地代の滞納に悩む地主のよくあるお悩み

地代の滞納は、地主からよくあるご相談の1つといえます。

「2~3ヵ月の滞納があれば解除できると聞きましたが、本当ですか?」とのご質問も多いです。

2~3ヵ月で解除できるのは、建物賃貸借であって、借地は半年程度の滞納は必要です。

地主が、地代の対応があった場合にどうすべきをより詳しく解説したいと思います。

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第1 借地料(地代)の滞納に対し、地主が借地契約を解除して退去させる流れ(全体像)

借地料(地代)の支払いは、借地人にとって最も重要な義務です。

その不払いが発生すると、賃貸人である地主としても、早急なる支払いを求め、滞納の解消ができなければ、賃貸借契約を消滅させたいでしょう。

そのため、地主は、まず借地契約の解除を行い、建物を取壊して出ていくよう求めます。

借地人が経済的に困窮しているような場合には、退去を求めてもスムーズにいかないことも多いでしょう。

そうなると、地主は法的手続(仮処分・裁判)に移らざるを得ません。

そして、裁判で土地の明渡しが命じられたにもかかわらず、借地人が建物の退去をしない場合には、強制執行によって地主は自身の侵害された権利の回復を図っていくよりありません。

この流れを図示すると、下図のようになります。

地代(借地料・賃料)の滞納が生じ場合に、地主が執り得る法律上の方策の流れ(全体像)。
地代滞納に対する流れ

ただ、借地権のような継続的な契約は、地代に滞納が発生したからといって、すぐに解除ができるわけではありません。

地代の滞納の累積や繰り返しによって、信頼関係が破壊されたといえるほどの不履行がなければ、借地契約の解除通知も、法律的には有効なものになりません。

借地権は、借地人にとっても建物を建築するという資本投下をすることが必要なため、容易には失われないような制度となっています。

以下、地代の滞納が発生した場合の地主が執るべき方策について、より具体的に説明をします。

第2 地代の滞納は何カ月で解除できるか?~滞納と借地権の解除

1 借地権を解除するには信頼関係の破壊が必要

賃貸借契約は、地主(賃貸人)・借地人(賃借人)間の信頼関係を基礎とする継続的な関係です。

債務が履行されないといっても、それだけで契約関係を解消させるべきではなく、信頼関係が破壊されていないときには、契約関係を継続させるべきです。

そのため、借地人に債務不履行があったとしても、信頼関係が破壊されていない場合には、賃貸借契約の解除が認められていません。

単にタイム不履行があるだけでは借地契約の解除は認められておらず、地主と借地人の信頼関係が破壊されるほどの不履行があった場合に、債務不履行解除が有効になります。
信頼関係が破壊されない程の債務不履行では解除ができません

債務不履行による解除の可否を、信頼関係が破壊されたかどうかという基準で判断するのを、「信頼関係破壊の法理」と呼んでいます。

特に借地人は、借地上に自ら建物を建てるほどの財産を投資しています。

借地権の解除を容易に認めてしまっては、誰も土地を借りようとはしないでしょう。

借地人の投下資本という視点で見ると、建物の賃借人よりも借地人の方が、より権利保障され得る点は、理解しやすくなると思います。

2 契約解除には「催告」が必要

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる(民法541条本文)と定められています。

催告は、債務者に対して履行を促す通知の意味があり、債務者に不履行を翻意させて履行をさせる契機を与えるために必要とされます。

法律又は契約によって無催告解除が認められている場合を除いて、催告をせずに解除をしても、解除の効力は生じません。

転借人への催告は不要(転貸借がなされている場合)

土地の転貸がされている場合であっても、地主から転貸人(借地人)への催告をすれば足り、転借人に催告をして未払賃料の機会を与える必要はありません。

同様に、借地上の建物の賃借人に対して土地の賃料を支払う機会を与える必要もありません。

例外的に、賃貸人(地主)と転貸人(借地人)が通謀して債務不履行状態を作出する場合や、賃貸人と転貸人が実質的に同一人格とみられるような場合などの特段の事情が認められる場合には、転借人に対する催告が必要になると判断されています(東京地判平25年9月5日)。

よく「親亀こければ小亀もこける」と言われるところで、転借人の権利は、賃借人(借地人)の賃借権の上に成り立っていますので、賃借権が債務不履行解除される以上、転借権が消滅するのもやむを得ないと説明されます。

ただ、債務不履行解除ではなく、合意解除の場合であれば、転借人は賃貸人(地主)に対して転借権を主張することができます。

3 当事者(地主・借地人)が複数の場合の注意点

地主が複数(共有土地)の場合

共有物を目的とする賃貸借では、賃貸借契約を解除することは「共有物の管理」に該当し、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めることになります。

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借地人が複数の場合

典型的な場合が、夫婦で借地人となり、建物を建てた場合が想定できます。

賃借人(借地人)が複数の場合、契約の解除は全員に対してする必要があります(解除の不可分性)。

そのため、借地人が複数いるときは、全員に対して解除通知を発送しないといけません。

借地人の内の1人に無効な解除であった場合には、全体として解除の効力が生じません。

民法544条(解除の不可分性)
1 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。

🔗「民法」(e-Gov法令検索)

第3 法的手続(民事調停・裁判)へ

1 強制的に追い出すなら、裁判へ

裁判所に訴状を提出することで、裁判は始まる。

解除通知を発送しても、任意に借地人が退去等をしない場合、もしくは居座り続ける場合には、法的手続を執るしかありません。

借地人にもそれなりの言い分がありそうであったり、平和的な解決を図る場合には、調停という手段も検討できます。

ただ、地代の滞納の場合、借地人に経済的余裕がなくなっていることがほとんどでしょうから、強制的な建物収去・土地明渡請求をするため、訴訟提起(裁判)を活用することになるでしょう。

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民事裁判手続の流れ

自力救済行為は違法(犯罪にも)

借地上の建物を自ら破壊する自力救済(自力執行)は絶対に禁止すべきです。

自力救済は、法治国家たる日本で、法律で定められた手続を無視する違法行為となります。

自己の権利に正当性があるかどうかは、第三者たる裁判所に審判を仰がなくてはなりません。

手続的正義を踏みにじる行為は、極めて違法性が強いものであり、特に借地権に対する自力救済は建造物損壊罪(刑法260条)に該当する犯罪行為にもなりますので、絶対に行ってはいけません。

弁護士 岩崎孝太郎

判決を取得後の自力執行も同様にアウトです。

賃借人が所在不明となっている場合には、適法な手続を踏むことによる時間的・経済的ロスと感じてしまうお気持ちも理解しますが、賃貸人にとってハイリスク・ローリターンであることを理解しましょう。

2 解除を肯定した裁判例

借地権については、6ヵ月程度の地代の滞納があれば、借地契約を解除できると言われることがあります。

2~3ヵ月の滞納が目安とされる建物賃貸借と比べて、借地権は長期的な契約であり、かつ、債務不履行解除によって建物所有権を奪えますので、解除のハードルも大きく異なります。

【滞納期間】【内容】【裁判日時】
8ヵ月以上
(無断転貸もあり)
更新前に年に一括払いをしていたが、契約書に毎月払いとあり、年払いの合意は認められない東京地判平28.2.25
10ヵ月解除後に全額一括払いを行っても、解除の効力は左右されない東京地判平25.4.23
2ヵ月継続的な不払い、建物について競売開始決定がなされていた東京地判平23.2.22
11ヵ月滞納地代や賃料相当損害金の支払がなされても解除の効力は左右されない東京地判平22.8.26
3ヵ月約5年間にわたり2ヵ月程度の滞納を繰り返し、度々の督促でも滞納は解消されなかった東京地判平19.3.8

3 解除を否定した裁判例

【滞納期間】【内容】【裁判日時】
8ヵ月借地人の浪費と異なり、借地人妻の病状による治療費の支出があり、借地期間の長さも考慮東京地判令2.12.11
3年地代は地主へ持参して支払う約束だったが、地主が音信不通となっていた東京地判平31.4.16
11ヵ月6ヵ月分をまとめて支払っていた。不払いは2回。解除通知受けてすぐに約半分、その後に残額を支払った東京地判平28.4.12
2年50年以上の契約継続している自宅で裁判後には全額地代を供託している東京地判平23.5.9
2年無催告解除後に半月程度で滞納地代と遅延損害金を全額供託した東京地判平13.5.8

4 無催告解除が認められる場合

有効な解除となるには、「催告」が必要です。

もっとも、本来の債務の履行の機会を与えることに意味がない場面では、催告なくても解除が認められます。

具体的には、9年10ヵ月にわたり地代を支払わず、自己所有を主張して賃貸借契約すらも否定したケース(最判昭49年4月26日)、約7年分の地代の不払いがあったケース(東京地判平31年1月30日)などがあります。

ただ、約5年弱にわたる地代の不払いの事案で、無催告解除の意思表示の直後に不払い賃料の全額を支払ったケースで、催告の必要があったとして無催告解除の効力が否定されています。

そのため、地主としては、原則通り催告を経て解除を行うことが推奨されます。

第4 最後は強制執行による権利実現へ

1 強制執行の進め方

借地権を解除して土地の明渡を求める裁判では、建物を壊し、土地を返すよう命じる判決となります。
判決の内容

借地権を解除して土地の返還を求めるには、①借地上の建物を取壊し、そのうえで②土地を明渡してもらう必要があります。

この借地権を解除して土地の明渡を求める請求を、「建物収去土地明渡請求」と呼びます。

建物収去土地明渡の強制執行の流れ

建物収去土地明渡請求を実現する代替執行(強制執行)の手続の流れ図。
代替執行の申立てを行い、授権決定(代替執行決定)+費用支払決定をもらうと、執行官へ強制執行の申立てを行い、明渡催告、断行期日を迎え、最後に目的外動産尾の処分をして、完了となります。

代替執行など、強制執行については、以下の関連記事をご参照ください。

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2 執行妨害に備えるには仮処分(処分禁止・占有移転禁止)を行う

借地権の執行妨害に対する保全処分としては、借家人(建物賃借人)に対して占有移転禁止の仮処分を行い、借地人(賃借人)に対しては処分禁止の仮処分を行うことが想定できます。

借地権においても、裁判をやっている最中に借地権を譲渡し、執行逃れや時間稼ぎを狙おうとする場合も想定できます。

そのため、仮処分を活用し、執行妨害への対策を講じておくことも検討できます。

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第5 借地権のトラブルを弁護士に相談する

1 借地権を専門性の高い弁護士に相談する

弁護士 岩崎孝太郎

地代の滞納は、誰から見ても明らかな債務不履行であり、賃借人の重要な義務違反です。

ただ、実際に裁判で解除の有効性が争われる場合には、それまでの借地期間の長さや滞納状況など、いくつかの要素をも踏まえた総合的な判断によって結論が導かれます。

建物賃貸借の賃料滞納による退去のように、シンプルにはいきません。

なかなか先の見通しをつけづらい紛争類型ともいえますので、専門性の高い弁護士にぜひご相談ください。

2 当事務所の弁護士費用(土地の明渡し)

土地の明渡しについての弁護士費用は、経済的利益を固定資産税評価に2分の1とし、着手金、報酬金方式にて算定します。
着手金は8.8%f(交渉では最低33万円、調停・訴訟では最低44万円)、報酬金はいずれも17.6%(税込)です。
強制執行を行う場合には、着手金として22万円がかかります。
報酬金の最低額は、55万円(税込)となります。

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