建物所有を目的とする借地権は、存続期間が30年とされ、これより短い期間を定めたとしても、借地借家法の強行法規性により、30年に引き上げられます(借地借家法3条)。
もっとも、土地所有者(地主)が、将来的にであれ土地を利用したい場合、借地権を設定してしまうと、いざ土地を利用したいときに土地が返ってこないリスクがあります。
この不都合を回避するための制度として、定期借地権がありますが、10年未満の土地利用契約には利用することができません。
逆に言えば、10年以上の期間を定めたい場合には、一時使用目的ではなく、定期借地権の利用を優先的に検討すべきです。
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定期借地権とは?弁護士が分かりやすく解説しますそこで、仮設の店舗や作業場、イベント用の簡易な施設など、一時的に建物を利用したいニーズに合わせて設計されたのが、一時使用のための借地権です(借地借家法25条)。
一時使用目的であれば、建物所有目的で土地の賃貸借契約を締結したとしても、正当事由制度、法定更新制度、建物買取請求権などの借地借家法の主要な部分が適用されません。
一時使用目的での借地権の典型例は、サーカスやミュージカルなどの興行、建設土木工事の飯場や作業員宿舎のために土地を借りる等々がイメージしやすいと思います。
(一時使用目的の借地権)
🔗「借地借家法」(e-Gove法令)
第25条
第3条から第8条まで、第13条、第17条、第18条及び第22条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。
一時使用のための借地権を説明します。
土地所有者(地主)が短期に土地を貸出したい場合、又は短い期間を前提に土地を借り受けたい借地人のニーズに応える制度といえます。
注意点は、一時使用の目的は客観的なものであることが必要となる点です。
土地明渡しを求める事件類型において、地主が一時使用目的の借地権であることを主張することがあります。
曖昧な状況で借地契約を締結していたり、契約を更新したりすることで、明渡しを求める際に一時使用目的であるかどうかの該当性が争われることが多いです。
そのため、一時使用のための借地権の該当性を中心に、以下では解説をします。
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1 一時使用目的借地権を締結した場合の効果は?
一時使用目的である場合、借地借家法の以下の規定について適用が除外されます。
- 借地期間(3条)
- 更新後の借地期間(4条)
- 契約更新請求(5条)
- 更新拒絶には正当事由を要するとする規定(6条)
- 建物再築による借地期間の延長(7条)
- 更新後の建物滅失による解約(8条)
- 建物買取請求権(13条)
- 借地条件の変更及び増改築の許可手続(17条)
- 借地契約更新後の建物再築の許可手続(18条)
- 定期借地権の規定(22条~24条)
期間満了によって契約が終了し(正当事由の不適用)、自動的に契約を更新したものとみなされることもありません(法定更新の不適用)。
また、契約期間が終了した際に、借地上の建物を買取る必要もありません(建物買取請求権の不適用)。
そのため、文字通り、一時使用という短期間の借地契約を締結することが可能となります。
2 一時使用目的といえるか?(契約の該当性)
⑴ 裁判所の態度(考え方)
借地契約が一時使用と認められるためには、「土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間に限り賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存在することを要する」(最判昭45.7.21)とされています。
その具体的な考慮要素を次に列挙しますが、これらの要素を基にして総合的に判断されます。
- 契約書の文言
- 土地の利用目的、土地上の建物の種類、設備、構造
- 賃貸借終了後の土地の利用目的
- 賃貸借期間
- 賃料や権利金などの条件
- 契約に至った事情
⑵ 契約書の文言
契約書において、単に「契約は一時使用を目的とする」などの一時使用目的の文言があったとしても、必ずしも一時使用のための借地権になるわけではありません。
一時使用のための賃貸借との文言がある場合であっても、「土地使用の目的、動機、宅地上に建設する施設の種類、構造その他諸般の事情から判断して、当事者双方が納得の上で賃貸借を短期間に終了せしめることを合意したと認めるに足りる相当の事情」が必要と判示した裁判例が参考になります(東京高判昭40.2.23)。
裏返していうと、一時使用の文言が記載されていなくても、一時使用のための借地権と認定され得ることになります。
契約書の文言は、極めて重要な要素です。
ただ、地主の側が万が一の場合に備えて、契約書に一時使用の文言を入れておくような場合も想定し得ます。
そのため、契約書の文言を基にしながら「当事者に短期間の合意が成立していたといえるか?」が判断されます。
✍ 参考裁判例(東京高判平8.11.13)
契約期間を2年、契約書の表題を「土地一時使用賃貸借契約書」とし、さらに建物の基礎をブロックとすることを求め、また、借地人に対し権利金を請求しないことにより、一時使用目的の借地権とする形式を整えようとした事案において、一時使用目的が否定されました。
否定された理由として、以下のものが挙げられます。
- 借地人が事務所および倉庫用建物を建築するためであり、契約締結後ただちに200万円を投じて建物を新築し、本店事務所兼資材置場として利用してきたこと
- 地主は、土地を借り受ける理由を把握しており、短期間で終了しないことを承知していたこと
- 地主に早期に土地の返還を受けなければならない特段の事情があったとは認められないこと
- 賃貸借契約が2回更新され、賃料も増額されていること
⑶ 土地の利用目的、土地上の建造物の種類、設備、構造
借地上の建物がイベント用の簡易な建物、建築工事のための事務所や資材置き場、一時的な仮設店舗である場合には、一時使用目的が肯定されやすいです。
裁判例では、容易に解体可能なプレハブ造りの作業員宿舎(東京地判平3.3.27)、撤去・移動が可能なたこ焼き店舗において(東京地判平12.6.30)、一時使用目的と認定されています。
これに対して、借地上の建物が堅固であることは、一時使用目的を否定する要素となります。
否定された裁判例では、建物が鉄骨造2階建てで、その内部に多数の機械が置かれていた事例があります(東京地判平20.2.27)。
同様に、契約書で仮設物置・車庫と用途を限定していたとしても、現に存在している建物が軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建事務所兼居宅で、地主がこれを知っていた事例において、一時使用目的が否定されました(東京地判昭52.11.11)。
⑷ 賃貸借終了後の土地の利用目的(利用計画)
典型的な場合は、地主に近い将来確実に利用する計画があり、借地人もそれを承知している場合が挙げられます。
判例では、地主の三男(獣医師)が病院建設予定の土地について、仮建築に限定して期間5年の約定で賃貸し、経済事情の変動にもかかわらず賃料が据え置かれている事案において、一時使用目的を肯定しています(最判昭32.7.30)。
⑸ 賃貸借期間および更新
賃貸借の契約期間
賃貸借契約の期間について、「少なくとも借地法が定める借地権の存続期間よりは相当短いものにかぎられるものというべく、これが右存続期間に達するような長期のものは、到底一時使用の賃貸借とはいえないものと解すべき」として、期間を20年とする土地の賃貸借は、裁判上の和解によって成立したものでも、一時使用目的が否定されました(最判昭45.7.21)。
契約期間が長期間になると、一時使用目的ではないという判断になりやすく、短期間であることが一時使用目的を肯定する要素となります。
具体的には、5年以上になると、一時使用目的と言うためには、慎重な検討が必要になります。
ただ、契約期間が7年(最判昭32.11.15)、8年(最判昭33.11.27)、10年(最判昭36.7.6及び最判昭43.11.19)の事案において、一時使用目的が肯定されています。
契約の更新
契約が更新されたことが、一時使用を否定する要因になり得ます。
もっとも、1年の契約が約35年にわたり更新されていた場合であっても、鉄道事業用施設の一部である土地の賃貸借で、鉄道事業上の必要が生じたときには明渡しが必要となるなど、賃貸借を短期に限る客観的合理的理由がある場合には、一時使用目的が失われないとされました(東京地判平17.4.27)。
⑹ 賃料や権利金などの条件
借地期間中の賃料増額は、借地契約を存続させる意思として、一時使用目的を否定する要因になります。
賃料の額も経済事情の変動にもかかわらず当初の昭和21年当時の約定の侭に据えおかれている等の事情がある」(最判昭32.7.30)ことは、一時使用目的を肯定する理由となっています。
また、一時使用目的であれば、賃料が低額におさえられることが一般的です。
権利金の授受があることは、一時使用を否定する理由になります。
逆に権利金の授受がないことは、肯定する理由になり得ます。
⑺ 契約に至った事情
裁判上の和解・調停によって存続期間を限定した場合であっても、それによって借地借家法の適用が排除されるわけではありませんので、注意が必要です。
最初に記載しましたように、両当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が必要なことは、裁判上の和解や調停であっても変わりません。
3 借地権の相談は、専門的知見のある弁護士へ!
⑴ 一時使用目的が争われる場合
一時使用目的が争われる場合、上記の様々な観点からの考察が必要となります。
両当事者がどのような意図で、どのような契約内容を合意したのか、その上でどのような建物を建設し、契約終了に至るまでにどのような経過を辿ったのかなど、検討すべき項目は多岐にわたります。
地主、借地人のいずれの立場であれ、契約に関するあらゆる資料を収集し、過去の裁判例との比較において有利な事情を見出すことが必須の手続といえます。
⑵ 当事務所の弁護士費用
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終了
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