁判)

(借地条件の変更及び増改築の許可)
第17条 
 裁判所は、前二項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。

🔗e-Gov法令「借地借家法」

1 財産上の給付

全面的改築の場合、更地価格の3%を基準として、改築による床面積の増改の程度や賃貸物件の建築等による収益の増加等の土地利用効率の増台などを加味して、5%程度までの間で決定されています。

また、全面改築に至らない場合には、その増改築の程度に応じて更地価格の1%台を中心に、3%以下で決定されることが多くなっています。

裁判例の概観

【事案】【給付額】(更地価格を基準)
床面積が72%程度増加し、自己使用から収益物件の共同住宅への変更(東京地決平5年7月23日)4.5%
跨り建物の建て替え、地主の土地返還の可能性がさらに低くなること、増改築により建ぺい率、容積率ともほぼ最有効使用の状態となること、新築建物の相当部分が賃貸となり相当の収益が見込まれることが考慮された事案(東京地決平6年7月11日)5%
床面積の増大と自己使用から賃貸用への変更を重視した事例(東京地決平10年3月27日3.5%
屋根の補強工事や外壁の塗り替え及び内部の改装の事例(東京地決平7年2月2日)1
瓦葺き替え、外壁を不燃材に変更する等の大修繕の事例(東京地決平5年5月31日)0.75%

2 他の借地条件の変更

多くの場合、賃料の改定のみがなされます。

賃料の改定がされるのは、土地の利用効率の増大に伴う当事者間の利益の調整と、期間の経過により不相当となった賃料の是正をすることとされます。

土地の利用効率の増大は、本来財産上の給付で賄われるものですので、二重に評価されることないように留意されています。

3 その他相当の処分

借地条件変更の申立てと同様に、借地人の無資力などの理由により財産上の給付が支払われないことを考慮して、給付すべき時期は3ヵ月以内とされることが一般的です。

なお、一括で払えない事情などを申し出ているような場合に、分割払いを認めた事例もあります。

その他相当の処分の具体例

その他相当の処分を行った裁判例としては、隣地境界との間に一定の距離を置くことを命じたもの(東京地決昭43年9月30日)や、隣地居住者のために通路の設置を命じたもの(東京地決昭44年9月30日)などがあります。

4 決定主文例(具体的なイメージ)

以上のような付随処分を含めて、実際の決定文は、次のようなものとなります。

1
申立人が、この裁判確定の日から3ヵ月以内に、相手方に対し、〇〇円を支払うことを条件として、申立人が、別紙土地目録記載の土地上の別紙建物目録記載の建物を取り壊し、別紙増改築目録記載の建物を建築することを許可する。

2
申立人と相手方との間の別紙土地目録記載の土地についての賃貸借契約の賃料を、前項の許可の効力が生じた日の属する月の翌月1日以降月額〇〇円とする。

3
手続費用は各自の負担とする。

第5 増改築許可の裁判を申立てる(ひな形を活用しよう)

1 申立書は裁判所のひな形を活用する

借地非訟事件は、裁判所のホームページにひな形が記載されていますので、弁護士もこのひな形を活用して申立てます。

定型書式を活用することで、記載漏れ等を防ぎつつ、裁判所にとっても統一した形式であることで、審理がしやすくなります。

【参考】🔗「借地非訟事件(書式例)」申立書(東京地裁HP)

2 申立手数料について

申立手数料は、借地部分(土地)の固定資産評価額に以下の算定式を用いて、「目的物の基礎となる価格」を計算します。

(算定式)固定資産評価額 ÷ 10 × 3 ÷ 2

ただ、実際にはもっと細かいため、申立書に手数料の収入印紙は貼付けをせず、後で裁判所による正確な計算を待ってから納付します。

目的物の基礎となる価格手数料
500万円12,000円
1000万円20,000円
1500万円26,000円
2000万円32,000円
2500万円38,000円
3000万円44,000円
3500万円50,000円
4000万円56,000円
一部を抜粋しました

この他に、郵券(郵便切手代)として、4500円が必要になります。

【参考】🔗「第3 費用」(東京地裁HP)

第6 借地非訟の申立ては、借地権に強い弁護士に相談

1 増改築許可の裁判は、当事務所にご相談ください

弁護士 岩崎孝太郎

増改築許可の裁判は、絶対に認めないとして賃貸人が強固に反対するケースもあれば、単に承諾料で折合いがつかないために借地非訟を利用する(対立はほぼない)ケースなど、争点や当事者の意向も様々です。

また、増改築許可の申立てにあたっては工事内容を詰めなくてはならない一方、実際に工事を依頼する時期は1年程度は先になりますので、柔軟な対応をしてくれる工事業者を見つけることも必要です。

増改築許可の申立ての裁判では、全体を俯瞰できる専門家へご相談されることをお勧めいたします。

2 当事務所の弁護士費用とお問い合わせフォーム

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