借地権付きの建物も、建物に設定されている抵当権が実行されたり、差押えによって、競売にかけられることがあります。
落札した人は、建物を利用するために、土地賃借権(借地権)も落札者に移転します。
このような競売手続によって借地人が代わる場合であっても、借地権が元の借地人から落札者へ代わることから、借地人の交代には土地賃貸人(地主)の承諾が必要となりますので、裁判所に対して譲渡の許可を求める必要があります。
ポイントは、買受人(落札者)が建物の代金を支払った後、2ヵ月以内に譲受許可の申立てをしないといけません。
もし、2ヵ月以内に買受人譲受許可の申立てをしなかった場合には、借地権の取得を地主に主張できない(対抗できない)こととなって、地主は落札者に対し、建物収去土地明渡請求(「建物を壊して土地を返せ!」)をすることができます。
✍ 借地権付建物を競売で落札したら
代金納付時から2ヵ月以内に、借地権の譲受許可の申立てをすることを忘れないようにしましょう!
申立てを失念し、地主から明渡しを求められた場合には、建物の買取を請求(借地借家法14条)はできます。
しかし、敷地利用権である借地権付きの建物として落札したことを踏まえると、経済的な損失の発生は不可避となってしまうでしょう。
競売等に伴う土地賃借権譲受許可の裁判(借地非訟)について解説します。
通常の借地権を譲渡(売却)する場合には、譲渡をする前に、譲渡等許可の申立て(借地非訟)をする必要があります。
一方、競売の場合には、開札まで落札者(買受人)が誰であるかは分かりませんので、譲渡の許可を申立てるのが、事後的になっている点が特徴的です。
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第1 競売による借地権の譲渡の許可(制度概要)
1 競売の買受人にとって、譲渡許可の制度が必要な理由とは?
借地上の建物に抵当権が設定されている場合、抵当権の効力は、敷地を利用するための権利である借地権(土地の賃借権)にも及びます。
そのため、競売によって建物の所有権が買受人に移転すれば、借地権も買受人に移転します。
もっとも、競売による建物の売却の場合でも、借地権の譲渡には地主の承諾が必要であることは、売買などの一般的な場合と同様です。
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借地権の譲渡と地主の承諾ただ、競売は、そもそも借地人(建物所有者)の意思に反して強制的に建物所有権を奪うものです。
そうであれば、売買の場合などのように、借地人が地主の承諾を得るように努力することは、期待できません。
さらに、競売では、誰が落札するのかは、開札(競売の結果発表)まで分かりません。
そのため、通常の売買とは場面が異なる制度が必要となり、借地借家法20条によって、競売・公売による買受人の申立てによって裁判所が地主の承諾に代わる許可をする制度が定められました。
(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
20条
1 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。
2 前条第二項から第六項までの規定は、前項の申立てがあった場合に準用する。
3 第一項の申立ては、建物の代金を支払った後2月以内に限り、することができる。
2 地主の承諾に代わる許可を得るための要件とは
条文に明記されている、以下の要件を満たす必要があります。
- 借地上の建物を、第三者が競売・公売により取得したこと
- 第三者が借地権を取得しても借地権設定者に不利になるおそれがないこと
- 地主が、借地権の譲渡に承諾をしないこと
①第三者が競売・公売により取得したこと
競売とは、民事執行法に規定する強制競売(民事執行法45条以下)、抵当権などの担保権の実行としての競売(民執法181条以下)・形式的競売(民執法195条)をいいます。
公売とは、国税徴収法や地方税法に基づく滞納処分による公売等や、刑事訴訟法496条による没収の処分としての売却等をいいます。
また、申立人となる第三者(買受人)とは、競売・公売によって建物を取得した者だけが申立てることができます。
買受人からさらに建物を譲受けた転得者は、申立てをすることができません。
②地主に不利となるおそれ
地主に不利となるおそれがあるかは、買受人の賃料支払能力(経済面)と人的信頼性から判断されます。
たとえば、買受人の夫が暴力団幹部であり、不動産絡みの犯罪で逮捕されたことが報道されているケースでは、資力があっても人的信頼性の観点から、「不利となるおそれ」があると判断されました(名古屋地決昭43.11.28)。
一方、実質上の経営担当者が宅地建物取引業法違反の罪で服役中のケースでも、その妻子が協力して営業を継続している場合には、賃料支払能力が肯定された事例があります(福岡地裁小倉支部昭43.3.30)。
③地主が譲渡に承諾しないこと
相手方となる地主が複数いる場合は、その全員を相手方にする必要があります。
競売によって建物を買い受けた後に、地主の交代(土地の売買等)があった場合には、現在の新しい地主を相手方にします。
3 一般的な借地権の譲渡(借地借家法19条)との違い
まず、借地権を譲渡しようとする場合の申立ては、第三者に譲渡する前に申立てる必要があります。
これに対して、競売・公売の場合には、買受人が建物を買い受けた後に申立てます。
次に、借地権を譲渡する場合の申立ては、建物の譲り渡し人(現在の借地人)が申立てをする必要があります。
これに対して、競売・公売の場合には、買受人が申立人となります。
【参考】一般的な「借地権の譲渡」(借地借家法19条)
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
19条
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
第2 競公売に伴う賃借権譲受許可申立てのポイント
1 申立ての時期
競公売に伴う賃借権譲受許可の申立ては、建物の代金を支払った後2ヵ月以内に限り、することができます(代金納付により所有権が買受人に移転します)。
これは、権利関係の早期確定を図るためといわれます。
2ヵ月経過後に申立てをした場合には、その申し立ては不適法として却下されます。
地主の承諾を求める民事調停を申し立てた場合
建物の代金支払い後、2ヵ月以内に民事調停を申立てている場合には、調停不成立により調停事件が終了し、又は調停に代わる決定が異議申立てによりその効力を失っても、その旨の通知を受けた2週間以内に借地非訟の申立てをすれば、その申立てが既に2ヵ月の期間を経過していたとしても、調停の申立時、つまり建物の代金支払い後2ヵ月以内の期間に申立てをしたものとみなされます。
(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
20条
4 民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第十九条の規定は、同条に規定する期間内に第一項の申立てをした場合に準用する。
地主の建物収去土地明渡請求
本来、地主の承諾がなければ、借地権の譲渡を地主に対して対抗することができません。
この場合、地主は、借地権の無断譲渡を理由として、借地契約を解除し、明渡し(建物を壊して土地を返せ!)を求めることができます。
但し、建物代金納付後2ヵ月以内は、地主の承諾に代わる許可の申立てができますので、この2ヵ月間は地主は借地契約を解除できません。
せっかく競売によって落札できても、2ヵ月の期間を経過してしまうと、地主から借地契約を解除させられてしまいます。
落札した買受人にとって、この期間制限は非常に重要な意味があります。
特に、当事者が任意に伸長したり猶予を与えたりすることができないとされている点には、注意しましょう。
期限を過ぎてしまった場合には、建物買取請求を行使して、建物代金を支払ってもらうことしかできません。
建物買取請求
地主より、明渡しを求められた場合には、建物買取請求権を行使して、建物の時価額を補償してもらうことはできます。
但し、借地権価格が含まれていませんので、落札した価格より低額となってしまう可能性が高く、経済的な損失は避けられないでしょう。
(第三者の建物買取請求権)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
14条
第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
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借地権の建物買取請求とは?2 付随処分(財産上の給付)
競公売の場合にも、賃借権譲渡許可の場合と同様に、基本的に財産上の給付が命じられます。
基準も同様に考えられており、借地権価格の10%相当額にて運用されています。
財産上の給付を算定にするにあたり、申立人(買受人)より、実際の落札価格を基準とするべきと主張されることがあります。
しかし、競売の事情によって地主が受け取るべき給付額が低額となるのは不当と考えられており、落札価格は借地権価格を算定する際に考慮すべき一資料となるにすぎないと考えられています。
3 付随処分としての敷金の定め
敷金に関する旧借地人の権利義務関係は、特段の事情がない限り、新賃借人(買受人)に承継されません。
そのため、競売によって第三者が買受人となった場合、地主は敷金による担保を失ってしまいます。
そこで、付随的裁判が当事者間の利益の衡平を図るものであることや、紛争の防止という賃借権の譲渡の許可の制度の目的からすると、裁判所は、旧賃借人が交付していた敷金の額、第三者(買受人)の経済的信用、敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で、借地借家法20条1項後段の付随的裁判の1つとして、当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め、第三者に対してその交付を命じることができるものとされています(最決平13.11.21)。
実際には、地主からの希望の有無や、事案の内容、鑑定委員会の意見を踏まえて、判断がされています。
敷金の交付が命じられる場合には、「別紙土地目録記載の土地についての賃貸借契約から生じる債務を担保するため、申立人は相手方に対して、敷金として〇〇円を差し入れるべきものとする。」、「申立人は、相手方に対し、敷金として〇〇円を交付せよ。」などの主文となります。
4 介入権が申立てられた場合
競公売に伴う賃借権譲受許可の申立ての場合にも、地主は介入権を申立てることができます。
介入権における「相当の対価」は、賃借権譲渡の許可手続(借地借家法19条)における優先譲受の場合と同様に、一般に建物の譲渡代金と土地賃借権の譲渡代金を加え、この2つの合計額から、賃借権譲渡承諾料(名義書換料)などを控除する手法が採用されています。
(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
🔗「借地借家法」(e-Gov法令検索)
20条
2 前条第二項から第六項までの規定は、前項の申立てがあった場合に準用する。
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
19条
3 第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
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第3 借地権に強い弁護士に相談する
1 借地非訟制度への精通
借地権自体、あまり広く流通している物件ではありません。
ましてその競売となると、不動産業に従事する方にとっても必ずしも遭遇する場面は多くないのではないかと思います。
借地権の取引を行う場合には、最低限の知識を有しておかないと、後で痛い目に遭うことになります。
競売は、期間的制約がありますので、その典型例の1つといえるでしょう。
少しでも、この記事がお役に立てれば幸いです。
2 弁護士費用(借地権トラブル)
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終了
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